32 / 80
第三章 サーディリアン聖王国の章
第十一話 冒険者ギルドの緊急依頼(結構ヤバい事が起きたみたいです。)
しおりを挟む
~~~~~朝の6時より少し前~~~~~
『この街に住む冒険者は、大至急冒険者ギルドに集まって下さい! 繰り返します、この街に住む冒険者は、大至急冒険者ギルドに集まって下さい!』
朝っぱらから、街中に響き渡る程の放送が鳴り響いた。
僕とガイウスは起きていたが、クリスとレイリアは放送で起こされた為に機嫌が悪かった。
「ガイウス、なんだと思う?」
「こんな朝っぱらから緊急の呼び出しという事は、街に脅威が迫っていると考えるべきだろうな…」
「脅威というと、例えば?」
「災害級のモンスターが付近で発見されたとか、もしくはスタンピードとか…?」
スタンピードかぁ…
ギルドに所属しているのだから、呼び出されたら行かなきゃならんよな?
僕等4人は、準備をしてから冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルド内では、受付嬢がギルド内を走り回ったり、冒険者に説明したりしていた。
説明を受けた冒険者は、装備を確認してからギルドを出て行った。
それだけ切羽詰まった様子なのだろう。
キャサリアさんが僕に気が付いて、こっちに来た。
「ダン様、大変なのです! モンスターの襲来です。」
「何のモンスターですか?」
「小型の地竜が30体と中型の地竜が1体です。」
「ドラゴンか…よし、出発を早めて逃げるか!」
「逃げるか!…じゃねえよ!! 俺達で街の侵入を防ぐんだよ!!」
「冗談だ、冗談。」
「まぁ、ダンが嘘を言っていない事は解っていたが、良くこんな時に冗談が言えるな!」
僕の冗談発言に、キャサリアさんと仲間は睨んできた。
僕は謝ると話が再開された。
「現在、城の騎士団とB級とそれ以下のランカー冒険者が城壁で退けようと奮闘しています。 ですので、B級と以下のガイウス様とクリス様、レイリア様は小型地竜の討伐に当たって下さい。」
「ちょっと待って、僕は?」
「現在、中型の地竜をA級以上の冒険者が対処しております。 ダン様には中型の地竜の殲滅をして頂きます。」
「え、僕に? それにA級以上って何人いるの?」
「現在4人いらっしゃいます。 ダン様はその方々と合流して下さい。」
「わかりました…《戦う力のない僕が前線に行って役に立てるのかな?》」
「皆、Sランク冒険者のダン様に期待をしております! 頑張って下さい!」
「安心しろ、ダン! すぐに片づけて合流してやるから!」
「そうにゃ!」
「私達が行くまで頑張って下さいね!」
「あはは…《もしかして国王陛下からのSランク昇格って、これを予想した物じゃないだろうか?》」
「「「「また後でな!」」」」
3人はそれぞれの持ち場に着いた。
そして僕は…中型の地竜の元に向かったのだが?
その大きさをみて、これで中型なのか!?
……と言わんばかりの大きさだった。
腕と足が短く、首が長くて鱗に覆われていて、体は大きな甲羅に覆われている…これが地竜なのか? 亀では?
そう思う様な姿だった。
背後を見ると小型の地竜がいるのだが、甲羅はなかった。
地竜にも色々いるんだなぁ…と感じた。
……と感心している場合ではない!
僕はA級ランカーに合流したが、地竜にやられて3人倒れていた。
そして、1人が正面から攻撃を防いでいた。
「すまない、遅くなった!」
「おぉ、待っていたぞ!」
そう挨拶したのも束の間…地竜がファイアブレスを吐いてきた。
僕は咄嗟に複合統一魔法・ハイドラシュレッダーで相殺した。
攻撃には使えないが、防御魔法としては十分だった。
僕はポーションを4つ渡すと、先程戦っていた冒険者が受け取り自分と倒れている者に使った。
これで5人で戦える!
そう思って後ろを振り向くと、4人は走り去って行った。
「済まない、我らは撤退する! 歯が立たんから足手まといになりかねないしな!」
「ちょっと~~~僕1人でこれをどうするんだよ! 僕は武器しか攻撃手段ないんだぞ!!」
もう、僕の言葉は聞こえてない。
僕は覚悟を決めて、デカ包丁を取り出して構えた。
…とはいっても、この体格差でまともに戦える訳がない!
とりあえず、足を狙って斬り掛かったが、鱗に弾かれて傷すらつかなかった。
次にどこを攻撃しようかと思ったが、あの鱗には歯が立ちそうもない。
背後を見るが、向こうもまだ苦戦している状態だ。
さて、気を取り直して…。
僕は地竜の周りを回りながら、樹魔法で芽をだし8か所設置すると、【植物成長】で木を成長させて地竜に巻き付けたが、足止めにもならなくて簡単に引き千切られた。
地竜がファイアブレスを吐くと、僕は泡魔法で応戦した。
相殺は出来なかったが、攻撃を逸らす事は出来た。
次に水魔法で地竜の足元に水を展開させてから、凍らせて足を封じようとしたが簡単に砕かれてしまった。
地竜が回転すると、背後から尾の一撃で僕は吹っ飛ばされた。
体がバラバラになりそうな衝撃だったが、HPは1しか減ってない。
「まいったな…貫通魔法で地面に穴を開けようとも、あの巨体じゃ入らないし…」
地魔法で棘をイメージして地面から生やしてみた物の地団駄を踏まれて、粉々に砕け散った。
それどころか、地面が揺れて立っているどころではない!
地竜はそのタイミングで、僕にタックルをしてきた。
僕は咄嗟でデカ包丁でガードした。
……が、その衝撃でデカ包丁は砕け散った。
だけど、嘆いている暇はない!
対策を考えるしかなく、僕は地竜から少し距離を置いた。
追っかけて来るかと思ったが、地竜はそこを動かなかった。
武器はない、攻撃する魔法も使えない、あと僕に残されたものは…?
~~~~~漆黒の空間~~~~~
ほぉほぉ…?
