第3回青春小説大賞

第3回青春小説大賞

選考概要

編集部内で最終的に大賞候補作としたのは「和菓子さま 剣士さま」「game.com」「A SPOOKY GHOST」「イノセントワールドは有罪である」「しぐれごこち」の5作品。いずれも甲乙つけがたく、編集部内の評価は割れることとなった。「和菓子さま 剣士さま」は独特の語り口が非常に心地よく、ほんわかとした主人公のキャラ、小説世界の空気が大変好感の持てる作品であった。しかしやや起伏に乏しいストーリーも含めて、作品の「売り」の軸と呼ぶべきものに若干欠けているのが残念だった。「game.com」は文章が非常に巧みで、まさに青春小説というべきストーリー展開であり、総合的に完成度の高い小説であった。ただ難を言えばキャラの魅力にやや乏しく、またゲームというユーザ・ファンの多い世界を描くのに、内容や描写が踏み込み不足であり第一の読者層であるゲームユーザには物足りない内容であろうと考えた。「A SPOOKY GHOST」も同じく大変文章力が高く、また女子高生ボクサーという興味深い題材をとりあげた意欲作であった。ただ描かれている内容は硬質のスポーツ・ノンフィクションのようであり、一見、興味深い題材であるはずの「女子高生ボクサーの『小説』」が、逆に興味を持つ読者の存在が見えない作品になってしまっていると考えた。「イノセントワールドは有罪である」は青春というテーマにふさわしい主人公の苦悩や恋愛、人間模様がストレートに描かれた小説で、非常に力強さを感じる作品であった。逆に言うと若い独りよがりな主人公の考えがそのまま表現され、ストーリーも奥行きが無く、小説としての完成度という面では他最終候補作にはひとつ及ばないのではと考えた。「しぐれごこち」は高い文章力と繊細なタッチで、微妙な年頃の女子中学生である主人公の内面や周囲の様相を描いた、魅力的な青春文芸小説であった。ただこうした作品に読者ニーズがあるのかは疑問視され、現在活躍中の女流文芸作家たちのように更にもっと巧みな筆致で読ませるか、それともストーリーに起伏をつけるか、あるいは主人公の年齢を想定される読者と同じくらいにあげるか、などが必要ではと考えた。編集部内の評価は拮抗して、各々に推す声があったが、最終的には、いずれもそのまま出版化することは難しいだろうということで、読者賞が決まっている「和菓子さま 剣士さま」を除いた四作の中で、僅かながら総合的に評価が高かった「イノセントワールドは有罪である」「しぐれごこち」を特別賞として選出した。そのほか一次選考では「JET」「それでも、ぼくらは。」「更け行く秋にサングラスをかけて」が候補として挙がった。

応募総数 143作品 開催期間 2010年11月01日〜末日

なし

和菓子さま 剣士さま

鹿の子

編集部より

ポイント最上位作品として、“読者賞”に決定いたしました。独特の語り口や主人公のキャラクターのほんわかした雰囲気が、非常に好感の持てる作品でした。また、和菓子と剣道という題材が作風によくマッチしていたことも、読者をひきつける一因だと思います。読んでいて自然と頬が緩んでくる、そんな素敵な作品でした。

イノセントワールドは有罪である

えこ

編集部より

愛する人の自殺で揺れ動く少年の心の葛藤という、まさに「青春」というテーマにふさわしい作品だと思いました。文章も叙情的で、少年の心情が細やかに描かれているため、衝撃的な事件を扱っているにもかかわらず、等身大の感覚で小説の世界に引き込まれていきました。作品としては粗削りですが、今後の著者に期待したい、次の作品が待ち遠しくなる、そんな強い力を感じた青春小説でした。

しぐれごこち

あさな

編集部より

作品全体に流れるゆるやかな雰囲気がとても心地好く感じるお話でした。穏やかな日常描写の中にも、読者をひきつける要素がちりばめられており、いつのまにか読者を物語の世界に取りこんでしまう魅力がある作品だと思います。まだ物語は連載中であり、今後の展開を楽しみにしたいと思います。

投票ユーザ当選者

投票総数 487票 当選 10名