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「……ちょっと、ヴィンセント。この紅茶、どこで手に入れたのかしら? 泥水よりはマシだけれど、私の繊細な味覚を満足させるには、あと三百年は修行が必要な味だわ」
新しくなったテラスで、私は優雅に(内心では驚愕しながら)カップを置いた。
差し出されたのは、辺境の別荘にはおよそ不釣り合いな、芳醇な香りのウバ茶だ。
淹れ方も完璧。温度も、私が最も好む「舌を焼かず、香りが鼻を抜ける」絶妙なラインを突いている。
「森の奥に、少しばかり質の良い茶葉が自生していてね。君の厳しい舌に合うよう、昨夜から温度管理を徹底したつもりだが……。三百年か。よし、明日は四百年分の努力を詰め込もう」
「自生? そんな高級な茶葉がその辺に転がっているわけないでしょう。……あなた、さてはどこかの商隊でも襲ったのかしら? それとも、その無駄に整った顔を武器に、近所の村娘から毟り取ってきたの?」
「まさか。私は君という唯一無二の毒蛇に仕える、ただの庭師兼掃除係だよ」
ヴィンセントは涼しい顔で、銀のティーポットを傾ける。
その所作一つ一つが、あまりにも洗練されすぎている。
指の角度、背筋の伸ばし方、そして何より、私に罵倒されている最中の「微塵も揺らがない余裕」。
……怪しい。怪しすぎるわ。
「……あなた、実はどこかの没落貴族か、あるいは借金で首が回らなくなった逃亡犯じゃないかしら? もしそうなら今のうちに言いなさい。私の名誉のために、今のうちに裏庭に埋めてあげるから」
「残念ながら、どちらでもないよ。……強いて言うなら、君の言葉という劇薬を摂取しにきた、ただの旅人だ」
「旅人? そんな抽象的な表現で誤魔化せると思っているの? あなたのその身のこなし、どう見ても高度な剣術を学んだ者のそれだわ。……いい? 私の周囲に不透明な要素は不要なの。一から十まで、その不純な経歴を洗いざらい――」
私がヴィンセントの胸ぐらを(踏み台に乗って)掴もうとしたその時、別荘の門の外から下品な馬のいななきと、騒がしい男たちの声が響いてきた。
「おい! この屋敷の主は誰だ! 隣領を治めるジャバラ子爵閣下のお通りだぞ!」
私は思わず、ヴィンセントの胸元から手を離し、不機嫌極まりない表情で門の方を睨みつけた。
「……誰かしら、私の至高の尋問タイムを邪魔する野蛮な生き物は」
「ジャバラ子爵……。確か、このあたりの徴税権を強引に主張している小悪党だったかな。……どうする、レーズン? 私が『掃除』してこようか?」
ヴィンセントの瞳が、一瞬だけ冷徹な光を宿す。
その殺気は、ただの「行き倒れ」が出せるものではなかった。
……けれど、ここで彼に任せては、私の「悪役令嬢としてのプライド」が許さない。
「いいえ。ゴミの処理は、家主の役目よ。ヴィンセント、あなたはそこで『私の毒舌のキレ』を採点してなさい」
私は扇子を翻し、門へと向かった。
そこには、金ぴかの装飾を施した趣味の悪い馬車と、鼻の下に脂ぎった髭を蓄えた男が、ふんぞり返って立っていた。
「ほう……。貴様がこの廃屋を買い取ったという、王都を追放された哀れな令嬢か」
ジャバラ子爵は、私を値踏みするようにジロジロと眺め、下卑た笑みを浮かべた。
「追放? あら、情報は正確に仕入れるべきですわよ。私は『無能な飼い犬』を処分して、長期休暇に来ただけですわ。……それより子爵。その泥だらけの靴で、私の整えられた庭に足を踏み入れないでくださる? あなたの足跡がつくだけで、大地の資産価値が暴落してしまいますもの」
「な……何だと!? この生意気な小娘が! 私は閣下だぞ! この地域の水利権は我が家が握っている。お前がここで生活したいのなら、月々に金貨五十枚の『協力金』を支払うのが筋というものだ!」
金貨五十枚。またこれよ。
辺境の貴族というのは、どいつもこいつも計算機が壊れているのかしら。
「水利権? あら、おかしいわね。この屋敷の敷地内にある井戸は、地下深くの私有水脈に直結しているはずよ。あなたの管轄外だわ。……それとも何か? あなたはこの辺りの地下水全てに、自分の名前でも書いて回っているの? ずいぶんと暇な人生を送っていらっしゃるのね」
「貴様……! 女だと思って黙って聞いていれば! おい、者共! この女を捕らえろ! 少しばかり教育が必要なようだ!」
子爵の合図で、柄の悪い護衛たちが数人、ニヤニヤしながら私に近づいてくる。
私は逃げも隠れもしない。ただ、冷めた目で彼らを見据えた。
