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「はぁ。ジャン・ピエール様の新作『プロテイン入り・超硬シュケット』、まさに顎を鍛えるための芸術品ですわね」
菓子職人を救出した帰り道。ミミルは馬車の中で、さっそく差し入れられた焼き菓子をガリガリと小気味よい音を立てて噛み砕いていた。
隣に座るサイラスも、同じく無言でシュケットを口に放り込んでいる。
「確かに、この硬さ。噛むほどに小麦の旨みと、アイシングの甘みが脳を刺激するな」
「そうですわ。これを食べて、明日のサイラス様の広背筋がさらに研ぎ澄まされると思うと、私の胃袋も歓喜に震えますわよ!」
二人が平和に「顎の訓練」に励んでいた、その時。
突如として、馬車が急停車した。外からは怒号と、刃物がぶつかり合う不穏な音が響いてくる。
「残党か。ミミル、中で隠れていろ。すぐに片付ける」
サイラスが鋭い目つきになり、愛剣の柄に手をかけた。彼は迷いなく馬車の外へと飛び出していく。
外には、先ほどの誘拐犯の仲間たちが、十数人で馬車を包囲していた。
「サイラス・ヴォルガード! よくも仲間を捕まえてくれたな! ここで貴様を始末し、ジャン・ピエールを再び我らのものにする!」
「愚かな。菓子を愛でる資格のない者に、あいつの腕は貸さん」
サイラスが一人で賊を圧倒し始める。その動きは、まさに戦神。
しかし、賊のリーダー格が卑怯な笑みを浮かべ、懐から煙幕の筒を取り出した。
「これでも喰らえ!」
爆発と共に、馬車の周囲が真っ白な煙に包まえる。
視界を奪われたサイラスの背後に、別の賊が長い鎖のついた鎌を振り回しながら忍び寄った。
「っ、煙か!」
「死ね、騎士団長!」
サイラスが背後の気配に気づき、振り向こうとしたその瞬間。
馬車の扉が勢いよく蹴り開けられた。
「――ちょっと待ちなさーーーーい!!」
煙の中から飛び出してきたのは、深紅のドレスを翻したミミルだった。
彼女の手には、なぜか王宮の厨房から持ち出したままだった、直径五十センチはあろうかという超重量級の銅製フライパンが握られていた。
「私のサイラス様、いえ、私の『美食の守護神』に、そんな不潔な鉄屑を向けようなんて! 万死どころか、一生味覚を失う刑に処しますわよ!!」
ミミルは、ドレスの裾を豪快に踏みつけながら、全身のバネを使ってフライパンを横一閃に振り抜いた。
――カァァァァァン!!
広場に、教会の鐘よりも澄んだ、しかし暴力的なまでの打撃音が響き渡った。
鎖鎌を構えていた賊は、フライパンの直撃を受けて文字通り星となって夜空へ吹き飛んでいった。
「え?」
煙が晴れ、状況を把握したサイラスが呆然と立ち尽くす。
足元には、ミミルの放った「フライパン・アタック」の凄まじい風圧で気絶した数人の男たちが転がっていた。
「ミ、ミミル。貴様、今、何をした?」
「見ての通りですわ、サイラス様。我がラングレー公爵家に代々伝わる(ということにした)、『主婦の怒りの鉄鎚(テッパングリル)』をお見舞いしてやりましたの!」
ミミルは、重いフライパンを軽々と肩に担ぎ、勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
その姿は、悪役令嬢というよりは、戦場を駆ける女傑そのものである。
「まさか、俺が貴様に救われるとはな。しかも、武器がフライパンとは」
「失礼ですわね。料理を作る道具は、人を守る道具にもなり得ますのよ。さあ、サイラス様。残りのパセリたちも、一気に片付けてしまいましょう!」
「ああ。だがミミル、そのフライパン、重くないのか?」
「ええ、少し。ですから、終わったらサイラス様に、たっぷりとお礼の『腕枕(上腕二頭筋限定)』を要求させていただきますわ!」
「ふ。高くつくが、命の恩人だ。好きにしろ」
サイラスが、今までで一番優しい、そして少しだけ呆れたような笑みを浮かべた。
二人の背後には、フライパンに頭を打ち抜かれた賊たちの山が築かれていた。
