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【序幕・第10章】清楚な加奈子さんっ
1.可憐なお嬢様の部屋に行ってきますっ!
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まえがき
※序幕・最終章が始まります。
※ストーリー全体に関わる、重要なネタバレがあります。
__________________________________
五月六日午前九時半、自室のベッドで目を覚ます。
フローリングに紗月姉の姿がない。布団も敷いていない。
驚愕すべきは俺のパンツ……着替えてある!
「怪力無双か……ベッドまで俺を運んで……」
机の上に置きっぱなしの携帯電話が光っている。
手に取って内容を見ると、紗月姉からのメールが来ていた。
『明日の準備があるから、九時の電車で戻るね。蒼ちゃんが先に寝ちゃったので、シモのお世話しました。花穂が匂いに敏感なので、消臭もしたからね。パンツは乾かしてタンスに入れてる。爆発は三回でした。プロテインでも飲んで補充してください。次は一〇回爆発させます。蒼ちゃん、お覚悟っ!』
「……一〇発も出したら、死ぬわっ!」
紗月姉は先に眠ってしまった俺の下着を穿き替えさせて、自分のパンツとタオルケットをいっしょに洗濯してくれたようだ。今、ベッドに敷いてあるシーツもタンスにしまってあった新品のものだ。
窓際と部屋の入口に、見慣れない芳香剤が置いてある。
あれも紗月姉が用意しておいたものだろう。
「用意周到、証拠隠滅……完全犯罪みたいだな」
眠気が覚めない目を擦りながら、階下へ行くと父さんと母さんがいる。
父さんはテーブルで新聞を、母さんは皿洗いをしているようだ。
「おはよう。花穂姉ちゃんは?」
「おはよう。花穂は朝から鈴ちゃんと出掛けたぞ」
読んでいた新聞を傾けて、父さんが答えた。
鈴というのは俺の小学校以来の同級生で、ご近所さんだ。
里志と同じ悪友のひとりでもあり、自称紗月姉の弟子で空手少女である。
紗月姉の美しさと強さは男女問わず人気が高い。
幼い頃は女の子なのにガキ大将で、共に行動する者も多かった。
中学高校時代、紗月姉を特別尊敬する者たちが紗月信奉者と呼ばれた。
同学年の紗月信奉者は、朝峰里志と鈴の二人。
花穂姉ちゃんは、子供のころから鈴を本当の妹のように可愛がっている。
年下の面倒見がいいだけでなく、同学年や年上からも信頼が厚い。
四条春香が剣道部と水泳部かけ持ち&バイトの忙しい身でありながら、生徒会会計として花穂姉ちゃんを支えるのは、全幅の信頼を置いているからである。
「蒼太、母さんたちは今夜発つからね。あと、加奈子ちゃんがお琴を聞きに来てくださいって言ってたわよ。一度、連絡してみてね」
「おっと、忘れるとこだった! 蒼太、面白いお土産買って来てやったぞ!」
父さんはテーブルの下に置いてある鞄から小さな紙袋を出してきた。
紙袋を破ると、中に衣類が入っている。どこかで何度か見た土産袋だ。
ピンクのボクサーブリーフ、股間の部分に黒の文字で合金棒。
先にもらった金剛棒より、かなりグレードダウンしている……
「あ、ありがとう……」
この数日で金剛棒、注入棒、合金棒とパンツ三連発のお土産をもらった。
このふざけたチョイスは、確実に花穂姉ちゃんが仕組んでいる。
「ああ、そうだ。蒼太、お前に――」
「お父さん。それはまた今度にしましょ。ゆっくり時間がある日に」
「え?」
父さんはなにかを言いかけて、母さんに遮られた。
傍らにあるお茶をすすって、ゴホゴホと咳き込む。動揺しているように見える。
俺も次の言葉が出てこなかった。あえて、聞こえないフリをしたのかもしれない。
