私と離婚してください。

koyumi

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遠く

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 諭の体調は、日に日に悪化していく一方、依子はあれから順調な日常を維持していた。

 依子と入れ替わるように入った病院で、丸メガネの医師は、諭に通院回数を増やすように告げた。
 前回は気休め程度の投薬だったが、今回は少し強めのものに変えられた。

 年末に差し掛かり、仕事量は増えていたし、周りも人に構うどころではない状況で、助けを求めることなどできなかったし、したくなかった。

 一度、いずみらしき女性が、富樫家の前に立ち止まっていたという噂を聞いた。
 修也のことを考えれば、母親に抱かしてやりたい気持ちもあったが、諭の母親は断固拒否するほど、修也をわが息子のように可愛がり始めた時だった。
 もしかしたら、母親は、気づいていたのに冷たくあしらったのかもしれない。
 そんなことさえ思えるほど、溺愛ぶりがすごかった。
 それもまた諭にとって、言いようのない塊を抱える糧となっていた。

「富樫さん、今すごく風邪やインフルエンザが流行っているから、マスクは必ずしてきてね。」

 帰り際に50代くらいのベテラン看護師に言われ、不味かったなと思った。

 この病院に来る途中も、マスクをして着込んだ女性が男性に抱えられるように歩いている姿を見ていた。

(随分辛そうだな……。)

 横目でチラッと見たが、女性の顔は男性の腕の中にすっぽり入っていて見えなかった。

 もし自分が風邪でもひいて、修也にうつしたら大変だ。

 諭の中ではもう、過去の浮気相手や依子ではなく、息子の修也のことが脳内や胸の内を占めていた。

 諭は依子に気づかなかったし、高原に気づくこともなかった。

 ただ1人そばに女性を願うなら、それはいずみであった。修也のために。

 子育てと仕事に励む現在にとって、依子と過ごした日々はもう、遠い遠い過去となりつつあった。
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