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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【事件篇】

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 こんな馬鹿げた話は、どんなに頭の回転が早い奴でも簡単に飲み込むことなどできないだろう。いや、頭の回転が良く、しかも常識人であればあるほど、簡単に受け入れられるものではない。

 縁はキャリア組であるため、尾崎に比べると明らかに頭の回転が早い。尾崎のように大して考えもしない人間のほうが、実のところアンダープリズンの仕組みの理解は早いだろう。常識的に考えてあり得ないことばかりが横行しているアンダープリズンのことを説明したところで、縁はさらに混乱するだけだ。今は曖昧あいまいに話をはぐらかせ、目の前にあるものをしっかりと把握できるようにしてやったほうがいい。

『確認が取れました。捜査一課、尾崎裕二。同じく捜査一課、山本縁。本人確認のため、身分証明書の提示を』

 二人の視線が自然と倉科に集まる。インターフォンについているカメラを顎でしゃくって「カメラから見えるように提示すればいい」とアドバイスをすると、おずおずとそれぞれ免許証を取り出し、順番にそれをカメラへとかざす。

『どうぞ中へ。尾崎裕二、山本縁の両名は特例による認可のため、一度外に出た時点で認可が無効となります』

 相変わらず融通ゆうづうが利かない。マニュアルに沿っているだけなのであろうが、どうにもお堅い雰囲気が気に入らなかった。外界のよそ者を完全に拒絶しようとする空気があるというか――。まぁ、事実外界と切り離された非現実的な施設であるため、仕方がないのかもしれない。

 鉄扉がゆっくりと開き、二人の刑務官が倉科達を出迎えた。こんなところに迷い込む人間など、システム上はあり得ないのだから、常に出入口に刑務官を配備しておく必要もなさそうだが。

「ご苦労様です!」

 何度来ても変わらない台詞に、彼らの仕事が少しばかり不憫ふびんにさえ思えた。ロールプレイングゲームの村人じゃあるまいし、彼らにも別の台詞を吐かせてみたいものだ。

「あぁ、そっちこそご苦労さん。いつも大変だな」

 ねぎらいの言葉をかけたところで眉間みけんにしわを寄せた刑務官は反応しない。手を後ろで組み、足を肩幅に開いたまま、ただただ鉄扉の向こう側を見つめているだけだ。倉科は溜め息をつくと、刑務官の存在に萎縮いしゅくしたようになっていた尾崎と縁に手招きをする。

 鉄扉が閉じる音と同時に二人が振り向いた。完全に外界から遮断されたような気になっているのだろう。

「心配するな。ここから出られないなんてことはないから。用件が終わったら、さっさと帰るぞ――」
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