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「……ガルフ団長。そんなに悲しそうな顔で私を見ないでくださる? まるで、私があなたの大事な皇子様を拉致して、地下室で違法な人体実験でもしているかのような被害妄想はやめてちょうだい」
私は、別荘の応接室(昨日、ヴィンセントが必死に磨いた床)で、騎士団長ガルフを冷たくあしらっていた。
隣には、アストラ帝国の第三皇子という輝かしい肩書きを取り戻したはずのヴィンセントが、なぜか誇らしげに私の「茶菓子」の毒見――という名のおやつタイムを堪能している。
「しかし、レーズン殿! 殿下は帝国の至宝! それを庭師として使い走りさせるなど、国際問題になりかねませんぞ!」
「国際問題? あら、おかしいわね。不法侵入してきた素性不明の男を、温情で雇ってあげた私の方が、むしろ平和賞ものではないかしら? それに、彼自身が『ここで罵られたい』なんて、公序良俗に反する寝言を言っているのですもの。教育的指導が必要なのは、私ではなく、あなたの国の教育システムの方よ」
「ぐっ……。殿下、お願いです! いい加減にお戻りください!」
ガルフが涙ながらに訴えるが、ヴィンセントはマカロンを優雅に口へ運び、無表情のまま断言した。
「断る。ガルフ、お前には分からないだろうが……レーズンの言葉は、帝都の連中が吐く脂ぎったお世辞の百万倍、私の魂を浄化してくれるんだ。彼女に『ゴミ』と言われるたび、私は自分が一皮剥けていくような感覚に陥る」
「剥けなくていいです。そのまま消えてください」
私が即座に切り捨てると、ヴィンセントは「ああ……。このキレ味、やはり本物だ」と満足げに目を細めた。
騎士団長は、ついに頭を抱えて座り込んでしまった。
……アストラ帝国の未来が、少し心配になってくるわね。
「……それで、ヴィンセント。そもそも、帝国でも指折りの実力者であるはずのあなたが、なぜあんな森の中で、ボロ布のような姿で行き倒れていたのかしら? 自国に居場所がないほど、性格が歪んでいたから?」
「……フッ。鋭いな。……実は、兄たちが始めた皇位継承争いがあまりにも退屈でね。誰が勝っても同じような、数字と虚飾にまみれた未来しか見えなかったんだ。だから、自分の死を偽装して、世界を放浪してみようと思ったのさ」
「まあ。……一国の皇子ともあろう方が、自分の責任を放り出して『自分探しの旅』ですか? それを世間では『職場放棄』、あるいは『究極の無能』と呼ぶのよ。あなたが森で死にかけていたのは、世界からの妥当な評価だったというわけね」
「……っ。職場放棄! 究極の無能! ……素晴らしい。その通りだ、レーズン。君に言われると、自分の逃避がいかに浅はかだったか、細胞レベルで理解できるよ」
ヴィンセントは、なぜか頬を赤らめて私の方へ身を乗り出してきた。
この男、皇子という肩書きがついた途端、変態としての格が上がっている気がする。
「……それで? 騎士団に見つかった以上、あなたの『隠れニート生活』は終わりよ。さあ、さっさと帰って、兄上たちの首でも洗わせにいきなさいな。私の別荘に、国家予算並みの維持費がかかる居候は不要だわ」
「いいや、レーズン。私は決めたんだ。……ガルフ、帝国に伝えておけ。第三皇子ヴィンセントは、隣国オセロ公爵家の令嬢レーズンの『負債』として、彼女の監視下で更生プログラムを受けることになった、とな」
「……はぁ!? 勝手に変なプログラムを作らないで。というか、ガルフさん。あなたもそんなバカげた話、認めるわけないわよね?」
私がガルフに同意を求めると、彼は真剣な顔で私を見つめ、突然その場に深く跪いた。
「……いや。……殿下が、これほどまでに生き生きと(?)されている姿、私は十年ぶりに見ました。レーズン殿、どうか! 我が国の問題児を、その……『教育』してやってはいただけませんか!? 費用は全て帝国が、言い値で支払います!」
「……えっ。言い値?」
私の「悪役令嬢としての嗅覚」が、ピクリと反応した。
言い値ということは、私の匙加減一つで、このボロ別荘をダイヤモンドで埋め尽くすことも可能ということだ。
……あら。よく考えれば、この男、単なるゴミだと思っていたけれど、実は『歩く国家予算』そのものだったわけね。
「……ふん。まあ、そこまで言うのなら。……いいわ、ヴィンセント。条件はさらに厳しくなるわよ? 掃除、洗濯、料理の補助。そして、私の毒舌に対して一分以内に適切な『感謝の言葉』を述べること。一秒でも遅れたら、その高貴な鼻を折ってあげるわ」
「……感謝の言葉か。難問だな。君の言葉のあまりの美しさに、語彙が失われてしまいそうだ。……だが、受けて立とう」
ヴィンセントは、私の手を取り、まるで主君に忠誠を誓う騎士のような目をして微笑んだ。
「……よろしく頼むよ、私の厳しい女主人(ドミナ)。これから始まる『甘くない共同生活』が、楽しみで仕方がない」
「その呼び方、寒気がするから禁止よ。……トム! 裏庭に新しいテントを張りなさい! 帝国からの賓客(という名の奴隷)が増えたわよ!」
こうして、私の辺境ライフは、一人の「種無しスイカ王子」との決別を経て、一人の「ドMな帝国皇子」との奇妙な同居生活へと変貌を遂げた。
……私の平和な隠居生活はどこへ行ったのかしら。
