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(2)コスプレ会場の舞台裏

基美と紘子

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 成海の指示に従い五人の少女は「アルテミスの美少女たち」のキャラクターの着ぐるみマスクを被り始めた。
 この着ぐるみマスクは一点一点がオーダーメイドで結構な値段がする代物だった。だから志桜里のような学生では購入できそうもない金額がした。もっともアルバイトをしてお金を貯めるという手段もあったが、まだまだリハビリを続けている志桜里には出来ない事だった。

 志桜里は基美のマスクを前後に開いた。基美は亜麻色の髪を後ろで束ねていたがショートカットに近いヘアスタイルだった。そのヘアスタイルは志桜里が高校時代まで自分がしていたものと、よく似ていた。

 その時の髪は不慮の事故で頭部を強打し頭蓋骨に酷い損傷を受けたときに殆ど剃られてしまい失ってしまった。あれから二年して髪は以前よりも長く伸ばしていたが、それもこれも頭の傷跡を隠すためであった。

 基美のマスクを前後に開いて出来た開口部に志桜里が頭を通すとまず顎にかかるように合わせると、後頭部に後ろの部分を合わせ閉じこんだ。すると「カチ」という音がした。マスクはロックされてしまった。
 志桜里の顔は基美の大きな青色の瞳をしたアニメチックなものになったが、そのマスクの下からは志桜里は不思議な感じがした。視界が制限されたからだ。

 人間のキャラクターの着ぐるみの場合。全く見えないというものもないわけではないが、大抵は歩けるように外の景色が見えるようになっていた。ただマスクの外から「内臓」の顔が見えないようにするため限られた視界になっていた。

 成海の用意したマスクの場合、大きな眼球の瞳の白目の境界にマジックミラーのようなスリットがあってボンヤリと外の様子が見えるようになっていた。でも、それでは左右の広い範囲が見えないのでほとんど真ん前の範囲でしか分からない状態だった。だから着ぐるみ姿になった場合、先導役が必要な時もあるほどだった。

 「志桜里・・・あっ、いまは基美なのよねえ。やっぱりかわいいわね」
 そういって抱きついてきたのは紘子のマスクを被った愛梨だった。その行動はどちらかといえば作中で真里亜が基美にするスキンシップだった。作中では基美は真里亜にとって友人でありお姉さんであり恋人であった。
 本当なら真里亜役には愛梨のような事が出来る方がよかったが、あいにく紘子はグラマーな体形という設定なので、中庸な体形の真里亜になる事ができなかった。だから仲が悪い(という設定の)はずの基美と紘子が抱きついている場面は作中世界ではあり得ないことだった。
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