部屋に戻って最初に気づいたのは、携帯電話がまた光っていたことだ。
液晶画面を確認すると、加奈子さんからのメールが届いている。
『弟君、今日お昼ぐらいからお時間ありますか? 連絡待ってます』
こうして俺だけにお誘いが来るのは今回初めてのことだ。
いつもは学友である花穂姉ちゃんにくっついて遊びに行っていた。それも、中学までのことで、今年に入ってからは一度も結城邸におもむいていない。
『Re:時間あります。琴を聴かせてもらえるんですか?』
「よし、送信完了……」
待つこと五分、返信メールが来た。
『はい、こちらでお昼を食べて、お琴を聴きませんか? 十二時に待っています』
『Re:了解です! 十二時に行きますね』
結城家は八階建てマンションを一棟丸ごと所有している。
一階から六階は賃貸契約で住人が住み、七階と八階がすべて結城家だ。
加奈子さんは高校生になってから、独立精神を養う名目で部屋を一つ与えられた。
◆◆◆◆◆◆
午前十一時半過ぎ。
結城家に行くことを両親に伝えたあと、外に出る。
ゴールデンウィーク最終日、雨が降りそうな曇り空だ。
「ちょっと早いかな?」
ここから加奈子さんの家は徒歩で一〇分弱。
加奈子さんは歩みがのんびりしているため、一五分ほどかかるらしい。
学校やスポーツクラブとは逆方向の大通りに出て、真っ直ぐ進んだ場所に大きなマンションが見える。
「あれ? ここちょっと変わったかな?」
前来たときより、エントランスが豪勢な作りになっている。
加奈子さんの部屋の呼び鈴を鳴らすと、すぐに声が返って来た。
ここの呼び鈴は鳴らすと、部屋の住人だけ訪問者をカメラで見ることができる。
「弟君、ロック開けました。上がって来てくださいね……」
エレベーターで七階の加奈子さんの部屋へ。
部屋と言ってもマンション一室すべてを使っているので一軒家の家主だ。
玄関を開けると、加奈子さんがそこにいた……
「あ……え?」
「弟君……」
――ただし、バスタオル一枚の姿で……
※序幕・最終章が始まります。
※ストーリー全体に関わる、重要なネタバレがあります。
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五月六日午前九時半、自室のベッドで目を覚ます。
フローリングに紗月姉の姿がない。布団も敷いていない。
驚愕すべきは俺のパンツ……着替えてある!
「怪力無双か……ベッドまで俺を運んで……」
机の上に置きっぱなしの携帯電話が光っている。
手に取って内容を見ると、紗月姉からのメールが来ていた。
『明日の準備があるから、九時の電車で戻るね。蒼ちゃんが先に寝ちゃったので、シモのお世話しました。花穂が匂いに敏感なので、消臭もしたからね。パンツは乾かしてタンスに入れてる。爆発は三回でした。プロテインでも飲んで補充してください。次は一〇回爆発させます。蒼ちゃん、お覚悟っ!』
「……一〇発も出したら、死ぬわっ!」
紗月姉は先に眠ってしまった俺の下着を穿き替えさせて、自分のパンツとタオルケットをいっしょに洗濯してくれたようだ。今、ベッドに敷いてあるシーツもタンスにしまってあった新品のものだ。
窓際と部屋の入口に、見慣れない芳香剤が置いてある。
あれも紗月姉が用意しておいたものだろう。
「用意周到、証拠隠滅……完全犯罪みたいだな」
眠気が覚めない目を擦りながら、階下へ行くと父さんと母さんがいる。
父さんはテーブルで新聞を、母さんは皿洗いをしているようだ。
「おはよう。花穂姉ちゃんは?」
「おはよう。花穂は朝から鈴ちゃんと出掛けたぞ」
読んでいた新聞を傾けて、父さんが答えた。
鈴というのは俺の小学校以来の同級生で、ご近所さんだ。
里志と同じ悪友のひとりでもあり、自称紗月姉の弟子で空手少女である。
