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聖痕回収編
奇襲
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「誰だ!!出て来い!!」
森の中に声を張り上げるが、相手はレノの言葉に拒否するように無数の矢を放つ。風の魔力を宿した矢は木々を自動的に避けてこちらに向かってくる。レノは後ろの老人を守るように短剣を構え、掌に嵐を形成し、
「風盾(かざたて)」
ブオォオオオンッ!!
まるで扇風機のように三日月状の嵐の刃を回転させ、眼の前に風の障壁を作り出す。2年前の「風壁」と比べ、こちらの方が魔力消費が節約でき、正面からの攻撃に対して高い防御力を誇る。
バキィイイイッ!!
幾つもの矢が嵐の刃によってミキサーの中に放り込まれたように粉々に砕けて地面に落ちるのを確認し、レノは風盾を展開しながらも、矢が何処から向かってくるのかを特定する。少なくとも相手は1人ではない、明らかに複数の人間が彼に向かって攻撃を仕掛けてくる。
「やめろ!!やめんか馬鹿者ども!!」
後ろから老人が騒ぎ立てるが、矢は止まることなく連発され、まるでレノの魔力が尽きるまで攻撃を続ける気の用だ。これほど矢を連発して置いて良く尽きないと感心するが、いい加減に鬱陶しく思えてきたレノは矢が放たれる方角に目をつけ、出来るだけ木々を傷つけない様に空いている掌を向け、
「そこだ!!」
ドオオンッ!!
小規模の風属性の魔弾を放ち、
「きゃあっ!?」
見事に隠れている者に命中したのか、女子の悲鳴が上がり、木の陰から姿を現す。よく観察すると、まだ年若いエルフの少女だった。
「いったぁ~い……」
「姉さま!!平気ですか!!」
地面に倒れ込んだ彼女に今度は別方向からエルフの少年が現れ、彼女を心配そうに近寄るが、すぐに小女は近寄ってくる少年を睨み付け、
「馬鹿!!あんたまで出てきたらだめでしょうが!!」
「で、ですが姉さま……」
「うるさい!!ほら、2人とも気付かれちゃったじゃないの!!」
エルフの少年少女はこちらに顔を向け、レノの顔を見た瞬間に表情を憎々しげに変える。間違いなく初対面のはずだが、何故自分がこのような目に見られるのかは分からない。
(いや……この目は)
2人の子供たちに面識はないが、この「目」は見覚えがある。幼少の頃に森の集落で「ハーフエルフ」である自分を見つめてくるエルフたちの目だ。少年と少女は背中の筒から矢を抜き取り、弓をレノに向ける。どうやら、ここまでされてもまだ戦う気らしい。子供であろうと本気で自分を殺そうとする2人に、レノは掌を向けたとき、
「こりゃ!!またお前らかぁ!!」
老人が激怒したように顔を真っ赤にさせ、レノの前に飛び出すと、ずんずんとエルフの子供たちに向けて歩み寄る。2人は慌ててこちらに向かってくる老人から逃げ出そうとしたが、彼は口早に呪文を唱えると、
「バインド!!」
「「あぐっ!?」」
老人が懐から魔石を取り出し、呪文も早口で終わらせて2人に向けて「拘束」の魔法をかける。どうやら魔石の力を利用してエルフ達の動きを止めたようだ。身体が麻痺したように動かないエルフの子供たちは、すぐに老人に捕まり、首根っこを掴まれて森の中から引きこまれる。
「盗みだけではなく、こんな悪さまでしおって……この馬鹿ガキが!!」
