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第六十一話 ダークエルフ
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少年が闇ギルドの追っ手を全て倒した次の瞬間、乾いた金属音が響き、少年は片刃の剣を構えていた。
少年の足元に真っ二つに斬られたナイフの残骸が落ちていた。
少年のフードがハラリと外れ、美しい銀髪が露わになる。そこに立って居たのは、余りにも美しいエルフの少年。
そこに現れた闇ギルドの新たな刺客、そいつは少年をターゲットと言った。本来なら私に依頼する筈だった暗殺のターゲット。確かヴァルハイム子爵家の三男だった筈だ。
闇ギルドの男は、ナイフを時間差で投擲し、自身も踏み込み、避け難い横薙ぎの斬撃を繰り出した。
「!!」
驚きで口が開いて塞がらない。
エルフの少年は、時間差で投擲されたナイフの一本を斬り落とし、もう一本を体捌きで躱しながら間合いを詰めたところまで見えていたが、少年は男の背後に抜けていた。
驚きで目を見開いた男は、上半身が斜めにずり落ちていった。
「ふぅ、何だったんだ?」
ホクトが剣を収めてひと息つく。
「ご苦労様」
サクヤがホクトの側に近寄る。
「す、すまない。私の事情に巻き込んでしまった」
黒づくめの人物がホクトとサクヤに話し掛けて来た。その声で黒ずくめの人物が女だった事に気がつく。
「いえ、最後の男は僕を狙っていた様ですし、あなたが一方的に悪い訳ではありませんよ」
「い、いや、君はヴァルハイム子爵家の三男だろ」
エルフとバレた時点で、自分の身バレは仕方ないとホクトは諦めている。しかも今回は、自分を襲って来た男が、そう言っていたのだから仕方ないと思っていると、どうやらそれだけではないらしい。
「実は、こいつらは闇ギルドのメンバーなんだが、最初私に、君の暗殺を依頼して来たのさ。
私は暗殺は本職じゃないから断ったんだけどね。それで後をつけられて、人の居ない場所に誘き出して始末しようと思っただけど、君達に迷惑を掛けてしまった。
オマケに逆に命を救ってくれてありがとう」
黒づくめの人物がフードを外し、白いマスクを外すと深々と頭を下げた。
「えっ、…………ダークエルフ」
ホクトとサクヤが驚いて呆然とする。
引き篭もりのエルフは、ユグル王国以外ではあまり見かけない希少種族だが、ダークエルフは南の海を渡った小さな大陸に住む種族で、この大陸ではエルフよりも更に見かける事はない。
輝く銀髪に褐色の肌、エルフ同様、魔法適性が高く全員ではないが精霊魔法を使う者も居る。エルフとダークエルフは、もともと同じ始祖から別れ、森に住んだのがエルフ、海の側に住んだのがダークエルフとなったと言われている。
「私の名は、ジル・シーウッド。
ご覧の通り、ダークエルフだ」
私の名は、ジル・シーウッド。
南の大陸、いや島と言った方が良いかもしれない。その南の島から流れて来たダークエルフだ。
シーウッド家は、アスカール王国の男爵家だった。
シーウッド家は特殊な家系で、忍術と言う諜報技術を先祖代々受け継いで来た家系だ。
私は、シーウッド家で二人の兄と弟が一人、姉が上に二人の三女として生まれた。
我がシーウッド家に伝わる忍術とは、刀術、槍術、短剣術、暗器術、体術、投擲術などの武術は元より、諜報の為の隠形術や気配隠匿技術を指す。
私はシーウッド家に連なる者として、幼い頃より厳しい訓練を受け、忍術を叩き込まれて来た。
皮肉な事に、家を継げない三女の私は、歴代シーウッド家の中でも、随一の忍術使いに育って行った。
