種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

解放術式

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「これは……面倒ですね」
「はぁあああっ!!」


ビキィイイイッ……!!


アイリィの目の前に展開されている防御魔法陣に罅割れが生じ、徐々にギガノから放たれた金属の拳がめり込む。まるでドリルのように高速回転しながら確実に彼女に接近しており、アイリィは仕方なく、杖先を構えて新しい魔法を発動させる。


「ブリザード」


ビュオォオオオオッ……!!


無詠唱で彼女の周囲が一瞬にして凍結し、まずは足元の草が凍り付き、空中に展開された防御魔法陣さえも氷結し、魔方陣にめり込んだ射出されたガントレットの拳も停止する。正確に言えば拳その物は凍り付いたわけではなく、罅割れた部分が氷で覆われたために瓦解を防ぎ、向い来る拳を固定したのだ。


「ふんっ!!」


バキィイッ!!


それを見たギガノはすぐに攻撃を中止し、右腕を引き寄せるように後ろに引いた瞬間、魔方陣から抜け出した金属の拳が鋼線に引き寄せられてガントレットに装着させ、ギガノは問題なく動く事を確認する。魔法耐性が高い金剛石で造られた武具だからこそ回収できたのであり、普通の武器ならばアイリィの氷属性の魔法で凍えついて砕け散っていた。


「……無詠唱でこれほどの規模の魔法を扱うとは」


彼の視線の先には周囲一帯を氷結させたアイリィが笑みを浮かべており、その姿は嘗て自分が最も尊敬した魔術師のミキと重なり、彼は気を引き締め直して腕を構える。その戦闘スタイルはボクサーに近いが、異様なまでに巨大な二つの拳が彼の姿を覆い隠す。

アイリィは先ほどの一撃を思い出し、それなりに力を込めた氷属性の魔法が全く効いていない様子を確認すると、想像以上に厄介な武器である。仮にこれがレノならばどう戦うかは少し興味があるが、今は戦う事に集中する。


(私が戦った中でも中々の人ですね……)


1000年前の英雄姉妹の片割れとして過ごしていた時代、丁度活性化の影響を受けて各地の魔物が増殖し、姉と供に各地に転々と旅している間は無数の魔物を狩ってきた。やがて、魔術教会に入ってからは戦線に立つことが少なくなり、研究に没頭していたが、バルバロス帝国と本格的に戦争状態に入ったことで様々な刺客と戦い続けた。

その中には特殊な能力や武具を扱う者が多かったが、目の前のギガノのように人間でありながら巨人族にしか扱えないはずの重量の武器を軽々と振り回す相手はいない。つまり、彼女にとっても初めて戦うタイプの相手と言える。


「ま、別に問題ありません」


広域魔法を使えば一瞬で倒せるだろう。だが、これからの戦いを考えても無駄に魔力は消費したくない。ならば彼女が打つ手は1つだけであり、


「さてと……久しぶりに使いますね」


彼女は杖を握りしめ、魔法名すら発言せずに完全無詠唱で握りしめている杖を「凍結」させ、徐々に氷の形が長剣に変化する。その姿に彼女を見ている全員が首を傾げ、一体何をしようとしているのかと視線が集中すると、


「じゃあ、行きますよ。見様見真似……瞬脚!!」


ダァンッ!!


凍り付いた地面の上にも関わらず、足元の不利を無視して彼女は足元に暴風を発生させて超加速し、レノと比べると粗削りだが直線的な移動速度は優っており、真っ直ぐにギガノに向けて剣を掲げて突進する。


「馬鹿な!?気が狂ったか!!」
「どうですかねっ」


ガキィイインッ!!


咄嗟にギガノは右手を開いて前に突きだし、掌で彼女が放った氷の剣の刺突を受け止める。頑丈な金剛石のガントレットは傷一つ生まれず、逆に彼女の氷に罅割れが発生するが、すぐに新たな氷が誕生して再生する。


「これで、終わりだ!!」


左手を大きく広げ、彼は氷の剣を右手で握りしめながらがら空きになったアイリィの身体を掴もうとした瞬間、彼女は地面に右手を差し出し、


「アイシクル・ソード」
「ぬっ!?」


ガァアアンッ!!