「ちょ、ちょっと!離しなさいよ……きゃんっ!?」
「離せ!!人間ごときが誰に……あぐっ!?」
口は自由に動かせるようだが、生意気な事を口走るエルフたちに老人は拳骨を放り込み、額に青筋を立てながら、
「今回ばかりは絶対に許さん!!貴様らの族長に文句を言ってやる!!」
「そ、それは……」
「や、やめてくれ……」
流石に族長という言葉に顔色を変え、2人は恨めしげにレノを見てくるが、先に仕掛けたのはこの少年少女だ。レノは面倒な展開になりそうなことに吐息を吐いた。
――1時間後、縄で縛りつけたエルフの2人組に、老人に促されて林檎(リンゴ)を取るレノの姿があった。
「おい、そっちはもういい。こっちを手伝え」
「あ、はい」
「お前さん……エルフの癖に妙に物わかりが良いな」
「育ちが良いので」
「ふっ………なんじゃそりゃ」
籠いっぱいの林檎(リンゴ)をもぎ取り、老人に手渡すと彼は不思議そうにこちらを見つめてくる。自分から仕事を手伝えと誘っておきながら、ここまで素直に従うエルフが珍しいらしい。最も、レノとしては「仕事を手伝えば林檎(リンゴ)を分けてやる」と言う言葉に釣られただけだが。現実世界の食べ物など、滅多に口にできない。
そんなレノの態度が気に入らないのか、縄で縛られて一軒家の壁に背もたれしている2人組が鼻で笑い、拘束されているにも関わらずに見下す態度を取る。
「人間に従うなんて……これだから半端者は」
「ふんっ……汚らわしい」
「人間に捕まって縛りつけられたお前たちが言う事か」
「くぅっ……!!お、覚えてなさい!!あんたみたいな爺さん、いつかけちょんけちょんにぶちのめしてやるんだから!!」
「やかましい!!仕事中に怒鳴るな!!」
明らかにハーフエルフのレノが気に入らないのか、彼女たちはレノの行動にいちいち茶々を入れる。そんな彼らに老人は不審げに眉をしかめ、レノが彼らの仲間ではないと分かったようだが、それにしても何故ここまで嫌われているのかが理解できないようだ。レノとしては説明するのも面倒なため、報酬を頂いたら早々に立ち去ることを決意する。
――しかし、レノの思惑とは裏腹に事態はより一層に面倒なことになる。
森の中に声を張り上げるが、相手はレノの言葉に拒否するように無数の矢を放つ。風の魔力を宿した矢は木々を自動的に避けてこちらに向かってくる。レノは後ろの老人を守るように短剣を構え、掌に嵐を形成し、
「風盾(かざたて)」
ブオォオオオンッ!!
まるで扇風機のように三日月状の嵐の刃を回転させ、眼の前に風の障壁を作り出す。2年前の「風壁」と比べ、こちらの方が魔力消費が節約でき、正面からの攻撃に対して高い防御力を誇る。
バキィイイイッ!!
幾つもの矢が嵐の刃によってミキサーの中に放り込まれたように粉々に砕けて地面に落ちるのを確認し、レノは風盾を展開しながらも、矢が何処から向かってくるのかを特定する。少なくとも相手は1人ではない、明らかに複数の人間が彼に向かって攻撃を仕掛けてくる。
「やめろ!!やめんか馬鹿者ども!!」
後ろから老人が騒ぎ立てるが、矢は止まることなく連発され、まるでレノの魔力が尽きるまで攻撃を続ける気の用だ。これほど矢を連発して置いて良く尽きないと感心するが、いい加減に鬱陶しく思えてきたレノは矢が放たれる方角に目をつけ、出来るだけ木々を傷つけない様に空いている掌を向け、
「そこだ!!」
ドオオンッ!!
