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01-膝の上でおねだりしてみましょう。
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「じゃあさ、お前が鎮めてよ。このカラダ……」
『お前には関係ないだろ』と言うかわりに、俺はそう口にした。
これが他の誰かなら、もっと簡単に突っぱねられたのに。
「今夜、俺が誰と寝るのか、知りたいんだろ? そういうこと聞いちゃうのって、マナー違反なんだよね」
そう言いながらソファーに座る大悟に擦り寄ると、何食わぬ顔でその膝に乗りあがった。
あ、すごい。大悟の筋肉だ。
腿の裏から尻にかけて触れる、ボトム越しの硬い感触に、うっかりときめいてしまいながらも俺はその先を続けた。
「でもさ、お前が俺の相手をすれば、わかるじゃん。村谷幸成が誰と寝たのか。イヤでも、ハッキリとさ」
なにが起ころうとしているのか、いまだ理解が追いついてなさそうな大悟の肩に両手を置いて、そっと身を寄せた。ここまですれば、さすがの大悟でもわかるはずだ……たぶん。
でも、まだ触れない。寸止めにしておく。
いま触れたら絶対にバレてしまうから。
俺の心臓が破裂しそうな勢いで昂ってることが。
本当なら、いま頃は、久々に訪れた例の店で適当な男を見繕っているはずだった。
それなのに今夜、この部屋へ遊びに来たのは、ひとえに俺の性的嗜好を、唯一無二の親友、西原大悟に知られたくなかったからだ。
予定していた家庭教師のバイトが延期になったからと、大悟からDVD鑑賞に誘われてしまっては、今夜の男漁りは中止にせざるを得なかった。用事をなくした大悟と、偶然街中で出くわすなんてことが、万が一にもないとは限らない。漁った男を大悟に見られるなんて、たとえ誤魔化せたとしても嫌だった。
これまでも、男漁りをするときには必要以上に気を配ってきた。そのせいで、前回の男漁りからずいぶんとあいだがあいてしまった。もう半年はご無沙汰だろうか。
受験に引っ越し、慣れない大学生活も加わって、ただでさえ忙しくしていたところへ、互いに変化続きだった大悟の生活パターンが読めなくなっていたせいだ。
なかなかチャンスも見つけられず、我慢に我慢を重ねた結果、もう俺の身体は限界だった。
だからって、こんな風に大悟に迫るつもりはまったくなかった。むしろ、こうならないように警戒すらしていたんだ。
大悟にだけは手を出さない。ずっとそう決めていたはずなのに……。
「俺のこと、見てればわかるんだろ? なら、いまの俺がどれだけ発情してるかもわかるよな?」
そう言いながら、さっき言われた数少ない大悟の言葉を思い出す。
『田崎先輩とヨリを戻すのか』
『じゃあ誰と寝るんだ』
『でも、そろそろだろ』
田崎とのことも、数ヶ月ごとに男が欲しくて堪らなくなることも、そのたびに適当な男と寝てたことも……俺が隠すまでもなく、大悟は全部知っていたんだ。
いつから気づいてたんだと、みっともなく震える声で問い詰めた俺への答えは、『高一の秋。お前がバスケ部やめたあとから』 という衝撃的なものだった。
ほぼ初体験からじゃねぇか。
俺のなにを見て『わかる』と言うのか。
隠しきれていると思い込んでいた俺には、その根拠に心当たりはなかったが、大悟は嘘もつかなければ、いい加減なことを言う男でもない。この分じゃ、俺がセックスに溺れてたあの最初の八ヶ月間のことも知られていると思っておいたほうがよさそうだ。
「嫌ならそう言ってくれ。いつも通り他所を当たるから」
嘘だ。そんなこと、できるわけがない。大悟に知られていながら男漁りに行くなんて……。
俺が発情してることに気づくというなら、きっと、俺がスッキリしたことだってバレるに決まってる。翌朝、大悟と顔を合わせた途端に『ああ、やってきたのか』と思われるだなんて耐えられない。
