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第五十八話 ホクト レポート
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王都にそびえる白亜の王城、その一室でヘルムート王が宰相のベルゲンと共に、ある報告を受けていた。
防音結界の張られたその部屋は、王が主に密談に使用する部屋だった。
第四王女フランソワが通う学園の校外行事で、野営を含む一泊の行軍訓練に出掛けていた。
フランソワを溺愛するヘルムートは、王族の警護という枠を超えて、娘の為に影警護を派遣していた。
行事が終わり、フランソワ達生徒が帰路に着いた事を確認した警護方の一人が、先んじて報告へと王都へ戻ったのだった。
「それで、フランソワは無事か?」
たいした魔物も出没しない一年生の行事で、無事も何もないのだが、ヘルムートのフランソワへの溺愛ぶりを知っているベルゲンは苦笑いするにとどめる。
「はっ、フランソワ陛下は、ヴァルハイム卿のパーティーに参加されました」
警護方の報告で、思わぬ名前が出て来て、ヘルムートとベルゲンが反応する。
「出発前にペドロハイム家の嫡男が、ヴァルハイム卿に絡んでいましたが、フランソワ陛下がその場を諌めたのを切っ掛けに、フランソワ陛下がヴァルハイム卿に同行を願い出たようです。
これは第三騎士団のウルド殿が、側で確認しています」
「そうか、続けてくれ」
ベルゲンに促され、二日間の報告をする警護方。
報告が進むにつれて、ヘルムートとベルゲンの顔が引きつっていく。極めつけは、集落を造ろうとしていたオークの群れを討伐したくだりになると、ヘルムートは思わず立ち上がってしまう。
「まぁもともと学園の生徒に、実戦の空気を感じて貰うための行事ですから、ヴァルハイム卿に下駄を履かせて貰っての実戦なら危険は少ないでしょうな」
初日に、ホクト達がフランソワに実戦の経験をさせる為に、ゴブリン相手に行った事に、ベルゲンは特に問題はないと思った。
「まぁそれは問題あるまい」
「ただその後、よくヴァルハイム卿はコボルトやゴブリン、挙げ句の果てはオークの群れを探せましたな」
王都から遠くない場所に、オークが集落を作りかけていた事にベルゲンは冷や汗をかく。
「はっ、ヴァルハイム卿は怖るべき探索能力を有していると思われます。それを証拠に、我等の事は全員勘付いておられました」
ベルゲンの問いに答えたのは、ホクトの事を思い出して、表情を固くしながら報告する警護方だった。ただ、何故広範囲に魔物の察知が出来るのかは、結局わからないままだ。
「しかし、エルフとは魔法に長けた種族だと思ったが、ヴァルハイム卿は違うようだな」
「いえ、陛下、学園の入試での魔法実技試験では、ヴァルハイム卿もサクヤ嬢も、他と隔絶した能力を見せています」
ホクト、サクヤ、カジムの三人が、学園の一年生とは思えない戦闘能力を有している事への驚きは、荒事に馴れた警護方達にも衝撃だった。
「確か、フランソワはベルンへ向かう際にも、ヴァルハイム卿達に助けられたのだったな」
「はい、盗賊に襲われているところを助けられたのでしたな」
「はい、ヴァルハイム卿達は盗賊をアジトごと潰しています」
ホクト達三人が、修行を兼ねて王都からベルンまで、走って向かっていたという。しかも彼等は盗賊の後始末をした後、先にベルンへ主発させたフランソワの馬車よりも早くベルンへ到着していた。
「ヴァルハイム卿達は、ベルンの冒険者ギルドで二件の依頼を受けています。おそらくベルンへ訪れた目的は、素材の収集だったのでしょう」
「ほぅ、わざわざベルンまで?」
警護方の報告に、ベルゲンが首をかしげる。冒険者ギルドの依頼なら王都のギルドでも問題ない筈だが、ベルンでなければならない理由、そこまで考えて一つの理由に行き着いた。
「死の森か」
「はい、ヴァルハイム卿達の目的は、武器や防具に使用する素材、それも一級品の素材を求めたのでしょう。彼等が受けた依頼は、ワイバーンと地竜の討伐です。その二つの依頼を短期間で達成すると、直ぐに王都へと戻っています」
「……ワイバーンに地竜か、オーク討伐に躊躇せんわけだな」
ホクト達が神匠ガンツの工房に、頻繁に通っている事も確認されている。ホクト達の装備がガンツのモノだと推測出来た。第三騎士団のウルドからも報告があり、ホクトの見事な斧槍を持たせて貰ったらしいが、総金属製の斧槍は誰でも扱えるモノではなかったと言う。
「ヴァルハイム卿が装備の素材を収集する過程で、偶然フランソワは救われたと言うことか、幸運だったと言うべきだな」
「そうですね。フランソワ陛下は、ヴァルハイム卿とは同じクラスで学ぶ御学友でもあります。今回は、その縁もありフランソワ陛下に様々な経験をさせて貰えたと思って良いのではないでしょうか」
ホクト・フォン・ヴァルハイム。
サクヤ・アーレンベルク。
ロマリア王国の男爵位に就くエルフの少年と少女。
現在、王国において重要監視対象とされている少年と少女。
だが、決して敵対したい訳ではない。むしろいかにして王国との繋がりを強めるか検討されている。
問題は、監視対象に監視している事が知られている事。王国としては、フランソワに緩衝材となって貰いたい気持ちもある。
