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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【解決篇】
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突然の闖入者に驚いたのは縁だけではなかった。当然ながら、殺人蜂本人もまた、ここで第三者が飛び込んでくるとは思ってもいなかったのであろう。目の前で繰り広げられる殺人蜂と第三者の取っ組み合い。最終的には第三者が殺人蜂を勢い良く突き飛ばした。カラカラと音を立て、アイスピックが部屋の隅へと転がった。
「ごめんね。あいつが本性を現すまで、出てくるわけにはいかなかったんだ」
その第三者は、急いだ様子で縁のほうへと駆け寄って来て、まず足の拘束を解いてくれた。殺人蜂は突き飛ばされた勢いで仰向けに倒れ、とりあえず立ち上がってくる様子はない。
「こいつがやったこと――全部動画で録画してある。後は、これを警察に持っていけば、雪乃の仇が取れるんだ。ずっとあいつが犯人だと思っていたけど、決定的な証拠がなくて――」
続いて手の拘束が解かれた。これで縁は自由の身となった。もし、彼が――広瀬がここにいなければ、きっと縁は殺人蜂の六人目の犠牲者になっていたことであろう。そう、飛び出してきた第三者の正体とは、あの広瀬だったのである。少しでも彼のことを疑ってしまったことに、申し訳ない気持ちで一杯だった。
「ありがとう。助かったよ――」
縁が礼を言って立ち上がろうとすると、広瀬が部屋の隅に向かって身構える。そちらに目をやると、殺人蜂が起き上がるところだった。
「ど、どどどどっ! どいつもこいつも馬鹿にしやがって! ほ、ほほほほっ! 本気さえ出せば、僕だって――僕だってぇぇぇぇ!」
立ち上がるや否や、こちらに向かって駆け出してくる殺人蜂。相手は凶器であるアイスピックを見失ってしまっている。それに、広瀬が一緒にいてくれるおかげか、妙に冷静でいることができた。
「広瀬君! こっち!」
殺人蜂の標的は、縁から広瀬へと切り替わっていたらしく、その動きを見極めた縁が広瀬の腕を引っ張った。殺人蜂は狼狽しているのか、そのまま広瀬の脇を駆け抜けて行き、そして自ら蹴つまずいて前のめりに転んだ。必死に両手足をばたつかせながら「くそぅ――くそぅぅぅ!」と奇声を上げる。それを見て、縁は自分の本分を思い出した。
「五人の殺人容疑――そして、私に対する監禁及び殺人未遂で貴方を逮捕します。殺人蜂――いいえ」
縁がそこで言葉を切ると、殺人蜂が動きを止めて、顔だけ縁のほうへと向けてくる。その表情には、あの時の余裕など全くなかった。尾崎と縁を塾の中へと案内してくれた時は、爽やかな青年を演じていたというのに。
「――岡田さん!」
そこにいた殺人蜂の正体は、縁達を塾の中まで案内してくれたアルバイト講師――岡田であった。
「ごめんね。あいつが本性を現すまで、出てくるわけにはいかなかったんだ」
その第三者は、急いだ様子で縁のほうへと駆け寄って来て、まず足の拘束を解いてくれた。殺人蜂は突き飛ばされた勢いで仰向けに倒れ、とりあえず立ち上がってくる様子はない。
「こいつがやったこと――全部動画で録画してある。後は、これを警察に持っていけば、雪乃の仇が取れるんだ。ずっとあいつが犯人だと思っていたけど、決定的な証拠がなくて――」
続いて手の拘束が解かれた。これで縁は自由の身となった。もし、彼が――広瀬がここにいなければ、きっと縁は殺人蜂の六人目の犠牲者になっていたことであろう。そう、飛び出してきた第三者の正体とは、あの広瀬だったのである。少しでも彼のことを疑ってしまったことに、申し訳ない気持ちで一杯だった。
「ありがとう。助かったよ――」
縁が礼を言って立ち上がろうとすると、広瀬が部屋の隅に向かって身構える。そちらに目をやると、殺人蜂が起き上がるところだった。
「ど、どどどどっ! どいつもこいつも馬鹿にしやがって! ほ、ほほほほっ! 本気さえ出せば、僕だって――僕だってぇぇぇぇ!」
立ち上がるや否や、こちらに向かって駆け出してくる殺人蜂。相手は凶器であるアイスピックを見失ってしまっている。それに、広瀬が一緒にいてくれるおかげか、妙に冷静でいることができた。
「広瀬君! こっち!」
殺人蜂の標的は、縁から広瀬へと切り替わっていたらしく、その動きを見極めた縁が広瀬の腕を引っ張った。殺人蜂は狼狽しているのか、そのまま広瀬の脇を駆け抜けて行き、そして自ら蹴つまずいて前のめりに転んだ。必死に両手足をばたつかせながら「くそぅ――くそぅぅぅ!」と奇声を上げる。それを見て、縁は自分の本分を思い出した。
「五人の殺人容疑――そして、私に対する監禁及び殺人未遂で貴方を逮捕します。殺人蜂――いいえ」
縁がそこで言葉を切ると、殺人蜂が動きを止めて、顔だけ縁のほうへと向けてくる。その表情には、あの時の余裕など全くなかった。尾崎と縁を塾の中へと案内してくれた時は、爽やかな青年を演じていたというのに。
「――岡田さん!」
そこにいた殺人蜂の正体は、縁達を塾の中まで案内してくれたアルバイト講師――岡田であった。
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