これは絶体絶命だね。
いくつものスキルを渡してきたけど、これで終わりか…
うん、攻撃に使える魔法があれば打開策もあったんだろうけど、封印は解いたりしないよ。
まぁ、死ぬことになっても僕は一切封印は解かないからね。
そういえばさぁ、彼が死んだら君も消滅するのかい?
「・・・・・・・・・」
端にいる丸くなった子供は返事が出来なかった。
そっか、僕の封印の所為で返事が出来なかったんだよねw
ほらほら君も見てみなよ、彼は危ない状態だよw
「・・・・か・・・・な・・・」
そうだ、面白い仕掛けを施しておくかw
~~~~~~再び、地竜の前~~~~~
僕は地竜の動きを封じる為に、手足に【封印】を施した。
動けなくなった所に、樹と【植物成長】で木を体に巻き付けた…が、封印を破られ木も引き千切られた。
動きを封じた所で、攻撃手段がない!
僕はデカ包丁の刀身の破片をいくつか拾い上げて、泡魔法で地竜の視界を防ぎ、破片を3つなげた。
2つは奴の目の近くに当たり、1つは目に刺さった。
『グアアアアァッァァァァァ!!』
痛みで泣いているのかな?
怒りで泣いている方ではない事を祈りたいが…?
僕は走り回って上手く下に潜り込むと、下の甲羅に【舌鑑定】を使った。
う…このステータス…ヤバい。
【グライドタートル(地竜)】Lv86
HP 564,831/580,000
スキル・ファイアブレス、ギガントラッシュ、チャージ
【進化前】
し…進化前?
というか、あれだけ攻撃してHPあれだけしか減ってないのか??
なんか、緑色だった体が黒くなり始めたな…もしかして、これが進化か?
こんなもん、どうやって倒せばえーちゅうねん!
誰か来てくれないかと後ろを見たが、思いのほか苦戦していて助けに来る気配がない。
地竜がファイアブレスの態勢になった。
これが進化完了か!? 完全に真っ黒い黒光りした亀になっていた。
更に全体的にひと回り…いや、二回り程大きくなっていた。
「ウォーターウォールからのハイドラシュレッダー」
水の壁を作り、さらに強化した水の壁だったが…地竜のファイアブレスで一瞬に消滅した。
それどころか、こっちにも攻撃が届き腕が焦げている。
「攻撃手段がない上に魔法も攻撃魔法は使えない、防御魔法も一瞬で消滅…」
後ろの小型地竜を倒した後でガイウス達がくれば何とか…背後を確認した時、油断をして地竜が迫っていた。
気付いた時には遅く、僕は吹っ飛ばされて左腕の骨折とあばら数本やられた。
少しでも動くどころか、呼吸をするのですら痛くて辛い。
おかしい…どんなにダメージを受けてもHPは1ずつしか減らないからここまでの怪我はしない筈なのに、凄まじく体が怠い。
…とは言っても、この状況でカードを確認する暇は無いしな。
すると地竜は地団駄…グランドラッシュをしてきた。
「やめろーーー!! その振動は骨折した体に響いて痛いんだよ!!」
地竜は僕の苦しむ姿を見て、ゲハッゲハッと笑っている。
進化の所為なのか、デカ包丁の破片で怪我したはずの目を復活している。
再びファイアブレスの態勢になった。
今度は水魔法で体に膜を作り、その周囲を泡魔法を発動した。
だが地竜のファイアブレスでまたも消滅して、体には大火傷を負った。
再びファイアブレスの態勢…!
「嘘だろ! あれ連発できるのか!?」
僕は水魔法を…
~~~~~~漆黒の空間~~~~~~
往生際が悪いなぁ…。
でもまぁ、どうやら彼はここまでの様だね。
色々検討してて面白かったけど、これで終わりか。
楽しいおもちゃだったんだけどなぁ。
でもどうせ最後なら、全部のスキルを封印してしまおう!
さて、何分持つかなw?
~~~~~~再び・地竜の前~~~~~~
…発動出来なかった。
MPはまだ尽きてないはず!?
泡魔法も発動はしない!
貫通魔法で地面に穴を開けて、足を穴に落として態勢を崩そうにも貫通魔法も発動しなかった。
ファイアブレスを吐き出すと僕はかわした。
だが、今回のファイアブレスはブレスというより、ファイアボールに近くて連発で打ってきた。
僕はかろうじてかわすが、奴はワザと外しているようにも思えた。
「こんにゃろ…遊んでるな。」
それにしても、何故スキルが突然使えなくなったんだ?
地竜はギガントラッシュをしてから、チャージ…突進をしてきた。
うまいコンボの使い方だ…。
先程のチャージより速度が遅かった。
普段なら楽にかわせる速度なのでだが、いまの体の状態ではかわせるかが怪しい…。
かろうじてかわしたつもりだったが、地竜の体に掠って吹っ飛ばされた。
もう体の痛みが酷過ぎて、まともに動けそうもない。
すると地竜が尾っぽを鞭のように使い、僕の周りを叩き出した。
僕は転がりながらかわしていたが、最後の一撃が左足を砕かれた。
「完全にいたぶって遊んでいるな、趣味が悪い…」
僕は吐き捨てる様に言うと、地竜は不敵に笑いながらファイアブレスの態勢に入った。
これでトドメを差すつもりか…
『ダーーーン!!』
声がした方を見ると、ガイウスとクリスとレイリアが走って来ているのが見えた。
小型の地竜を討伐できたのか…
「ガイウス…クリス…レイリア、ごめん僕はここまでの…」
地竜は僕の言葉を最後まで言わせてはくれなかった。
僕は地竜のファイアブレスをまともに浴びて…
~~~~~漆黒の空間~~~~~
ダンがブレスを喰らう少し前…。
はい、ブレス喰らってこれで終わり~~~w
あーあ、次のおもちゃを探しに行かないとだけど。
どうせなら、君の行く末も見たい所だけど、どうなるんだろうね?
ん?
「うぁぁああぁぁぁああああああぁぁぁ」
おやおや、無駄な事をw
僕の封印はね、自力では解けないよーw
まぁ、でも声を出せるのは凄いと思うけど、それまでさ!
「うあああぁぁぁぁああうああああぁぁ!」
だから、無駄だって言っているじゃないか!
