113 / 312
8巻
8-1
しおりを挟む1
ステア王国、ティリア王国、ドルガド王国。先日、その三国の交流を目的とした三国王立学校対抗戦が行われ、俺たちのステア王立学校が優勝した。
対抗戦メンバーには一つの学校から補欠を含む八人の生徒が選ばれるのだが、俺――フィル・グレスハートと従者であるカイル・グラバーもその中に含まれていた。
メンバーに選ばれてからここ数ヶ月、俺たちは毎日厳しい練習を積み重ねてきた。
だから、優勝できて嬉しかったし、とても誇らしい気持ちだ。
そして同時に、無事に対抗戦を終えることができてホッとした。
なぜかといえば、今回の対抗戦は、競い合っている最中に色んな出来事が起きたからだ。
剣術戦では、ドルガド選手のミカ・ベルジャンという少年が、俺に切りかかるという事件を起こし、探索戦ではティリア選手のリン・ハワードが遺跡の一部を崩落させ、その事故に巻き込まれた俺とカイルが一時孤立してしまった。
さらに、ダンデラオーという種類の動物に、ドルガドとティリアの食料が盗まれるという事件もあった。
そんなことが立て続けに起こったので、対抗戦中止もあり得るのではと思ったのだ。
俺たちは事件や事故が起こるたびに、各学校の生徒で話し合い、協力して解決していった。
大変な目にあったけど、おかげで三校の対抗戦選手同士の絆は深まったと思う。
まぁ、その過程で俺が目立ってしまったのは予想外だったけど……。
学校ではグレスハート王国の第三王子という身分を伏せ、平民のフィル・テイラとして通っているから、前に出ないでいようと思ったのになぁ。
剣術戦では斬りかかってきたミカを背負い投げしちゃったし、探索戦中に食料の少ない他校にカレーを作って振る舞ったら、それが話題になってカレーが三校の友好を象徴する対抗戦の名物メニューになってしまったし……。
優勝したことや、三国の友好を築くことができたのは良かったけど、ちょっと思い描いてたゴールと違う気がする。
ともあれ、対抗戦は終わった。毎日していた鍛錬からも解放される。
対抗戦メンバーは優勝したご褒美として、学校長から特別に数日間の休息を貰えたから、久々にのんびりしよっと!
対抗戦が終わると、学生たちは再び始まる学校生活のためステアへと戻る。
ただ、休息を貰った俺たち対抗戦メンバーは、ここから数日間は自由だ。
マクベアー先輩ら二・三年生の先輩方は、ステアに戻ってゆっくり過ごすらしい。
ドルガドに実家がある同級生のシリルは、このまま実家で過ごすと言っている。
俺とカイルは、ステラ姉さんの嫁ぎ先であるティリア王国でのんびりする予定だ。
ティリア王国皇太子であるアンリ義兄さんが、俺とカイルが以前ティリアの別荘へ遊びにいった時、忙しくて話もできなかったので、是非にと誘ってくれたのだ。
帰る時はティリアから一度ドルガドに寄り、シリルと合流してからステアに戻ることになっている。
俺とカイルは、ステアに帰る友人のレイやトーマ、アリスとライラを見送り、召喚獣のルリに乗ってティリア王室の別荘に向かった。
ルリはウォルガーという種類の、空を飛ぶ動物だ。モモンガに似た姿で、手乗りの大きさから人を乗せて飛べるほどの大きさに変化することができる。
ドルガドを出発してからさほどかからず、ティリア郊外にある別荘に到着した。
高い鉄柵に囲まれた白亜の館を見下ろすと、衛兵たちと一緒にアルフォンス兄さん、ステラ姉さんとアンリ義兄さん、別荘の管理をしているハンス・マウェルさんが庭に立っていた。
対抗戦後の交流会に出席した後すぐ、ステラ姉さんたちはティリアの別荘へと向かい、夜には到着していたそうだ。そのことは、召喚獣のテンガ経由で手紙をやり取りして知った。
袋鼠のテンガには、空間移動の能力がある。大きさは限定されるが、テンガがその場所を認識しさえすれば、距離に関係なく物の受け渡しが可能だ。
ステラ姉さんへの返信で、俺もおおよその到着時刻を伝えていたため、待っていてくれたらしい。
「フィ~ル~!!」
ルリから降りた途端、アルフォンス兄さんに抱き上げられてぐるぐると振り回される。
アルフォンス兄さん流の感動の再会である。昨日も交流会で会ったのに。
「ちょ、あの、アルフォンス兄さま!」
ハンスさんは微笑ましげにしているけど、ティリアの衛兵たちがポカンとしてるから!!
