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事例1 九十九人殺しと孤高の殺人蜂【エピローグ】

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 地獄から天国というべきだろうか。いや、この先にきっと待っているのは、決して天国ではないだろう。むしろ、捉えようによっては地獄であるとも言える。縁は敬礼をした格好のまま固まった。どうやら、0.5係への配属が正式に決まったようだ。となるとこれは、辞令交付式の真似事なのだろうか。会場はコンクリートに囲まれていて殺風景であるし、辞令書の交付もないようだが。

「同じく捜査一課、尾崎裕二巡査!」

 倉科は体の向きを直し、尾崎のほうに向かって再び敬礼をする。尾崎は笑みを浮かべると、踵を鳴らして敬礼を返した。

「はっ!」

 無期限の謹慎処分というのは、もしかしてカモフラージュなのか。0.5係は知られざる係であるがために、表向きには無期限の謹慎処分という形にして、辞令が交付されたのかもしれない。

「本日付けで、貴殿に捜査一課0.5係を命ずる! 法務大臣、三田國義」

 尾崎が敬礼をしたまま、ちらりと縁のほうを見て笑みを浮かべた。その表情には希望が満ちていたように思えた。坂田に近付くためだけに0.5形を志願した縁と違い、きっと薔薇色の未来を夢見ているのであろう。

「0.5係は本来、警察組織上に存在し得ない。それゆえに辞令書の交付も行わず、口頭のみの辞令交付となる! また、直属の上司を法務大臣とし、その代理として捜査一課0.5係を兼任している倉科重道警部の指揮下に入る! まだ世には公表されていない試験的な役割であるがゆえに、その激務は計り知れないが、一個人として活躍を期待する!」

 堅苦しい文言を、体育会系ばりに声を張り上げた倉科。しかし、それを言い終えた後に大きく溜め息をつき「――だとさ」と笑みを浮かべた。どうやら、法務大臣からの言葉をそのまま伝えてくれたらしい。倉科は敬礼のポーズを解くと「お前達も楽にしていいぞ」と言ってから、さらに続けた。

「堅苦しくてわけが分からなかったかもしれないが、ようは0.5係への正式な辞令が降りたってことだ。ここまでくれば言わずとも分かるだろうが、無期限の謹慎処分というのは、警察内部に対する建前のようなもんだ。いきなり同じ署の刑事がだ――しかも、片一方はキャリアだってのに、同時期に退職したとなると不自然だろ? まぁ、法務大臣の計らいらしいが、やられるほうは堪ったもんじゃないな。実質、処分はあってないようなもんなんだがな」

 表向きの捜査一課から、裏側の捜査一課0.5係にシフトする。0.5係が機密の存在であるため、異動をするにしても様々なしがらみがあるのだろう。
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