諦めなよ、ねぇ?
まさか…子供の体にヒビが入って、所々から光が溢れ出しているだと⁉︎
馬鹿な! 僕の封印は完璧のはずなのに!?
「うあぁぁぁああぁあぁぁぁあああぁあぁあぁぁあぁあぁああ!!!」
丸くなった子供の封印が音を立てて砕け散った。
そして…
「この場から去れ、邪悪な者よ!!」
子供の手から光が溢れて観察者を包むと、観察者はこの場から姿を消した。
「いけない! このままじゃ!! 【時間停止】」
子供が発動したスキルで世界の時間を止めた。
~~~~~地竜の前~~~~~
僕は…死んだのかな?
地竜のファイアブレスが体を…って、あれ? 時間が止まってる⁉︎
「やぁ、ダン! 君はまだ死んで無いよ。」
「君は…?」
「僕は、洲河 慱…君自身だよ。」
「僕自身?」
「君は、7年前の獣に襲われた際に生まれた人格なんだよ。」
「そうか、だから幼少の記憶がなかったんだね。」
目の前には少し小さい僕がいる。
何か妙な感じがした。
「今は世界を止めている…とはいっても長くは止めれないけどね。」
「君は凄いんだね! 僕には出来そうもないよ…。」
「ううん、この力は本来…君が手にする力だった。」
「僕がこんな力を?」
「それよりもダン、君に謝らせてほしい…」
「君が僕に?」
「7年前のあの獣に襲われた事件の時、僕はね…苦痛から避ける為に君という人格を生み出して、全てを背負わせたんだ。」
「なんだ、そんな事か…別にもう良いよ、君も苦しんだんだろう?」
「あっけらかんとしているね、僕が君の立場だったら許せるかどうか…」
「過ぎた事を気にしていても仕方がないよ、未来を見よう!」
「君の性格が羨ましいね。 僕にはなかったよ。」
僕は軽く息を吐いてから質問した。
「ところでさ、僕は何故スキルが突然使えなくなったりしたのかな?」
「あぁ、そうだね、その話をしよう。 少し長くなるけど…」
「大丈夫、理解は速いから安心してくれ!」
「君がこの世界にきて、ギルドカードを額に当てた時に黒いモヤがカードに吸い込まれて行ったのは覚えているかい?」
「あの時、目を開けていたから見えてたよ。」
「あの黒いモヤが僕という人格を封じ込めて、君のジョブとスキルに細工をしたんだ。」
「だからハズレジョブとスキルだったのか!!」
「黒いモヤの正体は、自らを観察者と名乗っていたけど、本当の姿はこの世界の邪神ルキシフェルという。」
「ルシフェル…ではなく?」
「名前が似ているけど、全く違う。 悪戯を好む邪神でね、神々の世界を追放された際に僕らを見付けて体に入ったと言ってたよ。 異世界人は良いおもちゃになるともね。 腹立たしいけど…」
「じゃあ、突然スキルが使えなくなったのも観察者という奴の所為か…」
そいつの所為で僕は危うく死に掛けたのか。
見付けたらボコボコに…って、邪神相手だとさすがに無理か。
「今は僕が覚醒して、この空間から追い出したが、いつまた戻ってくるかが解らない。」
「滅ぼす事は出来ないの?」
「無理だね、ここは本来僕の空間なんだけど、観察者が自分の思い通りに作り替えているからそれを完全に修正しなければ奴を倒す事は出来ない。」
「僕はこれからどうしたら良いのかな? 君が復活したのなら、人格は返した方が良いのかな?」
「………本当に君は変わっているね、本来なら人格は渡さないぞ!…とか言うはずなんだけど?」
「だって、時間が止まっていると言っても、ファイアブレスを喰らっている時に止まっているんだよ。 時間が動き出したら一瞬で消滅するよ。」
僕は地竜を見ると、ブレスが目の前に迫っていた。
今は止まっているからこうして話が出来ているんだろうけど。
「それは大丈夫、君が本来使える力を1分11秒だけ使える様にしておくから。」
「何その中途半端な時間は?」
「仕方ないんだよ、観察者の所為で僕は覚醒したばかりとは言っても、完全に復活を果たした訳じゃないんだからね。」
「ところでさ、僕が本来使える力ってなんなの?」
「全属性魔法とか使えるし、戦闘系スキルも使えるはずだったんだけどね…観察者の所為でほとんど封じられているんだよ。 本来ならこの世界に来た時に、僕達は1つになるはずだったんだけど…」
「なら、1分11秒だけ無敵で無双という訳か…それ以降は?」
「今まで君が使っていた封じられたスキルを開放する。 生活魔法の攻撃も使えるようなるよ。」
「それ以外の…全属性魔法とかは?」
「観察者が施した封印をこちらから側から解除して行くしかないんだ、時間はかかるけど全て解除出来る様に頑張るさ!」
「じゃあ、その時が来たら本当に1つになるんだね!」
「うん、その時まで僕の体を…あ、そろそろ時間みたいだから、最後に1つだけ…」
「なに?」
「近々、【魔王】が復活する。 今まで以上に厄介な旅になるから気を付けて。」
「わかった、ありがとう! また話が出来る時を楽しみにしてるよ!」
~~~~~【時間解除】~~~~~
僕の体から光が溢れ出して、地竜からのファイアブレスを…弾き返した!
僕は自分の体に回復魔法を施して全回復した。
「これが僕の本来の力なのか…と、時間が無いんだった!」
「ダン、大丈夫か??」
「…っていうか、ガイウス達の方が大丈夫か?」
「地竜を倒してからすぐに来たんだ、お前が危なそうだったから…」
「ありがと。 でも、こいつは僕が倒すから下がってて…それと、エリアヒール!」
「!?」
巨大な光のドームが、その場にいた者達を包み込んだ。
ガイウス達だけではなく、背後にいる冒険者や騎士団の怪我まで治した。
「あと何秒だ?」
《あと、38秒だよ。 会話はこれが最後になる。 それと地竜の弱点は火だから…頑張れ!》
ファイアブレスを吐く癖に弱点は火かよ‼
地竜はファイアブレスを放った!
