上 下
1 / 76
(1)コスプレ会場の出会い

着ぐるみ撮影男子、電車で行く

しおりを挟む
 俺を乗せた電車はベイエリアの巨大イベント会場に向かっていた。いまは海面下を走行中であったが、もしこんなところで電車が立ち往生したときの事を考えるととてもブルーになった。

 この時の電車は超満員で変な熱気に包まれていた。乗客は全て通勤通学客ではなくイベントの観客だった。そのイベントはコミックフェスという同人誌即売会だった。なので様々な年齢層が集まっていた。

 もっとも俺が電車に乗っていたのは開幕直前の時間帯だった。本当ならこの時間に行っても限定版同人誌などを我先に買い求めたい連中は徹夜組も出るほどなので、遅すぎるはずだった。

 だが、俺の目的は変わっていた。コミックフェスの同人誌売り場ではなくコスプレ会場の方だった。そこでレイヤーさんたちを撮影するのが趣味だった。そう、いわゆるカメラ小僧という撮影男子だった。

 しかもレイヤーさんでも俺が被写体として狙っていたのは美少女着ぐるみだった。たまに綺麗な女の子のレイヤーに目が留まることもあるけど、写真を撮るのはほぼ着ぐるみさんだった。

 美少女着ぐるみのマスクには本物の人間の表情をしたリアルフェイスとアニメ作品のキャラクターを模したアニメマスクの二つがあるけど、俺が狙うのは後者のほうだった。

 美少女アニメマスク着ぐるみは、二次元であるアニメと実在する人間世界の三次元の間に存在する「2・5次元」と呼ばれたり、「不気味の谷」といった表現もあったが、どちらかといえばコスプレの中でもディープなものといわれていた。

 そう言われるのも不気味なほどアニメのキャラクターに似ているからだ。もちろんオリジナルもあるので一概に言えないが同じ事だった。
 俺が普通のコスプレと違って心惹かれていたのは姿形すらアニメのキャラクターに変身できるところが素晴しいと感じていたからだ。だから写真を撮るのだった。

 着ぐるみさんに対し言われることに「中の人」は存在しないという事だ。実際には中身となる人間はいるのだが、中の正体を明かすことはないからそういわれているのだ。
 また自分よりも背が高い美少女着ぐるみに「中の人」は奴はほとんどが男だと思っていた。もっともそんなことを聞いてもしゃべってくれないし、第一はなしてくれない。中の人はいないからだ。

 そんなこんなを考えながらゲートをくぐり俺は真っすぐコスプレエリアに向った。そこには大勢のレイヤーが闊歩しており、その中にお目当ての美少女着ぐるみも大勢いた。この時、俺はこれから起きる出会いが自分を変えることになるとは思ってもいなかった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

最愛の推しを殺すモブに転生したので、全力で救いたい!

BL / 完結 24h.ポイント:5,489pt お気に入り:2,133

【完結】前世のない俺の、一度きりの人生

BL / 連載中 24h.ポイント:56pt お気に入り:257

嵐は突然やってくる

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:455pt お気に入り:1

猫奴隷の日常

BL / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:793

第4皇妃は可憐な男子~キスしたら皇帝反逆罪⁈

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:301

デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:224

処理中です...