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自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。2
自称悪役令嬢な婚約者の観察記録。2-1
しおりを挟む一 バーティアもうすぐ十六歳
パーンッ……パーンッ……!!
晴れ渡る秋空の下、色とりどりの煙がまっすぐ伸びていき、『花火』もどきが大きな音を上げる。
これは、私――セシル・グロー・アルファスタと婚約者のバーティア、引き籠りがちな研究オタクのネルトが共同で開発したものである。
「さぁ、皆様! 遂にハルム学院の文化祭が始まりますわよ!!」
大勢の生徒たちが見つめる先にあるのは、簡易ステージ。その上で、私の婚約者が元気にはしゃいでいる。そんな彼女の隣に立つのは、私の弟であるショーンだ。
「ハ、ハルム学院中等部生徒会長、ショーン・ターコイン・アルファスタの名の下に、第一回ハルム学院中等部文化祭の開幕を宣言します!!」
ショーンは、緊張した様子でそう宣言する。
「……イーリン嬢の事件からまだ二ヶ月くらいしか経っていないというのに、平和だな」
満面の笑みを浮かべるバーティアを見て、私は思わず呟いた。
――表面上は、何事もなかったかのように平和な笑顔。
けれどバーティアの心の中には、小さなしこりが確実に残っている。
それでも、日々は変わらず過ぎていくのだ。
「さてと、私も折角招待してもらった訳だし、『文化祭』を楽しませてもらおうかな?」
ニッコリ笑みを浮かべると、傍らに控えていたゼノが口を開いた。彼は私の侍従であり、契約精霊でもある。
「楽しもうとしているのは文化祭ではなく、『文化祭を楽しんでるバーティア様で』ですよね!?」
私は、笑顔のまま無言で彼の足を踏みつける。そして、久々に訪れた中等部の敷地へと足を踏み入れたのだった。
***
バーティア・イビル・ノーチェス侯爵令嬢――十五歳。もうすぐ十六歳になる。
バーティアがアルファスタ国王太子である私の婚約者になったのは、彼女が八歳の時のこと。
彼女は、出会ってすぐに自分のことを『乙女ゲームの悪役令嬢だ』と宣言した。以来、『一流の悪役令嬢を目指す』と言い、その面白い言動で私を楽しませてくれている。
初めは、彼女の話す『未来のシナリオ』に半信半疑だった。しかし、楽しそうだからと話を合わせているうちに、彼女の言うこともあながち嘘ではないのではないか、と思えるようになってきた。
……まぁ、私にとって大切なのは面白いか面白くないかだから、正直、違ってたら違ってたで別に構わないんだけどね。
私は、中等部の生徒たちで賑わう学院内を何気なく眺める。
『文化祭』とは、「たくさんの思い出を作るために」とバーティアが発案した催しだ。彼女は数ヶ月前から精力的に準備を進め、本日、開催の運びとなった。
開幕宣言がされたばかりの今、『文化祭』を主催する中等部生徒会メンバーは何かと忙しいらしく、バーティアも私の相手をしている時間がないようだ。だから仕方なく、適当にブラブラしようと思っていたところ、ショーンの婚約者であるジョアンナ嬢が声をかけてきた。
「あら、セシル殿下。殿下もやはりいらっしゃっていたのですね」
彼女は私と同じ高等部の二年だが、婚約者の生徒会長らしい勇姿を見るために、中等部へ遊びに来たのだろう。
「お互い、パートナーの手があくまでは暇ですわね」
私が如何にもつまらなそうに歩いていたからだろうか、ジョアンナ嬢は苦笑を浮かべてそう言った。
彼女――ジョアンナ・ケルツウォーレン公爵令嬢は、バーティアの友人でもある。バーティアを慕い、陰ながら支え……時に指導してくれる、とても役に立つ女性だ。
加えて、バーティアの非公式ファンクラブ「バーティアを愛でる会」の統率もとってくれている。
「折角ですので、しばしご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
ニッコリと微笑んだジョアンナ嬢は、私との距離を少し詰め、サッと周囲に視線を走らせた。そして笑顔のまま声のトーンを落とす。