「アルフォンス兄様、皆が呆れているではありませんか」
ステラ姉さんが恥ずかしそうに、頬を染める。
アルフォンス兄さんは振り回すのをやめて俺をギュッと抱きしめ、ステラ姉さんを見た。
「ドルガドで、私がどれだけ我慢していたかわかるかい? 目の前に可愛いフィルがいたのに、撫でることもできなかったんだよ? 抑えるのが、どれだけ辛かったか!」
俺がグレスハート王国の王族だということは、カイルとアリス、ステア王国のテレーズ女王とゼイノス学校長しか知らない。身分を隠して平民として学生生活を送っているため、兄弟といえども他人のふりをすることは必須だった。
アルフォンス兄さんは大変だったなんて言うけど、ドルガドの街で会った時、俺の頭を撫でてたよ。それに、言動の端々からブラコンが漏れてたし……。
その都度、アンリ義兄さんがフォローしてくれたから良かったものの、危ない場面もあった。
俺はアンリ義兄さんと顔を見合わせて、お互いの苦労を思い出して苦笑いする。
辛いと訴えるアルフォンス兄さんだが、その様子を見るステラ姉さんの目は据わっていた。
「それが大変だとわかっている上で対抗戦にいらっしゃったのですから、アルフォンス兄様の自業自得です」
そう。父さんにも俺たちにも誰にも言わず、こっそり来たのはアルフォンス兄さんだ。
妹からの睨みに、アルフォンス兄さんは悲しげに眉を下げる。
「覚悟していたより、もっと辛かったんだよ。でも、我慢して見ていた甲斐もあった。フィルの勇姿は、兄としてとても誇らしかったからね」
俺に向かってにっこりと微笑み、それからアンリ義兄さんやステラ姉さんを振り返った。
「アンリ皇太子殿下も、そうは思いませんか?」
同意を求められ、アンリ義兄さんは目元を少し和らげる。
「そうですね。対抗戦でのフィル殿下の活躍には、驚かされてばかりでした。皇太子としてティリアを応援しようと思いながらも、つい目を奪われてしまいましたよ」
ステラ姉さんも、愛おしそうに俺を見つめる。
「ええ、本当に。……でも、遺跡で最下層に落ちたと聞いた時は本当に心配しましたわ」
悲しげな顔をされ、俺は改めてペコリと頭を下げる。
「ごめんなさい」
ステラ姉さんはそんな俺の頬を撫で、後ろに控えているカイルに向かって微笑んだ。
「カイルも大変だったわね。フィルについていてくれて、ありがとう」
「わ、私はフィル様の従者ですから、当然です」
お礼を言われたカイルは顔を朱に染め、慌てて頭を下げる。
俺たちがそんなやり取りをしていると、ハンスさんが恭しくお辞儀をした。
「皆様、積もるお話もおありでしょうが、テラスにお茶のご用意をしております。どうぞそちらで……」
アンリ義兄さんとステラ姉さんは顔を見合わせ、「そうだった」と苦笑した。
ハンスさんやメイドに荷物を預けた俺たちは、アンリ義兄さんの案内で別荘のテラスに移動した。
テラスの前には草原が広がっており、ティルン羊が放牧されている。
「うっわぁ! ティルン羊っ!!」
俺はテラスから出て、草原のティルン羊に向けて走った。
ティルン羊はティリアの固有種だ。上質な羊毛は、織物国ティリアにとってかけがえのない宝。その貴重さから、王国が全てのティルン羊を管理しているのだという。
牛くらいのサイズである上に、毛がモフモフとしてボリュームがあるからか、近づくとより大きく感じた。
「近くで見ると、モフモフがすごいなぁ。こんにちは、触ってもいい?」
俺が一頭のティルン羊に話しかけると、「メー」ではなく「ムー」と鳴いた。
【こんにちはぁ、いいよぉ】
ひどくのんびりと話すその口調と、ムームーという鳴き声に、俺はむぎゅっと抱きつく。
話し方や鳴き声まで可愛すぎるっ!!