小規模の風属性の魔弾を放ち、
「きゃあっ!?」
見事に隠れている者に命中したのか、女子の悲鳴が上がり、木の陰から姿を現す。よく観察すると、まだ年若いエルフの少女だった。
「いったぁ~い……」
「姉さま!!平気ですか!!」
地面に倒れ込んだ彼女に今度は別方向からエルフの少年が現れ、彼女を心配そうに近寄るが、すぐに小女は近寄ってくる少年を睨み付け、
「馬鹿!!あんたまで出てきたらだめでしょうが!!」
「で、ですが姉さま……」
「うるさい!!ほら、2人とも気付かれちゃったじゃないの!!」
エルフの少年少女はこちらに顔を向け、レノの顔を見た瞬間に表情を憎々しげに変える。間違いなく初対面のはずだが、何故自分がこのような目に見られるのかは分からない。
(いや……この目は)
2人の子供たちに面識はないが、この「目」は見覚えがある。幼少の頃に森の集落で「ハーフエルフ」である自分を見つめてくるエルフたちの目だ。少年と少女は背中の筒から矢を抜き取り、弓をレノに向ける。どうやら、ここまでされてもまだ戦う気らしい。子供であろうと本気で自分を殺そうとする2人に、レノは掌を向けたとき、
「こりゃ!!またお前らかぁ!!」
老人が激怒したように顔を真っ赤にさせ、レノの前に飛び出すと、ずんずんとエルフの子供たちに向けて歩み寄る。2人は慌ててこちらに向かってくる老人から逃げ出そうとしたが、彼は口早に呪文を唱えると、
「バインド!!」
「「あぐっ!?」」
老人が懐から魔石を取り出し、呪文も早口で終わらせて2人に向けて「拘束」の魔法をかける。どうやら魔石の力を利用してエルフ達の動きを止めたようだ。身体が麻痺したように動かないエルフの子供たちは、すぐに老人に捕まり、首根っこを掴まれて森の中から引きこまれる。
「盗みだけではなく、こんな悪さまでしおって……この馬鹿ガキが!!」
「ちょ、ちょっと!離しなさいよ……きゃんっ!?」
「離せ!!人間ごときが誰に……あぐっ!?」
口は自由に動かせるようだが、生意気な事を口走るエルフたちに老人は拳骨を放り込み、額に青筋を立てながら、
「今回ばかりは絶対に許さん!!貴様らの族長に文句を言ってやる!!」
「そ、それは……」
「や、やめてくれ……」
流石に族長という言葉に顔色を変え、2人は恨めしげにレノを見てくるが、先に仕掛けたのはこの少年少女だ。レノは面倒な展開になりそうなことに吐息を吐いた。
――1時間後、縄で縛りつけたエルフの2人組に、老人に促されて林檎(リンゴ)を取るレノの姿があった。
「おい、そっちはもういい。こっちを手伝え」
「あ、はい」
「お前さん……エルフの癖に妙に物わかりが良いな」
「育ちが良いので」
「ふっ………なんじゃそりゃ」
籠いっぱいの林檎(リンゴ)をもぎ取り、老人に手渡すと彼は不思議そうにこちらを見つめてくる。自分から仕事を手伝えと誘っておきながら、ここまで素直に従うエルフが珍しいらしい。最も、レノとしては「仕事を手伝えば林檎(リンゴ)を分けてやる」と言う言葉に釣られただけだが。現実世界の食べ物など、滅多に口にできない。
そんなレノの態度が気に入らないのか、縄で縛られて一軒家の壁に背もたれしている2人組が鼻で笑い、拘束されているにも関わらずに見下す態度を取る。
「人間に従うなんて……これだから半端者は」
「ふんっ……汚らわしい」
「人間に捕まって縛りつけられたお前たちが言う事か」
「くぅっ……!!お、覚えてなさい!!あんたみたいな爺さん、いつかけちょんけちょんにぶちのめしてやるんだから!!」
「やかましい!!仕事中に怒鳴るな!!」
明らかにハーフエルフのレノが気に入らないのか、彼女たちはレノの行動にいちいち茶々を入れる。そんな彼らに老人は不審げに眉をしかめ、レノが彼らの仲間ではないと分かったようだが、それにしても何故ここまで嫌われているのかが理解できないようだ。レノとしては説明するのも面倒なため、報酬を頂いたら早々に立ち去ることを決意する。
――しかし、レノの思惑とは裏腹に事態はより一層に面倒なことになる。
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