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現在

忘れられなくて

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「あのね、しんやに妹か弟ができるんだって!」
 それは、娘の一言だった。
「…慎也くん?って、…零の…」
「しんやがすっごく喜んでたの、みんなでお祝いするって言ってた!私も弟か妹がほしいなぁ」
 カチャカチャとスプーンで皿を叩く美沙は、父である俺のことなんて見えていない。
「生まれたらね、私も抱っこさせてもらうの!」
 ーー零に、子供。つまりそれは、あの男との間に出来た子供。
「…それ、今日聞いたのか?」
「うん。しんやのお父さん、すっごく嬉しそうだったんだよー」
「そう、か…」

 美沙は姉弟ができることを望んでいるのだろうが、それは叶えてやれない。というか、いつ離婚してもいい状態なのだ。
 六年前、零があっさりと俺と別れた。俺は何故か悔しくて、関谷家に婿養子として迎え入れられた。
 もう二度と会うこともないと思っていた。だからリサを大切にしようとも思っていた。けれど結局、零を忘れることなんて出来なかった。
 もしかしたら、まだ誰かと…あの男とも番っていないかもしれない。妊娠も、悪い夢だったのかもしれない。そんなバカな望みは再会と共に打ち砕かれた。

「…んだよ…!」
 俺が結婚しようって言った時は、卒業するまで…とか言ってたくせに。なんで、どうして。確かに浮気した俺は悪かったけれど。
 だけど。

「…零」
 最低だって分かってる。訴えられても構わない。
 家を美沙に教えてもらい、零が出てくるまで待ち伏せした。
「は…?な、なんでここに…」
「話がある」
「俺はないっ…!てか、マジで訴えるぞ!?」
「別にいい」
「はぁ!?」
「慎也くんって、本当にあの男との間に出来た子供なのかよ?」
「……当たり前、だろ…なんだよ、いきなり…」
 分かる。自分で裏切っておいてなんだけど、何年も共に暮らした。嘘をついているときくらい分かる。
「お前はずっと、俺の側にいた」
「…俺はお前が前に言った通り、浮気してたっ…!」
 それも、嘘。冷静になった今なら分かる。
「いいや、してない」
「なんで言い切れるんだよ!」
 だって、俺はお前に黙っていたけれど。
「俺は毎日、お前が寝静まってからお前の携帯チェックしてた。お前の行動も常にGPSで追いかけてたし、留まった場所も五分以上滞在したら通知が来るように設定してた」
 我ながら、自分で自分に引いていた。信用してなかった訳じゃないけれど、それでも心配だったから。
「お前は大学終わったらまっすぐ家に帰ってた。それに、産婦人科にも通ってたんだろ!」
 言い切って、反応を見る。
 言うまでもなく、零の顔は真っ青になって震えていた。
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