種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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ヒナ編

研究所

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ヒナは右腕に蒼炎を纏わせながら移動を行い、暗闇に支配された通路を歩き続ける。明らかにこの建物は旧世界の技術で製造されており、さらに言えば前世のヒナが生まれ育った施設と良く似ている。

前世の彼女が生み出された施設は、元々は病院を改造されて造りだされた場所と聞いており、クローン技術の研究所で彼女は生み出された。元々は世界各地の富豪の支援を受けて開発されたと聞いており、研究所内で育てられたクローンはオリジナルの人間の「予備臓器」として管理され、その成長速度は並の人間の比ではなく、実際に5歳で死を迎えた「霧崎 雛」も生前は10歳前後の少女と何ら変わりない姿だった。

彼女が殺された理由は単純に「オリジナル」の人間が何らかの危機に陥り、彼女の臓器が必要となったからである。元々、ヒナは霧咲家と呼ばれるセカンド・ライフ社と大きな関わりのある家系の少女の予備臓器として生み出され、当初の予定よりも早めに臓器を回収されてしまう。

だからと言ってヒナ自身は前世のセカンド・ライフ社や、その会長を務めるアイリスという人物に恨みを抱いているわけではない。自分が生み出された本来の理由を果たしたと判断し、納得はしている。今思えば自分が死んだ後にオリジナルの少女が助かったかどうかが唯一の気がかりなのだが、最早確認する事も出来ないため、まずは皆と合流する事に集中する。


「……ここは?」


通路は基本的に一本道であり、迷う心配はない。先ほどいた蜘蛛の巣は通路の一番端であり、逃走した蜘蛛と遭遇する可能性も考え、用心しながら進んでいると新しい扉を発見する。

こちらの世界には珍しいスライド式の扉であり、ネームプレートには雛には懐かしく思える「日本語」ではっきりと「薬品倉庫」という文字が刻まれており、不審に思いながらも扉に触れ、鍵の類は仕掛けられていないのかあっさりと開いた。


ギィイッ……


「ここは……」



――扉の向こう側は文字通り、様々な液体が収納されたガラス製の瓶やフラスコが収納された棚が設置されており、部屋の内部は彼女の想像以上の広さであり、薬品棚の数も50個は軽く超える。



このような場所に防護服も着用せずに入るのは躊躇われたが、よくよく考えればこの部屋は薬品倉庫であって、映画のように危険性の高いウイルスを保管しているわけではないと判断し、室内を調べるために入り込む。


「……これも日本語だ」


薬品棚を確認し、瓶のラベルを確認すると随分と久しぶりに感じる「漢字」や「カタカナ」や「ひらがな」の文字が表記されており、間違いなくこの施設を作り出した日本人が関わっているのは間違いない。中には英語などの外国語で表記された薬品も多々あったが、どれもが危険性の高い薬剤ばかりであり、下手に持ち出す事は出来ない。


「旧世界の遺物かな……」


アイリィが言うには未だにこの世界にも「旧世界」の遺物が残されており、実際にバルがハナムラ侯爵家に忍び込んだ際に現実世界の銃器を目撃したという。

この施設自体が旧世界の時代から未だに残っていたは間違いないと思うが、アイリィが語った魔物の文献が保管された施設という言葉に疑問を抱く。実際、このような場所ならば流石の彼女も事前に幾らかヒナに説明をするはずなのだが。


「消費期限は……当たり前だけど切れてるか」


薬品棚の中には市販で売買されているような薬品の箱も設置されており、表記を確認してみるが旧世界の元号だと思われる文字が刻まれており、どう考えても使用できるはずが無い。

だが、それにしてはこの施設は相当な年月が経過しているにも関わらずに清潔感を保っている。まるで今でも人間の手入れが施されているように埃や塵の類は見当たらず、密封されているわけでもないのか空気も換気されている。

先ほどのアラクネの件も考え、ここが地上で発見した遺跡の内部である事は間違いないが、それでも色々と謎は多い。ある程度のこの倉庫の調査を終えたら再び散策に戻ろうと考えたとき、


「……?」


不意に壁際に存在する棚に視線を向けると、気になる表記が書かれたラベルが貼り付けられた容器を発見し、硝子で覆われた棚を覗き込む。



――容器はまるで血液採取を行ったような「赤黒い液体」が収められており、ラベルには「blood」と英語で刻まれており、ヒナは首を傾げる。何処かで見た事がある気がするが、今は気にしていられない。



特に他に気になる物は無いと判断し、ヒナは出入口の扉から出て行こうとした時、


ギュオォオオオッ……!!


「っ!?」


不意に部屋の何処からか機械音が発生し、すぐに近くの薬品棚に身を隠して耳に集中する。ハーフエルフは人間とは比べ物にならない聴覚であり、ヒナは今から向かおうとしていた扉の出入口辺りから聞こえてくる事に気付く。


(何だ……?)


