断罪中にお腹が鳴る!食欲に正直に生きたら騎士団長に胃袋を掴まれました

ちゃっぴー

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「……ラングレー嬢。これは、何だ。見たところ、皿の上に溶岩が流れているようにしか見えないのだが」


騎士団の休憩室。
サイラスは、目の前に置かれた真っ赤なスープボウルを指差し、かつてないほど引きつった顔で問いかけた。


「あら、失礼ですわね。これはラングレー家秘伝の『レッド・ドラゴン・シチュー~灼熱の筋繊維刺激仕立て~』ですわ!」


ミミルは誇らしげに胸を張った。
今日の彼女は、いつものふわふわとした令嬢ドレスではなく、なぜか赤いスカーフを首に巻き、燃えるような瞳をしている。


「最近、私たちの関係は少し『甘すぎ』だと思いませんこと? あんまんに肉巻きおにぎり……。確かに美味しいですが、恋にも筋肉にも、時には強烈な刺激が必要なのですわ!」


「……恋のスパイスを文字通り『香辛料』で解決しようとするな。……というか、この匂いだけで鼻の粘膜が悲鳴を上げているんだが」


サイラスの言う通り、部屋には食欲をそそる香りを通り越し、もはや催涙ガスに近い刺激臭が充満していた。


「さあ、サイラス様! これを完食した暁には、貴方の代謝は極限まで高まり、腹筋のカットはより深く、より鋭く刻まれることでしょう! これぞまさに、食べる筋トレですわ!」


「……。お前も、食うんだろうな?」


「もちろんですわ! 毒婦と呼ばれた私が、この程度の『毒(スパイス)』に屈するはずがありませんもの。さあ、いざ……実食ですわ!」


二人は同時にスプーンを手に取り、真っ赤な液体を口へと運んだ。


「…………っ!!!」


沈黙。
それは、あまりの衝撃に脳が情報の処理を拒否した時間だった。


「(……熱い! いえ、痛い! 口の中に小さな爆撃機が編隊を組んで突入してきたようですわ!)」


ミミルの頭の中で、警報が鳴り響く。
だが、目の前には「鉄壁」のサイラスがいる。
ここで弱音を吐いては、公爵令嬢の名が廃る。


「……ふ、ふふふ。……いい、刺激、ですわね。……サイラス様、顔が茹でダコのようになっていますわよ?」


「……貴様こそ……。……目が泳いでいるぞ。……鼻の下に汗が……」


サイラスの額からは、滝のような汗が流れ落ちていた。
普段、戦場で返り血を浴びても眉ひとつ動かさない男が、今はスープ一杯を相手に、命を懸けた攻防を繰り広げている。


「……はぁ、はぁ。……サイラス様、見てください。……汗を拭う、その腕の筋肉。……血管の浮き出し方が、通常の三倍は、セクシー、ですわ……」


「……こんな状況で、よく筋肉を……観察できるな。……お前、本当に、ただの変態……」


サイラスは苦悶に満ちた表情で、しかし騎士の意地を見せてスプーンを止めない。
激辛の刺激に耐えるその苦渋に満ちた顔は、ミミルにとって、どんな甘い言葉よりも刺激的な「ご馳走」だった。


「……くっ、……限界、だ。……水、水を……!」


「……だ、ダメですわ、サイラス様! 激辛の後に、ただの水を飲むのは……逆効果! これを、これを使いなさいな!」


ミミルがリュックから取り出したのは、キンキンに冷えた「最高級・濃厚バニラシェイク」だった。


「これを、一気に……! 中和するのですわ!」


サイラスは奪い取るようにシェイクを飲み干した。
「……っはあぁぁぁ……! ……生き返った……」


一時の静寂が訪れる。
二人の口内は、冷たさと熱さの交互攻撃により、もはや感覚が麻痺していた。


「……ミミル。……貴様、俺を暗殺する気か」


サイラスが、汗で濡れた髪をかき上げながら、恨めしそうにミミルを睨む。
その潤んだ瞳と、少しだけ赤くなった唇。
ミミルの心臓が、激辛成分とは別の理由で、激しく鼓動を打った。


「……あら、暗殺なんて。……でも、どうです? 今の貴方、とっても……色っぽくて素敵ですわよ?」


「……っ!? ……。……貴様という女は……」


サイラスはバツが悪そうに顔を背けたが、その手はまだ、ミミルが差し出した冷たいシェイクをしっかりと握っていた。


「……ふふ。……でも、一緒にこの『試練』を乗り越えたことで、私たちの絆はさらに強固なものになりましたわね」


「……。ただ腹を壊す確率が上がっただけだ。……。だが、なんだ。……。たまには、こういう『騒がしい食事』も……悪くはないな」


サイラスが小さく笑った。
それは、甘いお菓子を食べている時とは違う、戦友に向けるような信頼の笑顔だった。


「……では、明日は『お腹に優しい、超濃厚とろとろプリン』を持って参りますわね!」


「……ああ。……。それまでは、胃を休ませておけ」


ミミルの恋の温度は、唐辛子の力も相まって、今や沸点に達しようとしていた。
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