種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

森の中の再会

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「おい、だから先に行くなっ……って、おいおい!?」
「……何でここにいるの?」
「あ、フレイさんです」
「何故、ここに?」
「……誰?」


顔面をぺろぺろと舐められながらヒナがウルを抱き上げると、すぐ傍の木陰から見慣れた赤髪のエルフが現れ、以前に会った時よりも随分と野性的な格好をしている。前の時はフードで全身を覆い隠していたが、今は最初に会ったころのように露出度が激しい服装に変わっており、彼女は驚いた表情ですぐにウルを睨み付けると、深い溜息を吐く。


「なるほど……急に逃げ出したと思ったら、レノの匂いを嗅いだせいか……ん?あれ?」


不思議そうに彼女は周囲を見渡し、最後にヒナに視線を向けると、フレイは眉を顰めて顔を近づけ、


「……まだ戻っていなかったのか?」
「そだよ」
「そうか……もうそろそろ終わってる頃かと思っていたけどね」


ヒナがまだ「レノ」の姿に戻っていない事に意外そうな反応を示すが、すぐにフレイは彼女からウルを抱き上げ、頭を小突く。


「たくっ……お前のご主人様は私だぞ?」
「ガルルルッ……!!」
「ちょ、いい加減に懐け!!」
「あの……誰ですかその人?」
「この森に住むエルフ……?」
「ん?」


冒険者三人組が恐る恐るという感じで問い質すと、フレイが彼らに視線を向けた途端、三人組は怯えた表情で後退る。どうやら森人族である彼女を恐れているようだが、フレイは朗らかな笑みを浮かべ、


「安心しなよ。取って食うような真似はしないって」
「そ、そう言われましても……」
「つうか、何でこんな場所に居るんすか……?」
「この島に住む森人族なんですか?」
「いや、私は……」


三人組の質問に対し、フレイは困ったような表情を浮かべ、ヒナ達も不思議そうに視線を向ける。この島に彼女が訪れている事自体も驚きだが、どうしてこのような場所にいたのかも気にかかる。


「えっとだな……私もその、王国の捜索隊に混じってたんだよ。あの兎女の指示でね」
「兎女?ああ、アイリィか」
「……でも、私達知らない」
「そうですね……最初に来た時に捜索隊の皆さん全員が自己紹介しましたけど、フレイさんはいなかったはずです」
「……偽物か!!」


ブゥンッ!!


ゴンゾウが棍棒を構えると、フレイは咄嗟に後方に飛び退り、慌てて激しく首を振る。そんな彼女の足元には状況を理解していないウルが首を傾げており、トコトコと再びヒナの方に接近する。


「ク~ン……」
「おっとと、しばらく会わないうちに甘えん坊になったなぁ……」
「おい、何で私じゃなくてレノばかりに懐くんだ!?」
「レノ……?」


ウルの行動にフレイが憤慨するが、すぐに冒険者三人組がレノという単語に疑問を抱き、何故この場にいない第四部隊の部隊長の名前が出てくるのかと訝しむ。ヒナがフレイを睨み付けると、彼女は冷や汗を流しながら両手を合わせて頭を下げ、すぐに自分がこの場に至った経緯を話し始める。



「はあっ……仕方ない、私がこの場所に来た理由は――」



――フレイは枯葉の森でハイ・ゴブリン達と共に集落の作成中、アイリィからの指示で放浪島の捜索隊に参加し、ヒナ達の手伝いを行えと命じられる。



だが、あの島は特殊な場所であり、今現在のアイリィでさえも転移は不可能のため、丁度良く王国側が一般冒険者から放浪島の遺跡調査の依頼を冒険者ギルドに張り出しているのを発見し、フレイは冒険者として参加を試みる。

放浪島へ他の冒険者たちと共に到達したのは良いが、フレイが割り当てられた地域は「北部山岳」であり、彼女はウルを連れて他の捜索隊と共に山岳地帯に向かったのだが、その途中で他の者達とはぐれてしまい、この島を放浪している内にこの森に迷い込んだらしい。



