種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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腐敗竜編

戦闘直前

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ジャンヌたちが聖導教会総本部から転移して半日以上の時間が経過し、卵の孵化の時間が刻一刻と迫り、残された猶予は恐らく数時間だろう。現在、ジャンヌたちは馬を降りて腐敗竜が住処にしている森の中に存在する村に向かっている。森に到着した時には既に腐敗竜の影響によって木々はが枯れ果て、無数の動物や魔物の死骸に覆いつくされていた。


「……こいつは酷いね……普通の人間なら近づいただけで即死だよ。でも、まだアンデットかしていないのは幸いだね」
「うっ……ぐふっ……!?」
「無理するんじゃない……加護が無いあんたじゃきついだろ?」


腐敗竜の身体から放たれる呪詛が森中に予想以上に充満しており、普通の人間ならば接近しただけで耐え切れずに発狂してしまうだろう。だが、ワルキューレ騎士団は「退魔武装」の加護が肉体に施されており、あらゆる魔法を耐性を得ており、腐敗竜が放つ呪詛すらも受け付けない。

ジャンヌは事前に複数の聖属性の魔石を使用し、肉体に一時的に呪詛を寄せ付けない加護を施している。しかし、それでも兇悪な呪詛によって気分を害する。


「団長!!可笑しいです……以前に偵察に来た時よりも負の魔力が蔓延しています」
「本当かい?これも魔物活性化が関係しているのかね……」
「……分かりません。ですが、先を急ぎましょう」
「ちっ……小生意気な小娘だねっ!!」


口元に笑みを浮かべながら、テンとジャンヌは森の中に足を踏み出し、すぐにワルキューレの女騎士達も後に続く。既に村へと通じる道は腐敗竜の影響によって枯れ果てた木々が倒木によって塞がれており、仕方なく彼女達は別の路から村を目指す。

幸い、村の方角は偵察隊によって事前に判明しており、森の中でも迷うことは無い。だが、奥に進めば進むほど呪詛は充満し、退魔武装を施している女騎士達でさえも気分が悪くなる。


「うっ……」
「こ、これは……」
「きっついねぇ……あんた平気かい?」
「くっ……」


テンでさえ、あまりの呪詛の魔力に進行速度が遅くなり、女騎士達も何人かはその場に膝を着く。特にジャンヌの体調は一気に悪化し、聖剣を杖代わりにして進む。残された時間は少ないのは重々承知しているが、村に近づく事さえ厳しい状態であり、どうにか出来ないかと考え込んだ瞬間、聖剣に異変が訪れる。


ボウッ……!!


「えっ……!?」
「な、何だい!?」
「こ、これは……!?」


ジャンヌの握りしめている「レーヴァティン」の剣の柄に「真紅」の炎が灯され、慌てて彼女は手放そうとした時、すぐに違和感を抱く。握りしめている指に炎が直接触れているにも関わらず、全く熱を感じない。それどころか、炎は鞘を包み込むように覆われていき、ジャンヌは剣の意思を感じ取って鞘から抜き放つ。


ゴォオオオオオオッ……!!


「す、すごい……!!」
「これが……本当の聖剣!?」
「はっ……たいしたもんだね」


刀身を抜き放った瞬間、「レーヴァティン」は全身から真紅の炎を発し、周囲を照らす。テンとワルキューレはその光景に驚愕する。そして、心無しか周囲の呪詛が掻き消されたように感じられ、ワルキューレ達の身体が軽くなる。


「すごい……これなら」


ジャンヌはレーヴァティンを上空に掲げた瞬間、



ドゴォオオオオオオッ――!!



レーヴァティンの刃から凄まじい火柱が上空に放たれ、周囲に蔓延していた空気を一掃する。その瞬間、完全に木々の間に充満していた負の魔力が焼却され、体調を取り戻す。


「こいつは……」
「身体が元に……」
「これならっ……!!」


ワルキューレの顔色に生気が戻り、全員が顔を見合わせる。いつも通りに身体を動かせれば十分に勝機はあり、テンたちはジャンヌに頷く。


「行きましょう」
「……ああ」
「「「はいっ!!」」」


彼女の言葉にテンは頷き、ワルキューレの女騎士達はは敬礼を行う。こんな状況だが、彼女たちはジャンヌが聖剣に選ばれた者だと認める。



――そして、再び進行を始めたジャンヌたちはすぐに村を上から見下ろせる丘に辿り着き、異変に気が付く。



「こ、これは……」
「どうなってんだい……!?」
「まさか……」


村を丘の上から確認した瞬間、ジャンヌたちは顔色を変える。予想に反し、村の中には腐敗竜と卵だけではなく、異様な光景が広がっていた。



「うぁああああっ……!!」
「ぐおおおおおっ……!!」
「がぁああああっ……!!」



――無数の村人と王国の兵士の「アンデット」が徘徊しており、その数は軽く千人を超す。



事前にジャンヌたちも「バルトロス王国」が派遣した兵士たちが「アンデット」に化したことや、村人もアンデット化したことは予想していた。

しかし、何故、自意識がないはずの「アンデット」の群れが全てこの村に集まっているのかが分からない。彼らは死人と比べれば知能は低く、決して他者から操れる存在ではないにも関わらず、村の中には所せましとアンデットの群れが形成されていた。



――グロロロロロッ……!!



何よりも一番の異変は、この丘の上からでも確認できるほどに巨大化した腐敗竜が地面に横たわっている事であり、その体長は軽く20メートルを越えており、明らかに異常事態が発生している。

だが、ここまで来た以上は撤退することは出来ない。ドラゴンゾンビの傍には無数の卵が確認され、あまり猶予はない。。



「……どうするんだい?玉砕覚悟なら付き合うよ」
「……ありがとうございます」


後ろからテンに声を掛けられ、ジャンヌはもう一度村を確認し、後方を見る。そこには冷汗を浮かべたワルキューレの女騎士の姿と、こんん状況でも口元に笑みを浮かべるテンが立っていた。彼女は覚悟を決めているのか、迷いはない。

ジャンヌは考え込み、レノ達が到着するまで最低でも30分はかかる。ここは一気に終わらせるのが上策だろう。彼女は「レーヴァティン」を確認し、この聖剣を使いこなせる自信はないが、それでもやるしかない。



「――私に道を開いてください」



そして、自分が考え出した作戦を伝える。
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