紗月姉の美しさと強さは男女問わず人気が高い。
幼い頃は女の子なのにガキ大将で、共に行動する者も多かった。
中学高校時代、紗月姉を特別尊敬する者たちが紗月信奉者と呼ばれた。
同学年の紗月信奉者は、朝峰里志と鈴の二人。
花穂姉ちゃんは、子供のころから鈴を本当の妹のように可愛がっている。
年下の面倒見がいいだけでなく、同学年や年上からも信頼が厚い。
四条春香が剣道部と水泳部かけ持ち&バイトの忙しい身でありながら、生徒会会計として花穂姉ちゃんを支えるのは、全幅の信頼を置いているからである。
「蒼太、母さんたちは今夜発つからね。あと、加奈子ちゃんがお琴を聞きに来てくださいって言ってたわよ。一度、連絡してみてね」
「おっと、忘れるとこだった! 蒼太、面白いお土産買って来てやったぞ!」
父さんはテーブルの下に置いてある鞄から小さな紙袋を出してきた。
紙袋を破ると、中に衣類が入っている。どこかで何度か見た土産袋だ。
ピンクのボクサーブリーフ、股間の部分に黒の文字で合金棒。
先にもらった金剛棒より、かなりグレードダウンしている……
「あ、ありがとう……」
この数日で金剛棒、注入棒、合金棒とパンツ三連発のお土産をもらった。
このふざけたチョイスは、確実に花穂姉ちゃんが仕組んでいる。
「ああ、そうだ。蒼太、お前に――」
「お父さん。それはまた今度にしましょ。ゆっくり時間がある日に」
「え?」
父さんはなにかを言いかけて、母さんに遮られた。
傍らにあるお茶をすすって、ゴホゴホと咳き込む。動揺しているように見える。
俺も次の言葉が出てこなかった。あえて、聞こえないフリをしたのかもしれない。
部屋に戻って最初に気づいたのは、携帯電話がまた光っていたことだ。
液晶画面を確認すると、加奈子さんからのメールが届いている。
『弟君、今日お昼ぐらいからお時間ありますか? 連絡待ってます』
こうして俺だけにお誘いが来るのは今回初めてのことだ。
いつもは学友である花穂姉ちゃんにくっついて遊びに行っていた。それも、中学までのことで、今年に入ってからは一度も結城邸におもむいていない。
『Re:時間あります。琴を聴かせてもらえるんですか?』
「よし、送信完了……」
待つこと五分、返信メールが来た。
『はい、こちらでお昼を食べて、お琴を聴きませんか? 十二時に待っています』
『Re:了解です! 十二時に行きますね』
結城家は八階建てマンションを一棟丸ごと所有している。
一階から六階は賃貸契約で住人が住み、七階と八階がすべて結城家だ。
加奈子さんは高校生になってから、独立精神を養う名目で部屋を一つ与えられた。
◆◆◆◆◆◆
午前十一時半過ぎ。
結城家に行くことを両親に伝えたあと、外に出る。
ゴールデンウィーク最終日、雨が降りそうな曇り空だ。
「ちょっと早いかな?」
ここから加奈子さんの家は徒歩で一〇分弱。
加奈子さんは歩みがのんびりしているため、一五分ほどかかるらしい。
学校やスポーツクラブとは逆方向の大通りに出て、真っ直ぐ進んだ場所に大きなマンションが見える。
「あれ? ここちょっと変わったかな?」
前来たときより、エントランスが豪勢な作りになっている。
加奈子さんの部屋の呼び鈴を鳴らすと、すぐに声が返って来た。
ここの呼び鈴は鳴らすと、部屋の住人だけ訪問者をカメラで見ることができる。
「弟君、ロック開けました。上がって来てくださいね……」
エレベーターで七階の加奈子さんの部屋へ。
部屋と言ってもマンション一室すべてを使っているので一軒家の家主だ。
玄関を開けると、加奈子さんがそこにいた……
「あ……え?」
「弟君……」
――ただし、バスタオル一枚の姿で……
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