断罪中にお腹が鳴る!食欲に正直に生きたら騎士団長に胃袋を掴まれました

ちゃっぴー

文字の大きさ
23 / 28

23

王都の喧騒が遠くに見える、ラングレー公爵邸の秘密の庭園。

夕暮れ時の柔らかな光が差し込む中、ミミルは予告通り「お腹に優しい、超濃厚とろとろプリン」をサイラスの前に差し出していた。

昨日までの激辛勝負や王子の粉まみれ騒動を忘れさせるような、穏やかで甘い香りが漂っている。

「さあ、サイラス様。昨日のお疲れを、この黄金の口どけで癒やしてくださいまし。スプーンですくう際は、どうぞ慎重に。あまりの柔らかさに、貴方の強靭な指先が戸惑ってしまうかもしれませんわ」

「。サイラスは、まるで壊れ物を扱うかのように銀のスプーンを握った。慎重に、かつ確実にプリンの一角を切り出し、口へと運ぶ。

「っ」

「いかがかしら? バニラビーンズを通常の五倍投入し、卵黄だけで仕立てた、まさに『痛風予備軍』もとい『至福の塊』ですわ!」

「溶けた。今、俺の口の中で、概念としての幸福が溶けて消えたぞ、ミミル」

サイラスの目が、トロンと潤む。鉄血の騎士団長が、一個のプリンによって骨抜きにされている。

ミミルは、その「隙だらけの、しかし最高に色っぽい表情」を逃さず、スケッチブック(隠し持っていた)に猛然と記録し始めた。

「ああ、素晴らしいわ、サイラス様! その、甘さに負けた後の、少しだけ申し訳なさそうな眉間の皺! これぞ、今夜の最高のおかずですわ!」

「おい、また勝手に記録するな。それから、おかずと言うな。食っているのは俺だ」

サイラスは苦笑しながら、最後の一口を惜しむように飲み込んだ。

そして、空になった器を見つめ、ふと真剣な顔をしてミミルに向き直った。

「ミミル。貴様に、伝えなければならないことがある」

「! なんですの、改まって。まさか、プリンの量に不満があったのかしら? 次はバケツで作りますわよ?」

「そうではない。俺は、ずっと考えていた」

サイラスが、ミミルの手をそっと包み込んだ。プリンで少しだけ冷えていた彼女の指先が、彼の厚く、熱い手のひらによって、一瞬で熱を帯びる。

「貴様が婚約破棄されて、俺の前に現れた時。正直に言えば、ただの騒がしい女だと思っていた。だが、今は違う」

「サイラス、様」

ミミルの心臓が、ベーコンを強火で焼いた時のように激しく跳ね上がった。双眼鏡越しではない、至近距離でのサイラスの瞳。そこには、訓練場で見せる鋭さとは違う、深い情熱が宿っている。

「俺は、戦場での勝利以上に、貴様が美味そうに肉を食う姿に、心を揺さぶられている。貴様が笑えば、俺の筋肉は、戦うためではなく、貴様を守るためにあるのだと、叫び出すんだ」

「! なんて、なんてマッスルな愛の言葉かしら!」

「ミミル。俺は、これからも貴様が作る料理を、そして貴様という女を、一番近くで独占したいと思っている。これは、契約だと思ってくれてもいい」

サイラスの顔が、ゆっくりと近づいてくる。ミミルは、あまりの緊張に思わず息を止めた。

(来る。伝説の、デザートタイムの仕上げが、来るんですわ!)

「つまり、サイラス様。これからも、私が作る全ての高カロリー料理を、貴方のその素晴らしい腹筋で受け止めてくださる。そう、誓ってくださいますのね?」

「なぜそうなる。まあ、間違ってはいないが」

サイラスは拍子抜けしたように笑うと、ミミルの額に優しく、自身の額を合わせた。

「俺は、貴様の『推し』だけで終わりたくはない。ミミル、貴様の人生という名のフルコース。その最後の一口まで、俺が付き合おう」

「っは! はい! 喜んで! デザートどころか、深夜の夜食までお付き合いさせていただきますわ!」

ミミルは、サイラスの胸に飛び込んだ。そこから伝わる力強い鼓動は、どんな高級なオーケストラの音楽よりも、ミミルの胃袋と心を満足させる、最高の音色だった。

しかし、その感動の最中。

――ギュルルルル。

静寂の庭園に、またしても無慈悲な音が響き渡った。

「ミミル」

「申し訳ございません。感動でお腹が空くタイプなんですの、私」

「ふっ。よし、肉を焼きに行こう。今日は、俺が焼いてやる」

「きゃー! サイラス様の直火焼き! 一生ついていきますわー!」

告白という名の、新たな「餌付け」の契約。二人の恋は、甘いプリンのように溶けることなく、強火のステーキのようにますます熱く、ジューシーに加速していくのだった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑回避のため家出した令嬢は、男装騎士として運命をやり直す