こうして、危機を乗り越えた二人の絆は、さらに盤石なものとなったのである。
菓子職人を救出した帰り道。ミミルは馬車の中で、さっそく差し入れられた焼き菓子をガリガリと小気味よい音を立てて噛み砕いていた。
隣に座るサイラスも、同じく無言でシュケットを口に放り込んでいる。
「確かに、この硬さ。噛むほどに小麦の旨みと、アイシングの甘みが脳を刺激するな」
「そうですわ。これを食べて、明日のサイラス様の広背筋がさらに研ぎ澄まされると思うと、私の胃袋も歓喜に震えますわよ!」
二人が平和に「顎の訓練」に励んでいた、その時。
突如として、馬車が急停車した。外からは怒号と、刃物がぶつかり合う不穏な音が響いてくる。
「残党か。ミミル、中で隠れていろ。すぐに片付ける」
サイラスが鋭い目つきになり、愛剣の柄に手をかけた。彼は迷いなく馬車の外へと飛び出していく。
外には、先ほどの誘拐犯の仲間たちが、十数人で馬車を包囲していた。
「サイラス・ヴォルガード! よくも仲間を捕まえてくれたな! ここで貴様を始末し、ジャン・ピエールを再び我らのものにする!」
「愚かな。菓子を愛でる資格のない者に、あいつの腕は貸さん」
サイラスが一人で賊を圧倒し始める。その動きは、まさに戦神。
しかし、賊のリーダー格が卑怯な笑みを浮かべ、懐から煙幕の筒を取り出した。
「これでも喰らえ!」
爆発と共に、馬車の周囲が真っ白な煙に包まえる。
視界を奪われたサイラスの背後に、別の賊が長い鎖のついた鎌を振り回しながら忍び寄った。
「っ、煙か!」
「死ね、騎士団長!」
サイラスが背後の気配に気づき、振り向こうとしたその瞬間。
馬車の扉が勢いよく蹴り開けられた。
「――ちょっと待ちなさーーーーい!!」
煙の中から飛び出してきたのは、深紅のドレスを翻したミミルだった。
彼女の手には、なぜか王宮の厨房から持ち出したままだった、直径五十センチはあろうかという超重量級の銅製フライパンが握られていた。
「私のサイラス様、いえ、私の『美食の守護神』に、そんな不潔な鉄屑を向けようなんて! 万死どころか、一生味覚を失う刑に処しますわよ!!」
ミミルは、ドレスの裾を豪快に踏みつけながら、全身のバネを使ってフライパンを横一閃に振り抜いた。
――カァァァァァン!!
広場に、教会の鐘よりも澄んだ、しかし暴力的なまでの打撃音が響き渡った。
鎖鎌を構えていた賊は、フライパンの直撃を受けて文字通り星となって夜空へ吹き飛んでいった。
「え?」
煙が晴れ、状況を把握したサイラスが呆然と立ち尽くす。
足元には、ミミルの放った「フライパン・アタック」の凄まじい風圧で気絶した数人の男たちが転がっていた。
「ミ、ミミル。貴様、今、何をした?」
「見ての通りですわ、サイラス様。我がラングレー公爵家に代々伝わる(ということにした)、『主婦の怒りの鉄鎚(テッパングリル)』をお見舞いしてやりましたの!」
ミミルは、重いフライパンを軽々と肩に担ぎ、勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
その姿は、悪役令嬢というよりは、戦場を駆ける女傑そのものである。
「まさか、俺が貴様に救われるとはな。しかも、武器がフライパンとは」
「失礼ですわね。料理を作る道具は、人を守る道具にもなり得ますのよ。さあ、サイラス様。残りのパセリたちも、一気に片付けてしまいましょう!」
「ああ。だがミミル、そのフライパン、重くないのか?」
「ええ、少し。ですから、終わったらサイラス様に、たっぷりとお礼の『腕枕(上腕二頭筋限定)』を要求させていただきますわ!」
「ふ。高くつくが、命の恩人だ。好きにしろ」
サイラスが、今までで一番優しい、そして少しだけ呆れたような笑みを浮かべた。
二人の背後には、フライパンに頭を打ち抜かれた賊たちの山が築かれていた。
こうして、危機を乗り越えた二人の絆は、さらに盤石なものとなったのである。
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