この最強悪役令嬢、実は平穏を愛する!

ちゃっぴー

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「殺せ! あの女を黙らせろ!」


「王家の敵だ! ここで処分しろ!」


怒号と共に、十数人の騎士たちが抜剣し、私たちに向かって雪崩れ込んでくる。


彼らはレオナルド殿下の側近であり、殿下の「甘い汁」を吸って肥え太った寄生虫のような貴族たちの私兵だ。


私の演説によって殿下が失脚すれば、自分たちの立場も危うくなる。


だからこその、なりふり構わぬ実力行使。


「……野蛮ね」


私は呆れてため息をついた。


「議論で勝てないから暴力に訴える。これだから『脳筋』は嫌いですの」


「どうする、マグナ。私が魔法で一掃してもいいが?」


背中合わせに立ったクラウスが、指先に冷気を纏わせながら尋ねる。


「いいえ、クラウス。貴方は会場の一般客を守って。流れ弾……いいえ、流れ騎士が当たったら大変だから」


「君は?」


「私は……」


私はドレスのスカートの裾を、両手でグッと持ち上げた。


漆黒のベルベット生地は重厚で、数キロの重みがある。


「最近、ジャガイモ掘りで足腰を鍛えすぎて、力が余っているのよ。……ちょうどいい運動(ストレス発散)だわ!」


「死ねぇぇぇ!!」


先頭の騎士が剣を振り下ろしてくる。


私はその剣筋を見切り、半歩だけスッと横にずれた。


「遅い!」


「なっ!?」


空振った騎士の懐に飛び込み、私はドレスの下に隠されていた凶器――鋼鉄製のピンヒールで、彼の足の甲を正確に踏み抜いた。


ドスッ!!


「ぎゃあああああ!!」


騎士が悲鳴を上げてうずくまる。


私はその勢いを利用して回転し、遠心力の乗ったドレスの裾(重り入り)を、彼の顔面に叩きつけた。


バシィィィン!!


「ぶべらっ!!」


騎士は独楽(こま)のようにきりもみ回転しながら吹き飛んだ。


「えっ……?」


後続の騎士たちが足を止める。


「な、なんだ今の動きは……! ドレスで人を殴ったぞ!?」


私は優雅に髪をかき上げた。


「あら、ご存知ない? 王宮の夜は物騒なのです。深夜残業の帰りに不審者が出ても対応できるよう、護身術は嗜み(マナー)ですわ」


「護身術のレベルじゃねえぞ!」


「次の方、どうぞ。……事務処理と同じで、テキパキといきますわよ!」


私は手招きをした。


「おのれ、囲め! 女一人に何ができる!」


五人がかりで襲いかかってくる。


しかし、今の私の動体視力は「高速で飛ぶ伝書鳩」すら迎撃できるレベルだ。


止まって見える。


「右の方、脇が甘い!」


私は右の騎士の腕を取り、背負い投げを決める。


「左の方、重心がブレています!」


左の騎士の足を払い、転ばせる。


「正面の方、剣を振る前に掛け声出しすぎ! 動作がバレバレです!」


正面の騎士の鳩尾(みぞおち)に、掌底を叩き込む。


「ぐふっ……!」


「ほらほら、もっと効率的に動いて! 殺す気なら最短ルートで来なさい!」


私は説教をしながら、次々と男たちを宙に舞わせていく。


「な、なんなんだこの女はぁぁぁ!!」


「強い……! 強すぎる!」


「悪役令嬢(ラスボス)だ! 本物の魔王だ!」


騎士たちが恐れおののく。


その様子を、避難した貴族たちが呆然と見守り、クラウスだけが「ブラボー!」と拍手喝采を送っている。


「素晴らしいぞマグナ! そのヒールの一撃、まさに『革命』の重みだ!」


「褒めてないで援護して! 数が多いわ!」


「おっと、すまない」


クラウスが指を鳴らす。


パキパキパキ……!


逃げようとした騎士たちの足元が凍りつき、床に固定される。


「うわっ、動けない!」


「そこよ!」


私は動けない彼らの間をすり抜け、リーダー格の男――先ほど私を罵った大柄な騎士団長に肉薄した。


「ひぃっ!?」


団長は剣を落とし、後ずさりした。


「ま、待て! 私は命令されただけで……」


「言い訳は却下します」


私は彼を壁際に追い詰めた。


「貴方、先ほど『王家の敵』と言いましたわね?」


ドンッ!


私は壁に手をつき、所謂「壁ドン」の体勢で彼を見下ろした。


私の背後には、修羅の炎が燃え盛っている(ように見えたらしい)。


「真の『王家の敵』とは、無能な主君を諌めもせず、甘やかして腐敗させた貴方たちのことです」


「うぅ……」


「私のジャガイモ畑を荒らした罪、そして私のドレスに埃をつけた罪……万死に値します」


私はニッコリと微笑んだ。


「覚悟は、よろしくて?」


「た、助けてくれぇぇぇ!! ママァァァ!!」


団長が泣き叫ぶ。


私は拳を握りしめ――寸前で止めた。


デコピン。


パチンッ!!


「あへっ」


団長は白目を剥き、その場に崩れ落ちて気絶した。


シーン……。


会場は、再び静寂に包まれた。


十数人の騎士たちが、折り重なるように倒れている。


その中心に立つのは、ドレスの裾を少しも乱さず、涼しい顔をした私一人。


「……ふぅ。いい運動になりましたわ」


私はパンパンと手を払った。


そして、会場の隅で震えているレオナルド殿下の方を向いた。


「ひぃっ!!」


殿下が悲鳴を上げてミナ様の後ろに隠れる。


「ご安心ください、殿下。貴方には手を上げません。……汚れるので」


私は冷たく言い放ち、クラウスの方へ歩み寄った。


「終わったわ、クラウス。行きましょう」


「ああ。見事だった。惚れ直したよ」


クラウスは私の手を取り、まるでダンスの後のように優しく甲にキスをした。


「君こそが、この国最強の『剣』であり『盾』だ」


「私はただの農家です」


私たちは倒れ伏す騎士たちを踏み越え(文字通り)、出口へと向かった。


扉を開ける直前、私は一度だけ振り返った。


会場に残された貴族たち、そして陛下に向けて、最後の挨拶をするために。


「皆様。本日の余興(アクションショー)は、これにて終了です」


私は優雅にカーテシーをした。


「これからは、自分の力で国を守ってくださいませ。……もう、私の『代理戦争』は終わりですので」


そして、私たちは扉の向こうへと消えた。


背後から、割れんばかりの拍手と歓声が聞こえてきた気がしたが、もう振り返らなかった。


王宮の長い廊下を、二人で歩く。


かつては、書類を抱えて走り回っていたこの廊下。


今は、隣に頼もしい(ちょっと変な)パートナーがいる。


「ねえ、クラウス」


「なんだい」


「お腹空いたわね」


「そうだな。運動したからな」


「帰ったら、ジャガイモのガレットを作りましょうか」


「賛成だ。私が焼こう。……爆発させないように努力する」


私たちは顔を見合わせて笑った。


窓の外には、大きな満月が輝いていた。


これで本当に、全てが終わった。


……はずだった。


だが、まだ一つだけ、未解決の案件が残っていた。


そう、クラウスの「公衆の面前でのプロポーズ」である。


騒動のどさくさに紛れて有耶無耶になっていたが、この男がそれを忘れるはずがないのだ。
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