松平ちこ
恋愛
 一度目の十七歳の人生で、すべてを失った。ただ生きていただけなのに。  家族も、居場所も、そして――命そのものを。  次に目を開けたとき、カメリアは「過去」に戻っていた。  二度目の人生で彼女が選んだのは、貴族令嬢として生き直すことではなかった。  家族を守るために、男として身を隠し逃げることを決意する。  少年リンとして身を寄せた隣国アスフォデル国の教会で、前世では起こらなかったはずの王位継承を目の当たりにする。  冷酷無慈悲と噂される新国王ライラック・アスフォデルは、あろうことか、カメリアの家族がいるミレット王国へと宣戦布告の準備を始めたという。  その噂の真意を突き止めるため、リンは兵として志願し、潜入するとこを決意する。  けれど、彼女は知らなかった。  この世界には、彼女の「最期」を知る者がいることを。  逃げ続けた先で、リンはやがてミレット王国の闇と向き合うことになる。  そして明かされる真実は、彼女の選択すべてを揺るがしていく――。  これは、処刑された令嬢が生き直し、逃げたはずの運命に再び捕まる物語。

政略結婚のはずが、完璧公爵の溺愛が子リス系令嬢を解き放ちました

宮野夏樹
恋愛
 「冷徹」と噂されるヴァレリオ公爵ジュリアンと、淑女らしからぬ「男前」な本性を隠すリシェル伯爵令嬢。  政略結婚で結ばれた二人は、すれ違うばかりの初夜を過ごし、互いの距離は開く一方だった。  だが、ある秘密の趣味が露見したことで、完璧な公爵の仮面が剥がれ落ち、リシェルへの底なしの溺愛が止まらなくなる! 完璧主義の公爵が、リシェルを「可愛いもの」と認識した瞬間から、公爵邸は甘く蕩けるような空気に包まれる。  一方、執拗な嫌がらせを繰り返す邪魔な存在、シャルロッテの出現。  しかし、ジュリアンは「俺の可愛い妻を傷つける者は、決して許さない」と、その絶対的な愛と庇護で全てを排除。  そして、リシェルの長年のコンプレックスだった「男前」な本性も、ジュリアンの愛によって全て肯定され、真の幸福を掴む。  完璧公爵の強すぎる愛で、政略結婚から始まる「愛され新婚生活」は、予想もしない甘さで満たされていく——。 ※以前投稿したものの修正版です。  読みやすさを重視しています。  おかげさまで、先行公開サイトにて累計100,000PVを突破いたしました!  感謝を込めて、記念の番外編をお届けします。  本日、改稿版もこれにて完結となります。最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!  節目には、達成祝いの話を投稿しますので、これからもヴァレリオ公爵家を温かく見守っていただけると幸いです。

幼馴染に10年片想いしてたら、冷酷御曹司にプロポーズされました

ほーみ
恋愛
 春の匂いが、駅前の並木道をくすぐる。満開の桜の下、私はひとり歩いていた。駅までの道は、高校時代、彼とよく歩いた道だ。  制服姿の学生が笑いながらすれ違っていくのを横目に、私はスマホを見下ろした。  「今日、伝えるって決めたんじゃなかったの?」  送信したきり返信のないメッセージ。画面には「既読」の文字があるだけだった。  ――渡瀬 湊。私が10年間片想いをしている、幼馴染。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~

甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」 「全力でお断りします」 主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。 だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。 …それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で… 一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。 令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

【完結】フェリシアの誤算

伽羅
恋愛
前世の記憶を持つフェリシアはルームメイトのジェシカと細々と暮らしていた。流行り病でジェシカを亡くしたフェリシアは、彼女を探しに来た人物に彼女と間違えられたのをいい事にジェシカになりすましてついて行くが、なんと彼女は公爵家の孫だった。 正体を明かして迷惑料としてお金をせびろうと考えていたフェリシアだったが、それを言い出す事も出来ないままズルズルと公爵家で暮らしていく事になり…。

【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し

有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。 30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。 1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。 だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。 そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。 史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。 世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。 全くのフィクションですので、歴史考察はありません。 *あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。