一瞬にして彼女の掌に氷の大剣が生み出され、向い来るギガノの左拳を受け止める。2人は奇妙な鍔迫り合いの形となり、お互いに武器が使用できないまま押し合う形となる。


「くっ……ぬおおっ!!」


身体全身に肉体強化の魔法で最大限にまで身体能力を引き上げるギガノに対し、アイリィは笑みを浮かべたまま身動き一つせず、両者の力は拮抗する。


(何なのだこの女は……!?)


自分が渾身の力を込めているにも関わらず、余裕の笑みを保ったまま互角に渡り合う。それどころか、徐々に体格的にも有利なはずのギガノが押され始めた。


「流石ですね。並の巨人族よりも腕力があるんじゃないですか?」
「ぬかせ……小娘!!」
「小娘……嬉しいですね、そんなに若く見えますか?」
「なにを……ぬぐっ!?」


ズゥンッ!!


押し込まれる力が強まり、ギガノはその場に膝を着く。彼は嘗て全盛期のダンゾウと勝負をした事があるが、まるでその時と彼と同じか、あるいはそれ以上の力であり、このままでは負けてしまう。腕力で女に負ける等、彼にとっては初めての経験であり、全身から汗が噴き出す。


ギチギチィッ……!!


ギガノの両腕のガントレットから軋む音が鳴り響き、敗北という言葉が頭の中に通り過ぎ、それだけは避けねばならず、彼は掌で掴んだアイリィの氷の剣の刀身部分を握りしめ、


「うぉおおおおおっ!!」


バキィインッ!!


氷で形成された刃が粉々に砕け散り、流石にアイリィも驚いた様子で彼に視線を向け、すぐに追撃とばかりに金属の両拳が彼女の肉体を挟み込むように迫ってくる。


「なんのっ!」


アイリィは寸前で軽快な動きで上空に回避し、そのまま空中で回転するように右足の踵を振り抜き、


「ほりゃっ!!」
「ぐはっ!?」


見事なまでにギガノの顔面に踵が放たれ、彼は大きくよろめく。まるで鉄球を打ち込まれたような衝撃が走り、危うく気絶するところだったが何とか耐え抜くと、鼻血を噴出しながらも身構える。


「頑丈な人ですね……本当に人間ですか貴方?」
「ぐっ……それはこちらの台詞だ!!何者だお前は!?」


流石にあまりのアイリィの馬鹿げた戦闘力にギガノは怒鳴り付け、彼は完全に腕ためしの勝負を忘れて本気で戦う。そんな彼にアイリィは頭を搔きながら、そろそろ奥の手で勝負を決めようかと判断し、右腕を大げさまでに振り回すと、


「解放(リリース)」


ボウッ……!!


彼女の右腕に落雷を彷彿させる紋様が浮かび上がり、彼女の腕に電流が迸る。ギガノは咄嗟に雷属性の魔法を放つのかと警戒したが、すぐにその認識は改めさせられる。


ドォオオオンッ!!


アイリィの右腕から金色の雷が纏われ、それはカラドボルグと同じ力を持つ「天属性」の証であり、彼女は勢いよく右腕を振りかぶり、咄嗟にギガノは両手を広げて防御の体勢に入るが、


「サンダー・ラビット・パンチ改!!」



ズドォオオオオッ――!!



天属性の雷撃が彼女の右腕から放出され、真っ直ぐに防御の体勢に入ったギガノに目掛けて放たれ、一瞬にして彼の身体を飲み込む。


「ごはぁっ……!?」


全身に凄まじい電流が流し込まれ、口内から煙を噴きながらも、決して倒れずに仁王立ちの体勢のまま、彼は気絶した。
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