種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

片翼の魔導士

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ゴォオオオオオッ――!!


まるで暴風を思わせる突風が魔方陣から発生し、レミアの身体が白く光り輝く。それは聖属性の放つ魔力の光であり、徐々に彼女の身体に変化していく。髪の毛の色が黒色に変化していき、肉体も変化を始め、背中から服を破って「天使」を想像させる光の翼が生えてくる。

レノは知らないが、その姿にセンリは目を大きく見開き、ヨウカも片翼だけ誕生した光の翼を見た瞬間、闘人都市で自分の命と引き換えに巨大隕石から大衆を守った彼女の最後の姿を思い出し、ゆっくりとレミアに憑依した女性が振り返り、


「……上手く行ったようですね」


その声音を聞いた瞬間、全員が儀式が成功したことを悟る。随分と若返っているが、間違いなくその声はミキであり、彼女は自分の姿を確認する様に両の掌を握りしめ、服装を確認すると眉を顰める。


「むっ……困りましたね。主人の服を破ってしまいました……」


自分の背中に生えている羽根を確認し、溜息を吐くとミキと思われる美女はレノ達に顔を向け、すぐに目を大きく見開く。


「まさか……!?貴女はセンリですか!?」
「え、ええ……お久しぶり、というべきでしょうか」


ミキは驚いた表情を浮かべながらも3人の元に歩み寄り、年老いた自分と同世代の魔術師の姿に動揺しながらも、何かを思い至ったように頭を抑える。


「そういう事ですか……私が知る時代より、随分と時が経っているのですね。恐らく、40年ほど……」
「その通りです。流石に察しが良いですね……貴女は何処まで覚えていますか?」
「……正直に言えば記憶自体はおぼろげです。自分が死んだ理由は何処となく覚えていますが……その他に関する事は霞がかかったように思い出せません。この年齢に至るまでの記憶も曖昧ですし……」
「そうですか……ですが、その羽根を見るのは随分と久しぶりに感じますね」
「そうなのですか?」


センリと話しこむミキの姿にヨウカとレノは顔を見合わせ、予想はしていたが、2人の知っている老婆のミキとは微妙に府に気が違う。言葉遣いは同じだが、今の彼女からは覇気というか、威圧感らしき物を感じとり、ヨウカはレノの後ろに隠れる。


「……そのお二人は?何処かで見覚えのあるような……貴女のお孫さんですか?」
「いえ、私は結婚していません。このお二人は……」
「えっ!?け、結婚してないんですか!?」


結婚していないという単語にミキは驚愕してセンリの言葉を遮る。それほどまでに意外だったのかとレノとヨウカは不思議そうに視線を向けると、


「きょ、教皇様とはどうなったのです!!私の知る限り、お二人は愛し合っていたではないですか!?」
「ち、違います!!私が教皇様はそんな関係では……!?」
「何を言うのです!!教皇様から頂いたネックレスを後生大事に身に纏っていたではないですか!?さては自分が教皇様に相応しくないと勝手に判断して、告白の時期を逃したのですね!?」
「あ、貴女だって言い寄る男は山ほどいたのに、ずっと振られた男の事が忘れられずに未練がましく頂いた指輪を手放さなかったではないですか!?」
「わぁあああああっ!?何で言うんですか!!べ、別に私は振られた事を引きずってたわけじゃありませんから!!物を大事にしないのは私の信念に反するだけで……」
「あ、あの~……」
「話についていけない……」


言い争いを始める2人にレノ達は着いて行けず、とりあえずは若い頃のミキも何処となく抜けているというか、完璧なように思えて妙に抜けており、逆にそれが人間味があるように思えて奇妙な親近感を抱く。


「だいたい貴女は奥手すぎなのです!!あれほど私達が後押ししたのに、結局何の進展も無かったんですか!?」
「だから私は教皇様に抱いていたのは尊敬であって、恋愛感情は無いと何度言えば!!」
「いい加減にしろ」
「「あいたっ!?」」


パシンッ!!


