この最強悪役令嬢、実は平穏を愛する!

ちゃっぴー

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「……クラウス。一つ聞いてもよろしくて?」


「なんだい、マグナ。何でも答えるよ。私の個人資産の総額から、昨日の夕食のカロリー摂取量まで」


「そんな情報は不要です。私が聞きたいのは……なぜ貴方が、私の畑で『あぜ道』を舗装しているのかということです」


炎天下の畑。


私が汗を拭いながら問いただすと、クラウスは爽やかな笑顔で答えた。


彼は泥だらけのシャツの袖をまくり上げ、魔法で生成した石材を綺麗に並べていた。


「君が歩きやすいようにさ。雨の日に君の靴が汚れるのは、国家的損失だからね」


「……意味がわかりません」


私はため息をついた。


農業ライフ三日目。


私の予想に反して、この「氷の宰相」は音を上げるどころか、恐ろしいほどの適応能力を見せていた。


「見ろ、マグナ。あちらの区画の畝(うね)作りも完了した。角度は完璧な45度。排水効率を最大化した設計だ」


「……悔しいけど、完璧ね」


私は唇を噛んだ。


彼は体力お化けであるだけでなく、土木魔法のスペシャリストでもあったのだ。


私が一日かけてやる作業を、彼は一時間で終わらせてしまう。


「どうだ? これなら君も、私の有能さを再評価してくれるんじゃないか?」


クラウスが期待に満ちた目で見てくる。


まるで「褒めてくれ」と言わんばかりの大型犬だ。


私は視線を逸らした。


「労働力としては評価します。日当として、今日のランチのサンドイッチは具を二倍にしてあげます」


「ありがとう。……だが、私が欲しいのはサンドイッチの具ではないんだ」


「では何です? ピクルス抜き?」


「違う。……君の『心』だ」


クラウスが、唐突に距離を詰めてきた。


泥のついた手で、私の頬に触れようとする――寸前で止める(汚れるから)。


その配慮が逆に腹立たしい。


「……宰相閣下。暑さで頭が湧きましたか?」


「至って正常だ。むしろ、王宮にいた時よりもクリアだ」


彼は真剣な眼差しで私を見下ろした。


「マグナ。王宮での私は、君を『最強の部下』としてしか見ていなかった。それは認める。だが、君がいなくなって気づいたんだ」


「私の事務処理能力の高さにですか?」


「いや。君がいない毎日の、あの色のなさ……退屈さにだ」


彼は一歩踏み出した。


私は半歩下がった。


「君が隣で怒鳴ってくれないと、コーヒーが泥水のように不味い。君が私のミスを論破してくれないと、張り合いがなくて生きた心地がしない」


「……それはただのドMでは?」


「それを『愛』と呼ぶのではないか?」


「呼びません。病院へ行ってください」


私はバッサリと切り捨て、鍬(くわ)を持ち直した。


「仕事の邪魔です。あっちの雑草を抜いてきてください」


「……つれないな」


クラウスは肩をすくめたが、すぐにニヤリと笑った。


「だが、諦めないぞ。私は宰相だ。一度決めた政策(ターゲット)は、実現するまで何度でも法案を提出する」


「廃案にします」


「再提出する」


「拒否権を行使します」


「国民投票(強行突破)にかける」


「独裁者!」


私たちの不毛な言い争いは、静かな農村に響き渡った。


          ◇


その日の午後。


休憩時間に、クラウスが「プレゼントがある」と言い出した。


「また変なものじゃないでしょうね。昨日の『最新鋭の肥料(ドラゴンのフン)』は臭すぎて気絶するかと思ったわ」


「安心しろ。今回はロマンチックなものだ」


彼は背中に隠していた手を出し、私に突きつけた。


「これだ」


そこにあったのは、花束だった。


ただし、普通の花ではない。


紫色に妖しく光り、花弁がパクパクと動いている。


どう見ても、魔界の植物だ。


「……クラウス。これは?」


「『マンドラゴラ・ロイヤル』の花だ。千年に一度しか咲かない超希少種だぞ」


「……で?」


「花言葉は『恐怖』と『死への誘い』だ」


「喧嘩売ってるの!?」


私は思わずツッコミを入れた。


「求愛に渡す花じゃないでしょ! もっとこう、薔薇とかユリとかあるじゃない!」


「薔薇? あんなすぐに枯れる非効率な花のどこがいいんだ? このマンドラゴラを見てみろ。根を煎じて飲めば疲労回復、葉は強力な殺虫剤になり、花は魔除けになる。実用性(スペック)が段違いだ」