けれど、まあ。……帝国を破産させるくらいの勢いで絞り取ってあげるから、覚悟しておきなさいな。
私は、別荘の応接室(昨日、ヴィンセントが必死に磨いた床)で、騎士団長ガルフを冷たくあしらっていた。
隣には、アストラ帝国の第三皇子という輝かしい肩書きを取り戻したはずのヴィンセントが、なぜか誇らしげに私の「茶菓子」の毒見――という名のおやつタイムを堪能している。
「しかし、レーズン殿! 殿下は帝国の至宝! それを庭師として使い走りさせるなど、国際問題になりかねませんぞ!」
「国際問題? あら、おかしいわね。不法侵入してきた素性不明の男を、温情で雇ってあげた私の方が、むしろ平和賞ものではないかしら? それに、彼自身が『ここで罵られたい』なんて、公序良俗に反する寝言を言っているのですもの。教育的指導が必要なのは、私ではなく、あなたの国の教育システムの方よ」
「ぐっ……。殿下、お願いです! いい加減にお戻りください!」
ガルフが涙ながらに訴えるが、ヴィンセントはマカロンを優雅に口へ運び、無表情のまま断言した。
「断る。ガルフ、お前には分からないだろうが……レーズンの言葉は、帝都の連中が吐く脂ぎったお世辞の百万倍、私の魂を浄化してくれるんだ。彼女に『ゴミ』と言われるたび、私は自分が一皮剥けていくような感覚に陥る」
「剥けなくていいです。そのまま消えてください」
私が即座に切り捨てると、ヴィンセントは「ああ……。このキレ味、やはり本物だ」と満足げに目を細めた。
騎士団長は、ついに頭を抱えて座り込んでしまった。
……アストラ帝国の未来が、少し心配になってくるわね。
「……それで、ヴィンセント。そもそも、帝国でも指折りの実力者であるはずのあなたが、なぜあんな森の中で、ボロ布のような姿で行き倒れていたのかしら? 自国に居場所がないほど、性格が歪んでいたから?」
「……フッ。鋭いな。……実は、兄たちが始めた皇位継承争いがあまりにも退屈でね。誰が勝っても同じような、数字と虚飾にまみれた未来しか見えなかったんだ。だから、自分の死を偽装して、世界を放浪してみようと思ったのさ」
「まあ。……一国の皇子ともあろう方が、自分の責任を放り出して『自分探しの旅』ですか? それを世間では『職場放棄』、あるいは『究極の無能』と呼ぶのよ。あなたが森で死にかけていたのは、世界からの妥当な評価だったというわけね」
「……っ。職場放棄! 究極の無能! ……素晴らしい。その通りだ、レーズン。君に言われると、自分の逃避がいかに浅はかだったか、細胞レベルで理解できるよ」
ヴィンセントは、なぜか頬を赤らめて私の方へ身を乗り出してきた。
この男、皇子という肩書きがついた途端、変態としての格が上がっている気がする。
「……それで? 騎士団に見つかった以上、あなたの『隠れニート生活』は終わりよ。さあ、さっさと帰って、兄上たちの首でも洗わせにいきなさいな。私の別荘に、国家予算並みの維持費がかかる居候は不要だわ」
「いいや、レーズン。私は決めたんだ。……ガルフ、帝国に伝えておけ。第三皇子ヴィンセントは、隣国オセロ公爵家の令嬢レーズンの『負債』として、彼女の監視下で更生プログラムを受けることになった、とな」
「……はぁ!? 勝手に変なプログラムを作らないで。というか、ガルフさん。あなたもそんなバカげた話、認めるわけないわよね?」
私がガルフに同意を求めると、彼は真剣な顔で私を見つめ、突然その場に深く跪いた。
「……いや。……殿下が、これほどまでに生き生きと(?)されている姿、私は十年ぶりに見ました。レーズン殿、どうか! 我が国の問題児を、その……『教育』してやってはいただけませんか!? 費用は全て帝国が、言い値で支払います!」
「……えっ。言い値?」
私の「悪役令嬢としての嗅覚」が、ピクリと反応した。
言い値ということは、私の匙加減一つで、このボロ別荘をダイヤモンドで埋め尽くすことも可能ということだ。
……あら。よく考えれば、この男、単なるゴミだと思っていたけれど、実は『歩く国家予算』そのものだったわけね。
「……ふん。まあ、そこまで言うのなら。……いいわ、ヴィンセント。条件はさらに厳しくなるわよ? 掃除、洗濯、料理の補助。そして、私の毒舌に対して一分以内に適切な『感謝の言葉』を述べること。一秒でも遅れたら、その高貴な鼻を折ってあげるわ」
「……感謝の言葉か。難問だな。君の言葉のあまりの美しさに、語彙が失われてしまいそうだ。……だが、受けて立とう」
ヴィンセントは、私の手を取り、まるで主君に忠誠を誓う騎士のような目をして微笑んだ。
「……よろしく頼むよ、私の厳しい女主人(ドミナ)。これから始まる『甘くない共同生活』が、楽しみで仕方がない」
「その呼び方、寒気がするから禁止よ。……トム! 裏庭に新しいテントを張りなさい! 帝国からの賓客(という名の奴隷)が増えたわよ!」
こうして、私の辺境ライフは、一人の「種無しスイカ王子」との決別を経て、一人の「ドMな帝国皇子」との奇妙な同居生活へと変貌を遂げた。
……私の平和な隠居生活はどこへ行ったのかしら。
けれど、まあ。……帝国を破産させるくらいの勢いで絞り取ってあげるから、覚悟しておきなさいな。
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