万能聖女は、今日も誰かに制裁を与える為に拳を振るまう!

アノマロカリス

文字の大きさ
5 / 12

第四話

しおりを挟む
 「昨日の夜は風が強かったからなぁ…」
 《見事に崩れたわね。》

 この山に来てから3日が過ぎていた。
 簡素な造りの小屋だったが、簡素なだけあって倒壊も早かった。
 昨日の夜は強風吹き荒れる嵐だったので、畑は無事だったけど家は完全倒壊していた。

 「私に建築の技術は無いからなぁ?」
 《家が駄目なら、その山に洞穴でも掘ってみたら? そこを拠点にすれば、倒壊の危険性は無くなるわよ。》
 
 確かにフォルティーナの言う通りだった。
 建設技術が無い私が家を再び作った所で、同じ轍を踏む事になる。
 ならば、山に洞穴を作って中で生活するという形にすれば良いだけだ。
 そして入り口には隠蔽魔法で閉ざしておけば問題ない筈。

 「後は畑に手を加えたい所だけど…」
 《聖女の結界を張り巡らせば? 元いた王国では王国全土に結界を張っていたんでしょ?》
 「そうか、これだけの規模だけなら別に大した魔力消費も起こらないか!」

 この付近では、野菜泥棒は村人や盗賊の類はまず無い。
 いるとすれば野生動物の類なのだろうけど、結界を張れば手出しが出来ない筈。
 私は小規模の結界を張って、野生動物の侵入を防ぐ事に成功した。

 《ところでセレナ、聖女魔法ってどんなのがあるの?》
 「聖女魔法は人々の癒しの魔法が数多くて、外敵から身を守る守護結界に結界内の植物に実りを与える豊穣の祈り、その他はステータス障害を回復する治癒魔法や回復魔法、戦闘の士気等を高める聖女の歌が数種類と…光による攻撃魔法が少々ある位ね。」
 《でも、セレナは精霊魔法や他の魔法も使えるよね?》
 「故郷のカロナック王国で聖女の修業と王子妃になる為の講義だけで良かったのに、魔力量を調べるついでに他の適性魔法を調べたら…精霊魔法や召喚魔法といった他の魔法も使える事が判明してね。 それ以来、別な講義が追加されたのよ。」
 
 宮廷魔術師が変なやる気を出さなければ、やる事が増えなくて済んだのに。
 更には武術の才能もあるとか言われてからやる事が増えすぎて、社交界やパーティーの参加が一切出来なくなったのよね。
 その他にも薬学に関する薬品造りや、錬金術なんかも学ばされたっけ?

 《なんか…聖女から段々遠ざかっている気がするわね?》
 「武術の訓練の後に戦場に出された事もあったけど、最初は兵士や騎士の回復による癒しだけだった筈なのに、魔法を封じられた場合の対処という事で、剣を持たせられて戦った事もあるわ。」
 《己の使う武器を作れとか言われた事は無かったの?》
 「それもあったなぁ…鍛冶ギルドや甲冑ギルドで己が使う武具を作れとか言われて、ドワーフから技術を学んだ事もあったわね。」
 《もう何でも作れるんじゃないの?》
 「さすがに建築とかは無理だったけど、護符を作るのに彫金ギルドや木工ギルドで装飾品を作らされたり、その後に祈りを捧げて護符にしてから神殿に収めたり、法衣やブーツなどを作るのに裁縫ギルドや革細工ギルドにも顔を出した事があったなぁ。」
 
 他にも住民達の炊き出しの為に、聖女が祈りを込めた料理に癒しの効果が付与できる可能性があるとかで料理も作らされたことがあったっけ。
 途中で聖女関係ないじゃん!
 これはただの雑用じゃん!
 そういって何度か心が折れ掛けたんだよね。
 今となっては…身に付けていて良かったと思えたけど。

 「それにしても…あの馬鹿勇者がフォルティーナを奪われた逆恨みで懸賞金を懸けたのは分かるけど、まさかカロナック王国からも懸賞金を掛けられるとは思わなかったなぁ。」
 《カロナック王国って、セレナが結界を解除して壊滅した国よね? 誰がやったか目星は付いているの?》
 「神殿長が運良く生き残っていたか、もしくは馬鹿王子が生き残れたか…どちらにしても、宝物庫の宝を全て持ち去った…とか書かれていない所を見ると、懸賞金を掛けたのは王族ではないでしょうね。」
 《宝物庫の宝を全て持ち去ったって…》
 「馬鹿王子に婚約破棄を告げられてから国外追放されたからね。 せめて王国から出て行く際には、今迄働いていた分のお給料を貰おうとして…全て戴いたのよ。」
 
 今迄の苦労を考えれば、全て戴いても罰は当たらない。
 私は青春の5年間を無駄にされたのだから。

 《それでセレナはこれからどうするつもり?》
 「しばらくはゆっくりしながら考えるとするわ。 カロナック王国を出てから、碌に休みなしで働いていた所為で休める暇がなかったしね。」

 私は野菜は好きだけど、野菜だけ食べるのは少し飽きる。
 とりあえずは野菜を育てながら生活をして行って、食べきれない量が出来たら村にお裾分けにでも行こうかな?

 …そう、その考えが甘かった。
 まさか村に野菜を持っていた際に、厄介事に巻き込まれるとは思わなかったのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?

水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」 「はぁ?」 静かな食堂の間。 主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。 同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。 いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。 「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」 「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」 父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。 「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」 アリスは家から一度出る決心をする。 それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。 アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。 彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。 「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」 アリスはため息をつく。 「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」 後悔したところでもう遅い。

「お前の代わりはいる」と追放された俺の【万物鑑定】は、実は世界の真実を見抜く【真理の瞳】でした。最高の仲間と辺境で理想郷を創ります

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の代わりはいくらでもいる。もう用済みだ」――勇者パーティーで【万物鑑定】のスキルを持つリアムは、戦闘に役立たないという理由で装備も金もすべて奪われ追放された。 しかし仲間たちは知らなかった。彼のスキルが、物の価値から人の秘めたる才能、土地の未来までも見通す超絶チート能力【真理の瞳】であったことを。 絶望の淵で己の力の真価に気づいたリアムは、辺境の寂れた街で再起を決意する。気弱なヒーラー、臆病な獣人の射手……世間から「無能」の烙印を押された者たちに眠る才能の原石を次々と見出し、最高の仲間たちと共にギルド「方舟(アーク)」を設立。彼らが輝ける理想郷をその手で創り上げていく。 一方、有能な鑑定士を失った元パーティーは急速に凋落の一途を辿り……。 これは不遇職と蔑まれた一人の男が最高の仲間と出会い、世界で一番幸福な場所を創り上げる、爽快な逆転成り上がりファンタジー!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?

水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが… 私が平民だとどこで知ったのですか?

婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します

けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」 婚約者として五年間尽くしたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。 他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。 だが、彼らは知らなかった――。 ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。 そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。 「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」 逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。 「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」 ブチギレるお兄様。 貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!? 「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!? 果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか? 「私の未来は、私が決めます!」 皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...