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第六章

変な男で悪かったな

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「ミール。いつから……そこに……?」
 ミールの顔は微笑んでいるが、内心は怒っているようだ。
「『それならナーモ族の魔法使いに頭を下げて制御法を教えてもらえば』の、あたりからですわ」
「おい。誰かいるのか?」
 キラ・ガルキナも、洞から出てきた。
「誰だ? この女は?」
 君が、会いたいと言っていた魔法使いだよ。
 不意にミールは、キラ・ガルキナの胸倉を掴んだ。
「ふざけないで下さい!」
「な……なんだ?」
「おい! ミール、乱暴はよせ」
「カイトさんは、黙っていて下さい。これは、この女とあたしの問題です」
「いや……しかし……」
 入り込む余地なさそう。
 しかし、ミールは胸倉を掴んだだけで殴る様子はなさそうだ。
 キラ・ガルキナも抵抗する様子がない。
 ただ、自分がなぜこうなっているかも、分かっていないようだ。
「まて! 何か勘違いを、しているのではないか? 私はこの男と、話をしていただけだ。何もやましいことはしていない」
「やましいことをしていたら、今頃殺していますわ。いえ、あなたは、殺される事を望んでいたようですね。だったら、お断りです。死にたかったら、川にでも飛び込んで勝手に死になさい」
「え?」
「自殺が怖いから、あたしに殺してもらいたいですって?」
「あたしにって……? あなたは?」
「冗談じゃないですわ。人を殺すって事が、どんなに嫌の事か、分かっていて言っているの? あなたも、分身を暴れさせて人を殺した事があるみたいだけど、その記憶は全然残っていないのでしょう。あたしは、全部覚えているわ。あたしに殺された、帝国人たちの顔を……今でも、夢に出てくるぐらいに……」
「そ……それじゃあ、あなたが魔法使い?」
「そうよ。あたしが、あなたの会いたがっていた、ミケ村のカ・モ・ミールです」
「……」
「あなたに、聞いておきたい事があります」
「なんだ?」
「ダモン様の書いた地図を、あなたが自らネクラーソフに渡したというのは、嘘ですか?」
「当たり前だ! 私は、そんな事はしていない」
「皇帝の姪である立場を利用して、ネクラーソフにミケ村を侵攻させたというのは?」
「誰が、そんな事を言った? 私の父は確かに陛下の弟だが、三十人もいる兄弟の一番下で、しかも妾腹だ。私に、そんな影響力があるわけないだろう」
 ミールは、僕の方を向いた。
「ご心配かけました。大丈夫です。暴力なんかふるいませんから。もう殴る理由もなくなりましたし……」
 ミールはキラ・ガルキナから手を放した。
「紹介状を、出しなさい」
「え?」
「え? じゃありません。ダモン様に、書いてもらった紹介状を持っているのでしょ。それとも無くしたの?」
「いや、持っている」
 キラ・ガルキナは、ポケットからクシャクシャになった紙を出した。
「変な男に、川に投げ込まれたせいで濡れてしまったが……」

 変な男で悪かったな。

 それにしても、まだ敬称を付けて呼んでいるが、ミールはダモンの事をどう思っているのだろう? まだ、裏切ったという事が、信じられないのだろうか?
 不意にミールは僕の方を向いた。
「カイトさん。正直、ダモン様が、なぜあんな事をしたのか分かりません。それでも、あの方が偉大な魔法使いであることには、変わりないのです。だから、ダモン様の紹介状は今でも有効なのですよ」
 そういうものなのか。  
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