お黙りなさい!婚約破棄された毒舌令嬢は甘くない毒を吐く

ちゃっぴー

文字の大きさ
18 / 28

18

しおりを挟む
「……ちょっと、ヴィンセント。窓の外の空気が、急に重たくなった気がするのだけれど。帝都の空気は、排出された二酸化炭素と強欲な貴族の溜息で構成されているのかしら? 吸うだけで肺の細胞が抗議の声を上げそうだわ」

帝都アストレアの巨大な城門が見えてきたところで、私は鼻を扇子で覆った。
いよいよ、この物語の真の戦場、アストラ帝国の中心地へと足を踏み入れる。

「……手厳しいな。だが、君の言う通りだ。帝都の繁栄は、その裏側に溜まった不純な欲望の上に乗っている。……だが、それを浄化するために、私は君を連れてきたんだよ。……さあ、これを受け取ってくれ」

ヴィンセントが、ベルベットのクッションに乗せられた「一枚の羊皮紙」と「重厚な鍵」を差し出してきた。
宝石でもドレスでもない。私は興味を惹かれ、それを手にとった。

「……なによこれ。『アストレア最高級特区、ドライ・ガーデン所有権譲渡証明書』? 宝石の一つも買えないからって、土地で誤魔化そうというわけ?」

「違うよ、レーズン。そこは帝国内で最も高品質なブドウ……君の名の由来であるレーズンを作るための、最高級品種のみを栽培する私有地だ。……そして、そこにある醸造所と加工場は、世界一の『効率』を誇る魔導設備が整っている」

ヴィンセントは、獲物を前にした少年のように瞳を輝かせた。

「そこは君の直轄地だ。君の匙加減一つで、帝国の食文化を支配できる。……どうかな、君という『甘くない毒』を精製する拠点としては、ふさわしい場所だと思わないか?」

「……ふん。土地の価値、設備の減価償却費、および独占禁止法への抵触可能性を鑑みれば……。まあ、及第点ね。他人の用意した土俵で踊るのは好きではないけれど、あなたのその『貢ぎ物としての実用性』だけは、少しだけ評価してあげてもいいわ」

「……っ、及第点! 評価! ……ああ、私の全財産を投じた甲斐があったよ」

ヴィンセントが私の膝元に顔を寄せようとするので、私は扇子で彼の額を力強く押し返した。

「調子に乗らないで。……さあ、ガルフさん。門兵たちが、私たちの馬車を見て怯えているわよ。私の入城を邪魔するような無能がいたら、その門を壊してでも通りなさい。私の時間は、彼らの時給一万倍の価値があるんだから」

「ハッ! 了解いたしました! 未来の皇妃殿下のために、道を切り開きます!」

馬車が帝都の城門をくぐる。
大通りには、行方不明だった第三皇子の帰還を祝う群衆が集まっていたが、私の目に入るのは「非効率な街路」と「手入れのされていない公衆水場」ばかりだった。

「……ヴィンセント。この街、道路の傾斜が0.5度ズレている場所があるわ。馬車の振動が無駄に増えるでしょうが。……それから、あそこの広場。露店が不規則に並びすぎていて、通行人の動線が死んでいるわよ」

「……はは、城門をくぐって十秒で、帝都の都市計画をボロクソに言うとはね。……さすがだ、レーズン。君がこの国をどう作り変えていくのか、私は今から興奮で震えているよ」

「震えている暇があるなら、メモを取りなさいな。一言一句、私の指摘を逃したら、あなたのその立派な耳を、ただの装飾品として切り取ってあげるわ」

「……ああ。指が折れるまで書き留めよう。私の女王」

馬車は、巨大な白亜の王宮へと向かって進んでいく。
窓の外の歓声は、私には「これから処刑される者たちの断末魔」のように聞こえていた。

(待ってなさい、帝国の無能な貴族たち。……私の毒で、あなたたちの温い生活を、カラカラに干からびたレーズンにしてあげるから)

私は冷酷な笑みを浮かべ、馬車の窓を静かに閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄のススメ!王子の「真実の愛」見つけて差し上げます

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢メロア・クレーベルの隣には、非の打ち所がない完璧すぎる婚約者、ジークハルト王子が君臨している。このまま結婚すれば、待っているのは「王妃教育」と「終わらない公務」という名の過労死コース……。 「嫌ですわ! わたくし、絶対に婚約破棄して隠居してみせますわ!」 決意したメロアは、入学したての学園で、王子の「真実の愛の相手(ヒロイン)」を見つけ出し、自分を捨ててもらうという作戦を開始する。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢

さら
恋愛
 名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。  しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。  王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。  戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。  一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。

すれ違う心 解ける氷

柴田はつみ
恋愛
幼い頃の優しさを失い、無口で冷徹となった御曹司とその冷たい態度に心を閉ざした許嫁の複雑な関係の物語

婚約破棄されたのでサブスク聖女始めました ―平民がダメ?なら侯爵令嬢にしますが、だから何?―

ふわふわ
恋愛
「真実の愛を見つけた」 そう告げられて、王太子との婚約をあっさり破棄された聖女シャマル。 泣かない。 責めない。 執着もしない。 だって正直、 好きでもない相手との政略結婚も、 毎日王宮に通って無償奉仕する生活も、 もう十分だったから。 「必要なときだけ呼んで。報酬は時給でいいよ」 そうして始めたのは、 前代未聞の サブスク式・聖女制度。 奇跡を振りまくのではなく、 判断基準を明確にし、 数字と仕組みで回す“無理をしない聖女業”。 ところがそれが、なぜか国にとって一番うまくいく。 しかし、 「平民の娘では納得できない」 「聖女は神聖であるべきだ」 そんな声が、王と貴族たちから上がり始め―― 「じゃあ、侯爵令嬢にしましょう」 肩書だけを差し替える、 中身は何ひとつ変えない痛快対応で、 価値観そのものを静かに詰ませていく。 これは、 怒鳴らない、争わない、感情に走らない。 それでも確実に“立場逆転”していく 理屈派・ドライ聖女の静かなザマァ物語。 働きすぎないこと。 全員に好かれようとしないこと。 納得しない自由も、ちゃんと認めること。 そんな聖女が作ったのは、 奇跡ではなく―― 無理をしなくても生きられる仕組みだった。

婚約破棄された悪役令嬢、放浪先で最強公爵に溺愛される

鍛高譚
恋愛
「スカーレット・ヨーク、お前との婚約は破棄する!」 王太子アルバートの突然の宣言により、伯爵令嬢スカーレットの人生は一変した。 すべては“聖女”を名乗る平民アメリアの企み。でっち上げられた罪で糾弾され、名誉を失い、実家からも追放されてしまう。 頼る宛もなく王都をさまよった彼女は、行き倒れ寸前のところを隣国ルーヴェル王国の公爵、ゼイン・ファーガスに救われる。 「……しばらく俺のもとで休め。安全は保証する」 冷徹な印象とは裏腹に、ゼインはスカーレットを庇護し、“形だけの婚約者”として身を守ってくれることに。 公爵家で静かな日々を過ごすうちに、スカーレットの聡明さや誇り高さは次第に評価され、彼女自身もゼインに心惹かれていく。 だがその裏で、王太子とアメリアの暴走は止まらず、スカーレットの両親までもが処刑の危機に――!

婚約破棄されたその後は、何も起きない日々でした

ふわふわ
恋愛
婚約破棄―― それは、多くの令嬢にとって人生を揺るがす一大事件。 けれど彼女は、泣き叫ぶことも、復讐に走ることもなかった。 「……では、私は日常に戻ります」 派手なざまぁも、劇的な逆転劇もない。 彼女が選んだのは、線を引き、基準を守り、同じ判断を繰り返すこと。 王宮では改革が進み、領地では生活が整えられていく。 誰かが声高に称えられることもなく、 誰かが悪役として裁かれることもない。 それでも―― 混乱は起きず、争いは減り、 人々は「明日も今日と同じである」ことを疑わなくなっていく。 選ばない勇気。 変えない決断。 名を残さず、英雄にならない覚悟。 これは、 婚約破棄をきっかけに 静かに日常を守り続けた一人の令嬢と、 その周囲が“当たり前”を取り戻していく物語。 派手ではない。 けれど、確かに強い。 ――それでも、日常は続く。

王命により、婚約破棄されました。

緋田鞠
恋愛
魔王誕生に対抗するため、異界から聖女が召喚された。アストリッドは結婚を翌月に控えていたが、婚約者のオリヴェルが、聖女の指名により独身男性のみが所属する魔王討伐隊の一員に選ばれてしまった。その結果、王命によって二人の婚約が破棄される。運命として受け入れ、世界の安寧を祈るため、修道院に身を寄せて二年。久しぶりに再会したオリヴェルは、以前と変わらず、アストリッドに微笑みかけた。「私は、長年の約束を違えるつもりはないよ」。

処理中です...