そんな私の事を、二人の兄が私の事を面白くないと思っているのは知っていたが、それでもまさか実の兄に命を狙われるとは思っていなかった。
あれは海軍の訓練に同行した時の事、沖での操船訓練中、船上で兄の部下に襲われたのだ。
身内とはいえ、油断していた私にも落ち度はあったのだろう。だがそれでも兄の部下達の攻撃をかい潜り、返り討ちにする事くらいは出来ただろう、初撃に受けたナイフに毒が塗っていなければ。
私は咄嗟に海に身を投げた。
幸い毒に耐性を持つ私は、海上を漂う内に身体の自由を取り戻した。それでも絶望的な状況は変わらない。私は潮に流されるまま、三日三晩海上を漂った。
私が幸運だったのは、沖での操船訓練だった為、この大陸までの距離が近かった事、魔物の襲撃に会わなかった事、幾つもの幸運が重なり、私は奇跡的にこの大陸へと生きて流れ着いた。
これは今考えても奇跡以外の何者でもないと思う。
動ける様になった私は、種族が判らぬように姿を隠す。父や母から、自分達ダークエルフ種族が、この大陸でどの様な扱いを受けるのか、耳が痛くなるほど聴いていた私は、常にフードで姿を隠し、生きる為に盗みや諜報の真似事もしながら生きて来た。
様々な国を渡り歩き、忍びの技で生き延びて来た。その組織に属さない立ち位置故に、裏の組織との敵対関係になった事も一度や二度ではない。
そんな暮らしに疲れ、精神的に折れかけていた時だった。
ロマリア王国の王都で、闇ギルドからの仕事依頼があったのわ。
ここの所躍進しているヴァルハイム子爵の三男の暗殺依頼だった。
諜報を生業とする私は、当然このヴァルハイム家の三男の情報は、ある程度持ち合わせていた。
今のヴァルハイム家躍進の原動力。
大戦の英雄と美しいエルフとの間に生まれた、エルフの少年。
当然ながら、私は依頼を断った。
忍び故に、暗殺も仕事のうちだが、今の私はその仕事を受けていない。一度暗殺の依頼を受けてしまうと、歯止めが効かず忍びではなく、ただの暗殺者となってしまう。
案の定、スラムの酒場を出てすぐにあとをつける気配がする。
私は人通りの少ない職人街へ誘導する。人通りの少ない職人街の中でも、さらに寂れた一画に誘い出した時、闇ギルドの男達が姿を見せた。
予想外に多い人数と男達の力量に、背中を冷たい汗が流れる。負けないとは思うが、私もタダでは済まない…………。
その時、寂れた工房から人が二人出て来た。
灰色のローブを着たその二人は、フードを目深に被っている為に顔はわからないが、体格から少年と少女だと推測された。
驚いた事にその少年と少女は、事情を把握しながらも泰然自若としている。それどころか口もとに笑みを浮かべている。
あろうことか、少年と少女は闇ギルドの男達の方へ歩きだした。
「おい、見られちゃ仕方ねえ、まとめて殺しちまうぞ」
闇ギルドの男達が動き出す。
「チッ!」
私は短剣を抜き、泰然としてたたずむ二人の少年と少女の間に割り込もうとした。
ただ全ては杞憂に終わった。
少年は怖ろしいまでの技量、無手で剣やナイフ相手に一瞬で全員を倒してしまった。
驚くとともにホッとした次の瞬間、金属音がすると、少年が剣を抜き構えていた。その足元には真っ二つに斬られたナイフ。
そしてフードが外れた少年の顔があきらかになる。
「……エルフ」
青味がかった銀色の髪に、容姿が優れていると言われるエルフやダークエルフにも中々見る事のない美しい少年だった。
忍びである私が、不意をつかれた刺客の攻撃を防いでみせたエルフの少年が、ヴァルハイム家の三男だと分かった。
その後の攻防は見事だった。
時間差をつけたナイフの投擲と、それに重ねる抜き打ちの斬撃。これまで多くの人間を葬って来たと推測される刺客のコンビネーションを難なく防ぐとともに、刺客の男を事もなげに斬り捨てた。