僕は風魔法で炎を消し飛ばした。
「もう時間がないから、一気に決めさせてもらうよ!」
僕は宙に浮くと、荒れ狂う魔力を放出させた。
そして…多数の属性同時出現を行った。
「炎…雷…光…風…四種複合…」
4つの属性が交わった魔法は、巨大な光が高熱を発する弓矢の形になった。
空気が震え、熱気を帯びた風が周囲を熱している。
地竜は危険を感じたのか、甲羅に籠って身を固めていた。
そして周りにいる者達も、熱波に対して皆地面に伏しているようだった。
「散々弄んでくれたお礼だよ! 極大複合統一魔法…オルガニックバースト!!!」
放たれたの光の矢が地竜に直撃すると、地竜は甲羅ごと蒸発した。
いや、それだけでは終わらずに山に直撃して山の上半分を消し飛ばした。
「あ…やば! あそこに人住んでないよな?」
《いないよ、安心して…も…う…》
慱と会話が途切れると、僕の力も無くなった。
体中に広がる疲労感と脱力感を感じた。
僕はかろうじて動く体でカードを見ると、HPとMPは1桁しかなかった。
それを見終わった事を最後に、僕はそのまま気を失った。
~~~~~半日後~~~~~
僕は目を覚めると、そこはギルドの救護室だった。
ベッドの周りには、ガイウスやレイリア、クリスとキャサリアさんが居てくれた。
僕が目を覚ましたことをキャサリアさんは報告をしに扉から出て行った。
「ダン、何があったかは聞かん! だが、炎に包まれた時に俺は…俺は…‼」
そういってガイウスは僕を強く抱きしめてきた。
この場合、ガイウスではなくレイリアじゃないかと思うんだが…?
でもまぁ、悪くはない気分だった。
その後、僕はガイウスとクリスに肩を借りて、ギルドホールに顔を出した。
別に体はもうほとんど何ともないのだが、2人は1人で歩く事を許してはくれなかった。
「ダン殿、無事で良かった…が、山を破壊するのはやりすぎだ!!」
ギルドマスターのヴォルガンから怒られた。
その後にギルドホールでは宴会になっていた。
討伐に参加した全ての冒険者に報酬が支払われた。
でも僕は…ヴォルガンにどうしても伝えなければならない事があった。
「ヴォルガン様、そこで呑気に酒を飲んでいる4人のA級は僕を置いて逃げました。」
「ほぉ…?」
「「「「ぶふっ!」」」」
呑気に宴会に参加していたA級の4人は、口に含んでいた酒を吐き出した。
ヴォルガンに睨まれたA級4人は、小さくなっていた。
そしてヴォルガンは………
『今回の功労者は、ここにいるギルドの皆だが、最大の功労者は英雄ダン殿だ!!』
『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
やめて、恥ずかしいから。
あの力はもう使えないから、これ以上担ぎ上げないで。
英雄なんて呼ばないで。
『ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!!』
やめて、名前連呼しないで…。
僕は恥ずかしくなり、こっそりとギルドから出ようとした…が、ヴォルガンとガイウスに肩を掴まれて引き戻された。
……その後の事は記憶にない。
僕は目を覚ますと宿屋で寝ていた。
翌日、僕は昨日起きた事を仲間には話した。
この能力は一時的な物だとか、体の中にもう1人の慱がいる事を…。
「俄かには信じられない話だが、昨日のアレを見てしまうとなぁ…」
「ならダンが完全復活するのはいつになるにゃ?」
「解らない、僕自身…中にいる慱には連絡の取りようがないからね。」
「でも、本来のダンの力はあそこまで凄いのですね。」
「そしてもう1つ肝心な事を話しておく、慱から聞いた話だと…もうすぐ【魔王】が復活する!」
「「「!?」」」
「皆にはこの話をギルドマスターや国王に報告した方が良いか聞きたいのだが…」
「それは、話しても信じては貰えないと思うから話さない方が良い。 体の中にもう1人の慱がいること自体信用してもらえるかも分からないのに、【魔王】の話なんかしたらパニックになりかねないぞ!」
「【魔王】…今まで以上に危険な旅になりそうですね。」
「あちきが皆の盾になるにゃ! 任せて欲しいにゃ!!」
カイナンの街から旅立つまで残り4日…僕等は旅の準備を入念にする事にした。
~~~~~太古の森~~~~~
フェンリル・オルシェスは大量のモンスターに囲まれていた。
森の手前とは違い、奥の方には敵わない敵が多く、負傷をして動けずにいた。
フェンリル・オルフェスは死を覚悟した。
…と思っていたら、危険が来た時に帰還できるアイテムの存在を思い出した。
封筒を破り…中の紙を広げて、残り少ない魔力を込めた。
『帰還・ヨダソウの元に!!』
………が当然、発動なんかしなかった。
魔力を込めた紙を見ると、そこには文章が書かれていた。
「この文章を呼んでいるという事は、凄く危険な場面という事だよね~? 全く、ワンちゃんはコロっと騙される。 これが本当のワンコロ…ワンコローーー!!! ぷぷぷのぷ~~~w 大体、ヨダソウの名前を信じるなよ! ヨダソウを逆から読んでみ? ウ・ソ・ダ・ヨ…うっそだよ~んw 本当にワンコロは知能が低いね。 まぁもう会う事もなく殺されるかもしれないけど、成仏してね~w」
『ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!! あの人間が舐めやがってーーーー!!!』
フェンリル・オルシェスは気力を振り絞り立ち上がると…!
『グワァァァウォーーーーーン!!!』
今までにない叫び声を上げた。
すると傷は塞がり、体毛は黒く変化し、目は赤く光った。
フェンリル・オルフェスは、激しい怒りと憎しみにより…デスウルフへと進化した!
