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1巻

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   プロローグ


「わたしのお腹の中にはスティーブ様との子がいるんですぅ! だから、あなたはスティーブ様と別れて、ここから出て行ってください!」

 わたくしはこのお花畑脳の女の言っていることを、一瞬理解できませんでした……


   ◆ ◆ ◆


 皆様、はじめまして、ごきげんよう。
 わたくしはシャーロット・サンチェス。
 ベネット王国の筆頭貴族であるサンチェス公爵の一人娘でございます。
 そんなわたくしの旦那様は、スティーブ・サンチェス。元はトンプソン伯爵の次男です。
 金髪に緑の瞳と見た目だけはうるわしいですが、ものすごくお馬鹿さんなのです。
 何故そんな彼と結婚したかというと……わたくしと旦那様の祖父達の口約束が現実となってしまったからです……
 わたくしと旦那様の祖父達は古くからのお友達で、元々は自分達に同じ年頃の男女の子が生まれれば結婚させようという話でした。
 しかし、祖父達には男の子しか生まれなかったので、その話はなくなりました。
 それから時は経ち、わたくしと旦那様が生まれ、まだその時当主だった祖父達が「子供の代わりに孫達を結婚させよう」と、婚約を結んでしまったと……
 わたくしとしては、もっと頭のよい人と結婚したかったですわ。わたくしがいくら補佐したとしても旦那様がアレでは……不安しかありません。
 おじい様達は旦那様を公爵家当主にするようにと約束したようですから。
 このままではお馬鹿さんが由緒正しい我が公爵家の当主になってしまうので、婚約についてはおじい様をうらみますわ。もうちょっとわたくし達が大きくなってから考えて、婚約を決めてほしかったです。まあ、過去を嘆いていても仕方がないのでやめますが……
 そんな不安と不満はありますが、旦那様とは仲睦なかむつまじくとはいかないものの、よくやっていると思っていました。貴族の間では、愛のない政略結婚はよくあるお話ですから。
 ――問題が起こったのは、わたくしが妊娠し、出産間近となった日のことでした……




   第一章


 わたくしは出産間近でしたが、サンチェス公爵家の屋敷の執務室で仕事をしていました。
 本来なら旦那様であるスティーブの仕事なのですが、彼は他の仕事で精一杯なようなので、わたくしがするしかないのです。

「シャーロット様、一休みしてはいかがでしょうか?」

 そう声を掛けてきたのはわたくしの専属の侍女、ジナです。
 いつもわたくしが疲れたなと思った時に声を掛けてくれます。

「ありがとう、ジナ。それじゃあ一休みしようかしら」
かしこまりました」

 そう言って、ジナは手際よく紅茶をれてくれます。
 ジナのれる紅茶は本当に美味おいしいですわ。
 わたくしが紅茶を味わいつつ休憩していると、執事長のセバスが来ました。

「シャーロット様、ご報告したいことが……」
「何? セバス?」
「今、屋敷の前で男爵令嬢が、シャーロット様に会わせろと騒いでいます。お約束もないので私どもは追い返したいのですが、言っていることが少々気になりまして……」
「何を言っていたの?」
「シャーロット様に直接話すと申しております。何やらスティーブ様に関係することだということでして……」
「スティーブの? はぁ、面倒事はやめてほしいのだけれど……。仕方ないわね、会ってみるわ」
かしこまりました。では応接室へご案内いたします」

 セバスは一礼して出て行きました。ジナは心配そうな目でわたくしを見ています。

「シャーロット様、よろしいのですか?」
「しょうがないじゃない……。何をしでかしたのか聞いてみないと。もし、なんでもない話ならそれに越したことはないけれどね……」

 これから起こることに、わたくしはひしひしと嫌な予感がしたのでした。


 さて、セバスが例の男爵令嬢を応接室にご案内したというので、会いに行くことにします。

「はぁ、自分で会うと言ったけれど、なんだか憂鬱ゆううつね……」
「それはそうでございましょう。応接室には私とジナ、護衛も一緒に控えます。身重のシャーロット様に何かあっては大変ですから……」
「そうね、助かるわ」