クラウスは熱弁を振るう。


「君なら、この『機能美』を理解してくれると思ったんだが」


「……」


私は花(?)を見つめた。


確かに、パクパク動いているのは気持ち悪いが、葉から漂う香りはハーブのように爽やかだ。


それに、最近畑を荒らす害虫に悩まされていたところだ。


(……悔しいけど、合理的だわ)


私の「効率厨」としての魂が、少しだけ反応してしまった。


「……受け取っておきます。害虫駆除用として」


「そうか! 気に入ってくれたか!」


「気に入ってはいません! 有効活用するだけです!」


私はふんだくるように花を受け取った。


その拍子に、私の指とクラウスの指が触れ合う。


ドキン。


心臓が、不覚にも跳ねた。


(な、何よ今の……)


顔が熱くなるのを感じる。


目の前のクラウスは、いつもの冷徹な表情ではなく、少年のように無邪気な笑顔を浮かべている。


「マグナ。君の頬、赤いぞ? 熱中症か?」


「……うるさい。西日が眩しいだけです」


私はプイと横を向いた。


その時だった。


ガサガサッ!


近くの茂みから、村人たちの話し声が聞こえた。


「おい見ろよ……」


「魔王様が、魔女様に『呪いの花』を渡してるぞ……」


「『死への誘い』って言ってたな……」


「やっぱり、この村を滅ぼすための儀式なんだ!」


「ひぃぃぃ! 村長に報告だぁぁ!」


ダダダダッ!


村人たちが逃げていく足音が聞こえる。


「……」


「……」


私とクラウスは顔を見合わせた。


「……誤解、解けませんね」


「むしろ深まったな」


「貴方のせいですわよ、マンドラゴラなんて渡すから!」


「いや、君が嬉しそうに受け取るから、儀式の成立に見えたんだろう」


「嬉しそうになんてしてません!」


「顔が赤かったぞ」


「それは西日だと言ってるでしょう!」


私は怒鳴りながら、マンドラゴラを彼に投げ返そうとした。


だが、その花が急に「ギャァァァ!」と叫び声を上げたため、私たちは二人して「うわぁっ!」と尻餅をついた。


泥だらけの地面に転がる、元公爵令嬢と元宰相。


あまりに無様な姿に、私はふと、笑いがこみ上げてきた。


「……ふふっ」


「……ははっ」


クラウスも笑い出した。


「あーあ。泥だらけだわ。お父様が見たら卒倒するわね」


「王宮の連中が見たら、世界が滅亡したと思うだろうな」


私たちは泥んこになりながら、しばらく笑い合った。


王宮では決して見せなかった、飾らない笑顔。


(……悪くないかもね)


ふと、そんな思考が頭をよぎったが、私はすぐに振り払った。


いけない、いけない。


この男は、私を「社畜」に戻そうとする刺客なのだ。


絆されてはいけない。


私は立ち上がり、泥を払った。


「さあ、休憩終わり! 日没までにあと三列、耕しますよ!」


「鬼だな、君は」


「嫌なら帰っていいんですよ?」


「……喜んでお供しよう」


クラウスも立ち上がり、鍬を握った。


こうして、不器用な二人の距離は、マンドラゴラの悲鳴と共に、ほんの数ミリだけ縮まった――のかもしれない。


だが、そんな私たちの「奇妙な田舎暮らし」に、ついに外部からの介入者が現れる。


翌日。


村の入り口に、派手な馬車が到着したのだ。


そこから降り立ったのは、フリフリのドレスを着た、あの「トラブルメーカー」だった。
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