監視いや観察を続ける方法を、考えなくてはならないとヘルムートやベルゲンは頭を痛める。
防音結界の張られたその部屋は、王が主に密談に使用する部屋だった。
第四王女フランソワが通う学園の校外行事で、野営を含む一泊の行軍訓練に出掛けていた。
フランソワを溺愛するヘルムートは、王族の警護という枠を超えて、娘の為に影警護を派遣していた。
行事が終わり、フランソワ達生徒が帰路に着いた事を確認した警護方の一人が、先んじて報告へと王都へ戻ったのだった。
「それで、フランソワは無事か?」
たいした魔物も出没しない一年生の行事で、無事も何もないのだが、ヘルムートのフランソワへの溺愛ぶりを知っているベルゲンは苦笑いするにとどめる。
「はっ、フランソワ陛下は、ヴァルハイム卿のパーティーに参加されました」
警護方の報告で、思わぬ名前が出て来て、ヘルムートとベルゲンが反応する。
「出発前にペドロハイム家の嫡男が、ヴァルハイム卿に絡んでいましたが、フランソワ陛下がその場を諌めたのを切っ掛けに、フランソワ陛下がヴァルハイム卿に同行を願い出たようです。
これは第三騎士団のウルド殿が、側で確認しています」
「そうか、続けてくれ」
ベルゲンに促され、二日間の報告をする警護方。
報告が進むにつれて、ヘルムートとベルゲンの顔が引きつっていく。極めつけは、集落を造ろうとしていたオークの群れを討伐したくだりになると、ヘルムートは思わず立ち上がってしまう。
「まぁもともと学園の生徒に、実戦の空気を感じて貰うための行事ですから、ヴァルハイム卿に下駄を履かせて貰っての実戦なら危険は少ないでしょうな」
初日に、ホクト達がフランソワに実戦の経験をさせる為に、ゴブリン相手に行った事に、ベルゲンは特に問題はないと思った。
「まぁそれは問題あるまい」
「ただその後、よくヴァルハイム卿はコボルトやゴブリン、挙げ句の果てはオークの群れを探せましたな」
王都から遠くない場所に、オークが集落を作りかけていた事にベルゲンは冷や汗をかく。
「はっ、ヴァルハイム卿は怖るべき探索能力を有していると思われます。それを証拠に、我等の事は全員勘付いておられました」
ベルゲンの問いに答えたのは、ホクトの事を思い出して、表情を固くしながら報告する警護方だった。ただ、何故広範囲に魔物の察知が出来るのかは、結局わからないままだ。
「しかし、エルフとは魔法に長けた種族だと思ったが、ヴァルハイム卿は違うようだな」
「いえ、陛下、学園の入試での魔法実技試験では、ヴァルハイム卿もサクヤ嬢も、他と隔絶した能力を見せています」
ホクト、サクヤ、カジムの三人が、学園の一年生とは思えない戦闘能力を有している事への驚きは、荒事に馴れた警護方達にも衝撃だった。
「確か、フランソワはベルンへ向かう際にも、ヴァルハイム卿達に助けられたのだったな」
「はい、盗賊に襲われているところを助けられたのでしたな」
「はい、ヴァルハイム卿達は盗賊をアジトごと潰しています」
ホクト達三人が、修行を兼ねて王都からベルンまで、走って向かっていたという。しかも彼等は盗賊の後始末をした後、先にベルンへ主発させたフランソワの馬車よりも早くベルンへ到着していた。
「ヴァルハイム卿達は、ベルンの冒険者ギルドで二件の依頼を受けています。おそらくベルンへ訪れた目的は、素材の収集だったのでしょう」
「ほぅ、わざわざベルンまで?」
警護方の報告に、ベルゲンが首をかしげる。冒険者ギルドの依頼なら王都のギルドでも問題ない筈だが、ベルンでなければならない理由、そこまで考えて一つの理由に行き着いた。
「死の森か」
「はい、ヴァルハイム卿達の目的は、武器や防具に使用する素材、それも一級品の素材を求めたのでしょう。彼等が受けた依頼は、ワイバーンと地竜の討伐です。その二つの依頼を短期間で達成すると、直ぐに王都へと戻っています」
「……ワイバーンに地竜か、オーク討伐に躊躇せんわけだな」
ホクト達が神匠ガンツの工房に、頻繁に通っている事も確認されている。ホクト達の装備がガンツのモノだと推測出来た。第三騎士団のウルドからも報告があり、ホクトの見事な斧槍を持たせて貰ったらしいが、総金属製の斧槍は誰でも扱えるモノではなかったと言う。
「ヴァルハイム卿が装備の素材を収集する過程で、偶然フランソワは救われたと言うことか、幸運だったと言うべきだな」
「そうですね。フランソワ陛下は、ヴァルハイム卿とは同じクラスで学ぶ御学友でもあります。今回は、その縁もありフランソワ陛下に様々な経験をさせて貰えたと思って良いのではないでしょうか」
ホクト・フォン・ヴァルハイム。
サクヤ・アーレンベルク。
ロマリア王国の男爵位に就くエルフの少年と少女。
現在、王国において重要監視対象とされている少年と少女。
だが、決して敵対したい訳ではない。むしろいかにして王国との繋がりを強めるか検討されている。
問題は、監視対象に監視している事が知られている事。王国としては、フランソワに緩衝材となって貰いたい気持ちもある。
監視いや観察を続ける方法を、考えなくてはならないとヘルムートやベルゲンは頭を痛める。
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