俺が知らなかっただけで、いままでずっとそうだったっていうことは、この際もう考えない。ていうか、そうやって意識から追い出してなきゃ、もう大悟のそばにはいられなくなる。
だって、あまりにも恥ずかしすぎるだろ。
大悟に知られてるいま、男漁りができなくなったというのであれば、俺に残された選択肢は、男漁りをキッパリやめるか、もしくは、大悟と会うのを諦めるか、だ。
いや、どっちも無理だ。
やめられるものなら、男漁りなんてとうにやめている。身体の奥の疼きに堪えきれなかったから、田崎だなんて厄介なヤツにつきまとわれる羽目に遭ってるんじゃないか。
それに、大悟に会わないでいるのも無理だ。俺にとって大悟と会わないでいることは、息をしないでいることと同じなんだから。
アレもダメ。コレもダメ。
じゃあ、どうするか。
親友には手を出さない、という大前提を覆す。
そして、男漁りで得ていた『男』を親友で補う。
つまり、大悟をセフレにすればいい。
ちょっと安易すぎかとも思ったけど、考えれば考えるほどいいアイデアに思えてきた。これなら男漁りにつきまとうデメリットもなくなるし、大悟と二人でスッキリするなら、知られて恥ずかしい思いもしなくて済む。
大切な親友をゲイの道に引きずり込むのか?
そんなことも、確かに考えた。
けど、仕方ないだろ?
大悟とは離れられない。
男ナシでもいられない。
俺には、他に選択肢がないんだから。
「お前は何もしなくていいから……じっとしてろよ」
選択肢がないからって、こんな暴挙に出て……もし大悟が拒絶したら、俺はどうしたらいいんだろう。
もしそうなったら、俺は親友を失うのか。息のつける、ただひとつの居場所を失くすんだ。
怖い。
でも、いまさら後戻りもできない。
覚悟を決めた俺は大悟の胸に寄りかかり、拒まないでと願いながらその太い首に抱きついた。
はや過ぎる鼓動も、バレるならバレてしまえ。
そんなことよりも……弾力のある硬い胸板に気を取られて、早くも息があがりそうだった。
『お前には関係ないだろ』と言うかわりに、俺はそう口にした。
これが他の誰かなら、もっと簡単に突っぱねられたのに。
「今夜、俺が誰と寝るのか、知りたいんだろ? そういうこと聞いちゃうのって、マナー違反なんだよね」
そう言いながらソファーに座る大悟に擦り寄ると、何食わぬ顔でその膝に乗りあがった。
あ、すごい。大悟の筋肉だ。
腿の裏から尻にかけて触れる、ボトム越しの硬い感触に、うっかりときめいてしまいながらも俺はその先を続けた。
「でもさ、お前が俺の相手をすれば、わかるじゃん。村谷幸成が誰と寝たのか。イヤでも、ハッキリとさ」
なにが起ころうとしているのか、いまだ理解が追いついてなさそうな大悟の肩に両手を置いて、そっと身を寄せた。ここまですれば、さすがの大悟でもわかるはずだ……たぶん。
でも、まだ触れない。寸止めにしておく。
いま触れたら絶対にバレてしまうから。
俺の心臓が破裂しそうな勢いで昂ってることが。
本当なら、いま頃は、久々に訪れた例の店で適当な男を見繕っているはずだった。
それなのに今夜、この部屋へ遊びに来たのは、ひとえに俺の性的嗜好を、唯一無二の親友、西原大悟に知られたくなかったからだ。
予定していた家庭教師のバイトが延期になったからと、大悟からDVD鑑賞に誘われてしまっては、今夜の男漁りは中止にせざるを得なかった。用事をなくした大悟と、偶然街中で出くわすなんてことが、万が一にもないとは限らない。漁った男を大悟に見られるなんて、たとえ誤魔化せたとしても嫌だった。
これまでも、男漁りをするときには必要以上に気を配ってきた。そのせいで、前回の男漁りからずいぶんとあいだがあいてしまった。もう半年はご無沙汰だろうか。
受験に引っ越し、慣れない大学生活も加わって、ただでさえ忙しくしていたところへ、互いに変化続きだった大悟の生活パターンが読めなくなっていたせいだ。
