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「……決まりましたわ。今日こそ、このミミル・フォン・ラングレーが真の力を見せる時ですわ!」
ラングレー公爵邸の巨大な厨房に、ミミルの凛とした声が響き渡った。
いつもは料理長たちが戦場のように立ち回るこの場所に、今日はエプロンをきつく締めた公爵令嬢が君臨している。
「お、お嬢様……。本当になさるのですか? 包丁を握るなんて、公爵家令嬢の指が、もしも大根と一緒にスライスされてしまったら、私はお館様に首を跳ねられてしまいます!」
料理長のジャンが、額の汗を拭いながら必死に訴えかける。
だが、ミミルの瞳には、獲物を狙う狩人のような鋭い光が宿っていた。
「案じないでちょうだい、ジャン。私の指は、サイラス様の素晴らしい広背筋のスケッチを毎日描くことで、鋼のように鍛えられていますわ。……さあ、最高の牛肉と、秘密の調味料を持ってきて!」
ミミルが今日作ろうとしているのは、これまでの「差し入れ」の集大成だ。
サイラスの強靭な肉体を維持するタンパク質と、彼の隠れた弱点である「甘み」を完璧に融合させた一品。
「名付けて……『特製・蜂蜜醤油の肉巻きおにぎり~騎士団長専用バルクアップ仕様~』ですわ!」
「……お、おにぎり、ですか? そんな庶民的なものを……」
「ジャン、分かっていないわね。おにぎりこそ、片手で食べられて、炭水化物と脂質、そして愛情を同時に補給できる最強の携帯食ですわ。……さあ、まずはこの米に、細かく刻んだ胡桃を混ぜ込みますわよ!」
ミミルの調理は、まさに「破壊と創造」だった。
高級な牛肉を贅沢に広げ、そこへ公爵家秘伝の出汁で炊き上げたご飯を乗せる。
彼女の手つきは、最初こそ危なっかしかったものの、持ち前の「食への執念」でみるみるうちにコツを掴んでいった。
「見てください、この絶妙な巻き具合! まるでサイラス様が重い鎧を身に纏う時のような、完璧なフィット感ですわ!」
「……お嬢様、例えが少々不気味ですが、確かに形は整っておりますな」
フライパンで肉を焼き、立ち上る香ばしい香りに、ミミルは陶酔したような溜息をついた。
そこへ、今回の肝となる「蜂蜜」をたっぷりと投入する。
「いいですわよ……。この蜂蜜が肉の脂と溶け合い、醤油の塩気と出会うことで、サイラス様の脳内麻薬を刺激する禁断の味が完成するのですわ!」
調理開始から二時間。
ミミルの指には、小さな火傷の跡と、包丁の扱いによる絆創膏がいくつか貼られていた。
だが、彼女の表情は達成感に満ち溢れている。
「……できましたわ。これが、私の魂の結晶ですわ!」
その足で、ミミルは馬車を飛ばして騎士団演習場へと向かった。
休憩時間、いつものベンチで汗を拭っていたサイラスは、やってきたミミルの姿を見て、わずかに目を見開いた。
「……ラングレー嬢? 今日はまた、随分と必死な顔をしているな」
「サイラス様、見てください! 今日は……今日は私が、この手で作りましたの!」
ミミルは誇らしげに、重箱を開いた。
中には、ツヤツヤと輝く肉巻きおにぎりが、軍隊のように整然と並んでいる。
「……貴様が? 料理長ではなく?」
「ええ。貴方の筋肉の一部に、私の努力が組み込まれると思ったら、居ても立ってもいられませんでしたの。さあ、冷めないうちに召し上がれ!」
サイラスは、疑わしげな視線をミミルに向けた。
「氷の毒婦」と噂された女が、指に絆創膏を貼りながら、慣れない手つきで作った料理。
「…………いただく」
サイラスが、大きなおにぎりを一つ、口に運んだ。
咀嚼する音が、ミミルの鼓動と重なる。
一秒、二秒。
サイラスの眉が、大きく跳ね上がった。
「…………美味い」
「! ……本当かしら!?」
「ああ。肉の旨みに、胡桃の食感……そして、この絶妙な甘み。……正直、驚いた。貴様にこんな才能があったとはな」
サイラスは無言で、次から次へとおにぎりを胃に収めていく。
その食べっぷりは、どんな賞賛の言葉よりもミミルの心を揺さぶった。
「……あ、あの、サイラス様。……美味しいですか?」
「言っただろう。……。だが、なんだ、その指は」
サイラスが、おにぎりを掴んでいない方の手で、ミミルの絆創膏が貼られた手をそっと取った。
大きな、熱い手が、ミミルの小さな手を包み込む。
「……料理など、使用人に任せればいい。公爵令嬢が傷を作る必要はないだろう」
「いいえ。……。貴方の『美味しい』という一言が聞けるなら、私の指が十本とも大根おろしになっても構いませんわ!」
「それは困る。……。……これからは、俺が食べている間、隣で見ていろ。……それで十分だ」
サイラスは少しだけ視線を逸らし、耳を赤くして言った。
ミミルは、自分の胸が、さっきのフライパンよりも熱くなっていることに気づいた。
「……はい! もちろん、特等席で観測させていただきますわ!」
胃袋を掴んだはずが、いつの間にか心を掴まれかけている。