「――とまあ、そういうわけで私とこいつはしばらくの間、この森で暮らして独自で調査していたわけだ」
「「「…………………」」」



全ての話を聞き終え、ヒナ達は何とも言えない表情を浮かべる。フレイの話しにまず何処から突っ込めばいいのか分からない。どうしてこの南部地方とは正反対の方角に存在する「北部山岳」に移動しながら、わざわざ「反対側の南部の森の奥部にまで迷い込んだというのか。ここまでくると方向音痴などというレベルではなく、何者かに呪われているのではないかと思う(不意にヒナの頭の中に兎耳を生やした女がほくそ笑む姿が浮かぶ)。


「まあ、こんな場所でお前らに会えたのは良かったよ……で、ここってどこいらへんなんだ?」
「えっとですね、放浪島の南部地方です」
「はあ!?ちょっと待って、私は北部山岳に向かってたんだぞ!?何でそんな場所に……」
「それはこっちが聞きたいかな……」
「……方向音痴?」
「んなはずは……はっ」


何かに気付いたようにフレイはウルに視線を向け、ヒナに抱きかかえられた白狼の子供は首を傾げるが、彼女は眉を顰め、


「そう言えば……ここまでくる間にこいつが勝手に行動して、こんな場所に移動してたんだ。お前、レ……ヒナの匂いを嗅ぎ取って、ここまで誘導してたんだな!?」
「ウォンッ?」
「いや、そんな馬鹿な……」


フレイの言い訳がましい言葉にヒナは呆れ、仮に彼女の言葉が真実だとしても、一体どれほど離れた位置からウルが匂いを嗅ぎ取れたというのか。幾ら白狼の血を受け継いでいるからと言っても、遠方に離れたヒナの位置を嗅ぎ取ることなど不可能に思えるが、


「有り得ない話じゃない……ヒナの肉体には少しだけ、そいつの母親の匂いが混じっている。アイリィから聞いたけど、お前はあの白狼の血を体内に入れたんだろう?」
「ああ、そう言えば……」


ぼそぼそと耳元で話しかけるフレイの言葉にヒナは2年ほど前、白狼との決着を付けた際、身体全身が傷だらけの状態で白狼の返り血を浴び、体内に微量ではあるが白狼の血が入り込む。

それ以来からソフィアの容姿に僅かながらに白狼の影響が出ており、強化術等の特殊な肉体強化も誕生した。これも白狼の血が関係しているのだろうが、既に今のヒナの肉体は先のカラドボルグの影響によって変化が生じ、どちらの姿も変化出来ない。


「狼種の魔獣ってのは家族の間に特別な絆が結ばれるんだよ。説明は難しいけど、こいつらはどんなに遠く離れた場所でも、自分の家族を感じる事が出来る能力があるんだ」
「動物の帰巣本能みたいなもの?」
「まあ、少し違うけどそんなもんだな。だから私がこの森に迷い込んだのは方向音痴というわけじゃないからな!!」
「それはどうだろう……」


確かにフレイの言葉には説得力はあるが、それでもここまで何の疑問を持たずにウルに誘導されていた彼女も違和感を感じる。もしかしたら、本人が気づかないだけで彼女自身も相当な方向音痴かも知れない。

ヒナはウルをフレイに手渡すと、少しだけ嫌がりながらもウルは彼女の胸元に抱き寄せられ、今度はヒナ達がここまで来た経緯を離す。フレイがこの森に迷い込んだ以上、わざわざ北部山岳にまで送り届けるのも面倒のため、このまま捜索隊に協力してもらうのが無難だ。


「――という訳で、私達はここまで来たんだけど……」
「ふ~ん……遺跡ねえ」


ウルの頭を撫でやりながらフレイは考える素振りを行い、不意に何かを思い出したように、


「もしかして……あの建物の事かな」
「ウォンッ」


彼女の呟きに同意するようにウルが鳴き声を上げ、どうやら何か心当たりがあるらしい。
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