断罪中にお腹が鳴る!食欲に正直に生きたら騎士団長に胃袋を掴まれました

ちゃっぴー

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「お嬢様! 大変……というより、もはや嫌がらせの次元が低すぎて失笑ものの一大事ですわ!」


朝の優雅なティータイムを、アンの呆れ果てた声が遮った。
ミミルの前には、今朝の目玉料理である「厚切りベーコンのエッグベネディクト」が鎮座している。


「あらアン、どうしたの? 王子の胸板がさらに薄くなって、ついに透明にでもなったのかしら?」


「そんな物理法則を無視した事態ではありません。ジュリアス殿下が権力を使って、ラングレー公爵家への『高級食材の流通』を差し止めたのです! 今朝届くはずだった最高級の岩塩と、極上小麦粉が王宮に没収されましたわ!」


ミミルは、ナイフを持ったままピタリと動きを止めた。
その瞳に、かつてないほどの鋭い光が宿る。


「……小麦粉と、岩塩? ……私のパンと、味付けの要を奪ったというの?」


「はい。殿下は『公爵家が贅沢を覚えるのは、反逆の兆しである』などと、無茶苦茶な言い掛かりをつけているそうです」


ミミルはゆっくりと立ち上がった。
背後の空気が、絶対零度の冷気を帯びる。
「氷の毒婦」と呼ばれた彼女の真骨頂……ではなく、ただの「食いしん坊の逆鱗」が触れた瞬間だった。


「……許せませんわ。私をパセリ呼ばわりするのは構いませんが、私の食卓から『旨み』を奪う不届き者には、死よりも恐ろしい絶望を与えて差し上げなくては」


その日の午後。
ミミルは、馬車を飛ばして王都の広場へと向かった。
そこではジュリアス王子が、没収した最高級食材を「庶民への施し」と称して配り、自分の好感度を上げようとするパフォーマンスを行っていた。


「皆の者! ラングレー公爵家が独占していたこの至高の塩と粉を、慈悲深い僕が分け与えてやろう! これこそが真の王者の――」


「――あら、殿下。その『至高の塩』、実は使い方を間違えるとただの砂利以下になりますわよ?」


凛とした声が広場に響く。
群衆をかき分け、真っ赤なドレスを翻してミミルが現れた。
その隣には、用心棒代わりのサイラスが、腕組みをして仁王立ちしている。


「ミ、ミミル!? 負け惜しみか? この最高級の岩塩の価値が分からないのか!」


「価値は分かりますわ。ですが殿下、それは『原石』のままでは使い物になりません。その塩は、特定のハーブと一緒に煎じることで初めて甘みを引き出す特殊なもの。そのまま料理に使えば、あまりの塩辛さに舌が麻痺し、貴方の自慢の料理も台無しになりますわ」


ミミルは、王子の手元にある塩の袋を指差して、冷笑を浮かべた。


「さらに、その小麦粉。それは発酵が非常に難しく、熟練の職人でなければ、ただの硬い粘土のようなパンにしかなりません。……殿下、知識もなしに最高級品を扱おうなんて、ステーキをストローで飲もうとするくらい滑稽ですわよ」


「な、なんだと……!? 適当なことを言うな!」


「嘘だと思うなら、今すぐそこの屋台の職人さんに焼かせてみればよろしいわ。……さあ、サイラス様。出番ですわよ」


サイラスが一歩前に出た。
彼は無言で、持っていた「あるもの」を広場の中央に置いた。
それは、ラングレー公爵家の地下倉庫から持ち出した、見たこともないほどツヤツヤした『黒い塊』だった。


「それはなんだ! 汚い石ころではないか!」


「……。……これは石ではない。……。……ミミルが考案した、究極の熟成調味料『黒ニンニク味噌』だ」


サイラスが、その「石ころ」をナイフで削り、焼きたてのパンに乗せて群衆に配り始めた。
その瞬間、広場に暴力的なまでに芳醇で、食欲を突き動かす香りが爆発した。


「……なにこれ、美味しい!」
「力が湧いてくる! 王子の粉より、こっちの方が百倍うめえ!」


人々がミミルの周りに集まり始める。
高級食材を奪っても、ミミルには「知恵」と「圧倒的な食への執念」が生み出す代用品があった。


「殿下、モノに頼るだけの貴方に、私の胃袋は屈しませんわ。……さあ、その岩塩で、せいぜいしょっぱい人生を噛み締めてくださいな!」


「お、おのれぇ……! 僕をコケにするな!」


ジュリアスが激昂してミミルに詰め寄ろうとしたが、サイラスの巨大な手が、彼の肩をガシッと掴んだ。


「……殿下。………これ以上、彼女の『食の探求』を邪魔するなら、騎士団長としてではなく、一人の男として……貴方を『調理』しなければならなくなりますが?」


「ひぃっ……!」


王子は情けない声を上げて後ずさり、没収した小麦粉の袋に躓いて転んだ。
頭から真っ白な粉を被り、文字通り「おしろい地蔵」と化した王子に、群衆から爆笑が沸き起こる。


「……ふふ。……。サイラス様、今日の『鉄槌』はなかなか、コクがあって美味しかったですわね」


「……。……ああ。……。……だが、あの味噌は作りすぎて手が臭くなった。……。……今夜は、バラの香りの風呂を沸かしてもらうぞ、ミミル」


「あら、素敵! それならお風呂上がりに、冷製ポタージュを用意しておきますわ!」


ミミルは、粉まみれで泣き叫ぶ王子には目もくれず、サイラスの腕に寄り添って颯爽と立ち去った。
悪役令嬢の逆襲は、権力ではなく「胃袋の知識」によって、完璧に果たされたのである。
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