私の身体を稲妻が走り抜けた。
アスカール王に謁見した時すら感じなかった感覚。
(我が生涯の主人を見つけたり)
少年の足元に真っ二つに斬られたナイフの残骸が落ちていた。
少年のフードがハラリと外れ、美しい銀髪が露わになる。そこに立って居たのは、余りにも美しいエルフの少年。
そこに現れた闇ギルドの新たな刺客、そいつは少年をターゲットと言った。本来なら私に依頼する筈だった暗殺のターゲット。確かヴァルハイム子爵家の三男だった筈だ。
闇ギルドの男は、ナイフを時間差で投擲し、自身も踏み込み、避け難い横薙ぎの斬撃を繰り出した。
「!!」
驚きで口が開いて塞がらない。
エルフの少年は、時間差で投擲されたナイフの一本を斬り落とし、もう一本を体捌きで躱しながら間合いを詰めたところまで見えていたが、少年は男の背後に抜けていた。
驚きで目を見開いた男は、上半身が斜めにずり落ちていった。
「ふぅ、何だったんだ?」
ホクトが剣を収めてひと息つく。
「ご苦労様」
サクヤがホクトの側に近寄る。
「す、すまない。私の事情に巻き込んでしまった」
黒づくめの人物がホクトとサクヤに話し掛けて来た。その声で黒ずくめの人物が女だった事に気がつく。
「いえ、最後の男は僕を狙っていた様ですし、あなたが一方的に悪い訳ではありませんよ」
「い、いや、君はヴァルハイム子爵家の三男だろ」
エルフとバレた時点で、自分の身バレは仕方ないとホクトは諦めている。しかも今回は、自分を襲って来た男が、そう言っていたのだから仕方ないと思っていると、どうやらそれだけではないらしい。
「実は、こいつらは闇ギルドのメンバーなんだが、最初私に、君の暗殺を依頼して来たのさ。
私は暗殺は本職じゃないから断ったんだけどね。それで後をつけられて、人の居ない場所に誘き出して始末しようと思っただけど、君達に迷惑を掛けてしまった。
オマケに逆に命を救ってくれてありがとう」
黒づくめの人物がフードを外し、白いマスクを外すと深々と頭を下げた。
「えっ、…………ダークエルフ」
ホクトとサクヤが驚いて呆然とする。
引き篭もりのエルフは、ユグル王国以外ではあまり見かけない希少種族だが、ダークエルフは南の海を渡った小さな大陸に住む種族で、この大陸ではエルフよりも更に見かける事はない。
輝く銀髪に褐色の肌、エルフ同様、魔法適性が高く全員ではないが精霊魔法を使う者も居る。エルフとダークエルフは、もともと同じ始祖から別れ、森に住んだのがエルフ、海の側に住んだのがダークエルフとなったと言われている。
「私の名は、ジル・シーウッド。
ご覧の通り、ダークエルフだ」
私の名は、ジル・シーウッド。
南の大陸、いや島と言った方が良いかもしれない。その南の島から流れて来たダークエルフだ。
シーウッド家は、アスカール王国の男爵家だった。
シーウッド家は特殊な家系で、忍術と言う諜報技術を先祖代々受け継いで来た家系だ。
私は、シーウッド家で二人の兄と弟が一人、姉が上に二人の三女として生まれた。
我がシーウッド家に伝わる忍術とは、刀術、槍術、短剣術、暗器術、体術、投擲術などの武術は元より、諜報の為の隠形術や気配隠匿技術を指す。
私はシーウッド家に連なる者として、幼い頃より厳しい訓練を受け、忍術を叩き込まれて来た。
皮肉な事に、家を継げない三女の私は、歴代シーウッド家の中でも、随一の忍術使いに育って行った。
そんな私の事を、二人の兄が私の事を面白くないと思っているのは知っていたが、それでもまさか実の兄に命を狙われるとは思っていなかった。
あれは海軍の訓練に同行した時の事、沖での操船訓練中、船上で兄の部下に襲われたのだ。
