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第二章 エルヴ族での生活の章

第七話 シルフィンダー製作…なんだが?(色々と問題が?)

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 シルフィンダーを作り始めてから、かれこれ1か月は掛かっていた。

 「あ…アレ忘れてた!」
 「ん? 何をだ?」

 ガイウスにも簡単な作業を手伝ってもらっていた。
 そうして、シルフィンダーは9割方完成していた。
 ただ、動かす為のパーツが足りなかった。

 「魔石…この動力部分にあるダクトは解るよね?」
 「あぁ、この穴の開いた筒だろう?」
 「この空白の部分に魔石を組み込んで完成なんだけど、大型の魔石1個と中型の魔石4個、小型の魔石8個が動力の代わりになるんだ」
 「そんなに使うのか?」

 最初の段階では、足からの風魔法で前進する方法で進めていたのだけど、魔力を貯めてブーストが出来ないかと思って計算していたら、可能だという事が解った。
 そうする事により、運転に必要な魔法力が軽減出来る上に、下手したら魔法を発動しなくても走れる様になるのである。
 
 「大型の魔石って、どの程度の物が必要だ?」
 「これくらい(バスケットボール)の大きさの物なんだけど、どこで手に入る?」
 「魔石というのは基本的に、モンスターの核になっている部分でな… モンスターの種類によって異なる。 あ、解りやすく言うと、この間倒したグリーディ・ボアの魔石がこれ…土属性魔石だ。」
 
 ガイウスは、ソフトボール位の大きさの魔石を見してくれた。
 土属性魔石は、今のところ必要ない。
 欲しいのは無属性の大型魔石、風属性の中型魔石、火属性の小型魔石だ。

 「鳥系のモンスターが風魔石を持っている。 火魔石は炎系のモンスターだが、無属性は…」
 「無属性は?」
 「ダスティーボロウという、エレメンタル系のモンスターが持ってはいるんだが倒し方が特殊でな、闇属性のモンスターで強い光を苦手とする。 奴の周りに大量のたいまつで囲めば倒せない事もないのだが、ジッと止まっていてくれる訳ではないし危険が及ぶと襲ってくる。」
 「そんなに手強いの?…っていうか、闇属性のモンスターなら闇の魔石じゃ無いの?」
 「最初は俺もそう思っていたんだが、倒して手に入る魔石は闇の魔石ではなかった。 そして厄介なのは物理攻撃が一切効かない。 武器では倒せなくて魔法のみだ。 エルヴの民は精霊魔法は使えるが攻撃に使える様な魔法はないんだ。」
 「そういえば、ガイウスが魔法を使っている所を1度も見た事ないな。 光か…何とかなるかも。」
 「なら、倒しに行ってみるか?」
 「居場所は解るの?」
 「別に難しい事はない。 闇属性である為、光の当たらない場所にいる。 集落からだと、半日ほど行った場所に地下に続く洞穴ほらあながあるので、そこで良く見かける。」
 「案内よろしく!」
 「干し肉2か月分で手を打とう!」

 最近ガイウスは、ちゃっかりしてきた。
 対価に何かしらの食材を要求してくるのだ。
 まぁ、熟成を使える様になってから味を占めたみたいだった。

 「早速行くぞ!」

 僕達は、ガイウスの案内で洞穴を目指した。
 森の中でのガイウスの動きは速く、最初はついていけなかったが…
 今では、風魔法の応用で足に纏う事により素早く動けるのだ。
 洞穴に着くと、中に入ってみた。
 
 「これ、洞穴というより洞窟に近いんじゃ?」
 「洞窟に比べると、それほど長くはないので俺達は洞穴と呼んでいる。」

 入って2分ほどですぐに50㎝サイズが見つかった。
 僕は照明でダスティーボロウを6面に囲み倒した。
 
 「欲しいのはこれじゃないな。 これより大きな魔石は取れない?」
 「奥に行くと、もっと大きいダスティーボロウはいるが…?」
 「こいつら、全滅させたら何か不利益な事はあるか?」
 「いや、全くない。 むしろ全滅させてくれた方が良い位だ。」