2人の頭を軽く叩くと、驚いた表情を浮かべて2人がレノに視線を向け、どちらも歴代の中では腕利きの聖天魔導士でありながら、あっさりと接近されて自分の頭を打たれた事に対して驚きを隠せない。


「どうでもいいけど、俺はともかくヨウカの事まで無視するな」
「えっ、ちょっ、わあっ!?」
「ヨウカ?」


背中に隠れているヨウカをレノは突き出し、2人の前に差し出すとセンリは慌てた風に彼女に頭を下げ、ミキは不思議そうに彼女の顔を覗き込み、センリに顔を向ける。


「センリ……この方はどちら様ですか?」
「っ……!?」
「……やっぱりか」


予想していたとはいえ、やはり眼の前のミキはヨウカの事を覚えておらず、彼女の顔が一瞬だけ悲し気な表情を浮かべるが、すぐに気を取り直したように笑みを浮かべ、


「は、はじめまじて……みごびめのヨヴカでずっ……!!」
「ど、どうしました!?わ、私何かお気に障るようなことを!?」
「う、うわぁああああんっ!!」
「……我慢できなかったか」


無理をして平然を取り繕うとしたらしいが、ミキの言葉に我慢できずにヨウカはレノの胸元に抱き付き、泣きじゃくる。その姿に事情を知らないミキは困惑した風にセンリに視線を向けるが、彼女も頭を抱えて視線を逸らす。


「覚悟はしていましたが……やはり覚えていませんでしたか。ミキ、この御方は今代の巫女姫様です」
「えぇえええええっ!?」


巫女姫という単語にミキは驚愕し、慌てて服が汚れるのも構わずに跪き、レノに抱き付くヨウカに土下座ばりの勢いで頭を下げ、


「も、申し訳ありません!!知らなかったとはいえ、失礼な態度を!!」
「びぇええええんっ!!マザーが、マザーじゃないよぉおおおおっ!!」
「マザー!?」
「あの、ミキ……あちらで話をしましょう。ちゃんと事情を説明しますので……」



――それから数分後、やっと落ち着いたヨウカの頭を撫でまわしながら、センリから話を聞いたミキが気まずそうな表情で近付き、



「そ、その……ヨウカ様」
「ふんだっ……私を忘れたマザーなんて嫌いぃっ……」
「うっ……何故でしょう。凄く罪悪感が沸きます」
「だろうね……」


どうやらミキはヨウカとの記憶を全て失っていたわけではなく、ヨウカの事を完全に忘れた訳ではないようだ。が、それでもレノ達が知っている老婆のミキとは違いがあり、ヨウカは「がるるるっ……!」とポチ子のように威嚇する。


「と、ところで巫女姫様……そちらの男性は?その、も、もしかして恋人の方ですか?」
「こ、恋……!?ち、違うよ!!レノたんはその、えっと……あううっ……もう、やだなぁ……えへへっ」
「大親友です」
「そ、そうですか……」


頬を真っ赤に染めて照れるヨウカを尻目に、レノは真面目な表情で適当な言葉で答えると、ミキは納得したようだが同時に彼に視線を向け、耳が異様に細長く伸びている事に気が付き、


「まさか……貴方はダークエルフですか!?」
「え、いや……俺はハーフエルフ――」
「っ……!?レノ様!!」


レノは自分の種族名を告げた途端、何かに気付いたようにセンリが走り寄ろうとした時、



ズドォオオオオンッ!!



次の瞬間、レノの右頬に一筋の光線が放たれ、後方に設置されていた天使を模した石像に激突して土煙が舞う。


「――ハーフ、エルフと言いましたか?」


光線を放った張本人でる「ミキ」は自分の右の掌をレノに向けており、あろう事か、彼女は杖や媒体も使用せず、さらに魔法名も口にしない完全な無詠唱で魔法を発現させたのだ。


「え、え!?ま、マザー……!?」
「いけない!!逃げてください!?」
「……急に何のつもり?」


レノは自分の右頬に手を当てながら、ミキに視線を向けると、彼女は今までに見せた事も無い虚ろな瞳で睨み付けており、


「お下がり下さい……巫女姫様」
「ど、どうしたのマザー……!?」
「下がれヨウカ」


彼女を庇うようにレノがヨウカの身体に触れた瞬間、ミキの目が大きく見開き、



「その人に、触るなぁあああああっ!!」



カッ!!



裏庭全体を覆いつくすほどの光が放たれ、直後に爆撃音が鳴り響いた。
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