お黙りなさい!婚約破棄された毒舌令嬢は甘くない毒を吐く

ちゃっぴー

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王都を離れて三日目。
私の乗った馬車は、辺境へと続く一本道を順調に進んでいた。
窓の外に広がるのは、手入れの行き届かない草原と、時折顔を出す不格好な岩山ばかり。
これよ、これ。この「何もなさ」こそが、今の私には最高の贅沢だわ。

「……あ、あの、レーズン様。前方に検問所が見えますが、少し様子が変です」

御者台から、緊張した様子の若い御者トムが声をかけてきた。
見れば、街道を塞ぐように粗末な柵が立てられ、そこには数人の兵士と、いかにも性格の悪そうな太った男が立っている。

「あら、こんな場所に関所なんてあったかしら? 地図には載っていなかったけれど」

私が首を傾げている間に、馬車は男たちの前で強制的に止められた。
太った男が、これ見よがしに台帳を広げ、ニタニタと下卑た笑みを浮かべてこちらを覗き込む。

「はい、止まれ止まれ! ここは通行税管理官のバルガス様が管理する特別検問所だ。この先に行きたければ、通行税として金貨十枚を支払ってもらおうか」

金貨十枚? 
この国の一等地の宿に一ヶ月泊まれる額だ。
ただの街道を通るだけでそんな額を請求するなど、追い剥ぎと何ら変わりはない。

「金貨十枚ですって? ずいぶんと景気の良い話ね。その税は、いつ、どの法令に基づいて制定されたのかしら? もしや昨晩、あなたの夢の中で神のお告げでもあったのかしら?」

私が馬車の扉を開けて外に出ると、バルガスと呼ばれた男は一瞬、私の美貌(自称)に気圧されたようだった。
だが、すぐに私の質素な旅装束(それでも最高級の絹だが)を見て、舐めたような態度を取り直した。

「うるさい小娘だ。ここは俺のルールが法律なんだよ。文句があるなら、その荷物を全部没収して、密輸の疑いで牢に叩き込んでやってもいいんだぜ?」

「密輸? 面白いことをおっしゃるわね。この馬車に積んであるのは、私の着替えと大量の専門書、そして移動中のおやつだけよ。それとも、このドライフルーツがこの国の国家機密だとでも?」

「……ほう。中身を見せろと言っているんだ。おい、お前ら! この馬車を調べろ! 特にその怪しい令嬢の体もな!」

兵士たちがニヤニヤしながら近づいてくる。
トムが怯えて後ずさりするが、私は一歩も引かなかった。
逆に、優雅に扇子を広げ、バルガスの顔の目の前でパシャリと閉じてみせる。

「お止まりなさい。まず、あなたのその汚い手で私の馬車に触れる前に、鏡を見ていらっしゃい。不潔な不審者に触れられると、馬車の塗装が剥げてしまうわ。それから兵士の皆さん、あなたたちの給与は王宮から支払われているはずよね? こんな不正規な徴収に加担して、後で首が飛ぶのは誰だと思っているのかしら?」

「何だと……!? てめえ、俺を誰だと思っていやがる! 俺はセドリック殿下の側近の、従兄弟の、知り合いなんだぞ!」

「あら、まあ。……その『知人の知人』という、宇宙の塵よりも遠い関係性を誇るなんて、あなたの人生がいかに空虚であるかを証明しているようなものね。それに、セドリック殿下? あの『種無しスイカ王子』の名を出せば私が怯えるとでも思って?」

会場(街道)が一瞬で凍りついた。
王子を「種無しスイカ」呼ばわりするなど、この国では国家反逆罪に問われかねない暴言だ。
だが、今の私は公的には「ただの令嬢」だが、実質的には「王家を訴える準備中の債権者」である。

「お、お前……! 今、殿下をなんと言った!? 不敬だ! 連行しろ!」

「不敬? 笑わせないで。公式な婚約破棄を突きつけられ、慰謝料請求の手続きを開始している私にとって、彼はもはやただの『過去の負債』よ。それよりバルガスさん。あなたのその台帳、ちょっと見せていただける?」

私は素早い動きで彼の台帳を奪い取った。
バルガスが慌てて手を伸ばすが、私は華麗なステップでそれをかわし、一瞬で中身をスキャンする。

「……なるほど。日付がデタラメ、計算は小学生以下、さらには王家の紋章の偽造。これ、横領の証拠として提出すれば、あなたの首が飛ぶだけじゃ済まないわね。家族共々、鉱山送りかしら?」

「な、ななな……何を言って……!」

「計算が合わないわよ。ここ。三ページ目の合計額が金貨五枚分、あなたの懐に入っているわね。それから、先月通った行商人の記録……これも不自然だわ。……ふふ、お父様に送る『お土産リスト』に、あなたの名前を追加しておいてあげる」

バルガスの顔から、急速に血の気が引いていく。
彼は私の瞳の奥にある、冷徹な「会計士の魂」を見て取ったのだろう。
ただの令嬢ではない。数字で人を殺せるタイプの令嬢だと。

「ひ、ひぃっ……! あ、開けろ! 柵を開けろ! この馬車を通せ!」

「あら、もういいの? 金貨十枚、払わなくていいのかしら?」

「結構です! いいえ、お代官様、どうかお許しを……!」

「あら、代官じゃないわよ。私はただの、シワシワのレーズン。……せいぜい、次に誰かを脅す時は、相手の知能レベルを測ってからにすることね」

私は優雅に馬車に戻り、トムに合図を送った。
馬車が再び動き出すと、後ろでバルガスが腰を抜かして座り込んでいるのが見えた。

「……レーズン様、すごいです。あの、僕、一生ついていきます!」

「いいわよ、トム。ただし、私の前で計算ミスをしたら、今の彼よりひどい目に遭わせるから覚悟してね」

「は、はいっ!」

馬車は再び、平和な辺境の道を進み始めた。
毒を吐くと、どうしてこうも気分が晴れるのかしら。
やはり、あの王宮で「しおらしい婚約者」を演じていた十年間は、私の健康に極めて悪影響だったに違いない。

しかし、道中の害虫駆除でこれほど体力を消耗するとは。
早く別荘について、最高級のワインとチーズで、自分を甘やかしてあげたいわ。

そんなことを考えながら窓の外を眺めていた私は、まだ気づいていなかった。
街道の脇にある木陰で、一部始終を見ていた「一人の男」の存在に。
その男が、獲物を見つけた猛獣のような笑みを浮かべていたことに。
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