 僕は片っ端からダスティーボロウを倒していった。
 魔石は20個くらい貯まったけど、欲しい大きさの物はなかった。
 すると、一番奥に3m位の大きなダスティーボロウがいた。
 この大きさなら…
 
 「右手から光、左手に光…複合統一魔法・ブライトシャイニング!!電球交換作業の野球場の照明

 眩しい位の光がダスティーボロウに降り注ぐと、一瞬で消滅した。
 すると、レベルが上がった。

 【球体魔法】Lv5 
 10m四方の物を球体可能。
 空の球体を作成可能。
 空の球体は、魔法力を貯める事も出来る上に、多種に渡る属性も収納可能。
 球体のまま、中の魔力を取り出す事も可能。
 つ・ま・り…魔石入手は無駄な努力でしたー!

 このギルドカード…フレンドリーを通り過ぎて、ムカついてきた。
 本当にこのギルドカードは、どういうシステムなんだ??

 まぁ、魔石はゲット出来たが。
 【球体魔法】で応用が出来るのなら、この魔石もいらんな。
 魔石は全てガイウスに渡した。
 早速、集落に戻るとシルフィンダーの制作に取り掛かった。
 空中で【球体魔法】を使うと、空の球体を作り出せた。
 Lv4で球体の大きさを変化させる事も出来ると書いてあったな。
 どんな大きさになっても、中は10mの空間。
 空の球体を大型を1個、中型を4個、小型を8個作った。
 すると、ギルドカードが光った。

 【ほ・そ・く】
 【球体魔法】で作った球体は、【性質変化&形質変化】で形を変える事が出来るよー。
 光魔法を込めた球体を変化させれば、ライトの役目にもなるんじゃないかな?

 ギルドカードってこの世界の物だよな?
 なんで車に詳しいんだ?
 本当に何なんだろう、このカードは…?

 空の球体にヘッドライト型にして、それぞれの球体に魔法を込めた。
 ヘッドライトには光属性。
 大型の球体には、魔法力のみ(無属性)
 中型の球体には、風属性。
 小型の球体には、火属性。

 動力の中心部分に大型の球体をセットして、その周囲に中型をセットする。
 更にその先に小型の魔石をセット。
 こうする事により、大型の球体から送られた魔力は風魔法に送り、風魔法の威力を高める。
 それをダクトを通じて噴射する事により、加速を生む。
 小型の火属性は車体の保温の為である。
 氷河地帯や雪山、上空の場合の凍結を防ぐためである。
 ハルモニア鋼は冷気に弱いという事なので…。
 
 これでシルフィンダーは完成した!
 作成段階の点と違う事がいくつかある。
 足から送るのは風魔法ではなく、純粋な魔法力で良いという事だ。
 魔法力の発動だけなら、イメージは必要ないからである。
 次に、ハンドルの所にスピードメーターを付けてみた。
 タイヤと連動させるのに少し難しかったが、設計図を何度も見直して完成させた。
 フライトモードの際は、車体の下からハルモニアのウィングが出る仕組みになっている。
 運転席は前席の中間、その後ろに後部座席3人掛けを2つ。
 屋根は運転席のレバーで開閉可能で、後部座席の後ろのトランクに収納可能の上、トランクにはリアウィングもついているオシャレ要素抜群…というか、取り付けたかったから取り付けた。
 そう…車と同じ様に作ったつもりだったが、1つだけ作れない物があった。
 エアコンがシルフィンダーには無かった。
 暑い時は屋根を開け、寒い時は閉めるという感じだ。
 窓もちゃんとあります。
  
