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安心
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熱も下がっているし、気分がいいうちに歩いて帰ることに決めたはいいが、やっぱり年末の外を甘く見すぎていた。
「めちゃくちゃ寒い……!」
コートの上からショールを纏って、手袋にニット帽、ムートン風ブーツにマスクの完全防備だったが、頬や目に当たる風が冷たくてブルブルする。
視力はいいが、伊達眼鏡でもいいからあればよかったと思う。
スッピンだし、涙目だし。
「あれ?依子ちゃん?」
不意に呼ばれた名前は、きっと私のだろう。
「やっぱり!って、どうしたの?」
この声、この言い方。
よりによって今がその時……。
「ーー体調悪い?そうなんだね?」
どうやら下ばかり見て歩いてたから、高原さんとすれ違ったことがわからなかったみたい。ぼんやりしているし。スッピンだし。
「はい……あの、すみません……風邪ひいてて……。」
「風邪っていったって、酷い風邪だろう?顔が赤いよ。大丈夫じゃなさそうだ。」
「あの、あまり、近づかないで……。うつっちゃう。」
私は確かにそう言ったのに、高原さんは全く関係ないというふうに私のおでこに手を当てた。
「いや、無理だよ。依子ちゃん、病院行ったんだよね?」
右手に持つトートバッグから、薬袋がのぞいている。
「はい……。点滴して、だいぶ良くなったはずだったけど、やっぱり外は寒いですね……。」
「……ふぅー、わかった。とりあえず、マンションまでもう少しだし、送るよ。」
「えっ?あ、あのっ。」
「離れちゃダメだよ。」
高原さんは身に纏っているロングコートを脱ぎ、私を包んだ。そして包みながら左腕で私の肩を引き寄せ、支えるように歩き出した。
ーーあったかい……。それに、落ち着く匂い……。
最初こそ戸惑ったが、徐々に安らぐ気持ちに素直に、私は高原さんに身を預けてマンションに戻った。玄関先までそのまま送ってもらい、
「高原さん、ありがとう。すごく暖かかったし、助かったわ。」
と、お礼を言った。
だが、彼は前の約束を覚えていたようで、
「次に会ったら、コーヒーでも飲もうって言ったよね?」
と、ニヤリとしながら言う。
「あ、はい……。でも、私今コーヒーどころじゃ……。」
「わかってるよ。でも、せっかくだから、依子ちゃんが元気になるように頑張ってもいい?」
「ん?それってどういう?」
「……やっぱり無理だよ。依子ちゃんを放っておくなんてできない。だから、コーヒーはまた次でいいから、今日は君のそばにいさせて。いや、いるから。」
高原さんはそう言いながら、私から鍵を奪い、ドアを開けると私ごと玄関内に入った。
「や、ちょっと、それはっ。」
「ごめん、でも、依子ちゃん、1人でしょ?病気の時くらい、出番が欲しい。ささ、依子ちゃんはベッドに行こう。」
ヒョイっと担がれ、ブーツを脱がされた。
「や、な、なんでこんな……!」
普通、お姫様抱っこじゃないの?
「ごめんね、僕、運動不足だから。横抱きしたら腰がやられる。」
「へ?腰が?ッププ」
なんだか急に拍子抜けで笑ってしまった。
「飛行機ばかり乗ってたからか、座りすぎて腰が弱いんだ。男としてはあまり言いたくないんだけどね。」
『はぁっ』と息をあげながら、私はベッドに降ろされた。
「ほら、コートも脱ごう。帽子も手袋も。」
あれよあれよと言う間に、私はスエットスーツに毛布と布団をかぶり、寝る体制になった。
おでこには冷たいタオルがおかれ、気持ちいい。
(そういえば、氷枕ないんだ。常備しておかなきゃね……)
そんなことを思っていたら、目がトロンとしてきた。
「めちゃくちゃ寒い……!」
コートの上からショールを纏って、手袋にニット帽、ムートン風ブーツにマスクの完全防備だったが、頬や目に当たる風が冷たくてブルブルする。
視力はいいが、伊達眼鏡でもいいからあればよかったと思う。
スッピンだし、涙目だし。
「あれ?依子ちゃん?」
不意に呼ばれた名前は、きっと私のだろう。
「やっぱり!って、どうしたの?」
この声、この言い方。
よりによって今がその時……。
「ーー体調悪い?そうなんだね?」
どうやら下ばかり見て歩いてたから、高原さんとすれ違ったことがわからなかったみたい。ぼんやりしているし。スッピンだし。
「はい……あの、すみません……風邪ひいてて……。」
「風邪っていったって、酷い風邪だろう?顔が赤いよ。大丈夫じゃなさそうだ。」
「あの、あまり、近づかないで……。うつっちゃう。」
私は確かにそう言ったのに、高原さんは全く関係ないというふうに私のおでこに手を当てた。
「いや、無理だよ。依子ちゃん、病院行ったんだよね?」
右手に持つトートバッグから、薬袋がのぞいている。
「はい……。点滴して、だいぶ良くなったはずだったけど、やっぱり外は寒いですね……。」
「……ふぅー、わかった。とりあえず、マンションまでもう少しだし、送るよ。」
「えっ?あ、あのっ。」
「離れちゃダメだよ。」
高原さんは身に纏っているロングコートを脱ぎ、私を包んだ。そして包みながら左腕で私の肩を引き寄せ、支えるように歩き出した。
ーーあったかい……。それに、落ち着く匂い……。
最初こそ戸惑ったが、徐々に安らぐ気持ちに素直に、私は高原さんに身を預けてマンションに戻った。玄関先までそのまま送ってもらい、
「高原さん、ありがとう。すごく暖かかったし、助かったわ。」
と、お礼を言った。
だが、彼は前の約束を覚えていたようで、
「次に会ったら、コーヒーでも飲もうって言ったよね?」
と、ニヤリとしながら言う。
「あ、はい……。でも、私今コーヒーどころじゃ……。」
「わかってるよ。でも、せっかくだから、依子ちゃんが元気になるように頑張ってもいい?」
「ん?それってどういう?」
「……やっぱり無理だよ。依子ちゃんを放っておくなんてできない。だから、コーヒーはまた次でいいから、今日は君のそばにいさせて。いや、いるから。」
高原さんはそう言いながら、私から鍵を奪い、ドアを開けると私ごと玄関内に入った。
「や、ちょっと、それはっ。」
「ごめん、でも、依子ちゃん、1人でしょ?病気の時くらい、出番が欲しい。ささ、依子ちゃんはベッドに行こう。」
ヒョイっと担がれ、ブーツを脱がされた。
「や、な、なんでこんな……!」
普通、お姫様抱っこじゃないの?
「ごめんね、僕、運動不足だから。横抱きしたら腰がやられる。」
「へ?腰が?ッププ」
なんだか急に拍子抜けで笑ってしまった。
「飛行機ばかり乗ってたからか、座りすぎて腰が弱いんだ。男としてはあまり言いたくないんだけどね。」
『はぁっ』と息をあげながら、私はベッドに降ろされた。
「ほら、コートも脱ごう。帽子も手袋も。」
あれよあれよと言う間に、私はスエットスーツに毛布と布団をかぶり、寝る体制になった。
おでこには冷たいタオルがおかれ、気持ちいい。
(そういえば、氷枕ないんだ。常備しておかなきゃね……)
そんなことを思っていたら、目がトロンとしてきた。
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