 セバスとそんな会話をしていると、応接室に着きました。
 中には可愛らしい雰囲気の女性がいました。ピンクの髪にピンクの瞳。思わず守ってあげたくなるような容姿です。
 なんの用かはわかりませんが、わたくしはその令嬢に挨拶あいさつをします。

「お待たせしてごめんなさいね。わたくしがシャーロット・サンチェスですわ」
「わたしはマイア・キャンベルですぅ。今日はお話があって来ましたぁ」

 なんだか話し方がイラつきますわね……。まあ、顔には出しませんが。

「なんの御用で?」
「じゃあ言っちゃいますねぇ。わたし、スティーブ様の子を身籠みごもったんですぅ」

 ――はあ? なんですって⁉
 わたくしだけではなく、セバス達も驚いています。
 そんなわたくし達に、キャンベル男爵令嬢は勝ち誇ったように続けました。

「驚くのも当然ですよね! でも、本当のことなんですぅ」

 はぁ、悪い予感が当たりましたわ……

「それで、あなたの発言だけでお腹の子が旦那様の子供だとは証明できませんが……。一体何が目的でわたくしに話をしに来たのです?」
「わたしの子はスティーブ様の子ですぅ! だってわたし達は愛し合っているんですもの! わたしに子供ができたらあなたと離縁して、わたしを公爵夫人にするって言ってましたぁ!」


「……なんですって?」

 キャンベル男爵令嬢の発言に、わたくしは眉をひそめます。
 まあ、別にわたくしはスティーブが誰を愛そうと構いませんが……離縁して、公爵夫人にする?

「一体何をおっしゃっているの? 離縁はまだしも、公爵夫人? あなたが? なれるわけありませんわ」
「なんでですかぁ! スティーブ様と結婚したら、わたしが公爵夫人じゃないですかぁ~。だからわたしがなるんですぅ」
「何を勘違いされているかわかりませんが、スティーブと結婚してもなれませんよ、公爵夫人には」

 この公爵家はわたくしの実家。わたくしとスティーブが離縁したら、スティーブのほうが家を出されるに決まっています。
 それなのに、男爵令嬢は言い続けます。

「わたしのお腹の中にはスティーブ様との子がいるんですぅ! だから、あなたはスティーブ様と別れて、ここから出て行ってください!」

 わたくしに出て行け?
 はっ! どの口が言っているのでしょうかね? もう付き合うのはやめましょう。

「本当に失礼な人ね。セバス、お帰りいただいて」
かしこまりました」

 キャンベル男爵令嬢をセバスに任せ、わたくしは応接室から出て行こうとしました。もう話すことはないと。
 けれどキャンベル男爵令嬢は不満そうに声をあげます。

「なんでですかぁ~。わたしはスティーブ様が帰ってくるまで待っていますぅ」
「お帰りください、もうあなたとは話すこともありませんし、ここはわたくしの家。旦那様でも好き勝手できません」
「なに、それ?」

 彼女は意味がわからず混乱したのか、今までの話し方とは違い、思わず素が出たようにつぶやいています。
 わたくしは今度こそ振り返らずに、応接室の外に出ました。

「キャンベル男爵令嬢にお帰りいただいて」

 待機していた侍女達にそう言いつけると、わたくしはジナとともに執務室へ戻りました。
 椅子に腰掛け、わたくしは先程の出来事を整理します。

「はぁ……」
「シャーロット様……」

 思わずため息をこぼしたわたくしを、ジナが心配そうに見ています。
 安心させるように、わたくしは小さく微笑みました。

「ジナ、紅茶をれてくれる?」
かしこまりました」

 ジナは紅茶の準備を始めました。
 さて、どうしましょうか? まず、本当に浮気があったのか調査しなくては……
 けれど、わたくしは身重です。自分であちこち行くことはできません。
 お父様にご協力をお願いしましょうか? いえ、あのマイアという男爵令嬢の嘘という可能性もまだありますわ。お父様にこれを伝えると、家をあげての大騒ぎになってしまいます。お父様に言うのは、もう少し何かがわかってからにしましょう。
 わたくしが考え込んでいると、ノックの音がしたあとにセバスが部屋に入ってきました。

