種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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第四部隊編

二人の王位継承者

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「……ここが貴女たちの家ですの?随分と小汚いですわね」
「喧嘩売ってんのかい……このガキィッ」
「ば、バル殿……一応は敬語を使って……」
「何で獣人族のあたしが、人間のお姫様なんぞに敬語なんか使わなくちゃならないんだい?」


黒猫酒場に付いて早々、先ほどまでの怯えていた態度から一変し、バルトロス国王の一人娘である「リオ」は遠慮なく酒場の中に入り込む。そんな彼女を追うようにカゲマルが続き、バルとソフィアは面倒事に巻き込まれそうな状況に溜息を吐く。


「お帰りっす~……って、誰すか?その子」


大分遅い時間帯ではあるが、家計簿を行っていたカリナがすぐに出迎え、酒場に入ってきたリオに視線を向けて首を傾げる。彼女は一応は女部下たちの仲でも実力があり、黒猫盗賊団(ブラック・キャット)の副団長も勤めている。


「そこの庶民、喉が渇いたわ。上等な蜂蜜酒を用意しなさい」
「いや、子供にお酒は早いっすよ」
「か、カリナ殿~!!」


リオの態度にカリナが眉を顰めるが、すぐにカゲマルが彼女の元に駆け寄って事情を伝える。その間にもリオはすぐ傍の机に座り込み、


「貴女、私の質問にまだ答えてませんわ。もちろん、私の力になってくれますわよね?」
「だって」
「あたしに言ってるんじゃなくて、あんたに言ってるんだあんたに」


ソフィアはバルに顔を向けるが、彼女は厄介ごとは御免だとばかりに階段を上がって金庫がある自分の自室に向かう。残されたソフィアは仕方なく、自分に視線を向けてるリオの向い側の席に座り込む。


「で……どういう意味?力になってほしいって」
「まだ質問に答えてませんわ!私の力になってくれますの?」
「力になるかどうかは、まずは話を聞いてから判断する」
「もう……仕方有りませんわね。では順々に話しましょうか、私の願いを」




――バルトロス国王の孫娘である「リオ」彼女は自分が国王の血の繋がりのある事を隠しており、世間にはその存在は知れ渡っていない。




何故、彼女の存在が公にされないかというと、それは彼女の生まれに問題がある。現在のバルトロス王国の国王「バルトロス13世」は相当な高齢だが未だに誰とも婚姻関係を結ばず、子供は設けていない(だからこそ、彼の親戚であるアルトを養子に迎え、彼が王位が継承する事になった)。



だが、実際には彼には息子が1人だけ存在し、数十年前に彼が王子の時代に城下街のある一般庶民の娘と恋に落ちてしまい、肉体的な関わりを持ってしまった。彼女との出会いから約1年後、2人の間に子供が生まれる。



しかし、当時の国王(バルトロス12世)である父親に2人の仲は引き裂かれ、娘は王国から追放、後のバルトロス13世(国王になると同時に改名されるため、当時は「トト」という名前だった)は幽閉され、王家の血を継ぐ彼の息子はそのまま王国に保護される。

流石に自分の孫である子供を処分する事はバルトロス12世も躊躇し、仕方なく王国から遠く離れた山村に送り込み、身寄りのない夫婦に預ける。仮に「トト(バルトロス13世)」に何かあった場合、彼が王位を継げるように配慮したつもりだった。

その後、バルトロス12世が死去し、無事にトトが13代目のバルトロス国王を継ぐと、すぐに彼は自分の子供を呼び寄せようとした。だが、山村に預けたはずの「カルト(赤ん坊の名前)」は既に冒険者として旅立っており、行方は知れずだった。

バルトロス13世は必死に彼の行方を捜したが、やっと消息を掴めた時にはカルトは結婚しており、ある貴族の令嬢と夫婦となっていた。その貴族というのが「ハナムラ侯爵」であり、彼等からカルトを取り戻す事は難しく、国王は断念するしかなかったという。

当時からハナムラ侯爵家は王国の中でも有力貴族であり、その影響力は馬鹿に出来ない。だが、どうにも王族の発言を軽視している節があり、度々不審な行動も見られた。

先代のバルトロス12世はハナムラ侯爵家を信用していたが、バルトロス13世は彼らを信用しきれず、しかも自分の息子である「カルト」は既にハナムラ侯爵の一員であり、恐らくは彼等はカルトの「血筋」を見抜いて自分の家の令嬢と結婚させたのだ。

仮にカルトを次代の国王と宣言した場合、より一層にハナムラ侯爵家は王国内で力を増し、彼らの都合がいい「国造り」が始まってしまう。それだけは避けねばならず、国王はカルトに自分が父親であることを明せぬまま時を過ごす。



やがてバルトロス13世も年を取り、次の後継者の選択を迫られ、彼は王族の血を継ぐアルトを「第一位継承者」に指定する。彼は子供の頃から優秀であり、さらには人を引き付ける能力がある彼はすぐに周囲の者達に認められる。



――しかし、最近になってハナムラ侯爵がセンチュリオンと繋がりを持っていたという証拠が多数発見され、侯爵家は完全に崩壊した。そして、その騒動の際にカルトも姿を消してしまい、その彼の一人娘であるリオだけが残されてしまう。



リオはテンペスト騎士団のカゲマルが率いる隠密部隊に保護され、その後はバルトロス13世に引き取られ、王国で何不自由なく育てられていたが、最近になって彼女にある話が耳に届く。



それはバルトロス国王がアルトではなく、彼女を次代の「女王」へとするべきだという噂が流れていたのだ。
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