ミミルの新しい恋の味は、甘じょっぱくて、少しだけ切ない味がした。
ラングレー公爵邸の巨大な厨房に、ミミルの凛とした声が響き渡った。
いつもは料理長たちが戦場のように立ち回るこの場所に、今日はエプロンをきつく締めた公爵令嬢が君臨している。
「お、お嬢様……。本当になさるのですか? 包丁を握るなんて、公爵家令嬢の指が、もしも大根と一緒にスライスされてしまったら、私はお館様に首を跳ねられてしまいます!」
料理長のジャンが、額の汗を拭いながら必死に訴えかける。
だが、ミミルの瞳には、獲物を狙う狩人のような鋭い光が宿っていた。
「案じないでちょうだい、ジャン。私の指は、サイラス様の素晴らしい広背筋のスケッチを毎日描くことで、鋼のように鍛えられていますわ。……さあ、最高の牛肉と、秘密の調味料を持ってきて!」
ミミルが今日作ろうとしているのは、これまでの「差し入れ」の集大成だ。
サイラスの強靭な肉体を維持するタンパク質と、彼の隠れた弱点である「甘み」を完璧に融合させた一品。
「名付けて……『特製・蜂蜜醤油の肉巻きおにぎり~騎士団長専用バルクアップ仕様~』ですわ!」
「……お、おにぎり、ですか? そんな庶民的なものを……」
「ジャン、分かっていないわね。おにぎりこそ、片手で食べられて、炭水化物と脂質、そして愛情を同時に補給できる最強の携帯食ですわ。……さあ、まずはこの米に、細かく刻んだ胡桃を混ぜ込みますわよ!」
ミミルの調理は、まさに「破壊と創造」だった。
高級な牛肉を贅沢に広げ、そこへ公爵家秘伝の出汁で炊き上げたご飯を乗せる。
彼女の手つきは、最初こそ危なっかしかったものの、持ち前の「食への執念」でみるみるうちにコツを掴んでいった。
「見てください、この絶妙な巻き具合! まるでサイラス様が重い鎧を身に纏う時のような、完璧なフィット感ですわ!」
「……お嬢様、例えが少々不気味ですが、確かに形は整っておりますな」
フライパンで肉を焼き、立ち上る香ばしい香りに、ミミルは陶酔したような溜息をついた。
そこへ、今回の肝となる「蜂蜜」をたっぷりと投入する。
「いいですわよ……。この蜂蜜が肉の脂と溶け合い、醤油の塩気と出会うことで、サイラス様の脳内麻薬を刺激する禁断の味が完成するのですわ!」
調理開始から二時間。
ミミルの指には、小さな火傷の跡と、包丁の扱いによる絆創膏がいくつか貼られていた。
だが、彼女の表情は達成感に満ち溢れている。
「……できましたわ。これが、私の魂の結晶ですわ!」
その足で、ミミルは馬車を飛ばして騎士団演習場へと向かった。
休憩時間、いつものベンチで汗を拭っていたサイラスは、やってきたミミルの姿を見て、わずかに目を見開いた。
「……ラングレー嬢? 今日はまた、随分と必死な顔をしているな」
「サイラス様、見てください! 今日は……今日は私が、この手で作りましたの!」
ミミルは誇らしげに、重箱を開いた。
中には、ツヤツヤと輝く肉巻きおにぎりが、軍隊のように整然と並んでいる。
「……貴様が? 料理長ではなく?」
「ええ。貴方の筋肉の一部に、私の努力が組み込まれると思ったら、居ても立ってもいられませんでしたの。さあ、冷めないうちに召し上がれ!」
サイラスは、疑わしげな視線をミミルに向けた。
「氷の毒婦」と噂された女が、指に絆創膏を貼りながら、慣れない手つきで作った料理。
「…………いただく」
サイラスが、大きなおにぎりを一つ、口に運んだ。
咀嚼する音が、ミミルの鼓動と重なる。
一秒、二秒。
サイラスの眉が、大きく跳ね上がった。
「…………美味い」
「! ……本当かしら!?」
「ああ。肉の旨みに、胡桃の食感……そして、この絶妙な甘み。……正直、驚いた。貴様にこんな才能があったとはな」
サイラスは無言で、次から次へとおにぎりを胃に収めていく。
その食べっぷりは、どんな賞賛の言葉よりもミミルの心を揺さぶった。
「……あ、あの、サイラス様。……美味しいですか?」
「言っただろう。……。だが、なんだ、その指は」
サイラスが、おにぎりを掴んでいない方の手で、ミミルの絆創膏が貼られた手をそっと取った。
大きな、熱い手が、ミミルの小さな手を包み込む。
「……料理など、使用人に任せればいい。公爵令嬢が傷を作る必要はないだろう」
「いいえ。……。貴方の『美味しい』という一言が聞けるなら、私の指が十本とも大根おろしになっても構いませんわ!」
「それは困る。……。……これからは、俺が食べている間、隣で見ていろ。……それで十分だ」
サイラスは少しだけ視線を逸らし、耳を赤くして言った。
ミミルは、自分の胸が、さっきのフライパンよりも熱くなっていることに気づいた。
「……はい! もちろん、特等席で観測させていただきますわ!」
胃袋を掴んだはずが、いつの間にか心を掴まれかけている。
ミミルの新しい恋の味は、甘じょっぱくて、少しだけ切ない味がした。
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