「お互い暇なこの時間に、イーリン・シルベルツ子爵令嬢の件の追加報告をさせてくださいな」
「あぁ、もちろん構わないよ。面倒なことはさっさと済ませてしまったほうが、お互い気分よく逢瀬を楽しめるだろうしね」
私も笑顔で応対する。声さえ聞こえなければ、周囲には雑談しているようにしか見えないだろう。
私たちは、ゆっくりと学院内を歩き始める。
以前、イーリン嬢はヒローニア・インデロン男爵令嬢のふりをして、バーティアに陰険な嫌がらせをしていた。
一方、ヒローニア男爵令嬢もまた、何かとバーティアに突っかかってくる少女だ。
バーティア曰く、ヒローニア男爵令嬢は『乙女ゲーム』の主人公なのだという。ヒローニア男爵令嬢自身もそのことを自覚しているらしく、馬鹿の一つ覚えのように『乙女ゲーム』の『シナリオ』を辿るような行動を取っている。つまり、『悪役令嬢』であるバーティアを悪者に見立てて、悲劇のヒロインを演じようとしているのだ。
バーティア本人も、私から婚約破棄されてギャフンと言わされるため、悪役令嬢ぶっている。……根が素直で優しい彼女は『悪役令嬢』になり切れず、ことごとく失敗に終わっているのだけれど。
もちろん、私や周囲の人間はヒローニア男爵令嬢の虚言を信じていないし、バーティアを悪者に見立てるような行為を許していない。
そんな中、唯一面倒だと思っているのは、ヒローニア男爵令嬢が光の精霊と契約を結んでいることだ。もっとも、本人はそれに気付いていない可能性もある。ただその光の精霊は、ヒローニア男爵令嬢にとって優位に物事が運ぶよう助力していた。
まぁ、私には精霊王の血を引く高位精霊ゼノがいるし、バーティアにもクロがいる。
防御の力に特化した闇の高位精霊で、普段は黒狐や幼女メイドに擬態しているクロ。
バーティアはクロと共同で、闇属性の防御の力を付与したピアスを作ってくれた。この魔法除けのピアスを付けていれば、光の精霊の影響を受けることもない。
私とバーティアだけでなく、私の側近候補たちやバーティアの友人たちも、護身用としてピアスを装着している。
そうして普通に学院生活を送る中、ヒローニア男爵令嬢は、人目につくところでバーティアを悪者にしようと何度も突っかかってくる。そのせいで彼女のバーティア嫌いは周知の事実となり、先日、それを利用してバーティアを攻撃しようとする人物まで出てきてしまった。
イーリン・シルベルツ子爵令嬢。彼女はヒローニア男爵令嬢の髪色とそっくりなピンクブロンドの鬘を被り、バーティアに嫌がらせをした挙句、階段から突き落としたのだ。
「イーリン嬢の行為はかなり陰険でしたので、司法が介入することになりましたわ。当然、学院からは追放。子爵家からも勘当され、現在は牢の中で余罪の確認を行っています」
私はジョアンナ嬢の話に耳を傾け、うなずく。
「まぁ、そうなるだろうね」
ものを壊す程度の嫌がらせだけならともかく、階段から突き落とすというのは、どう考えてもやりすぎだ。
イーリン嬢には、片思いしていた男子生徒がいた。その生徒が頬を赤らめつつバーティアに話しかけているのを見て、カッとし、怒りに任せてバーティアを階段から突き落としたらしい。
しかし、『好きな人が貴方のファンなのが気に入らなくて、つい……ごめんなさい?』で済ませられる訳がない。
クロがいなければバーティアは確実に大怪我を負っていただろうし、運が悪ければ死んでいた可能性もある。
「余罪を調べるのに、まだ時間がかかりそうなのかい?」
私は、ジョアンナ嬢にそう尋ねる。
「叩けば叩くほど埃が出る状態なので」
「ふ~ん。私が留守にしている間、相当派手にやってたみたいだね」
高等部二年の春から夏にかけて、私は隣国へ遊学に出かけていた。その間、イーリン嬢はバーティアに数々の嫌がらせをしていたようだ。
一応、私が留守の間の見守り役として、バーティアに「お留守番」を付けていった。
その「お留守番」の報告書も、資料として提出してある。本来なら、さほど調べることなどないはずだ。
それでも余罪が見つかるということは、私の優秀な「お留守番」でも把握しきれないほどの嫌がらせをしていたということだ。
ジョアンナ嬢は、呆れた様子で口を開く。
