お黙りなさい!婚約破棄された毒舌令嬢は甘くない毒を吐く

ちゃっぴー

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「……ちょっと、ヴィンセント。あなた、いつから私の寝室の守護霊になったのかしら? 目が覚めた瞬間にあなたの整いすぎた顔が至近距離にあるのは、心臓に悪いわ。というか、公序良俗に反するわよ」

翌朝、私が目を覚ますと、ベッドの脇には昨夜の誓い(という名の奴隷契約)を律儀に守るヴィンセントの姿があった。
しかも、ただ立っているだけではない。
手には銀の盆。そこには、湯気を立てる最高級のハーブティーと、完璧に面取りされたフルーツの盛り合わせが。

「おはよう、レーズン。朝の寝起きがこれほどまでに不機嫌とは、期待以上だ。その、寝ぼけて半分開いた瞳で私をゴミのように見る視線……。目覚めの一杯よりも五臓六腑に染み渡るよ」

「五臓六腑に染み渡っているのは、私の殺意の方よ。……三秒以内にその不敵な笑みを消しなさい。さもないと、このフルーツナイフであなたの立派な鼻をデコレーションしてあげるわ」

「三秒か。随分と猶予をくれるんだな。……さあ、冷めないうちに召し上がれ。君のために、森の奥で今朝摘んだばかりの最高級ベリーを添えておいた」

ヴィンセントは、恭しく膝をついて盆を差し出した。
その動きは、もはや「庭師」でも「掃除係」でもない。
完全に、一人の女王に捧げられた「狂信的な執事」のそれだ。

「……ふん。毒でも盛ったのかしら? まあいいわ、あなたのその厚かましい生命力に免じて、一口だけいただいてあげる。……あ、でも待って。そのベリー。形が不揃いだわ。私の人生に、歪な果実が入り込む余地はないの。やり直しなさい」

「形が不揃い……! ああ、私の配慮が足りなかったな! 君の完璧な審美眼を汚してしまった罪を、どう償えばいい? いっそこの場で、私の至らなさを千語以内の語彙で罵倒してくれないか?」

「……一万語使って、あなたの存在そのものを辞書から消去してあげたいわ。さっさと下がって」

私が冷たく言い放つと、ヴィンセントは満足げに深く一礼し、音もなく部屋から退出した。
……なんなの、あの男。
皇子という肩書きを認めた途端、隠していた「奉仕欲(という名の変態性)」が爆発しているじゃない。
これでは、どちらが飼い主か分かったものではないわ。

私は溜息をつきながら、とりあえずベリーを一口食べた。
……悔しいけれど、甘酸っぱくて完璧な味だったわ。

午前中。別荘の庭で私が今後の「王家への復讐プラン(資産没収計画)」を練っていると、またしても門の外から騒がしい音が聞こえてきた。

「あーあー! 愛しのレーズン様! どこにいらっしゃるんだい、僕のシワシワの恋人!」

「……何よ、その『聞くだけで耳が腐りそうな声』は」

私は不快感を隠さず、門の方を睨んだ。
そこにいたのは、ジャバラ子爵よりもさらに質の悪そうな、派手な黄色の服を着た小太りの男だった。
名前は……確か、隣領のバロン・マッシュルームとかいう、キノコのような名前の男だ。

「やあやあ、レーズン様! 王子に捨てられて、こんな寂しい場所に引きこもっていると聞いて、僕が救いに来てあげたよ! さあ、今すぐ僕の五番目の妻におなり! その代わり、公爵家の資産の半分を僕が管理してあげるから!」

「……まあ。五番目の妻? 随分と控えめな提案ですわね。あなたのその、カビの生えたキノコのような容姿で私を誘うなんて、鏡という文明の利器をご存知ないのかしら?」

私が冷ややかに応じると、マッシュルーム男は鼻を鳴らした。

「ふん、強がりを! 婚約破棄された傷物に、僕以外の誰が声をかけるって言うんだ! さあ、大人しく馬車に乗れ! 力ずくでも連れて行くぞ!」

男が門を乗り越えようとした、その時。

「……レーズン。この『菌類』、どう料理すればいい? 煮る? 焼く? それとも、太陽の光で完全に乾燥させて、塵にする?」

いつの間にか、私の隣にヴィンセントが立っていた。
その手には、なぜか庭仕事用の大きな剪定鋏(せんていばさみ)が握られている。
彼の瞳からは、朝のあの変態的な光が消え、底冷えするような殺意が溢れ出していた。

「あ、あんたは誰だ!? ただの使用人が、僕のような貴族に……」

「……使用人? ああ、そうだ。私は彼女の『ゴミ』であり、『奴隷』だ。そして、奴隷というのは、自分の宝物に触れようとする不浄な存在には、容赦しない性質でね」

ヴィンセントが、一歩、また一歩とマッシュルーム男に近づく。
その足音が、死神の足音のように庭に響いた。

「ま、待て! 僕は貴族だぞ! こんなことをしてタダで済むと……」

「……この男の名前を、帝国の『要注意外道リスト』に入れておこう。ガルフ、聞こえているか?」

ヴィンセントが虚空に向かって呟くと、茂みの陰から「ハッ!」という声と共に、騎士団長ガルフが音もなく現れた。

「……殿下、仰せの通りに。この男の領地の不正、および過去の女性問題、全て洗って三日以内に破滅させます」

「な……殿下!? アストラ帝国の……!?」

マッシュルーム男の顔が、一瞬で土気色に変わった。
彼はそのまま、泡を吹いてその場に崩れ落ちた。

「……あら。自爆かしら。手間が省けてよかったわ」

私は扇子で顔を仰ぎながら、冷たく言い放つ。
ヴィンセントは、鋏を置いて私の方を向き、いつもの「忠実な犬」のような笑顔を浮かべた。

「ご機嫌を損ねてしまったかな、レーズン? 次はもう少し、君の毒舌で彼をじっくりと絶望させてから処理するように気をつけるよ」

「……次はなくていいわよ。というか、ヴィンセント。あなたの部下を私の庭に潜伏させないで。雑草が増えるじゃないの」

「ふふ、申し訳ない。……さあ、レーズン。不快なものは片付いた。午後のティータイムには、もう少し『刺激的な言葉』を私にくれるかな?」

ヴィンセントが私の手を取り、跪いて微笑む。
この男、私が拒絶すればするほど、その献身(と変態性)が磨かれていく。
まるで、私の毒が彼を「最強の騎士」へと覚醒させてしまったかのように。

「……お断りよ。今日はもう、一言も喋らないわ」

「……ああ、沈黙という名の拷問か。それもまた……悪くない」

「……早く、どこかの国へ帰ってくれないかしら、この歩くバイオハザード」

私の辺境ライフは、静寂とは程遠い方向に加速していた。
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