シルクのような毛の滑らかさ、クルクルと巻いている毛の可愛さ、この質量!
もふもふとして、全てがパーフェクト!!
「すっごいモッフモフ! カイル、すっごいモフモフしてるっ!!」
俺が興奮しながら促すと、ティルン羊を触ったカイルは目を丸くする。
「本当ですね。毛が柔らかいです。ドルガドで見た羊車のティルン羊より、なんだか立派ですね」
羊車は馬車と同じ構造で、ティルン羊が牽く乗り物だ。国宝であるティルン羊の羊車は、ティリアの王族や国賓のみ乗ることが許される。
俺たちの後からやってきたアンリ義兄さんは、ティルン羊の顔を撫でながら言った。
「フィル殿下が来ると思い、国が管理している牧場からとくに毛並みの良いものをここに連れてきたのです。前回牧場にお連れできなかった、せめてものお詫びとして」
口角を微かに上げて、笑みを浮かべる。
前回別荘に来た時、アンリ義兄さん自ら牧場見学を計画してくれたらしいのだが、アンリ義兄さんに公務が入って中止になったのだった。
「嬉しいです! ありがとうございます! 本当にモフモフで幸せです」
ご機嫌な俺を見つめ、アルフォンス兄さんは複雑な表情をしていた。
「……アンリ皇太子殿下。ティルン羊を、一頭分けてもらうわけにはいかないですか?」
アルフォンス兄さんの問いに、ほんの一瞬の沈黙後、アンリ義兄さんは苦笑した。
「申し訳ありません。ティルン羊は我が国の宝なので、譲るわけには……」
ティルン羊は国外へ流出させないってレイが言ってたけど、やっぱり本当なんだ?
国の経済を支える大事な国宝だから、それも当然か。
アルフォンス兄さんだったら、そのあたりももちろん知ってるだろうに……。
残念がるアルフォンス兄さんを見て、俺は羊をモフモフしつつ小首を傾げる。
だけど、一頭欲しくなっちゃう気持ちはわかるなぁ。
コクヨウの毛質はサラサラだから、このモフモフ感は味わえないもんな。
俺の召喚獣のコクヨウは、伝承の獣ディアロスだ。普段は子狼姿になってもらっているが、体を大きくすることもできる。コクヨウのサラサラな毛並みを、大きな姿の時に撫でるのは至福の時だ。
だが、このティルン羊の、跳ね返るほどの弾力とボリュームもまたいい。
俺が幸せいっぱいで顔を埋めていると、メイドが大きな袋を持ってきた。
アンリ義兄さんはその袋を一度引き取り、そのまま俺へと差し出す。
「対抗戦のご褒美……というには、些細なものかもしれませんが」
「ご褒美……?」
開けてみると、中身はティルン羊の可愛いクッションだった。とっても弾力があるので、枕にも良さそうだ。
この顔には覚えがある。アンリ義兄さんが、以前俺の破けたシャツを繕う時に刺繍してくれた羊の顔と一緒だ。もしかして、手作り?
「ありがとうございます!」
俺はお礼を言って、ぺこりと頭を下げる。
すると、今度はアルフォンス兄さんが、にっこり微笑んでさらに大きな袋を差し出した。
開けると、それはグリーンのブランケットだった。コクヨウの刺繍が施されている。
「アンリ皇太子殿下がクッションをプレゼントすると聞いてね。昼寝用のブランケットだよ。肌ざわりのいいものを選んだんだ」
「わぁ! ありがとうございます!」
おぉ! これで昼寝セットが完成じゃないか。
二人のプレゼントに喜んでいると、アルフォンス兄さんは俺の頭を撫でる。
「気に入ってくれて良かったよ」
そんなアルフォンス兄さんに、ステラ姉さんは呆れた顔でため息をついた。
「アルフォンス兄様ったら、フィルのこととなるとそうやって張り合って……。さ、フィル、こちらへいらっしゃい。お茶をいただきましょう」
そう言って、ステラ姉さんはお茶の用意されたテラス席へ手招きした。
お茶を飲んでひと心地ついてから、俺はヒスイ以外の召喚獣を呼び出した。
アルフォンス兄さんたちにも、新しく家族になったランドウを紹介しようと思ったのだ。
ランドウとは、今回の対抗戦に使用されたドルガドの遺跡の中で出会った。