「休み時間のほとんどを、嫌がらせに費やしていたようです。大きな罪は既に出そろっているのですが……小さすぎて誰も気付いていなかったような嫌がらせが山ほどあるそうですわ。数が数だけに、やったということはわかっていても、事実確認に手間取っているみたいでして」
「なるほどね。まぁ、牢の中にいればバーティアに手を出せないだろうし、ひとまず私たちの視界から消えてくれたなら良しとしておこうか」
イーリン嬢が罰せられるのは確定している。後は細々とした罪をかき集めて、どの程度罰を上乗せするかの問題だ。
「ヒローニア男爵令嬢は?」
「相変わらずのようですわ」
ヒローニア男爵令嬢は、イーリン嬢に罪を着せられそうになった。そのため、自分は被害者だ、慰められるべき対象だと主張していたが、ヒローニア男爵令嬢を慰める者はおらず――最終的に彼女は、自分が慰めてもらえないのはバーティアが悪いのだと、意味のわからない理屈を喚き立てていた。
婚約者を傷付けた女の顔を思い浮かべて、自然と眉間に皺が寄る。
ジョアンナ嬢は話を続けた。
「バーティア様に突っかかっては、失礼なことを言い続けていて――婚約者であるバーティア様を前に、殿下を幸せにできるのは自分だけだ、自分こそ殿下の『運命の乙女』だと、訳のわからない妄言を吐いていますわ」
「迷惑この上ない話だね」
さらに眉間に力が入りそうになり、私は溜息をついて力を抜く。
バーティアは、今も変わらず、私とヒローニア男爵令嬢をくっつけたがっている。
下手に動いてバーティアを暴走させる訳にもいかず、適当に受け流しているけれど、あまり気分の良いものではないな。
加えてこの頃、バーティアが憂い顔を見せることが多くなってきている。
私の心の声を代弁するように、ジョアンナ嬢は口を開いた。
「バーティア様が庇ったりなどしなければ、私たちが一捻りにして差し上げるのに、非常に残念です」
どこから取り出したのか、扇を広げて口元を隠すジョアンナ嬢。彼女もヒローニア男爵令嬢の言動を思い出しているのか、苛立たしげな様子だ。
しかし、それでも動き出さないのは、バーティアの意思を尊重するためだろう。
お互いに嫌なことを思い出し、無言のまま歩いていると、生徒たちで賑わう一角が目に入った。
「あれは?」
「あぁ、あれですか? あれは……ふふ、直接見ていきませんか?」
ジョアンナ嬢は表情を一変させ、機嫌良く私を誘う。彼女は、あの人だかりの先にあるものに、心当たりがあるらしい。
特に興味はなかったけれど、ジョアンナ嬢の表情を見て考えを変える。彼女の様子から、おそらくバーティアに関わるものだと察し、少しだけ興味が湧いた。
私はジョアンナ嬢の誘いに乗り、人だかりのほうへと向かった。
「あ、殿下!」
集まっていた生徒たちが、私とジョアンナ嬢の存在に気付く。人だかりの後方の生徒たちが脇に避けると、前の生徒たちもそれにならい、私たちの前には道ができた。
彼らが空けてくれた道を、ゆっくりと二人で歩いていく。
生徒たちの間を通る際、「応援してます」などと意味のわからない声援を受け、なんのことかと首を傾げそうになる。しかし、私はすぐにその意味を理解した。
人だかりを抜けた、その正面。
そこには、私とバーティア、私の側近候補たちとその婚約者たちの名前が似顔絵付きで貼り出されていた。
左から順番に、ショーンとジョアンナ嬢、ネルトとシーリカ嬢、バルドとシンシア嬢――そして私とバーティア。
他にも、婚約者同士で掲示されている者たちが何組かいる。
ジョアンナ嬢は、ショーンと彼女の名が並ぶ掲示板を眺めつつ、うきうきした様子で私に説明してくれた。
「明日の夜に行われる後夜祭――文化祭を締めくくるイベントの中で、自薦他薦問わず事前に選出された候補者の中から、ベストカップルを決めるのですって。そのための投票所ですわ」
なるほど。これはまた盛り上がりそうな企画だね。
私は視線を掲示板に向け、一組一組のカップルを見ていく。
中等部の生徒会メンバーであるショーン、ネルト、バルド。彼らは全員、私の側近候補だ。
加えて私には、チャールズとクールガンという側近候補がいる。