そして、囲んでいたモンスターに襲い掛かり蹴散らせて行った。
フェンリルでは歯が立たなかったモンスターも、デスウルフへと進化を果たしたオルフェスにとっては、戦力がひっくり返った。
それ程までにデスウルフというモンスターは、全ての能力が桁違いだった。
『待ってろよ、人間! 今度こそ貴様に絶望を与えてやろう…』
ダンは、【魔王】やその配下以外に厄介な敵を生み出していた。
そして3度目のフェンリル・オルフェスとの決戦は、まだかなり先の話になる。
『この街に住む冒険者は、大至急冒険者ギルドに集まって下さい! 繰り返します、この街に住む冒険者は、大至急冒険者ギルドに集まって下さい!』
朝っぱらから、街中に響き渡る程の放送が鳴り響いた。
僕とガイウスは起きていたが、クリスとレイリアは放送で起こされた為に機嫌が悪かった。
「ガイウス、なんだと思う?」
「こんな朝っぱらから緊急の呼び出しという事は、街に脅威が迫っていると考えるべきだろうな…」
「脅威というと、例えば?」
「災害級のモンスターが付近で発見されたとか、もしくはスタンピードとか…?」
スタンピードかぁ…
ギルドに所属しているのだから、呼び出されたら行かなきゃならんよな?
僕等4人は、準備をしてから冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルド内では、受付嬢がギルド内を走り回ったり、冒険者に説明したりしていた。
説明を受けた冒険者は、装備を確認してからギルドを出て行った。
それだけ切羽詰まった様子なのだろう。
キャサリアさんが僕に気が付いて、こっちに来た。
「ダン様、大変なのです! モンスターの襲来です。」
「何のモンスターですか?」
「小型の地竜が30体と中型の地竜が1体です。」
「ドラゴンか…よし、出発を早めて逃げるか!」
「逃げるか!…じゃねえよ!! 俺達で街の侵入を防ぐんだよ!!」
「冗談だ、冗談。」
「まぁ、ダンが嘘を言っていない事は解っていたが、良くこんな時に冗談が言えるな!」
僕の冗談発言に、キャサリアさんと仲間は睨んできた。
僕は謝ると話が再開された。
「現在、城の騎士団とB級とそれ以下のランカー冒険者が城壁で退けようと奮闘しています。 ですので、B級と以下のガイウス様とクリス様、レイリア様は小型地竜の討伐に当たって下さい。」
「ちょっと待って、僕は?」
「現在、中型の地竜をA級以上の冒険者が対処しております。 ダン様には中型の地竜の殲滅をして頂きます。」
「え、僕に? それにA級以上って何人いるの?」
「現在4人いらっしゃいます。 ダン様はその方々と合流して下さい。」
「わかりました…《戦う力のない僕が前線に行って役に立てるのかな?》」
「皆、Sランク冒険者のダン様に期待をしております! 頑張って下さい!」
「安心しろ、ダン! すぐに片づけて合流してやるから!」
「そうにゃ!」
「私達が行くまで頑張って下さいね!」
「あはは…《もしかして国王陛下からのSランク昇格って、これを予想した物じゃないだろうか?》」
「「「「また後でな!」」」」
3人はそれぞれの持ち場に着いた。
そして僕は…中型の地竜の元に向かったのだが?
その大きさをみて、これで中型なのか!?
……と言わんばかりの大きさだった。
腕と足が短く、首が長くて鱗に覆われていて、体は大きな甲羅に覆われている…これが地竜なのか? 亀では?
そう思う様な姿だった。
背後を見ると小型の地竜がいるのだが、甲羅はなかった。
地竜にも色々いるんだなぁ…と感じた。
……と感心している場合ではない!
僕はA級ランカーに合流したが、地竜にやられて3人倒れていた。
そして、1人が正面から攻撃を防いでいた。
「すまない、遅くなった!」
「おぉ、待っていたぞ!」
そう挨拶したのも束の間…地竜がファイアブレスを吐いてきた。
僕は咄嗟に複合統一魔法・ハイドラシュレッダーで相殺した。
攻撃には使えないが、防御魔法としては十分だった。
僕はポーションを4つ渡すと、先程戦っていた冒険者が受け取り自分と倒れている者に使った。
これで5人で戦える!
そう思って後ろを振り向くと、4人は走り去って行った。
「済まない、我らは撤退する! 歯が立たんから足手まといになりかねないしな!」
「ちょっと~~~僕1人でこれをどうするんだよ! 僕は武器しか攻撃手段ないんだぞ!!」
もう、僕の言葉は聞こえてない。
僕は覚悟を決めて、デカ包丁を取り出して構えた。
…とはいっても、この体格差でまともに戦える訳がない!
とりあえず、足を狙って斬り掛かったが、鱗に弾かれて傷すらつかなかった。
次にどこを攻撃しようかと思ったが、あの鱗には歯が立ちそうもない。
背後を見るが、向こうもまだ苦戦している状態だ。
さて、気を取り直して…。
僕は地竜の周りを回りながら、樹魔法で芽をだし8か所設置すると、【植物成長】で木を成長させて地竜に巻き付けたが、足止めにもならなくて簡単に引き千切られた。
地竜がファイアブレスを吐くと、僕は泡魔法で応戦した。
相殺は出来なかったが、攻撃を逸らす事は出来た。
次に水魔法で地竜の足元に水を展開させてから、凍らせて足を封じようとしたが簡単に砕かれてしまった。
地竜が回転すると、背後から尾の一撃で僕は吹っ飛ばされた。
体がバラバラになりそうな衝撃だったが、HPは1しか減ってない。
「まいったな…貫通魔法で地面に穴を開けようとも、あの巨体じゃ入らないし…」
地魔法で棘をイメージして地面から生やしてみた物の地団駄を踏まれて、粉々に砕け散った。
それどころか、地面が揺れて立っているどころではない!
地竜はそのタイミングで、僕にタックルをしてきた。
僕は咄嗟でデカ包丁でガードした。
……が、その衝撃でデカ包丁は砕け散った。
だけど、嘆いている暇はない!
対策を考えるしかなく、僕は地竜から少し距離を置いた。
追っかけて来るかと思ったが、地竜はそこを動かなかった。
武器はない、攻撃する魔法も使えない、あと僕に残されたものは…?
~~~~~漆黒の空間~~~~~
ほぉほぉ…?
これは絶体絶命だね。
いくつものスキルを渡してきたけど、これで終わりか…
うん、攻撃に使える魔法があれば打開策もあったんだろうけど、封印は解いたりしないよ。
まぁ、死ぬことになっても僕は一切封印は解かないからね。
そういえばさぁ、彼が死んだら君も消滅するのかい?