その遺跡はダンデラオー神を祀る神殿で、ランドウはそのダンデラオー神の末裔だ。ただ、神様といっても、実際のところは希少な能力を持つ動物である。
「対抗戦中に仲良くなった動物なんです。ランドウって名付けました」
「フィル殿下の召喚獣は、皆変わった名前ですね。何か由来でも?」
アンリ義兄さんの問いに、俺は笑った。
「えっと、響きで何となく」
黒曜、翡翠、蛍、琥珀、天河、柘榴、瑠璃……。俺の召喚獣たちには、鉱石の和名が付いている。
ランドウは藍銅鉱石という、岩絵具などに使われる鉱石からとったのだ。
召喚獣たちに目を向けると、お互いの自己紹介をしていた。
ドルガドでは時間がなく、召喚獣同士の顔合わせがゆっくりできなかったもんな。
【神様ですか?】
【神さま?】
毛玉猫のホタルと光鶏のコハクが問うと、ランドウは上半身を起き上がらせて言う。
【そうだ、崇め称えよ!】
すると、コクヨウはフンと鼻息を吐いた。
【ただのパン泥棒ではないか】
【パン泥棒じゃないっ! ダンデラオー神殿に無断で入った代償として、入ってきた奴らからパンを回収していただけだ!】
プリプリ怒るランドウに、テンガとルリは慌てる。
【アニキ! パン泥棒の神様が怒ってるすよ!】
【け、ケンカだめ……】
しかし、コクヨウはランドウを相手にするつもりはないようで、ふいっと顔を逸らした。
【無視すんなー!】
足を踏み鳴らすランドウに、氷亀のザクロが尋ねる。
【神様って言うからにゃ、何か特別な力があるんですかい?】
【……ん? あぁ、当然だ! 姿を消せるんだぞ。このようにな!】
俺がしまったと思った時には、ランドウの体が徐々に消えていく。
それに興味を持ったコハクが、ランドウに向かって走り出した。
「あ、待ってコハク、触っちゃ……あぁぁぁ」
俺の制止は間に合わず、ランドウに飛び乗ったコハクまで透明になる。
ダンデラオーには透明になる能力があり、触れた者にも範囲は限られるが有効である。
その特殊な能力ゆえに、古代の人々はダンデラオーを神様として崇めていたのだ。
ランドウの能力を目撃したことのあるコクヨウとルリは驚かなかったが、それ以外の召喚獣は「おぉぉ」と驚嘆の声を上げた。
幽霊が苦手なステラ姉さんは目を大きく見開いて、震える指でランドウのいた場所を指さす。
「ランドウとコハクが……き、消えて……」
そう呟き、顔面蒼白でフラリと椅子の背もたれに倒れる。
あぁ、能力を見せるにしても、説明してからにしようと思っていたのに。
アンリ義兄さんはステラ姉さんを支えつつ、ランドウの消えた場所を見つめる。
「フィル殿下、これは……」
「透明になることが、ランドウの能力なんです。幽霊とかじゃないので、ステラ姉さま、安心してください。ランドウも元の姿に戻って」
先ほどいた場所に声をかけると、ランドウとコハクが姿を現した。
【どーだ! すごいだろ!】
ランドウが自慢げに胸を反らすと、なぜかコハクまで横に並んで同じポーズをした。
【神様すごいっす! 消えてたっす!】
【本当です! 見えなかったです!】
【こいつぁ、驚いた!】
テンガとホタルとザクロが感心するので、ランドウはますますご満悦だ。
そんな召喚獣たちを見つめていたアルフォンス兄さんが、俺に視線を向ける。
「なるほど。このランドウが、例の『遺跡の幽霊』と呼ばれていた動物だね?」
アルフォンス兄さんの言葉に、アンリ義兄さんが小さく息を呑む。
「そう言えば、フィル殿下から委員会へ報告していただいた内容で、遺跡でパンなどの食料がなくなるのは、透明になる動物の仕業だったと聞きました。それが……この動物ですか?」
「話には聞いていても、実際に目の前で透明になられると驚きますわね」
アンリ義兄さんとステラ姉さんは、未だ得意げな様子のランドウをまじまじと見つめる。
「フィル様、ランドウの透明になる範囲、広がってませんか? 前は持っていたパン袋までは、透明になっていませんでしたよね?」
カイルに尋ねられ、俺は腕組みをして小さく唸る。
「そうなんだよね。僕の召喚獣になってから、力が強くなっちゃったみたい」