チャールズと婚約者のアンネ嬢が選出されていないのは、二人とも高等部に在籍しているからだろう。ちなみにクールガンには婚約相手がいない。
側近候補であるこの五人は、バーティア曰く、『乙女ゲーム』でヒロインとくっつく可能性のある『攻略対象』だという。
しかしバーティアは、ヒロインと私がくっついてほしいと願っている。そこで数々の妨害――というよりお節介を働き、側近候補と令嬢たちとの仲を取り持ってきた。
現在、彼らはヒロインになんて目も留めず、婚約者や恋人たちと仲良くやっている。
クールガンだけ相手がいないのだが、どうやら彼はバーティアのことが気になっているらしい。しかしバーティアには私という婚約者がいるため、クールガンは恋人を作らず、仕事一筋に生きる道を選んだようだ。そんな彼でも、ヒロインに靡きそうな気配は微塵もなかった。
あぁ、もちろん、私もヒローニア男爵令嬢にはまったく興味がない。
私は、ジョアンナ嬢に尋ねた。
「ちなみに今の得票率は?」
「非常に悔しいのですが、殿下とバーティア様が圧倒的に人気です。バーティア様は、ご自分が選ばれるなんて考えてもいないご様子で……他薦によりこうしてお名前が挙がっていることにすら、お気付きではありませんけど」
扇で口元を隠し、楽しそうに目を細めるジョアンナ嬢。
バーティアが気にとめていないだけでなく、周囲の人々もサプライズにするためわざと教えていないのだろう。
「殿下。当然、後夜祭にはお越しになりますわよね?」
ニコニコと笑みを浮かべるジョアンナ嬢に、私も満面の笑みを返す。
「大切な婚約者を一人で壇上に立たせる訳にはいかないからね。そんなに名誉な賞をもらえるのなら、喜んでエスコートさせてもらうよ」
「まぁ! まだ確定ではありませんのよ? 私とショーン殿下だって、結構いい線をいっていますしね。ここから巻き返してお見せしますわ」
ジョアンナ嬢は、挑戦的な視線を向けてくる。私も、余裕の表情を浮かべた。
「なら、私たちも頑張らないとね。文化祭中、私とバーティアの仲が良い様子をしっかり見てもらうことにするよ」
周囲に見せつけるように彼女との距離を縮めれば、さらに票も増えるだろう。それに、いつも通りバーティアは面白……可愛い反応を返してくれるに違いない。
ショーンとバーティアが一生懸命準備した文化祭だ。私も一肌脱いで盛り上げたい。
「なんだか、楽しいことになりそうだね?」
私は、バーティアの反応について想像する。
いつも以上に距離を詰める私に、慌てふためくバーティア。
『後夜祭』とやらで、ベストカップル賞に選ばれ、顔を真っ赤にして動揺するバーティア。
――うん。どちらも面白そうだ。
未来の王太子夫妻として、国民が憧れる存在にもなっておくべきだろうし、ちょっと頑張ってみようかな?
「……殿下、笑顔が黒いですわよ?」
「嫌だな。君だって似たような笑みを浮かべているよ?」
ジョアンナ嬢と私は、はとこ同士だ。
それほど近しい訳ではないが、互いに同じ血を引いていることを改めて感じた。
***
次の日の晩。中等部の講堂では、『後夜祭』が行われていた。
ダンスコンクールやちょっとした劇などたくさんの催しがあり、生徒たちのテンションが上がり切った頃、講堂にバーティアの声が響きわたった。
「第一回ハルム学院中等部文化祭、栄えあるベストカップル賞の発表ですわ!!」
この賞の発表が最後の締めくくりとなる。
水面下でゼノに調べさせたところ、ベストカップル賞のグランプリは私とバーティアに決まったようだ。
何も知らないバーティアは、壇上で、生徒の一人から紙を受け取っている。おそらくあの紙には、ベストカップル賞の集計結果が書かれているのだろう。
焦らすような視線を周囲に向けるバーティア。
その様子を、ジョアンナ嬢含む彼女の友人たちは楽しそうに見守っていた。
「さて、そろそろ移動しようかな?」
目立たない場所で、壁に背を預けて様子を眺めていた私は、バーティアのもとに向かいやすい位置へと移動する。
目立たない場所とはいえ、私は王太子だ。そこそこ人の視線を集めつつ、穏やかな笑みを浮かべながら歩を進める。
もちろん、その間もバーティアから視線を外すことはない。
折角の面白そうなシーンを見逃したくはないからね?
背後から影のようについてくるゼノは、やや呆れた様子だ。背後にいても、気配でわかる。しかし、ゼノのそんな態度はいつものことだから気にしない。
私が移動している間に、発表が始まった。まずは五位から紹介される。
四位に選ばれたのは、バルドとシンシア嬢だった。三位はネルトとシーリカ嬢、二位はショーンとジョアンナ嬢――顔見知りカップルたちの名前が呼ばれ、彼らも壇上に立つ。
やがて、遂にその時が来た。
「そして、グランプリは……セシル・グロー・アルファスタ殿下とバーティア・イビル・ノーチェス侯爵令嬢ですわ!! …………え? あれ?」
派手な効果音でもつきそうな勢いで、私の名前と自分の名前を読み上げたバーティア。彼女はわずかな間の後、それが自分たちのことだと気付き、動揺の声を上げた。
「セシル様と私? え? え? えぇぇぇ!? どういうことですの!?」
一方、講堂に集まった生徒たちは、バーティアの動揺などお構いなしに歓声を上げ、盛大な拍手を送ってくれる。
「え? ちょっと待ってくださいませ!? え? 私とセシル様? な、なんでですの!?」
リンゴのように顔を真っ赤に染め、意味もなく手足をバタつかせているバーティア。そんな彼女の隣に、シーリカ嬢が立つ。そして司会交代とばかりに、結果の書かれた紙をバーティアから取り上げ、そこに視線を落とした。
「皆様からの投票理由もご紹介しますね。『可愛らしいバーティア様を見守るセシル殿下、素敵です!』というお声や、『文化祭中、食べこぼしのついてしまったバーティア様の口元を、指で拭うセシル様、最高です!! 甘~い雰囲気、ご馳走様でした!!』というお声が寄せられていますわ!!」
「な、な、な、しょ、しょんな。甘くにゃんて……」
……バーティア、うまく喋れていないよ?
ますます顔を赤く染め、足元すらおぼつかなくなってきたバーティア。私はそんな彼女の隣に立ち、そっとその腰に手を回して支えた。
「ここでセシル殿下のご登場です!! ……ちょっとバーティア様、しっかりなさってくださいませ!!」
ふにゃふにゃになっているバーティアに、呆れ顔で活を入れるシーリカ嬢。
「だ、だって……」
でも混乱の極みに達しているバーティアは、オロオロするだけで、まともな反応を返せそうにない。
仕方ない。ここは私がフォローするべきだろう。
満面の笑みを浮かべる私に、ゼノが舞台袖から「自重してください!!」と叫んでいる気がするけど、きっと気のせいだ。
イーリン嬢の一件以降、バーティアは時折、妙によそよそしい態度を取るようになった。加えて最近は、文化祭の準備で忙しいからと会う機会を減らされていたのだ。
そのため私は、面白いことに少々飢えている。
少しくらいのお遊びは、きっと許されるだろう。
私はバーティアの腰に手を回したまま、会場全体に視線を巡らせ、軽く手を上げた。すると歓声を上げていた生徒たちが静まり返る。
私は笑みを浮かべながらゆっくりと息を吸い込み、会場全体に響くよう声を張った。
「こうして皆にベストカップルとして祝福してもらえることを嬉しく思う。これからも皆の憧れるカップルであれるよう、互いを尊重し、良い関係を築き続けることをここに約束しよう!!」
バーティアにチラリと視線を向けると、顔を赤くしたまま呆けたように私を見つめている。
うん。この状況で彼女からコメントをもらうことは難しそうだね。
彼女に挨拶させることを早々に諦めた私は、そのまま彼女を横抱きにし、そして……
……チュッ。
彼女の頬へと口付けた。
「っ!?」
バーティアが目を見開き、慌てた様子で自分の口を押さえる。おそらく叫び声を上げそうになったのだろう。
顔どころか全身を真っ赤にした彼女は、非常に面白……可愛い。私はその反応に満足した。
そして再び生徒たちに視線を向けた途端、会場全体に拍手喝采が沸き起こる。
最高の盛り上がりだね。良い仕事をしたな。
「後は任せたよ、ショーン」
「はい、兄上!!」
ジョアンナ嬢と並んで壇上に立っていたショーンに声をかけると、彼は興奮したように頬を赤らめつつ、請け負ってくれた。
バーティアは容量オーバーとなり、私の腕の中でぐったりしている。
うん、彼女を休める場所へと連れていかないとね?
応援ありがとうございます!
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