「シャーロット様、キャンベル男爵令嬢にはお帰りいただきました。これからキャンベル男爵令嬢はこの公爵邸には一切入れないようにいたします」
「そう。そのほうがいいわ。……あと、今日のことを知ったらお父様はとても怒るだろうから、まだ言わないでくれるかしら? 真実かどうかもわからないことで、忙しいお父様をわずらわせたくないわ」
「では、そのように……」

 これは、セバスも相当怒っているわね……

「はぁ……」

 また、ため息が自然と出てしまいました。
 先程まではキャンベル男爵令嬢――改めマイアだとかいう女に負けないように気丈きじょうに振る舞ったけれど、どんどん気分が落ち込んでいきます……

「シャーロット様……」

 セバスが心配そうな顔でわたくしを見つめていました。

「セバス……。思ったよりもショックだわ……」
「……」

 何も言えない様子のセバスに、わたくしは話を続けます。

「最初に、何故? という思いがいてきたの……。わたくし達は幼い頃に婚約が決まってから、ずっと一緒にいた。確かにスティーブに対して、不安や不満があったわ。だけど、それは、スティーブにこのサンチェス公爵家に相応ふさわしい人になってほしいという期待があったから……。少しお馬鹿なところもあるけれど、ちゃんと優しくてわたくしのことを大切にしてくれていると思っていたわ。おじい様達が決めた婚約だけど、最終的にスティーブと生涯を共にすると決めたのはわたくしよ。……それなのに」

 今日、それがガラガラと崩れ落ちていくような気がしました……
 今まで自分が裏切られるなんて思いもしませんでしたわ。
 これまでのスティーブとの時間はなんだったのでしょう?
 わたくしだけが上手うまくいっていると思っていたの?
 スティーブはいつからあの女と浮気をしていたの?
 ……いや、まだスティーブが浮気をしているかはわからない。決まっていないわ。
 だけど、もし浮気が本当なら……何故スティーブは浮気をしたの?
 わたくしはスティーブに何かしてしまったのかしら?
 思考はどんどん暗いほうに向かっていきます。

「シャーロット様……こちらをどうぞ」

 セバスは、わたくしにハンカチを差し出しました。わたくしは無意識に涙を流していたようです……
 セバスからハンカチを受け取り、涙をぬぐいます。だけど、拭いても拭いても涙があふれてきました。
 人前で泣くなんて淑女として失格なのに、涙が止まってくれません……
 しばらくすると、パタリと扉が閉まる音が聞こえました。
 多分、セバスが気をかせてわたくしをひとりにしてくれたのでしょう。
 今はわたくしのそばには誰もいない……
 わたくしはそれから、静かに涙を流し続けたのでした。


 ――ひとしきり泣いたあと、涙は落ち着きましたわ。
 大人になってから、こんなに泣いたのははじめてです。
 だけど、たくさん泣いたあとにやってきた感情は、不安……
 スティーブがもし……もし本当に浮気をしていて、あの女の言う通りだったら、わたくしやこの子はどうなるの?
 これからわたくしはスティーブとどうやって過ごせばいいの?
 考えすぎて頭が痛くなってきました。
 すると、またトントントンと扉をノックする音が聞こえます。
 わたくしは一度息を深く吸って吐くと、それに応えます。

「……どうぞ」
「失礼いたします……」

 そう言って入ってきたのはジナでした。

「シャーロット様、のどが渇きませんか?」

 ジナはニッコリと優しく笑うと、わたくしの大好きな紅茶をれてくれます。
 そういえばジナに紅茶を頼んでいましたわ……
 きっとわたくしが泣いていたのに気づいて、そっとしておいてくれたのだろうと思います。

「シャーロット様、私が愛情を込めてれた紅茶です! これを飲めば、少しだけ、少ーしだけ元気になりますよ」

 ジナはわたくしの前に温かい紅茶を置きました。
 わたくしは紅茶が入っているティーカップへと手を伸ばして、一口こくりと飲みます。
 その途端に、のどが渇いていたことに気づきました。
 あんなにたくさん泣いたんですもの、のども渇きますよね。
 一口、また一口と飲むと、体が温まってきます。
 先程までは暗い気持ちに呑まれるように、体までもが冷たくなっているように思えました。
 だけど、ジナの愛情が込められた紅茶を飲むと、心が少しだけ軽くなった気がしたのです。