「教育? 笑わせないで。あなたのような、脳みそが脂身でできている方に教わることなんて、脂肪の効率的な蓄え方くらいだわ。……さあ、そこの不潔な集団。私に触れる前に、遺言は済ませたかしら? 私のドレスは、あなたたちの全財産を売っても袖口一枚分も買えないのよ。汚したら、末代まで呪い殺してあげるわ」
「ひ、ひるむな! やれ!」
護衛の一人が手を伸ばそうとしたその瞬間――。
私の背後から、凍りつくような冷気が流れてきた。
「……私の主人の『美しい罵声』を邪魔した罪は、万死に値すると思うが?」
いつの間にか、ヴィンセントが私の真後ろに立っていた。
彼は武器すら持っていない。ただ、そこに立っているだけ。
だというのに、近づいてきた護衛たちは、まるで巨大な捕食者の前に放り出された小動物のように、ガタガタと震え始めた。
「……っ!? な、なんだこの圧は……! お前、何者だ!」
ジャバラ子爵も、馬車の影に隠れながら叫ぶ。
ヴィンセントは無表情のまま、一歩前へ出た。
「……消えろ。三秒以内に立ち去らなければ、君たちの名前をこの世から抹消する」
「ひ、ひぃぃぃっ! お、覚えていろよ! 撤収だ!」
子爵たちは、転ぶようにして馬車に飛び乗り、砂埃を上げて逃げ去っていった。
あまりの逃げ足の速さに、私は呆れて溜息をつく。
「……全く。毒を吐く時間さえ短縮させてしまうなんて、本当に効率の悪い害虫だわ」
「すまない、レーズン。私が威圧しすぎたかな? 君の説教をもっと聞いていたかったのだが」
ヴィンセントが、先ほどの冷徹な空気を嘘のように消し去り、いつもの「忠実なゴミ」の顔に戻る。
「……ヴィンセント。今の身のこなし、そしてあの威圧感。……あなた、ただの『毒舌フェチ』じゃないわね? 一体、どこの誰なの?」
私はヴィンセントの目を真っ直ぐに見つめた。
彼は一瞬だけ沈黙し、それから優雅に微笑んで、私の手を取った。
「……私の正体など、今はどうでもいいことだ。今の私は、君の厳しい言葉なしでは生きていけない、一人の男に過ぎない」
「……気持ち悪いわ。その手を離しなさい、この寄生虫」
私は彼の手を振り払ったが、心の中では確信していた。
この男、間違いなく「とんでもない何か」を隠している。
そしてその何かが、私の平穏な(はずの)隠居生活を、さらなるカオスへと叩き落とそうとしているのだと。
新しくなったテラスで、私は優雅に(内心では驚愕しながら)カップを置いた。
差し出されたのは、辺境の別荘にはおよそ不釣り合いな、芳醇な香りのウバ茶だ。
淹れ方も完璧。温度も、私が最も好む「舌を焼かず、香りが鼻を抜ける」絶妙なラインを突いている。
「森の奥に、少しばかり質の良い茶葉が自生していてね。君の厳しい舌に合うよう、昨夜から温度管理を徹底したつもりだが……。三百年か。よし、明日は四百年分の努力を詰め込もう」
「自生? そんな高級な茶葉がその辺に転がっているわけないでしょう。……あなた、さてはどこかの商隊でも襲ったのかしら? それとも、その無駄に整った顔を武器に、近所の村娘から毟り取ってきたの?」
「まさか。私は君という唯一無二の毒蛇に仕える、ただの庭師兼掃除係だよ」
ヴィンセントは涼しい顔で、銀のティーポットを傾ける。
その所作一つ一つが、あまりにも洗練されすぎている。
指の角度、背筋の伸ばし方、そして何より、私に罵倒されている最中の「微塵も揺らがない余裕」。
……怪しい。怪しすぎるわ。
「……あなた、実はどこかの没落貴族か、あるいは借金で首が回らなくなった逃亡犯じゃないかしら? もしそうなら今のうちに言いなさい。私の名誉のために、今のうちに裏庭に埋めてあげるから」
「残念ながら、どちらでもないよ。……強いて言うなら、君の言葉という劇薬を摂取しにきた、ただの旅人だ」
「旅人? そんな抽象的な表現で誤魔化せると思っているの? あなたのその身のこなし、どう見ても高度な剣術を学んだ者のそれだわ。……いい? 私の周囲に不透明な要素は不要なの。一から十まで、その不純な経歴を洗いざらい――」
私がヴィンセントの胸ぐらを(踏み台に乗って)掴もうとしたその時、別荘の門の外から下品な馬のいななきと、騒がしい男たちの声が響いてきた。
「おい! この屋敷の主は誰だ! 隣領を治めるジャバラ子爵閣下のお通りだぞ!」
私は思わず、ヴィンセントの胸元から手を離し、不機嫌極まりない表情で門の方を睨みつけた。
「……誰かしら、私の至高の尋問タイムを邪魔する野蛮な生き物は」