ヒナは魔鎧の炎を解除し、息を潜めながら薬品棚に身を隠しながら扉の方を凝視していると、


ガラガラッ……!!


ゆっくりとスライド式の鉄製の扉が開かれ、人影が現れる。その光景を見た瞬間、ヒナは驚愕で目を見開く。



――薬品倉庫の部屋に侵入してきたのは上半身は人型であり、両肩には辺りを照らすライトが取り付けられ、下半身はまるでキャタピラを思わせる形状の車輪で構成された「機械人形(ロボット)」だった。



『掃除を開始いたします』



ガガガガッ……!!


キャタピラを想像させる車輪を動かしながら、その奇妙なロボットは部屋の中に入り込み、ヒナは上半身とその音声に違和感を抱く。


(……何で、あの人が)


部屋の中に入り込んだこの謎のロボットの上半身のデザインは明らかに「前世」のヒナが知っている人物と似ており、極め付けには頭部の部分に「兎の耳」を想像させる装飾が施されており、何よりもその音声は良く知っている人物の声だった。



(……アイリス?)



それはアイリィの先祖に当たる人物であり、前世で別れを告げた彼女の声音を想像させる機械音声であり、ヒナは動揺が隠せない。一体、どうしてこの状況で彼女を彷彿させるロボットが現れたのかと様子を伺うと、



『生体反応を感知』



唐突にキャタピラが停止し、上半身の部分のみが回転を行い真っ直ぐに薬品棚に隠れているヒナの方向にライトの光を向ける。慌てて彼女は棚の奥に身を隠すが、間違いなく気付かれているだろう。腰に付けたエクスカリバーの柄を握りしめ、何時でも戦闘に入れる準備を行ってから相手の出方を待っていると、


『この部屋は今から1時間清掃活動を行います。すぐに退去をお願いします』


ガガガガッ……!!


ヒナの知っているアイリスと全く同じ声音で告げながら、確実に薬品棚に近づいてくるロボットに冷や汗を流す。どうやら熱を感知するセンサーでも埋め込まれているのか、隠れていても意味は無いらしい。

このまま素直に薬品棚から出るべきか、それともこちらから仕掛けるべきかと悩む。相手の正体が分からない以上、戦闘は避けて逃走するべきだろうが、生憎と唯一の出入口である扉は接近してくる「ロボット」の向こう側だった。


(強行突破かな……)


下手にエクスカリバーや魔鎧で戦闘を行ったとしても、周囲の薬品棚に保管されている薬瓶を破壊してしまう可能性も高い。中には硫酸のような危険物も保管されているため、こちらの身が危険だ。


『警告します。今すぐに退去しない限り、こちらも実力行使に入ります』


悩んでいる間にもロボットはこちらに接近しており、その声音が若干早口に変化している。あれがただの清掃作業用を目的として製造されたロボットだとしたら、一体どうして実力行使などという単語を使うのかが気にかかるが、一か八か姿を表そうとした時、



――ドォンッ!!



不意に謎の衝突音が耳に入り、ヒナは音の方角が薬品棚の向こう側、つまり先ほど侵入してきたロボットの辺りからだと気づくと、



シャアァアアアアッ……!!



鳴き声というよりは空気が漏れるような音が聞こえ、すぐに棚から顔を覗き込むと、そこにはロボットの背後に絡みつく先ほどの巨大な蜘蛛型の魔物を発見し、どうやら天井にでも張り付いていたのか、人型のロボットに襲い掛かったらしい。

同じ部屋にずっといたヒナが全く気付かなかったところ、相当な隠密能力を持っているらしいが、唐突に部屋の内部を光で照らしてきたロボットに反応して餌と勘違いして襲撃したのだろう。


『警告します。それ以上の私に対する暴力行為は中止してください』


だが、当のロボットは自分の首元辺りに噛みついてくる蜘蛛に対して身動き一つ行わず、どうやら上半身の人型の部分も相当な硬度らしく、魔物の鋭利な牙も通さない。


『これ以上の敵対行為は中止……』


ガブッ!!


遂には紫蜘蛛の大きな口がロボットの顔の部分に接触し、そのまま首を引き千切ろうと牙を喰いこませた瞬間、



――ドパァアアアンッ……!!



突然、蜘蛛の肉体が粉々に砕け散り、周囲に残骸と体液が散らばる。一体何が起きたのかとヒナは驚愕すると、そこには蜘蛛の溶解液を頭に受けて煙を発しながらも、口元の部分から「銃口」らしき物を射出しているロボットの姿があり、


『敵対生物の排除(デリート)。引き続き、退去勧告を拒否した者の排除を開始します』
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