種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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聖痕回収編

クズキとバルの関係性

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「……今でも後悔してる、あいつ等を置いて自分1人だけで金庫室に行っちまったことを……」
「……何があった?」
「兄貴、これ以上は……」
「いや、こいつには話しておかないといけないんだ……」


一段と重苦しい表情で顔を背けるバルだが、レノはそれでも問いただす。彼にとっても青年たちは家族同然の存在であり、彼らが一体どうなったのか聞かなければならない。バルは今までに見せた事もない悲しげな表情を浮かべながら、ゆっくりと話し始める。どことなく、涙声混じりに聞こえるのは気のせいではないだろう。



――金庫室の「壁抜け」の魔方陣を抜け出そうとした時、突然、魔方陣そのものがかき消された。慌ててバルは天井を調べるが、どうやら上の階の「魔方陣」を何者かにかき消されたようだ。


この「壁抜け」はバルが書き写した魔方陣をかき消さない限り、決して消える事はなく残り続けるはずだが、一体誰が上の階に書き込んだ自分の魔方陣を消したのか。すぐに上に戻るため、バルは再びそこいら中に置いて木箱を土台にして天井に「魔方陣」を書き込もうとした時、彼女の獣耳は上の階から聞こえてくる騒動に気が付く。


「……人の喚き声と、まるで花火でもぶっ飛ばしたような轟音が鳴り響いてきやがったよ……すぐに私はあいつ等が見つかったと気付いた」
「まさか……!?」
「ああ……新しい魔方陣を書き込んで、戻った時には全てが終わっていたよ……くそぉっ!!」


ドンッ!!


バルは馬車の中で拳をめり込ませ、それを周囲の女盗賊たちが心配そうに眺める。レノは黙って彼女を見つめながら話の続きを待つと、彼女は拳を何度も叩き付けながら怒声をあげる。


「あいつらはなぁ!!私を助けるために……魔方陣をかき消して私を戻れないようにしたんだよ!!自分たちは警備兵に一方的にやられたくせに……私を助けるために……!!」
「……何が起きた?」
「……戻った時には全て終わっていたよ、魔方陣を書き写している間にあいつらは1人残らず奴等に捕まっていたんだ」


彼女が天井に「壁抜け」の魔方陣を書き写して客間に戻った際には、既に半死半生の状態の青年たちが無数の警備兵に囲まれて客間の外に連行される姿であり、それを見て頭が真っ白になったバルは、すぐに彼らを助けようとしたが、


『おやおや……困りますねぇ、貴方まで死なれたら困りますよ』


不意に後方から何処かで聞き慣れた声が聞こえ、振り向くとそこには嘗て「同じ組織」に所属していた「クズキ」の姿があったという。彼は侯爵家の執事のような恰好をしており、傍にはこの屋敷の主である「ハナムラ・カイ」が立っていた。

カイは小柄な老人でありながら、昔は戦場を駆け回った歴戦の猛者であり、その目つきは非常に鋭く、異様な雰囲気を纏っていた。


『――クズノキ!!どういう事だ!!』
『どうもなにも……私はこの屋敷に雇われた側でしてね……申し訳ありませんが、貴方を生かして返すわけには行きません。ちなみに今の私は「クズキ」ですので、どうかこれからはそちらのお名前で及び下さい』
『はっ……やる気かい!!』


長年因縁がある相手に、バルは冷静さを欠いて飛びかかろうとした時、クズキは彼女の後方を指さす。


『いいんですか?ここで戦えば、貴方のお仲間さんたちもただでは済みませんよ』
『くっ……』
『か……頭ぁ……』
『俺達に構わないで……逃げてくれ……』


半死半生の姿に成りながらも、自分を気遣う彼らにバルは見捨てることが出来ず、そのまま手持ちの短剣を放り投げて、


『……降参する……だから、あいつ等の命だけは……!!』
『頭ぁ!!』
『だめだ、逃げてくれぇ!!』
『ええい、静かにしろ!!』
『犯罪者が!!』


降参発現するバルに青年たちは引き留めようとするが、すぐに傍の警備兵たちが黙らせる。それを見た彼女は咄嗟に飛び出そうとしたが、すぐにクズキが音も無く近寄り、バルの首元に短剣を突き付け、


『いいでしょう……貴方にも色々と聞きたいことがありますしね……』


小声でそう告げると、クズキは彼女の手首を縄で拘束し、青年たちと共に警備兵に引き渡す。その後は彼女たちは侯爵家の「牢獄」に監禁される。場所は敷地内の建物であり、先ほど放火した裏庭の比較的近くに存在する。


――監禁部屋に閉じ込められて早々に厳重な警備が敷かれ、ネズミ一匹逃すまいという気迫で警備兵がバルたちを見張る中、彼女は1人だけ別行動を取った青年の事が気がかりだった。


裏庭を放火させに単独で行動させた彼は未だに捕まっておらず、まだこの屋敷内に居る可能性が高い。もしも彼が自分たちを助けに来ようとした場合、危険な状況に陥る。外部で待機している仲間と合流して欲しいが、彼女の心配に反して再び侯爵内に「放火」が起きる。今度は屋敷その物に放火され、派手に屋根裏にまで火災が起きた。

警備兵と「水属性」の魔法が使える魔術師が消火作業に向かうが、今度は監禁部屋の警備が薄れることは無く、大勢の騎士と兵士がバルを見張っていたらしいが、


『た、大変です!!』


牢獄に1人の兵士が入り込んだことから事態は一変したと言いう。牢獄に入り込んだ兵士は慌てふためきながら、不可解な顔を浮かべる騎士たちに驚くべき報告を告げる。


『だ、ダークエルフが……正面から侵入してきましたぁ!!』
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