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結婚生活
結婚
しおりを挟むシャルロットが妊娠したと実家に報告がきた。その時ちょうど、ユーリがいた。
「え……シャルロットが…」
ユーリはチクチクと傷む胸の痛みを無視して、必死に笑顔を作る。
「まぁ!…シャルロットが幸せになるなんて…ねぇ、ユーリお兄様。生意気ですわ」
ルーラはふんっと鼻を鳴らした。
「…めでたいことだ」
ユーリはかすれる声を必死に取り繕いながら、笑った。
「なにか祝いの品でも買わなければな」
そうは言いながらも、ユーリはまるで心が固まっていくように感じた。
ちゃんと理解していたつもりだ。シャルロットはイルタナー伯爵婦人なのだ。ゼイルドとは夫婦で、子供が出来るのも当たり前のことで。
けれどそれでも、理解しているようでしていなかったのかもしれない。
ユーリは、ずっとシャルロットに思いを寄せていたのだ。
ユーリがシャルロットと知り合ったのは、もう随分と幼いときだ。
ルーラは自分になついていたけれど、シャルロットは中々なつかなかった。シャルロットは花のように可憐で、美しかった。風のように、少し目を離したらすり抜けて行くような少女だった。
だからこそ、惹かれたのだ。
留学することが決まったとき、思った。必ず早く帰ってきて、そしたらシャルロットに婚約を申し込む。
ルーラが自分と結婚がどうのと言っていることは知っているけれど、俺はルーラと結婚する気などさらさらない。
だから、帰ってきて頭が真っ白になってしまった。
「シャルロット、が……結婚、したって、どういうことですか…」
やっとの思いで帰ってきたら、シャルロットは結婚していた。婚約ではない。結婚だ。
「お父さん!!」
うるさい、と父が低い声で言った。
「なんだ。シャルロットのことか」
父は昔から、自分のシャルロットに対する気持ちを知っている。
「どういうことですか、シャルロットがあの…あの、イルタナー伯爵家へ嫁いだのですか!何故っ…!」
「…何故、だと?シャルロットが幸せになるのに、理由などいるか」
「お父さん!!」
「少しは冷静になれ」
そうは言われても、ユーリは冷静にはならなかった。
(シャルロット、助け出してやるぞ…!)
嫌がるシャルロットを無理矢理嫁がせた。そして俺がそれを助ける。
そんな物語が、ユーリの頭には出来上がっていたのだ。
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