「ジャバラ子爵……。確か、このあたりの徴税権を強引に主張している小悪党だったかな。……どうする、レーズン? 私が『掃除』してこようか?」
ヴィンセントの瞳が、一瞬だけ冷徹な光を宿す。
その殺気は、ただの「行き倒れ」が出せるものではなかった。
……けれど、ここで彼に任せては、私の「悪役令嬢としてのプライド」が許さない。
「いいえ。ゴミの処理は、家主の役目よ。ヴィンセント、あなたはそこで『私の毒舌のキレ』を採点してなさい」
私は扇子を翻し、門へと向かった。
そこには、金ぴかの装飾を施した趣味の悪い馬車と、鼻の下に脂ぎった髭を蓄えた男が、ふんぞり返って立っていた。
「ほう……。貴様がこの廃屋を買い取ったという、王都を追放された哀れな令嬢か」
ジャバラ子爵は、私を値踏みするようにジロジロと眺め、下卑た笑みを浮かべた。
「追放? あら、情報は正確に仕入れるべきですわよ。私は『無能な飼い犬』を処分して、長期休暇に来ただけですわ。……それより子爵。その泥だらけの靴で、私の整えられた庭に足を踏み入れないでくださる? あなたの足跡がつくだけで、大地の資産価値が暴落してしまいますもの」
「な……何だと!? この生意気な小娘が! 私は閣下だぞ! この地域の水利権は我が家が握っている。お前がここで生活したいのなら、月々に金貨五十枚の『協力金』を支払うのが筋というものだ!」
金貨五十枚。またこれよ。
辺境の貴族というのは、どいつもこいつも計算機が壊れているのかしら。
「水利権? あら、おかしいわね。この屋敷の敷地内にある井戸は、地下深くの私有水脈に直結しているはずよ。あなたの管轄外だわ。……それとも何か? あなたはこの辺りの地下水全てに、自分の名前でも書いて回っているの? ずいぶんと暇な人生を送っていらっしゃるのね」
「貴様……! 女だと思って黙って聞いていれば! おい、者共! この女を捕らえろ! 少しばかり教育が必要なようだ!」
子爵の合図で、柄の悪い護衛たちが数人、ニヤニヤしながら私に近づいてくる。
私は逃げも隠れもしない。ただ、冷めた目で彼らを見据えた。
「教育? 笑わせないで。あなたのような、脳みそが脂身でできている方に教わることなんて、脂肪の効率的な蓄え方くらいだわ。……さあ、そこの不潔な集団。私に触れる前に、遺言は済ませたかしら? 私のドレスは、あなたたちの全財産を売っても袖口一枚分も買えないのよ。汚したら、末代まで呪い殺してあげるわ」
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護衛の一人が手を伸ばそうとしたその瞬間――。
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「……私の主人の『美しい罵声』を邪魔した罪は、万死に値すると思うが?」
いつの間にか、ヴィンセントが私の真後ろに立っていた。
彼は武器すら持っていない。ただ、そこに立っているだけ。
だというのに、近づいてきた護衛たちは、まるで巨大な捕食者の前に放り出された小動物のように、ガタガタと震え始めた。
「……っ!? な、なんだこの圧は……! お前、何者だ!」
ジャバラ子爵も、馬車の影に隠れながら叫ぶ。
ヴィンセントは無表情のまま、一歩前へ出た。
「……消えろ。三秒以内に立ち去らなければ、君たちの名前をこの世から抹消する」
「ひ、ひぃぃぃっ! お、覚えていろよ! 撤収だ!」
子爵たちは、転ぶようにして馬車に飛び乗り、砂埃を上げて逃げ去っていった。
あまりの逃げ足の速さに、私は呆れて溜息をつく。
「……全く。毒を吐く時間さえ短縮させてしまうなんて、本当に効率の悪い害虫だわ」
「すまない、レーズン。私が威圧しすぎたかな? 君の説教をもっと聞いていたかったのだが」
ヴィンセントが、先ほどの冷徹な空気を嘘のように消し去り、いつもの「忠実なゴミ」の顔に戻る。
「……ヴィンセント。今の身のこなし、そしてあの威圧感。……あなた、ただの『毒舌フェチ』じゃないわね? 一体、どこの誰なの?」
私はヴィンセントの目を真っ直ぐに見つめた。
彼は一瞬だけ沈黙し、それから優雅に微笑んで、私の手を取った。
「……私の正体など、今はどうでもいいことだ。今の私は、君の厳しい言葉なしでは生きていけない、一人の男に過ぎない」
「……気持ち悪いわ。その手を離しなさい、この寄生虫」
私は彼の手を振り払ったが、心の中では確信していた。
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