「……ジナ、美味おいしいわ」

 自然と笑みがこぼれました。

「シャーロット様、それはようございましたわ!」

 わたくしの表情を見て、ジナも少しホッとしたように笑顔を見せてくれます。
 少しだけ、弱音を吐きたくなりました。きっとジナなら許してくれるでしょう……

「ジナ。今日、スティーブを前にしても平然としていられるかしら……? まだ、直接聞く勇気はないの……」
「シャーロット様……」
「ごめんなさい、少し、少しだけ弱音を吐きたくなったの……」

 再びジナに心配そうな顔をさせてしまったわ。
 これではいけません……。スティーブが帰ってくるまでに、気持ちを切り替えなければ……
 だから自分に言い聞かせるよう、言葉を紡ぎます。

「大丈夫、きっと大丈夫よ。わたくしはこのサンチェス公爵家の一人娘。立派な淑女よ。スティーブに向き合わないと……」

 そう言うと、自分の中で何かが変わったように思えました。
 これでスティーブの前でも取り乱すことなく、いつものわたくしでいられる気がします。
 ――大丈夫、きっと大丈夫。
 そう心の中で何度も唱えました。


 その日の夜、スティーブは何事もないような顔をして帰ってきました。

「ただいま、シャーロット。いや~、仕事が大変で疲れたよ」
「そうでございますか。それはご苦労様ですわ」

 わたくしはいつものように笑顔でスティーブを迎えます。
 本当はマイアという女のことを問い詰めたいですが、言い出せません……
 わたくしがモヤモヤとした感情を笑顔で隠していることにスティーブは気づかず、呑気のんきに問いかけてきます。

「シャーロット、体調はどうだい? お腹の子も元気かい?」
「はい、わたくしは大丈夫ですわ。それにお腹の子も元気に動いています」

 スティーブはわたくしのお腹に触り、「元気に生まれてこいよー」と声をかけます。
 本当に、スティーブはわたくしとの子が生まれることを望んでいるのでしょうか?
 それに、あなたの子を身籠みごもっているのはわたくしだけではないのでは?
 そんな思いがあふれてきます……。だけど、わたくしはなんとか幸せそうに微笑みました。

「元気に生まれてきてくださいね」

 わたくしもそう言い、スティーブと笑い合います。はたから見たら、幸せそうな家族でしょう。
 しかし、現実は違います。
 わたくしはマイアが来た時から、モヤモヤとした気持ちでいっぱいです。今も……
 わたくしがそう考えていると、スティーブが突然思い出したように口を開きました。

「ああ、そういえば、一週間後に出張が決まったんだ」
「えっ?」
「すまない、どうしても断れなくてね……」

 スティーブはすまなそうな顔をしています。
 本当にすまないと思っているのでしょうか? そんな気持ちが自然とき上がってきます……

「どうして、出張なんてするのですか? あなたの仕事には出張なんてありませんよね?」

 少し言葉に詰まったけれど、スティーブに問いかけます。

「っ⁉ そ、それは、ほら、僕の実家の領地があるだろう? そこで新しく国の公共事業をするから、手伝いに行くんだ!」

 ……国の公共事業?
 今のスティーブの言い訳じみた言葉に、ハッとしました。
 スティーブの仕事は王城の文官で、出張などありません。
 それに、お父様がスティーブのお馬鹿さ加減を考慮して、そんなに重要でない仕事を斡旋あっせんしたと言っていたから、忙しくなるなどありえない……
 だけど、不思議なことに、最近は忙しいと言って登城とじょうしたきり帰ってこない日が何度かありましたわ。その時にあの女と会っていたのではなくて?
 一度そう思うと、スティーブに対しての疑いは深まるばかり。
 それに、出産間近のわたくしをおいて出張に行く?
 自分の子がはじめて産まれるのに、心配じゃないのでしょうか?
 そう思ったので、素直に気持ちを言ってみます。

