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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【エピローグ】

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 これまで考えないようにして過ごしてきたが、はやり処分は逃れられないのだろうか。ようやく、坂田に近付くチャンスを手にしたというのに、これで0.5係の話が流れてしまいでもしたら、何のために刑事になったのか分からなくなってしまう。

「俺が幾ら隠したところで、裏付け捜査を捜査本部が行っていくうちに、お前達が勝手に捜査をしていたことは表に出てしまう。だから、報告すべきところは報告させて貰った。その結果、お上のお偉さんから処分が言い渡された」

 倉科は縁と尾崎の間に視線を往復させる。突然、処分の話を切り出された尾崎は体を強張こわばらせて固唾かたずを飲む。縁もまた姿勢を正し、改めて倉科のほうへと体を向けた。

「山本縁、尾崎裕二。両名に無期限の謹慎処分を言い渡す」

 倉科が静かに言い放った言葉に、辺りの景色がぐにゃりと歪んだ。確かに、勝手に捜査を行い、それが本分である合同捜査本部の捜査を混乱させたことは認める。倉科の努力により、ある程度の隠蔽はされたのだろうが、暴走して殺人蜂と対峙することになってしまったことも認める。しかし、それにしたって無期限の謹慎処分なんて聞いたことがない。それはある意味、懲戒処分のようなものではないか。

「ちょっと待って欲しいっす! それってあまりにも厳しすぎはしないっすか? 結果的に殺人蜂の逮捕に繋がったのに、無期限の謹慎処分なんて――」

 尾崎が慌てて反論をした。すると、倉科はなぜだか笑みを浮かべる。

「まぁ、慌てるな。確かにお上のお偉さんから無期限の謹慎処分が言い渡された。ただ、こいつを発令したのは警察署長じゃないし、それよりも上の人間でもない。本来ならば警察と直接的な繋がりがない――法務大臣直々に出されたものだ。あくまでも表向きってことだよ。ここまで言えば分かるよな?」

 倉科はそう言うと、足を横に振り出し、音を鳴らしながら両足を揃え、敬礼のポーズをとった。

「捜査一課、山本縁警部補!」

 そして声を高々と上げると、そのままの姿勢を保ちつつ目で訴えてくる。こちらがどう反応していいのか迷っていると、倉科が小声で「敬礼、敬礼だよ――」と呟く。普段は敬礼することなんてないし、警察学校以来かもしれない。それでも、縁はうろ覚えで敬礼を返した。そんな縁の姿に、倉科は再び笑みを浮かべると、さらに大きく声を張って、こう続けた。

「本日付けで、貴殿に捜査一課0.5係を命ずる! 法務大臣――三田國義みたくによし
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