身内とはいえ、油断していた私にも落ち度はあったのだろう。だがそれでも兄の部下達の攻撃をかい潜り、返り討ちにする事くらいは出来ただろう、初撃に受けたナイフに毒が塗っていなければ。
私は咄嗟に海に身を投げた。
幸い毒に耐性を持つ私は、海上を漂う内に身体の自由を取り戻した。それでも絶望的な状況は変わらない。私は潮に流されるまま、三日三晩海上を漂った。
私が幸運だったのは、沖での操船訓練だった為、この大陸までの距離が近かった事、魔物の襲撃に会わなかった事、幾つもの幸運が重なり、私は奇跡的にこの大陸へと生きて流れ着いた。
これは今考えても奇跡以外の何者でもないと思う。
動ける様になった私は、種族が判らぬように姿を隠す。父や母から、自分達ダークエルフ種族が、この大陸でどの様な扱いを受けるのか、耳が痛くなるほど聴いていた私は、常にフードで姿を隠し、生きる為に盗みや諜報の真似事もしながら生きて来た。
様々な国を渡り歩き、忍びの技で生き延びて来た。その組織に属さない立ち位置故に、裏の組織との敵対関係になった事も一度や二度ではない。
そんな暮らしに疲れ、精神的に折れかけていた時だった。
ロマリア王国の王都で、闇ギルドからの仕事依頼があったのわ。
ここの所躍進しているヴァルハイム子爵の三男の暗殺依頼だった。
諜報を生業とする私は、当然このヴァルハイム家の三男の情報は、ある程度持ち合わせていた。
今のヴァルハイム家躍進の原動力。
大戦の英雄と美しいエルフとの間に生まれた、エルフの少年。
当然ながら、私は依頼を断った。
忍び故に、暗殺も仕事のうちだが、今の私はその仕事を受けていない。一度暗殺の依頼を受けてしまうと、歯止めが効かず忍びではなく、ただの暗殺者となってしまう。
案の定、スラムの酒場を出てすぐにあとをつける気配がする。
私は人通りの少ない職人街へ誘導する。人通りの少ない職人街の中でも、さらに寂れた一画に誘い出した時、闇ギルドの男達が姿を見せた。
予想外に多い人数と男達の力量に、背中を冷たい汗が流れる。負けないとは思うが、私もタダでは済まない…………。
その時、寂れた工房から人が二人出て来た。
灰色のローブを着たその二人は、フードを目深に被っている為に顔はわからないが、体格から少年と少女だと推測された。
驚いた事にその少年と少女は、事情を把握しながらも泰然自若としている。それどころか口もとに笑みを浮かべている。
あろうことか、少年と少女は闇ギルドの男達の方へ歩きだした。
「おい、見られちゃ仕方ねえ、まとめて殺しちまうぞ」
闇ギルドの男達が動き出す。
「チッ!」
私は短剣を抜き、泰然としてたたずむ二人の少年と少女の間に割り込もうとした。
ただ全ては杞憂に終わった。
少年は怖ろしいまでの技量、無手で剣やナイフ相手に一瞬で全員を倒してしまった。
驚くとともにホッとした次の瞬間、金属音がすると、少年が剣を抜き構えていた。その足元には真っ二つに斬られたナイフ。
そしてフードが外れた少年の顔があきらかになる。
「……エルフ」
青味がかった銀色の髪に、容姿が優れていると言われるエルフやダークエルフにも中々見る事のない美しい少年だった。
忍びである私が、不意をつかれた刺客の攻撃を防いでみせたエルフの少年が、ヴァルハイム家の三男だと分かった。
その後の攻防は見事だった。
時間差をつけたナイフの投擲と、それに重ねる抜き打ちの斬撃。これまで多くの人間を葬って来たと推測される刺客のコンビネーションを難なく防ぐとともに、刺客の男を事もなげに斬り捨てた。
私の身体を稲妻が走り抜けた。
アスカール王に謁見した時すら感じなかった感覚。
(我が生涯の主人を見つけたり)
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