断罪中にお腹が鳴る!食欲に正直に生きたら騎士団長に胃袋を掴まれました

ちゃっぴー

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「お嬢様! 裏口から馬車を出すなんて、いくらなんでも公爵令嬢として破天荒すぎますわ!」

「何を言っているの、アン。正面突破して捕まったら、今日の限定ランチに間に合いませんわよ」

ミミルは馬車の窓から、遠ざかる公爵邸の門を眺めた。
そこではまだ、王宮の使者が父――ラングレー公爵に食い下がっている。

「公爵! ミミル嬢を隠すのは反逆行為だぞ!」

「うるさい! 娘は昨夜の衝撃で、心に深い傷を負って寝込んでいると言っているだろう! どうしても会いたければ、私を斬り捨ててから行け!」

(お父様、ノリノリですわね……)

ミミルは、父の「名演技」に感心しながら、手に持ったクロワッサンを齧った。
「心に深い傷」を負ったはずの娘は、今、バターの芳醇な香りに包まれて至福の表情を浮かべている。

数時間後。
街をひと回りし、お目当てのスイーツと「推し」の新作ブロマイドを無事に確保したミミルは、ほとぼりが冷めた頃合いを見計らって帰宅した。

玄関ホールに入ると、そこには豪華な装飾が施された長いテーブルが設置されていた。

「あら、お父様。まだ宴会の片付けが終わっていないのかしら?」

「おお、ミミル! 帰ったか。違うぞ、これは『片付け』ではない。『準備』だ!」

公爵が満面の笑みで両手を広げる。
そこには、昨夜以上の豪華な料理が並べられようとしていた。

「準備……? またどなたかお客様でもいらっしゃるの?」

「いいや、身内だけだ。祝宴だよ、ミミル! お前の『独身返り咲きパーティー』だ!」

公爵の宣言に、控えていた使用人たちが一斉に拍手を送った。
「おめでとうございます、お嬢様!」
「自由万歳!」
「これで王宮のケチな予算に振り回されずに済みますな!」

ミミルは目を丸くした。
普通、婚約破棄された娘は「家の恥」として修道院送りにされるか、離れに幽閉されるのがこの世界の貴族の常識だ。

「……お父様、よろしいのですか? 私は『氷の毒婦』として王宮を追い出された身ですわよ?」

「はっはっは! 毒婦が聞いて呆れるわ。お前が毒を盛るとしたら、それは料理の味付けを濃くして白米を誘う時ぐらいだろう?」

「それは否定できませんわね」

「ジュリアス王子のような、中身の詰まっていない空っぽな男に、我が家の宝石をやるのは忍びなかったのだ。ミミル、お前は自由だ。これからは、好きなだけ食べて、好きなだけあの騎士団長を追いかけ回すがいい!」

公爵は太っ腹に言い放ち、特大のシャンパンを抜いた。

「お父様……! 私、この家に生まれて本当に良かったですわ!」

ミミルは感激のあまり、父の胸に飛び込んだ。
(もちろん、その手にはさっき買ったばかりのサイラス様の『腹筋チラ見せ限定ブロマイド』が握られているが)

「さあ、食え! 今日はラングレー家の誇りにかけて、最高のシェフを五人集めた! 前菜からデザートまで、お前の胃袋を限界まで満たしてやろう!」

「受けて立ちますわ! 私の胃袋は、今や宇宙も同然ですもの!」

その夜、ラングレー公爵邸では夜通し笑い声が絶えなかった。
世間では「悪役令嬢が失脚した」と噂されているが、その当の本人は、霜降り肉の海で幸せに溺れていた。

宴もたけなわとなった頃、ミミルはふと思い出したようにアンを呼んだ。

「アン、明日の朝食は何かしら?」

「お嬢様、今さっきデザートのワゴンを三台空にしたばかりですよ!?」

「朝食は別腹ですわ。それと……明日は、例の『特等席』へ行く準備を忘れないでちょうだい」

ミミルの目が、ふと真剣な輝きを帯びる。
「特等席」とは、騎士団訓練場のすぐ裏にある、古い樫の木の上だ。
そこからは、サイラス団長が朝の素振りをする姿が、遮るものなく拝めるのである。

「婚約破棄された哀れな令嬢という立場を利用して、明日からは堂々と……いえ、ひっそりと、情熱的に彼を応援させていただきますわ」

ミミルは、最後に残ったマカロンをパクリと口に放り込んだ。
甘酸っぱいラズベリーの味が、彼女の新しい人生の幕開けを告げていた。
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