この最強悪役令嬢、実は平穏を愛する!

ちゃっぴー

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「おお、マグナよ! よくぞやってくれた!」


外交交渉が終わったその足で、国王陛下主催の「ささやかな祝勝会(という名の反省会)」が、王宮のサロンで開かれていた。


「これで国は安泰だ。……金貨5000枚は痛いが、戦争になるよりは安い」


陛下はホッとした顔で紅茶を啜っている。


「ビジネスですので。請求書は経理に回しておいてください」


私はサロンのソファに座り、優雅にクッキーをつまんでいた。


隣ではクラウスが、まだ少し緊張している文官たちに、今後の事後処理について指示を出している。


「やあ、マグナ! 君のおかげで助かったよ!」


そこへ、すっかり元気を取り戻したレオナルド殿下が近づいてきた。


先ほどの「土下座寸前」の情けなさはどこへやら、いつもの自信過剰な笑顔に戻っている。


「やはり君は、僕のために生まれてきた最高のパートナーだ。どうだ? このまま王宮に戻り、再び僕を支える気はないか?」


「ありません。私は仕事が終われば即刻帰ります」


「まあまあ、そう言わずに。……君だって、田舎暮らしより、華やかな王宮の方が性に合っているだろう?」


殿下は馴れ馴れしく私の肩に手を回そうとする。


私はそれをスッと避けた。


「学習能力がありませんね。……追加料金を請求しますよ?」


「け、ケチだなあ」


殿下が苦笑いをしていると、サロンの扉が勢いよく開いた。


「レオナルド様ぁぁ! マグナお姉様ぁぁ!」


ピンク色の竜巻――ミナ様が飛び込んできた。


手には大きな銀のトレイを持ち、その上には見たこともない色の液体が入ったグラスが並んでいる。


「皆様、お疲れ様です! 交渉成功のお祝いに、特製ハーブティーを淹れてきました!」


「……嫌な予感がする」


私とクラウスは同時に顔を見合わせ、半歩下がった。


しかし、空気の読めない殿下は、ミナ様を笑顔で迎えた。


「おお、ミナか! 気が利くな。喉が渇いていたんだ」


「はいっ! どうぞ召し上がってください! 『愛の疲労回復ドリンク』です!」


殿下はグラスを受け取り、一気に煽った。


「ぐふっ……!?」


殿下の動きが止まった。


「ど、どうされました?」


「……い、いや、なんでもない。……うん、独特な味だな(泥水の味がする……)」


殿下は震える手でグラスを置いた。


ミナ様はそれに気づかず、満面の笑みで私の方を向いた。


「マグナお姉様もどうぞ! あ、でもお姉様はもうすぐ『囚人』になるから、最後の晩餐ですね!」


「……はい?」


私はクッキーを食べる手を止めた。


サロンの空気が、ピタリと止まる。


「ミ、ミナ!? 何を言っているんだ!?」


殿下が慌ててミナ様の口を塞ごうとするが、彼女はそれをすり抜けて喋り続けた。


「え? だってレオナルド様、さっき部屋で言ってましたよね?」


ミナ様は無邪気な大声で暴露を開始した。


「『今はマグナに頭を下げておくけど、危機が去ったらこっちのものだ』って!」


「や、やめろミナ!」


「『あいつが調子に乗るのも今のうちだ。交渉が終わったら、不敬罪か何か適当な理由をつけて捕まえて、地下牢に閉じ込めて一生タダで働かせてやる』って!」


「ぎゃああああああ!!」


殿下の絶叫が響いた。


サロンにいる全員――国王陛下、クラウス、文官たち、そして近衛兵たちの視線が、一点に集中する。


私はゆっくりと、非常にゆっくりと、殿下の方を向いた。


「……へぇ」


「ち、ちが! 違うんだマグナ! これはその、言葉のアヤというか、冗談で……!」


殿下は滝のような冷や汗を流しながら後ずさりする。


しかし、ミナ様はさらに追撃を加えた。


「冗談じゃないですよぉ! だってレオナルド様、『契約書なんて燃やしてしまえば無効だ』って、暖炉に薪をくべてたじゃないですか!」


「ミナァァァァァ!! 黙ってくれェェェ!!」


「えっ? なんで怒るんですか? 私、嘘ついてませんよ? あ、それとも『マグナの別荘を焼き払う計画』の方が良かったですか?」


「もうやめてぇぇぇ!!」


殿下はその場に崩れ落ちた。


完全なる自爆。


いや、味方(ミナ様)による背後からの刺殺である。


「……ほう」


低い声が響いた。


私ではない。


クラウスだ。


彼は手に持っていたグラスを、素手で「パリン」と握り潰した。


「レオナルド殿下。……我が国の法では、契約不履行および詐欺未遂、さらに国家功労者への脅迫は、重罪ですが?」


クラウスの背後に、氷の吹雪が見える。


室温が一気に氷点下まで下がる。


「く、クラウス、待て! 話せばわかる!」


「問答無用」


クラウスが指を鳴らすと、殿下の足元から氷の蔦が伸びてきて、彼を拘束した。


「ひぃぃぃ! 冷たい! 凍る!」


そして、もう一人。


さらに恐ろしいオーラを放つ人物がいた。


「……レオナルド」


国王陛下だ。


陛下は顔を真っ赤にして震えていた。


「余は……余は情けないぞ!!」


「ち、父上!?」


「マグナに助けてもらいながら、裏でそのような卑劣なことを考えていたとは! 王家の恥さらしめ!」


陛下は近くにあった杖を振り上げた。


「お仕置きだ! 歯を食いしばれ!」


「お父様ごめんなさぁぁぁい!!」


ドゴォッ!


サロンに鈍い音が響き、殿下が宙を舞った。


「きゃあ! レオナルド様が飛んだわ!」


ミナ様がパチパチと手を叩いて喜んでいる。


「すごい! アクロバティック!」


(……この子、本物のサイコパスかもしれない)


私は呆れを通り越して感心してしまった。


「……さて」


私は立ち上がり、氷漬けにされて床に転がっている殿下を見下ろした。


「殿下。弁解の余地はありませんね」


「うぅ……ごめんなさい……もうしません……」


「謝って済むなら、裁判所も契約書もいりません」


私は冷酷に告げた。


「この落とし前、きっちりつけていただきます」


「ど、どうすれば……」


「明晩、勝利を祝う舞踏会が開かれますわよね?」


「あ、ああ……」


「その場で、貴方の口から『真実』を公表していただきます。そして、私への正式な謝罪と、今後の処遇について宣言していただきます」


「そ、そんな……公衆の面前で!?」


「嫌なら、今ここで私が『物理的』に精算してもよろしいですが?」


私が拳をポキリと鳴らすと、殿下は首をブンブンと横に振った。


「やります! やらせていただきます!」


「よろしい」


私はニッコリと笑った。


これで舞台は整った。


明日の舞踏会は、ただの祝いの席ではない。


悪役令嬢マグナ・ヴァイオレットによる、最後の「断罪劇(公開処刑)」となるだろう。


「楽しみにしておりますわ、殿下」


私は優雅にカーテシーをして、サロンを後にした。


背後で、ミナ様が「マグナお姉様、また明日遊んでくださいねー!」と無邪気に手を振っているのが、何よりも一番のホラーだった。
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