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王都の喧騒が遠くに見える、ラングレー公爵邸の秘密の庭園。
夕暮れ時の柔らかな光が差し込む中、ミミルは予告通り「お腹に優しい、超濃厚とろとろプリン」をサイラスの前に差し出していた。
昨日までの激辛勝負や王子の粉まみれ騒動を忘れさせるような、穏やかで甘い香りが漂っている。
「さあ、サイラス様。昨日のお疲れを、この黄金の口どけで癒やしてくださいまし。スプーンですくう際は、どうぞ慎重に。あまりの柔らかさに、貴方の強靭な指先が戸惑ってしまうかもしれませんわ」
「。サイラスは、まるで壊れ物を扱うかのように銀のスプーンを握った。慎重に、かつ確実にプリンの一角を切り出し、口へと運ぶ。
「っ」
「いかがかしら? バニラビーンズを通常の五倍投入し、卵黄だけで仕立てた、まさに『痛風予備軍』もとい『至福の塊』ですわ!」
「溶けた。今、俺の口の中で、概念としての幸福が溶けて消えたぞ、ミミル」
サイラスの目が、トロンと潤む。鉄血の騎士団長が、一個のプリンによって骨抜きにされている。
ミミルは、その「隙だらけの、しかし最高に色っぽい表情」を逃さず、スケッチブック(隠し持っていた)に猛然と記録し始めた。
「ああ、素晴らしいわ、サイラス様! その、甘さに負けた後の、少しだけ申し訳なさそうな眉間の皺! これぞ、今夜の最高のおかずですわ!」
「おい、また勝手に記録するな。それから、おかずと言うな。食っているのは俺だ」
サイラスは苦笑しながら、最後の一口を惜しむように飲み込んだ。
そして、空になった器を見つめ、ふと真剣な顔をしてミミルに向き直った。
「ミミル。貴様に、伝えなければならないことがある」
「! なんですの、改まって。まさか、プリンの量に不満があったのかしら? 次はバケツで作りますわよ?」
「そうではない。俺は、ずっと考えていた」
サイラスが、ミミルの手をそっと包み込んだ。プリンで少しだけ冷えていた彼女の指先が、彼の厚く、熱い手のひらによって、一瞬で熱を帯びる。
「貴様が婚約破棄されて、俺の前に現れた時。正直に言えば、ただの騒がしい女だと思っていた。だが、今は違う」
「サイラス、様」
ミミルの心臓が、ベーコンを強火で焼いた時のように激しく跳ね上がった。双眼鏡越しではない、至近距離でのサイラスの瞳。そこには、訓練場で見せる鋭さとは違う、深い情熱が宿っている。
「俺は、戦場での勝利以上に、貴様が美味そうに肉を食う姿に、心を揺さぶられている。貴様が笑えば、俺の筋肉は、戦うためではなく、貴様を守るためにあるのだと、叫び出すんだ」
「! なんて、なんてマッスルな愛の言葉かしら!」
「ミミル。俺は、これからも貴様が作る料理を、そして貴様という女を、一番近くで独占したいと思っている。これは、契約だと思ってくれてもいい」
サイラスの顔が、ゆっくりと近づいてくる。ミミルは、あまりの緊張に思わず息を止めた。
(来る。伝説の、デザートタイムの仕上げが、来るんですわ!)