「そうなのですか? でも、わたくしは出産間近なのですよ? あなたが出張に行く必要は本当にあるのでしょうか……?」
「それはわかってくれ。仕事なんだよ」
「だって、わたくし初産ういざんで不安なのですもの……。そばにいてほしいですわ……。そうだ! お父様に頼んで出張を別の者に変えてもらいましょう!」
「そんなことしなくていい! 僕は出張に行く。君は余計なことをするな! お義父とう様に言うなんてこと、絶対にしてくれるなよ」

 わたくしの提案に、スティーブが声を荒らげます。
 そんなに怒ることでしょうか? それほどまでにお父様に話されるのが嫌なのでしょうか?
 そして、さらに驚くことをスティーブは言いました。

「それと、明日も仕事が忙しくて帰ってこられそうにない」
「っ⁉」

 明日も帰ってこられないですって⁉
 何かが、わたくしの中にき上がってきます。
 それは先程までの悲しい気持ちや不安な気持ちではなく、明らかないかりでした。
 スティーブはわたくしのことをなんだと思っているのでしょうか?
 初産ういざんを控えた妻がいるのに好き勝手に行動して、理由は仕事だからの一点張り。わたくしに寄り添おうともしない。本当に仕事なら仕方がないと諦めますが、この人には浮気の疑惑があります。それに疑惑の有無にかかわらず、この態度はありえません。
 けれどふつふつとき上がるいかりを抑えて、理解のある妻を演じます。

「わかりましたわ……。出張、気をつけて行ってらっしゃいませ。それと、明日もお仕事頑張ってくださいまし」
「ああ、最初からわかってくれ。仕事なんだから」
「……」

 あー、イラつきますわね! その言い方はなんなのです! 本当に何様なのでしょうか⁉
 まあいいですわ……。わたくしはわたくしで動きましょう……

「トンプソン領に行くのでしたら、お義父とう様とお義母かあ様によろしくお伝えください」
「わかった」

 本当はどこへ向かうかわかりませんが、今はスティーブの前では大人しく微笑んでいましょう……


 スティーブが自室に戻ったことを確認したあと、わたくしは自分の執務室へ向かい、行動を始めました。
 もちろん、先程のイライラした気持ちをおさめるために、ジナに紅茶を頼みます。ジナはすぐさま紅茶をれてくれました。
 紅茶を飲んで気持ちを落ち着かせながら、これからすべきことを考えます。
 まず、スティーブが本当に浮気をしているかの調査。もし浮気をしていたなら、それはいつからなのか? これはセバスにお願いしましょう。
 それと、スティーブの仕事について。
 家に帰れないほど忙しくなったり出張があったり、どう考えても怪しいです。
 今回のトンプソン領での国の公共事業だって、本当にあるのかどうかすら疑わしい……けれど、王宮に行かないわたくしには、スティーブの仕事内容を全て明らかにするのは不可能です。
 お父様に聞けばわかるでしょうが、それはまだ避けたい……それならば、この国で二番目に権力のあるレティお姉様に聞いてみましょう。
 レティお姉様なら王宮の仕事のことや、国の公共事業のことは知っているはずです。
 そう決めたら、早速レティお姉様に手紙を書きます。


『レティお姉様へ
 お久しぶりでございます。近頃はどうですか? お忙しいかと思いますが、体調など崩されていませんか?
 わたくしは日々お腹が大きくなり大変ではありますが、幸せを感じる日々を過ごしています……
 ですが、ひとつだけ心配なことがございますの。わたくしの夫であるスティーブのことです……
 最近、スティーブはお仕事が忙しく、家へ帰ってこられない日がありますの。
 わたくしがスティーブの仕事に口を出すのははばかられるので、レティお姉様が知っていることをこっそりと教えてくださいませんか?
 もしかしてスティーブの多忙は、トンプソン伯爵領でおこなわれるという公共事業が原因でしょうか……?
 身勝手な話で申し訳ないのですが、お返事、お待ちしております。
 シャーロット』


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