「・・・・・・・・・」
端にいる丸くなった子供は返事が出来なかった。
そっか、僕の封印の所為で返事が出来なかったんだよねw
ほらほら君も見てみなよ、彼は危ない状態だよw
「・・・・か・・・・な・・・」
そうだ、面白い仕掛けを施しておくかw
~~~~~~再び、地竜の前~~~~~
僕は地竜の動きを封じる為に、手足に【封印】を施した。
動けなくなった所に、樹と【植物成長】で木を体に巻き付けた…が、封印を破られ木も引き千切られた。
動きを封じた所で、攻撃手段がない!
僕はデカ包丁の刀身の破片をいくつか拾い上げて、泡魔法で地竜の視界を防ぎ、破片を3つなげた。
2つは奴の目の近くに当たり、1つは目に刺さった。
『グアアアアァッァァァァァ!!』
痛みで泣いているのかな?
怒りで泣いている方ではない事を祈りたいが…?
僕は走り回って上手く下に潜り込むと、下の甲羅に【舌鑑定】を使った。
う…このステータス…ヤバい。
【グライドタートル(地竜)】Lv86
HP 564,831/580,000
スキル・ファイアブレス、ギガントラッシュ、チャージ
【進化前】
し…進化前?
というか、あれだけ攻撃してHPあれだけしか減ってないのか??
なんか、緑色だった体が黒くなり始めたな…もしかして、これが進化か?
こんなもん、どうやって倒せばえーちゅうねん!
誰か来てくれないかと後ろを見たが、思いのほか苦戦していて助けに来る気配がない。
地竜がファイアブレスの態勢になった。
これが進化完了か!? 完全に真っ黒い黒光りした亀になっていた。
更に全体的にひと回り…いや、二回り程大きくなっていた。
「ウォーターウォールからのハイドラシュレッダー」
水の壁を作り、さらに強化した水の壁だったが…地竜のファイアブレスで一瞬に消滅した。
それどころか、こっちにも攻撃が届き腕が焦げている。
「攻撃手段がない上に魔法も攻撃魔法は使えない、防御魔法も一瞬で消滅…」
後ろの小型地竜を倒した後でガイウス達がくれば何とか…背後を確認した時、油断をして地竜が迫っていた。
気付いた時には遅く、僕は吹っ飛ばされて左腕の骨折とあばら数本やられた。
少しでも動くどころか、呼吸をするのですら痛くて辛い。
おかしい…どんなにダメージを受けてもHPは1ずつしか減らないからここまでの怪我はしない筈なのに、凄まじく体が怠い。
…とは言っても、この状況でカードを確認する暇は無いしな。
すると地竜は地団駄…グランドラッシュをしてきた。
「やめろーーー!! その振動は骨折した体に響いて痛いんだよ!!」
地竜は僕の苦しむ姿を見て、ゲハッゲハッと笑っている。
進化の所為なのか、デカ包丁の破片で怪我したはずの目を復活している。
再びファイアブレスの態勢になった。
今度は水魔法で体に膜を作り、その周囲を泡魔法を発動した。
だが地竜のファイアブレスでまたも消滅して、体には大火傷を負った。
再びファイアブレスの態勢…!
「嘘だろ! あれ連発できるのか!?」
僕は水魔法を…
~~~~~~漆黒の空間~~~~~~
往生際が悪いなぁ…。
でもまぁ、どうやら彼はここまでの様だね。
色々検討してて面白かったけど、これで終わりか。
楽しいおもちゃだったんだけどなぁ。
でもどうせ最後なら、全部のスキルを封印してしまおう!
さて、何分持つかなw?
~~~~~~再び・地竜の前~~~~~~
…発動出来なかった。
MPはまだ尽きてないはず!?
泡魔法も発動はしない!
貫通魔法で地面に穴を開けて、足を穴に落として態勢を崩そうにも貫通魔法も発動しなかった。
ファイアブレスを吐き出すと僕はかわした。
だが、今回のファイアブレスはブレスというより、ファイアボールに近くて連発で打ってきた。
僕はかろうじてかわすが、奴はワザと外しているようにも思えた。
「こんにゃろ…遊んでるな。」
それにしても、何故スキルが突然使えなくなったんだ?
地竜はギガントラッシュをしてから、チャージ…突進をしてきた。
うまいコンボの使い方だ…。
先程のチャージより速度が遅かった。
普段なら楽にかわせる速度なのでだが、いまの体の状態ではかわせるかが怪しい…。
かろうじてかわしたつもりだったが、地竜の体に掠って吹っ飛ばされた。
もう体の痛みが酷過ぎて、まともに動けそうもない。
すると地竜が尾っぽを鞭のように使い、僕の周りを叩き出した。
僕は転がりながらかわしていたが、最後の一撃が左足を砕かれた。
「完全にいたぶって遊んでいるな、趣味が悪い…」
僕は吐き捨てる様に言うと、地竜は不敵に笑いながらファイアブレスの態勢に入った。
これでトドメを差すつもりか…
『ダーーーン!!』
声がした方を見ると、ガイウスとクリスとレイリアが走って来ているのが見えた。
小型の地竜を討伐できたのか…
「ガイウス…クリス…レイリア、ごめん僕はここまでの…」
地竜は僕の言葉を最後まで言わせてはくれなかった。
僕は地竜のファイアブレスをまともに浴びて…
~~~~~漆黒の空間~~~~~
ダンがブレスを喰らう少し前…。
はい、ブレス喰らってこれで終わり~~~w
あーあ、次のおもちゃを探しに行かないとだけど。
どうせなら、君の行く末も見たい所だけど、どうなるんだろうね?
ん?
「うぁぁああぁぁぁああああああぁぁぁ」
おやおや、無駄な事をw
僕の封印はね、自力では解けないよーw
まぁ、でも声を出せるのは凄いと思うけど、それまでさ!
「うあああぁぁぁぁああうああああぁぁ!」
だから、無駄だって言っているじゃないか!
諦めなよ、ねぇ?
まさか…子供の体にヒビが入って、所々から光が溢れ出しているだと⁉︎
馬鹿な! 僕の封印は完璧のはずなのに!?
