断罪中にお腹が鳴る!食欲に正直に生きたら騎士団長に胃袋を掴まれました

ちゃっぴー

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「アン! 大変ですわ! 国家存亡の危機、いえ、私の胃袋の破滅を予感させる大事件ですわよ!」


朝食のクロワッサンを手に、ミミルが血相を変えて食堂へ飛び込んできた。
その手には、王宮内の友人から届いた極秘の伝書鳩が握られている。


「お嬢様、落ち着いてください。また王子の胸板が五ミリ削れたとか、そんな平和なニュースではありませんの?」


「そんなパセリの成長記録などどうでもよろしいのです! 王宮一の菓子職人、あの『とろけるタルトの魔術師』こと、ジャン・ピエール氏が行方不明になりましたのよ!」


ミミルの叫びに、後ろで控えていたサイラスがピクリと眉を動かした。


「ジャン・ピエールだと? あの、俺に隠れて特製あんまんを焼いてくれていた、あの男か?」


「そうですわ、サイラス様! あの方がいなくなれば、明日からの私たちのティータイムは、味のしない紙を噛むような砂漠と化しますわ! これは明白な宣戦布告ですわよ!」


ミミルは、テーブルをドンと叩いた。
その目は、かつてないほど「毒婦」らしく鋭く光っている。
ただし、その怒りの源泉は政治的な野心ではなく、純粋な「糖分への渇望」である。


「確かに。あいつの菓子がない訓練など、刃のない剣と同じだ。ミミル、心当たりはあるのか?」


「ええ。王宮の裏口付近で、バターの香ばしい匂いと共に、不審な馬車が目撃されたそうですわ。サイラス様、今すぐ出動ですわよ! 美食の捜査網(グルメ・ネットワーク)を全開にしますわ!」


ミミルは、動きやすさを重視したアクティブなドレスに着替えると、サイラスを伴って王都の裏通りへと繰り出した。


「しかし、ミミル。手がかりもなしに、どうやって探すつもりだ?」


「ふふふ。サイラス様、私の嗅覚を侮らないでちょうだい。ジャン・ピエール氏の指先からは、常に最高級のバニラエッセンスと、発酵バターの香りが漂っていますの。この匂いの糸を辿れば、犯人の隠れ家など、焼きたてのパイ生地を割るより簡単ですわ!」


ミミルは、路地裏の空気をクンクンと嗅ぎ始めた。
その姿は、高貴な公爵令嬢というよりは、獲物を追う名うての猟犬のようである。


「あちらですわ! わずかに、焦がしキャラメルの苦味が混じった香りがしますわよ!」


「本当か? 俺には、馬糞の匂いしかしないが」


「サイラス様、それは筋肉に鼻の細胞が奪われているからですわ! さあ、急ぎましょう!」


二人が辿り着いたのは、王都外縁部にある寂れた倉庫だった。
入り口には、見張りのような男たちが数人立っている。


「ミミル、下がれ。ここからは、騎士の仕事だ」


「いいえ、サイラス様。菓子職人を奪った罪の重さを、私の口から直接説教してあげなくては気が済みませんわ!」


サイラスがため息をつきながらも、扉を蹴り破った。
中には、椅子に縛り付けられたジャン・ピエール氏と、彼に無理やりケーキを焼かせようとしている覆面の男たちがいた。


「な、なんだ貴様らは!」


「騎士団長、サイラス・ヴォルガードだ。そして、この方は」


「菓子を愛し、菓子に愛された女、ミミル・フォン・ラングレーですわ! 貴方たち、ジャン・ピエール氏の繊細な指先を、こんな埃っぽい場所で酷使するなんて! 万死に値しますわよ!」


ミミルの怒鳴り声に、犯人たちはひるんだ。


「う、うるさい! 俺たちは、自分たちだけの贅沢なティータイムを楽しみたかっただけだ! 王宮に独占されているのが許せなかったんだよ!」


「動機は理解できなくもないが。誘拐は犯罪だ。ミミル、こいつらをどうする?」


ミミルは、犯人の一人が持っていた「試作中のクッキー」をひょいと奪い取ると、それを一口食べて顔をしかめた。


「甘みが足りませんわ! このクッキーには、犯行の焦りが混じって苦味が際立っています! サイラス様、こいつらを捕まえて、一週間『味のしないダイエット用乾パン』の刑に処してくださいまし!」


「了解した。おい、野郎ども。覚悟しろ。俺も、今日の分のあんまんが食べられなくて、機嫌が悪いんだ」


サイラスの放つ圧倒的な威圧感と、ミミルの「食の説教」により、犯人たちは戦わずして戦意を喪失した。


こうして、王宮の菓子職人は無事に保護された。
ミミルの「美食捜査」は、国家の糖分危機を救ったのである。


「ミミル、助かった。お礼に、今日は特別な新作を作ってやろう」


ジャン・ピエール氏の言葉に、ミミルの瞳が宝石のように輝いた。


「! ジャン・ピエール様! では、サイラス様の筋肉をイメージした、超硬めのハード・シュケットをお願いしますわ!」


「最後まで筋肉かよ」


サイラスの呆れ顔と共に、王都に再び甘い平和が戻ってきたのだった。
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