「つまり、サイラス様。これからも、私が作る全ての高カロリー料理を、貴方のその素晴らしい腹筋で受け止めてくださる。そう、誓ってくださいますのね?」
「なぜそうなる。まあ、間違ってはいないが」
サイラスは拍子抜けしたように笑うと、ミミルの額に優しく、自身の額を合わせた。
「俺は、貴様の『推し』だけで終わりたくはない。ミミル、貴様の人生という名のフルコース。その最後の一口まで、俺が付き合おう」
「っは! はい! 喜んで! デザートどころか、深夜の夜食までお付き合いさせていただきますわ!」
ミミルは、サイラスの胸に飛び込んだ。そこから伝わる力強い鼓動は、どんな高級なオーケストラの音楽よりも、ミミルの胃袋と心を満足させる、最高の音色だった。
しかし、その感動の最中。
――ギュルルルル。
静寂の庭園に、またしても無慈悲な音が響き渡った。
「ミミル」
「申し訳ございません。感動でお腹が空くタイプなんですの、私」
「ふっ。よし、肉を焼きに行こう。今日は、俺が焼いてやる」
「きゃー! サイラス様の直火焼き! 一生ついていきますわー!」
告白という名の、新たな「餌付け」の契約。二人の恋は、甘いプリンのように溶けることなく、強火のステーキのようにますます熱く、ジューシーに加速していくのだった。
夕暮れ時の柔らかな光が差し込む中、ミミルは予告通り「お腹に優しい、超濃厚とろとろプリン」をサイラスの前に差し出していた。
昨日までの激辛勝負や王子の粉まみれ騒動を忘れさせるような、穏やかで甘い香りが漂っている。
「さあ、サイラス様。昨日のお疲れを、この黄金の口どけで癒やしてくださいまし。スプーンですくう際は、どうぞ慎重に。あまりの柔らかさに、貴方の強靭な指先が戸惑ってしまうかもしれませんわ」
「。サイラスは、まるで壊れ物を扱うかのように銀のスプーンを握った。慎重に、かつ確実にプリンの一角を切り出し、口へと運ぶ。
「っ」
「いかがかしら? バニラビーンズを通常の五倍投入し、卵黄だけで仕立てた、まさに『痛風予備軍』もとい『至福の塊』ですわ!」
「溶けた。今、俺の口の中で、概念としての幸福が溶けて消えたぞ、ミミル」
サイラスの目が、トロンと潤む。鉄血の騎士団長が、一個のプリンによって骨抜きにされている。
ミミルは、その「隙だらけの、しかし最高に色っぽい表情」を逃さず、スケッチブック(隠し持っていた)に猛然と記録し始めた。
「ああ、素晴らしいわ、サイラス様! その、甘さに負けた後の、少しだけ申し訳なさそうな眉間の皺! これぞ、今夜の最高のおかずですわ!」
「おい、また勝手に記録するな。それから、おかずと言うな。食っているのは俺だ」
サイラスは苦笑しながら、最後の一口を惜しむように飲み込んだ。
そして、空になった器を見つめ、ふと真剣な顔をしてミミルに向き直った。
「ミミル。貴様に、伝えなければならないことがある」
「! なんですの、改まって。まさか、プリンの量に不満があったのかしら? 次はバケツで作りますわよ?」
「そうではない。俺は、ずっと考えていた」
サイラスが、ミミルの手をそっと包み込んだ。プリンで少しだけ冷えていた彼女の指先が、彼の厚く、熱い手のひらによって、一瞬で熱を帯びる。
「貴様が婚約破棄されて、俺の前に現れた時。正直に言えば、ただの騒がしい女だと思っていた。だが、今は違う」
「サイラス、様」
ミミルの心臓が、ベーコンを強火で焼いた時のように激しく跳ね上がった。双眼鏡越しではない、至近距離でのサイラスの瞳。そこには、訓練場で見せる鋭さとは違う、深い情熱が宿っている。
「俺は、戦場での勝利以上に、貴様が美味そうに肉を食う姿に、心を揺さぶられている。貴様が笑えば、俺の筋肉は、戦うためではなく、貴様を守るためにあるのだと、叫び出すんだ」
「! なんて、なんてマッスルな愛の言葉かしら!」
「ミミル。俺は、これからも貴様が作る料理を、そして貴様という女を、一番近くで独占したいと思っている。これは、契約だと思ってくれてもいい」
サイラスの顔が、ゆっくりと近づいてくる。ミミルは、あまりの緊張に思わず息を止めた。
(来る。伝説の、デザートタイムの仕上げが、来るんですわ!)
「つまり、サイラス様。これからも、私が作る全ての高カロリー料理を、貴方のその素晴らしい腹筋で受け止めてくださる。そう、誓ってくださいますのね?」
「なぜそうなる。まあ、間違ってはいないが」
サイラスは拍子抜けしたように笑うと、ミミルの額に優しく、自身の額を合わせた。
「俺は、貴様の『推し』だけで終わりたくはない。ミミル、貴様の人生という名のフルコース。その最後の一口まで、俺が付き合おう」
「っは! はい! 喜んで! デザートどころか、深夜の夜食までお付き合いさせていただきますわ!」
ミミルは、サイラスの胸に飛び込んだ。そこから伝わる力強い鼓動は、どんな高級なオーケストラの音楽よりも、ミミルの胃袋と心を満足させる、最高の音色だった。
しかし、その感動の最中。
――ギュルルルル。
静寂の庭園に、またしても無慈悲な音が響き渡った。
「ミミル」
「申し訳ございません。感動でお腹が空くタイプなんですの、私」
「ふっ。よし、肉を焼きに行こう。今日は、俺が焼いてやる」
「きゃー! サイラス様の直火焼き! 一生ついていきますわー!」
告白という名の、新たな「餌付け」の契約。二人の恋は、甘いプリンのように溶けることなく、強火のステーキのようにますます熱く、ジューシーに加速していくのだった。
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