 このシルフィンダーは2代目シルフィンダー。
 シルフィンダーが次の段階も作る予定ではあるけど、とりあえずこれで良いでしょう。
 完成したシルフィンダーを【球体魔法】で収納する。
 集落ではあまり広くないし、森では凹凸があって試運転には環境が良くないので、アーベント草原で試運転をする事にした。
 ところが…重大な欠陥を発見する事になる。

 ~~~~~翌日~~~~~

  シルフィンダーが完成したので、レイヴンに披露する前に試運転をする事にした。
 僕は胸から下げているペンダントの六角形の紋章をハンドルの中心にセットした。
 これが、シルフィンダーの起動キーである。
 そもそも何故これを付けなければら無かったと言うと、ガイウスの一言があったからだ。
 
 「このシルフィンダーは、誰でも運転ができる物なのか?」
 「そうだね、操作方法が解れば誰でも運転出来るようになるよ。」
 「なら、盗まれたりしたらどうするんだ?」
 「盗まれる…?」
 
 この世界の馬車は、中の荷物などの盗難を防ぐ為に鍵が付いているらしい。
 必ずしも防げる訳ではないのだが、家の扉の鍵を開けるような道具で開ける訳ではないので、貴族や商人には重宝されている。
 そっか、鍵か忘れてた。
 そして作ったのが六角形の紋章である。
 一応、スペアも用意した。
 
 ハンドルの中心にセットすると、シルフィンダーが低い音をたてて起動した。
 
 「じゃあ、行ってくる!」
 「おう、ここで見てるよ!」
 「ガイウスも乗る?」
 「断固拒否させて貰う‼︎」

 ガイウスは、シルフィンダーの製作に協力こそしてくれたが、頑なに乗る事だけは拒んだ。
 まぁ、初めて見るであろう物には警戒はするだろうな…?
 ある程度の距離が必要だったので、テルシア方面に向かってシルフィンダーを走らせる。
 動き出しは順調だ。
 ハンドル操作も問題ない。
 メーターを見ると、120kmも速度が出ていた。
 ハンドルを切ってUターンすると、僕は声を上げた。

 「行け! シルフィンダー!!」

 足から魔法力を放出すると、シルフィンダーのスピードは一気に跳ね上がった。
 120km……150km……200km……
 そして、もう1つの機能を試す…

 「飛べ! シルフィンダー!!」
 
 ギアをフライトモードにすると、車体の下からハルモニアのウィングがでて、空を飛んだ。
 よし、問題ない!
 フライトモードを徐々に解除していき、下降すると地面に着地してまた走り出した。
 フライトモードは、助走がある程度ないと飛びことが出来ないのが難点だ。
 良し、車体も何もかも問題ない!!
 僕はガイウスの元に戻って行った。

 「正直、馬を使わない乗り物は信用していなかったのだが、ここまで速いと大量に作り出す事が出来るようになったら歴史は変わるな!!」
 「ふふん、もっと褒めなさい!」
 「それで、このシルフィンダーには武器は付いているのか?」
 「武器?」
 「あの速度でハルモニアの硬さなら、小型モンスターなら倒せるかもしれないが、中型や大型のモンスターにはさすがに歯が立たないぞ。 それに、この地方には空にモンスターはいないが、他の地域なら空にモンスターはいるぞ!」
 「あ……そうだよな、元いた世界を基準に考えていた。 そうだよな、この世界はモンスターがいたんだった。」
 「単純な事をいうとだな、ハルモニアの硬さでも…そうだな、グリーディボアに正面から突っ込んでも倒せるかもしれないが、破損は免れないと思うぞ。 このシルフィンダーに使っているハルモニアは、盾のような分厚いものではなく薄く伸ばしている物だからな。」
 「つまり…攻撃する武器もなければ、防御面も危ういと言うことか… 完璧な欠陥品を作ってしまった。 さて、どうしよう?」

 そう…モンスターも必ずしも正面から襲って来るとは限らない。
 側面だったり、背後からだったり、真上からという事もある。
 
 「言っておくが、この世界の馬車にも迎撃用の武器くらいは付いているぞ。 馬車の移動も冒険者に護衛を依頼するが、馬車が襲われそうになった際の対策も取られているからな。」
 「ヤバい、武器の事は全く考えてなかった…」

 現段階から武器を装備するとなると…?
 剣? 槍? もしくは、魔法…?
 どのみち、武器を装備するにしても、また分解をして1から設計図を見直さなければならない
 僕らは集落に戻ると、僕は自室で設計図を見直した。
 
 「これだと、装甲車や戦車作った方が早かった気がする…。」

 僕はギルドカードを取り出して聞いてみた。

 「ギルドカードさん、何か良い知恵はありませんか?」

 ギルドカードは何も答えない。
 僕は何をやっているんだろうと考えると、恥ずかしくて赤面した。
 武器ねぇ…?
 武器を取り付ける様になると、完全変形シルフィンダーになるだろうなぁ。
 フライト用のウィングですらちょっとした変形になっている訳だし。
 『熱血戦士ジャスティマン』の愛車のシルフィンダーには、フライト機能なんか無かった。
 
 「ミサイルでも取り付けられればなぁ…」

 さすがにミサイルは無理だ。
 ミサイルなんか取り付けたら何かの映画のスパイの車になってしまう。
 よし、3代目シルフィンダーに期待しよう。
 僕は空の球体に様々な魔法を込めた。
 手投げ爆弾用にと運転席や後部座席のドアポケットに仕込んでみた。
 現段階ではこれが限界です。
 3代目はシルフィンダーは今より性能が良いのを作ってやる!
 僕は心にそう誓ったのだった!
 …というか、また1から作り出す気力がない!!!

 ~~~~~翌日~~~~~

 僕はレイヴンにシルフィンダーをお披露目した。
 ガイウスは頑なに拒んでいたが、レイヴンは後部座席に乗ると言い出した。
 なら、恐怖を味わって貰いましょう。
 アーベント高原で昨日と同じルートで速度を上げた。
 無論、馬車ではこんなスピードは出ない。
 速度に怖がっているかとレイヴンをみたが、陽気に笑っている。
 フライトモードにして、更に加速して上昇する。
 そしてエルヴ大森林の上を飛んでいると…?

 「あ、オレの屋敷が見えた!!」

 …と、はしゃいでいた。
 恐怖感は無いらしい。
 空を飛んだ経験でもあるのかな?
 翌日、僕はレイヴンに呼ばれて屋敷に赴いた。
 レイヴンは相変わらずの態度で僕に話しかけて来た。

 「シルフィンダーが完成したのなら、そろそろ旅立つのか?」
 「はい、そうなりますね。」

 ガイウスを見たが、ガイウスは視線を逸らした。
 僕はここに来て、かれこれ2ヶ月は過ぎていた。
 思い返すと、色々あった…。
 森に無断で入った罪として牢屋にぶち込まれたり、冗談を言って殺され掛けたり、ハルモニア鉱石を取りに行って、穴に落ちてゴーレムと戦ったり、神殿から抜け出すのに3日掛かったり、樹液を採るために演技をしただけなのに、1週間口を聞いて貰えなかったりと。
 あれ? 思い返すとロクな思い出がないな…?
 でも、集落にいて楽しかった事は事実だ。
 
 「別れの前に、明日にダンの送別会をやろうと思うのだが、ダン…料理を任せても良いか?」
 「なぜ、主役が料理を作らないと…? まぁ、良いや最後だし。 満漢全席を作ってやる!」

 そう言って、僕はエルヴ族の民に命令した。

 「肉、魚、野菜をありったけ集めてこい! 今までの僕の作った料理では比べ物にならない物を振る舞ってやる!」

 レイヴンは命令すると、エルヴ族の民はすっ飛んでいった。
 これが最後…と言う訳ではないが、少し寂しい気持ちになった。
 僕は厨房に行き、調理の準備を始めた。
 
 だが、話はこれで終わりでは無かった。
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