なかなかチャンスも見つけられず、我慢に我慢を重ねた結果、もう俺の身体は限界だった。
だからって、こんな風に大悟に迫るつもりはまったくなかった。むしろ、こうならないように警戒すらしていたんだ。
大悟にだけは手を出さない。ずっとそう決めていたはずなのに……。
「俺のこと、見てればわかるんだろ? なら、いまの俺がどれだけ発情してるかもわかるよな?」
そう言いながら、さっき言われた数少ない大悟の言葉を思い出す。
『田崎先輩とヨリを戻すのか』
『じゃあ誰と寝るんだ』
『でも、そろそろだろ』
田崎とのことも、数ヶ月ごとに男が欲しくて堪らなくなることも、そのたびに適当な男と寝てたことも……俺が隠すまでもなく、大悟は全部知っていたんだ。
いつから気づいてたんだと、みっともなく震える声で問い詰めた俺への答えは、『高一の秋。お前がバスケ部やめたあとから』 という衝撃的なものだった。
ほぼ初体験からじゃねぇか。
俺のなにを見て『わかる』と言うのか。
隠しきれていると思い込んでいた俺には、その根拠に心当たりはなかったが、大悟は嘘もつかなければ、いい加減なことを言う男でもない。この分じゃ、俺がセックスに溺れてたあの最初の八ヶ月間のことも知られていると思っておいたほうがよさそうだ。
「嫌ならそう言ってくれ。いつも通り他所を当たるから」
嘘だ。そんなこと、できるわけがない。大悟に知られていながら男漁りに行くなんて……。
俺が発情してることに気づくというなら、きっと、俺がスッキリしたことだってバレるに決まってる。翌朝、大悟と顔を合わせた途端に『ああ、やってきたのか』と思われるだなんて耐えられない。
俺が知らなかっただけで、いままでずっとそうだったっていうことは、この際もう考えない。ていうか、そうやって意識から追い出してなきゃ、もう大悟のそばにはいられなくなる。
だって、あまりにも恥ずかしすぎるだろ。
大悟に知られてるいま、男漁りができなくなったというのであれば、俺に残された選択肢は、男漁りをキッパリやめるか、もしくは、大悟と会うのを諦めるか、だ。
いや、どっちも無理だ。
やめられるものなら、男漁りなんてとうにやめている。身体の奥の疼きに堪えきれなかったから、田崎だなんて厄介なヤツにつきまとわれる羽目に遭ってるんじゃないか。
それに、大悟に会わないでいるのも無理だ。俺にとって大悟と会わないでいることは、息をしないでいることと同じなんだから。
アレもダメ。コレもダメ。
じゃあ、どうするか。
親友には手を出さない、という大前提を覆す。
そして、男漁りで得ていた『男』を親友で補う。
つまり、大悟をセフレにすればいい。
ちょっと安易すぎかとも思ったけど、考えれば考えるほどいいアイデアに思えてきた。これなら男漁りにつきまとうデメリットもなくなるし、大悟と二人でスッキリするなら、知られて恥ずかしい思いもしなくて済む。
大切な親友をゲイの道に引きずり込むのか?
そんなことも、確かに考えた。
けど、仕方ないだろ?
大悟とは離れられない。
男ナシでもいられない。
俺には、他に選択肢がないんだから。
「お前は何もしなくていいから……じっとしてろよ」
選択肢がないからって、こんな暴挙に出て……もし大悟が拒絶したら、俺はどうしたらいいんだろう。
もしそうなったら、俺は親友を失うのか。息のつける、ただひとつの居場所を失くすんだ。
怖い。
でも、いまさら後戻りもできない。
覚悟を決めた俺は大悟の胸に寄りかかり、拒まないでと願いながらその太い首に抱きついた。
はや過ぎる鼓動も、バレるならバレてしまえ。
そんなことよりも……弾力のある硬い胸板に気を取られて、早くも息があがりそうだった。
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