「うあぁぁぁああぁあぁぁぁあああぁあぁあぁぁあぁあぁああ!!!」
丸くなった子供の封印が音を立てて砕け散った。
そして…
「この場から去れ、邪悪な者よ!!」
子供の手から光が溢れて観察者を包むと、観察者はこの場から姿を消した。
「いけない! このままじゃ!! 【時間停止】」
子供が発動したスキルで世界の時間を止めた。
~~~~~地竜の前~~~~~
僕は…死んだのかな?
地竜のファイアブレスが体を…って、あれ? 時間が止まってる⁉︎
「やぁ、ダン! 君はまだ死んで無いよ。」
「君は…?」
「僕は、洲河 慱…君自身だよ。」
「僕自身?」
「君は、7年前の獣に襲われた際に生まれた人格なんだよ。」
「そうか、だから幼少の記憶がなかったんだね。」
目の前には少し小さい僕がいる。
何か妙な感じがした。
「今は世界を止めている…とはいっても長くは止めれないけどね。」
「君は凄いんだね! 僕には出来そうもないよ…。」
「ううん、この力は本来…君が手にする力だった。」
「僕がこんな力を?」
「それよりもダン、君に謝らせてほしい…」
「君が僕に?」
「7年前のあの獣に襲われた事件の時、僕はね…苦痛から避ける為に君という人格を生み出して、全てを背負わせたんだ。」
「なんだ、そんな事か…別にもう良いよ、君も苦しんだんだろう?」
「あっけらかんとしているね、僕が君の立場だったら許せるかどうか…」
「過ぎた事を気にしていても仕方がないよ、未来を見よう!」
「君の性格が羨ましいね。 僕にはなかったよ。」
僕は軽く息を吐いてから質問した。
「ところでさ、僕は何故スキルが突然使えなくなったりしたのかな?」
「あぁ、そうだね、その話をしよう。 少し長くなるけど…」
「大丈夫、理解は速いから安心してくれ!」
「君がこの世界にきて、ギルドカードを額に当てた時に黒いモヤがカードに吸い込まれて行ったのは覚えているかい?」
「あの時、目を開けていたから見えてたよ。」
「あの黒いモヤが僕という人格を封じ込めて、君のジョブとスキルに細工をしたんだ。」
「だからハズレジョブとスキルだったのか!!」
「黒いモヤの正体は、自らを観察者と名乗っていたけど、本当の姿はこの世界の邪神ルキシフェルという。」
「ルシフェル…ではなく?」
「名前が似ているけど、全く違う。 悪戯を好む邪神でね、神々の世界を追放された際に僕らを見付けて体に入ったと言ってたよ。 異世界人は良いおもちゃになるともね。 腹立たしいけど…」
「じゃあ、突然スキルが使えなくなったのも観察者という奴の所為か…」
そいつの所為で僕は危うく死に掛けたのか。
見付けたらボコボコに…って、邪神相手だとさすがに無理か。
「今は僕が覚醒して、この空間から追い出したが、いつまた戻ってくるかが解らない。」
「滅ぼす事は出来ないの?」
「無理だね、ここは本来僕の空間なんだけど、観察者が自分の思い通りに作り替えているからそれを完全に修正しなければ奴を倒す事は出来ない。」
「僕はこれからどうしたら良いのかな? 君が復活したのなら、人格は返した方が良いのかな?」
「………本当に君は変わっているね、本来なら人格は渡さないぞ!…とか言うはずなんだけど?」
「だって、時間が止まっていると言っても、ファイアブレスを喰らっている時に止まっているんだよ。 時間が動き出したら一瞬で消滅するよ。」
僕は地竜を見ると、ブレスが目の前に迫っていた。
今は止まっているからこうして話が出来ているんだろうけど。
「それは大丈夫、君が本来使える力を1分11秒だけ使える様にしておくから。」
「何その中途半端な時間は?」
「仕方ないんだよ、観察者の所為で僕は覚醒したばかりとは言っても、完全に復活を果たした訳じゃないんだからね。」
「ところでさ、僕が本来使える力ってなんなの?」
「全属性魔法とか使えるし、戦闘系スキルも使えるはずだったんだけどね…観察者の所為でほとんど封じられているんだよ。 本来ならこの世界に来た時に、僕達は1つになるはずだったんだけど…」
「なら、1分11秒だけ無敵で無双という訳か…それ以降は?」
「今まで君が使っていた封じられたスキルを開放する。 生活魔法の攻撃も使えるようなるよ。」
「それ以外の…全属性魔法とかは?」
「観察者が施した封印をこちらから側から解除して行くしかないんだ、時間はかかるけど全て解除出来る様に頑張るさ!」
「じゃあ、その時が来たら本当に1つになるんだね!」
「うん、その時まで僕の体を…あ、そろそろ時間みたいだから、最後に1つだけ…」
「なに?」
「近々、【魔王】が復活する。 今まで以上に厄介な旅になるから気を付けて。」
「わかった、ありがとう! また話が出来る時を楽しみにしてるよ!」
~~~~~【時間解除】~~~~~
僕の体から光が溢れ出して、地竜からのファイアブレスを…弾き返した!
僕は自分の体に回復魔法を施して全回復した。
「これが僕の本来の力なのか…と、時間が無いんだった!」
「ダン、大丈夫か??」
「…っていうか、ガイウス達の方が大丈夫か?」
「地竜を倒してからすぐに来たんだ、お前が危なそうだったから…」
「ありがと。 でも、こいつは僕が倒すから下がってて…それと、エリアヒール!」
「!?」
巨大な光のドームが、その場にいた者達を包み込んだ。
ガイウス達だけではなく、背後にいる冒険者や騎士団の怪我まで治した。
「あと何秒だ?」
《あと、38秒だよ。 会話はこれが最後になる。 それと地竜の弱点は火だから…頑張れ!》
ファイアブレスを吐く癖に弱点は火かよ‼
地竜はファイアブレスを放った!