【フィルは様々な属性と相性がいい。この者とも相性が合ったみたいだな】
コクヨウが後ろ足で耳を掻きつつ、教えてくれる。
なるほど、属性が関係していたのか。全ては把握しきれてないけど、俺には相性のいい属性がたくさんあるみたいだからな。
そう納得して、俺がランドウの頭を撫でていると、ステラ姉さんは頬に手を当て物憂げなため息をついた。
「またすごい能力の動物を召喚獣にしましたのね。本当、お父様の気苦労が絶えないですわ」
やっぱりそうだろうか。伝承の獣であるコクヨウや精霊のヒスイと契約した時も、希少な動物であるウォルガーを召喚獣にした時も、何か頭を抱えていたもんなぁ。
……とりあえず、ランドウが古代の神様だってことは内緒にしておこう。
◇ ◇ ◇
別荘に到着した翌日。アンリ義兄さんの提案で、ティルン羊の牧場に向かうことになった。
アンリ義兄さんとアルフォンス兄さん、俺とカイルを乗せ、ティルン羊の羊車はのんびりと進んでいる。
ルリに乗って移動したほうがきっと速いのだろうが、羊車に乗れる機会はそうないので、乗らせてもらうことにした。
乗り心地としては、馬車とそんなに変わらない。いや、スピードは馬より遅い。
でも、そのゆったり加減が、とても贅沢な感じがした。
羊車の外から聞こえてくる「ムー」というティルン羊の鳴き声も、思わずほっこりする。
俺の膝の上にいるコクヨウも、すっかりお昼寝モードだ。
それにしても……と、真向かいでニコニコと微笑むアルフォンス兄さんを見つめた。
「アルフォンス兄さま、国に帰らなくて大丈夫なんですか?」
昨日俺を存分に甘やかしたので、満足したらすぐに帰るのかと思ったのだが、しばらく別荘に滞在するらしい。
対抗戦が終わったのに帰って来なかったら、父さん心労で倒れちゃうぞ。
まぁ、そういう俺も、アルフォンス兄さんのことは言えない立場なんだけどね……。
今回の対抗戦で目立ちすぎた件で、父さんから分厚いお手紙を頂戴したばかりだ。
ランドウのことは内緒にしてるのに、あの分厚さだもんなぁ。
「アルフォンス兄さまが帰らなかったら、父さまが心配なさるんじゃありませんか?」
そう言うと、アルフォンス兄さんはにっこりと微笑んだ。
「平気だよ。このまましばらくティリアの別荘に滞在しながら、ドルガドと交渉する予定だから」
「ドルガドと……交渉って、何のですか?」
「同盟国になれないかなって」
「……同盟国?」
意外な話に、俺は目を丸くする。アルフォンス兄さんは、アンリ義兄さんを一瞥して言った。
「今回の対抗戦で、ドルガド・ティリア・ステアとの友好関係が上手く築けただろう? うちの国はティリアやステアと同盟を結んでいるから、ドルガドともいい機会だと思ったんだ」
「確かに、ドルガドが同盟国となってくれれば、とても心強いとは思いますが……」
ドルガド国の軍人が精鋭ぞろいなのは、他国にも知れ渡っていることだ。同盟を結ぶだけでも、他国から侵攻される確率が低くなる。
「でも、ドルガド側が受けてくれるでしょうか?」
ステアやティリアはドルガドの隣国だけど、うちの国は大陸すら違う小国だしなぁ。
だが、その質問にアルフォンス兄さんは穏やかな顔で答える。
「そこでうちの特産である乾物だよ。ドルガドは火山国で、天災による食糧難が時々起こるのは知っているだろう? うちの乾物は種類が多くて品質も良いから、備蓄に最適だと思わないかい?」
「あ……なるほど」
俺が開発に関わった乾物商品は、『日干し王子印』として他国では高値で取引されている。
だが、それ以外の安価な乾物であっても、他の国で作る乾物に比べて品質が良く、保存期間も長い。きっと、備蓄に適していると思う。
「でも、国の備蓄となるとかなりの量になりますよね。輸送はどうなさるんですか?」
俺が尋ねると、アルフォンス兄さんはいたずらっぽい目をした。
応援ありがとうございます!
27
お気に入りに追加
29,331
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。