僕は風魔法で炎を消し飛ばした。
「もう時間がないから、一気に決めさせてもらうよ!」
僕は宙に浮くと、荒れ狂う魔力を放出させた。
そして…多数の属性同時出現を行った。
「炎…雷…光…風…四種複合…」
4つの属性が交わった魔法は、巨大な光が高熱を発する弓矢の形になった。
空気が震え、熱気を帯びた風が周囲を熱している。
地竜は危険を感じたのか、甲羅に籠って身を固めていた。
そして周りにいる者達も、熱波に対して皆地面に伏しているようだった。
「散々弄んでくれたお礼だよ! 極大複合統一魔法…オルガニックバースト!!!」
放たれたの光の矢が地竜に直撃すると、地竜は甲羅ごと蒸発した。
いや、それだけでは終わらずに山に直撃して山の上半分を消し飛ばした。
「あ…やば! あそこに人住んでないよな?」
《いないよ、安心して…も…う…》
慱と会話が途切れると、僕の力も無くなった。
体中に広がる疲労感と脱力感を感じた。
僕はかろうじて動く体でカードを見ると、HPとMPは1桁しかなかった。
それを見終わった事を最後に、僕はそのまま気を失った。
~~~~~半日後~~~~~
僕は目を覚めると、そこはギルドの救護室だった。
ベッドの周りには、ガイウスやレイリア、クリスとキャサリアさんが居てくれた。
僕が目を覚ましたことをキャサリアさんは報告をしに扉から出て行った。
「ダン、何があったかは聞かん! だが、炎に包まれた時に俺は…俺は…‼」
そういってガイウスは僕を強く抱きしめてきた。
この場合、ガイウスではなくレイリアじゃないかと思うんだが…?
でもまぁ、悪くはない気分だった。
その後、僕はガイウスとクリスに肩を借りて、ギルドホールに顔を出した。
別に体はもうほとんど何ともないのだが、2人は1人で歩く事を許してはくれなかった。
「ダン殿、無事で良かった…が、山を破壊するのはやりすぎだ!!」
ギルドマスターのヴォルガンから怒られた。
その後にギルドホールでは宴会になっていた。
討伐に参加した全ての冒険者に報酬が支払われた。
でも僕は…ヴォルガンにどうしても伝えなければならない事があった。
「ヴォルガン様、そこで呑気に酒を飲んでいる4人のA級は僕を置いて逃げました。」
「ほぉ…?」
「「「「ぶふっ!」」」」
呑気に宴会に参加していたA級の4人は、口に含んでいた酒を吐き出した。
ヴォルガンに睨まれたA級4人は、小さくなっていた。
そしてヴォルガンは………
『今回の功労者は、ここにいるギルドの皆だが、最大の功労者は英雄ダン殿だ!!』
『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!』
やめて、恥ずかしいから。
あの力はもう使えないから、これ以上担ぎ上げないで。
英雄なんて呼ばないで。
『ダーン! ダーン! ダーン! ダーン!!』
やめて、名前連呼しないで…。
僕は恥ずかしくなり、こっそりとギルドから出ようとした…が、ヴォルガンとガイウスに肩を掴まれて引き戻された。
……その後の事は記憶にない。
僕は目を覚ますと宿屋で寝ていた。
翌日、僕は昨日起きた事を仲間には話した。
この能力は一時的な物だとか、体の中にもう1人の慱がいる事を…。
「俄かには信じられない話だが、昨日のアレを見てしまうとなぁ…」
「ならダンが完全復活するのはいつになるにゃ?」
「解らない、僕自身…中にいる慱には連絡の取りようがないからね。」
「でも、本来のダンの力はあそこまで凄いのですね。」
「そしてもう1つ肝心な事を話しておく、慱から聞いた話だと…もうすぐ【魔王】が復活する!」
「「「!?」」」
「皆にはこの話をギルドマスターや国王に報告した方が良いか聞きたいのだが…」
「それは、話しても信じては貰えないと思うから話さない方が良い。 体の中にもう1人の慱がいること自体信用してもらえるかも分からないのに、【魔王】の話なんかしたらパニックになりかねないぞ!」
「【魔王】…今まで以上に危険な旅になりそうですね。」
「あちきが皆の盾になるにゃ! 任せて欲しいにゃ!!」
カイナンの街から旅立つまで残り4日…僕等は旅の準備を入念にする事にした。
~~~~~太古の森~~~~~
フェンリル・オルシェスは大量のモンスターに囲まれていた。
森の手前とは違い、奥の方には敵わない敵が多く、負傷をして動けずにいた。
フェンリル・オルフェスは死を覚悟した。
…と思っていたら、危険が来た時に帰還できるアイテムの存在を思い出した。
封筒を破り…中の紙を広げて、残り少ない魔力を込めた。
『帰還・ヨダソウの元に!!』
………が当然、発動なんかしなかった。
魔力を込めた紙を見ると、そこには文章が書かれていた。
「この文章を呼んでいるという事は、凄く危険な場面という事だよね~? 全く、ワンちゃんはコロっと騙される。 これが本当のワンコロ…ワンコローーー!!! ぷぷぷのぷ~~~w 大体、ヨダソウの名前を信じるなよ! ヨダソウを逆から読んでみ? ウ・ソ・ダ・ヨ…うっそだよ~んw 本当にワンコロは知能が低いね。 まぁもう会う事もなく殺されるかもしれないけど、成仏してね~w」
『ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!! あの人間が舐めやがってーーーー!!!』
フェンリル・オルシェスは気力を振り絞り立ち上がると…!
『グワァァァウォーーーーーン!!!』
今までにない叫び声を上げた。
すると傷は塞がり、体毛は黒く変化し、目は赤く光った。
フェンリル・オルフェスは、激しい怒りと憎しみにより…デスウルフへと進化した!
そして、囲んでいたモンスターに襲い掛かり蹴散らせて行った。
フェンリルでは歯が立たなかったモンスターも、デスウルフへと進化を果たしたオルフェスにとっては、戦力がひっくり返った。
それ程までにデスウルフというモンスターは、全ての能力が桁違いだった。
『待ってろよ、人間! 今度こそ貴様に絶望を与えてやろう…』
ダンは、【魔王】やその配下以外に厄介な敵を生み出していた。
そして3度目のフェンリル・オルフェスとの決戦は、まだかなり先の話になる。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
797
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる