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英雄編
原初の英雄VS王国最強
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――酒場から全員が移動し、学園都市から大きく離れた草原地帯に辿り着く。レノ達に見守られる中、アイリィとギガノが向かい合う形でそれぞれの武器を構えていた。
「どうしてこうなったでござる……」
「落ち着けレノ、語尾がカゲマル隊長みたいになっているぞ」
「……2人とも、動かないな」
2人から大分離れた位置で観察するレノ達を尻目に当人同士は動く様子が無く、お互いに隙を探り合う。最も、真面目なギガノに対してアイリィは余裕なのか、眠たげに口元を抑えて欠伸をしているが。
――事の発端はアイリィが鳳凰学園に侵入する部隊の最後の1人枠を自分に譲るように申し付けた事から始まり、最初の内はギガノは自分の意思だけでは決められないと頑なに拒否していたのだが、彼女が現時点で王国を収める立場であるアルトに迫ったことにより、その態度に気分を害した彼が注意をした事が切っ掛けだった。
いくらアイリィが雷光の英雄(レノ)の師匠であろうと、さすがに一国の王子、しかも今回の件で国王の代理として国を動かす立場のアルトを相手に態度も改めずに要求する姿に我慢できず、それほどまでに自信があるのならば実力を見せてもらおうかと口にしてしまった。
その好機を逃さず、アイリィがどのようにして実力を見せればいいのかを問い質すと、彼は少しだけ考え込み、彼女の不遜な態度にどれほどの実力者なのかを見極めるには自分自身が試すのが一番だと判断し、少しばかりの手合わせを申し出るとすぐに彼女もその意見に従う。
それから二時間後、わざわざレノが学園都市から遠く離れたこの場所まで風輪で移動を行い、転移魔方陣で皆を迎えに来てくれたのだった。
「……私が勝ったら、先ほどの王子に対しての無礼な態度を謝罪してもらおう」
「別にいいですよ~勝てたらですけどね」
ギガノの両腕にはまるで巨人族の拳を想像させるほどに巨大なガントレットが装備されており、これこそが彼を王国最強と言わしめる武具「巨闘拳」と呼ばれている。全身を金剛石(この世界特有の金属であり、ダイヤモンドではない)と呼ばれる特殊な金属で形成されており、彼以外に扱えるのは王国には存在しない。
その重量は片腕だけでも100キロを超えており、いくら肉体強化を行ったとしても並の将軍や騎士では取り扱う事は出来ない。しかも彼は両腕にガントレットを装備しているため、常に200キロの重量を持ち上げている事になる。
この巨大な金属の拳は魔法に対して強い耐性を誇り、さらにギガノの腕力ならば巨人族が相手でも力負けはせず、実際に若かりし頃は巨人族の代表であるダンゾウを相手に互角に戦った経験があるほどだ。
その一方、アイリィが装備している物は学園都市の観光中に購入した、ただの「棒きれ」に等しい魔術師の杖であり、魔法の媒介となる魔石すらも付けられていない。その効果は魔法の発現を手助けする程度の効果しかなく、レノを除く全員が心配そうな視線を向けてくる。
「……大丈夫でしょうか」
「不安だな」
「ああっ……怪我が無ければいいが」
「皆、僕たちは見ている事しか出来ないが……せめて祈ろうじゃないか、将軍の無事を」
「そだね」
――但し、心配しているのはアイリィではなく王国最強と謳われるギガノであり、出来れば彼がロスト・ナンバーズとの決戦を前に大怪我を負わない様に祈るしかない。
そんな外野の思いにも気付かず、アイリィは放浪島からフレイに回収させた魔水晶を事前に自分の肉体を埋め込んでおり、全盛期の半分程度の力は取り戻している。これならばリーリスが相手でも十分に戦えるだろうが、問題があるとすれば魔力回復速度である。
――ちなみに生霊である彼女は常に魔力を消費し続けており、定期的に外部から魔力を摂取しないと形を保てない。だらかこそ、死亡した人間の身体に憑依する事で擬似的に蘇り、放浪島では治療と称して囚人たちの怪我を治療する代わりに彼等から金銭(囚人が所持しているのもおかしな話だと思われるが、警備兵側に雇われて囚人の監視を行う囚人も存在し、死刑囚ではあるが金銭を貰っている者も多数存在する。彼らは入手した金銭を実家に送ったり、もしくは監視兵との交渉の場で利用したり、地上から送られる品物を購入している)を要求し、監視兵と交渉して地上からの救援物資から「マナ・ポーション」などの魔力を回復させる品物を購入して魔力を地道に得ていた。
他にもある意味では独自の活性化現象が行われている放浪島を利用し、大地の魔力を収集する魔水晶を埋め込んで魔力を吸収する方法も生み出す。しかし、方法では微々たる魔力しか回復できず、彼女は長い時を掛けて協力者を探し求め、種族問わずに数多くの人間と契約を交わした。だが、誰一人として地上に送り込んでもアイリィとの契約を果たせず、志半ばで倒れてしまう。
しかし、契約者の中には地上に降りて商売を営み、やがては大きなギルドを立ち上げて大成した者も存在し、彼は聖痕の回収は果たせなかったが莫大な金銭を入手し、彼女のために大量の魔力回復を促す薬品を送ってくれた。今現在は年老いて地上から離れており、また放浪島の一囚人として余生を暮らしている。
この契約者の次にレノという存在がアイリィの元に現れ、彼のお蔭で自分の半分の聖痕を取り戻す事に成功し、それだけではなく、自分の想像を超えてレノはお菊成長し、数多くの仲間を造りだして魔王の配下の「ロスト・ナンバーズ」にも対抗できる勢力を味方にした。
恐らく、運命とやらが実在するとしたら「今回」が彼女の悲願を果たす最初で最後の好機なのだろう。ならばもう、自分も腹を括って再び前線に立たなければ失礼だとアイリィは判断する。
「本当、予想以上に想像通りの出来た息子さんですよ……レイアさん」
「……?」
「あ、すいません。気にしないで下さい」
こんな状況にも関わらずに思い出に耽るアイリィにギガノは首を傾げるが、すぐに気を取り直したようにガントレットを構え、彼はじりじりと距離を詰める。
(この者……本当に人間なのか?)
王国最強であるギガノだが、目の前に相対する兎型の獣人に対し、嫌な汗が止まらない。獣人族でありながら魔術師というのは非常に珍しく、彼等の殆どはその人間の身体能力を軽く凌駕する運動能力で戦士や冒険者の類として戦うのだが、彼女から感じ取れる「力」に圧されていた。
長年の経験という奴なのか、ギガノは誰かに習ったわけでも無いにも関わらず、敵対する相手の魔力を計る魔力感知の技能を習得している。基本的にこの能力は魔術師が得意とするのだが、数多くの魔術師と戦い続けたせいか、彼は向い合っただけで相手の魔力を見極める事が出来る。
しかし、目の前のアイリィから感じられるのはまるで洪水を思わせる魔力であり、自分の周囲にスライムが張り付いたような違和感を覚える。それほどまでに彼女の力は桁違いであり、雷光の英雄と謳われたレノも相当な魔力容量だが、彼女と比べると数段劣る。
(だが、負けられん)
相手が得体の知れない化け物であろうと、王国最強と自他ともに自覚している自分が負けるという事は、即ち王国が敗北する事を意味しており、どんな相手であろうと負けるわけにはいかない。例え、腕をもがれようと目玉をくり抜けられようと彼は負ける事は許されない。
「……金剛拳」
グググッ……!!
右腕のガントレットを握りしめ、標準を合わせるように左手をアイリィに構えたまま、10メートルの距離があるにも関わらずにギガノは右拳を引くと、そのまま勢いよく突き出す。
「ふんっ!!」
ズドォオオンッ!!
まるでロケットパンチを想像させる勢いで拳の部分だけが射出され、アイリィに放たれる。その速度は尋常ではなく、避ける事を不可能と悟った彼女は杖を向けると、無詠唱で防御魔法陣(プロテクト)を形成する。
「プロト・アイギス」
ズガァアアアンッ!!
ミキが得意とした魔方陣が空中に展開され、見事にギガノの射出したガントレットの拳を防ぐが、すぐに異変が生じる。金属の拳はよくよく確認すると鋼線が取り付けられており、ギガノの右腕部に繋がっている。
「螺旋撃」
ギュルルルルッ!!
鋼線を伝って魔方陣に衝突した金属の拳を操作しているのか、右拳が手刀の形に変化して回転を始め、その速度は尋常ではなく巨大なドリルを想像させた。
ギャリィイイイインッ……!!
防御魔法陣(プロテクト)の中でも最高位に存在するプロト・アイギスの魔方陣に対し、徐々にドリルが魔方陣めり込んでいく。
「どうしてこうなったでござる……」
「落ち着けレノ、語尾がカゲマル隊長みたいになっているぞ」
「……2人とも、動かないな」
2人から大分離れた位置で観察するレノ達を尻目に当人同士は動く様子が無く、お互いに隙を探り合う。最も、真面目なギガノに対してアイリィは余裕なのか、眠たげに口元を抑えて欠伸をしているが。
――事の発端はアイリィが鳳凰学園に侵入する部隊の最後の1人枠を自分に譲るように申し付けた事から始まり、最初の内はギガノは自分の意思だけでは決められないと頑なに拒否していたのだが、彼女が現時点で王国を収める立場であるアルトに迫ったことにより、その態度に気分を害した彼が注意をした事が切っ掛けだった。
いくらアイリィが雷光の英雄(レノ)の師匠であろうと、さすがに一国の王子、しかも今回の件で国王の代理として国を動かす立場のアルトを相手に態度も改めずに要求する姿に我慢できず、それほどまでに自信があるのならば実力を見せてもらおうかと口にしてしまった。
その好機を逃さず、アイリィがどのようにして実力を見せればいいのかを問い質すと、彼は少しだけ考え込み、彼女の不遜な態度にどれほどの実力者なのかを見極めるには自分自身が試すのが一番だと判断し、少しばかりの手合わせを申し出るとすぐに彼女もその意見に従う。
それから二時間後、わざわざレノが学園都市から遠く離れたこの場所まで風輪で移動を行い、転移魔方陣で皆を迎えに来てくれたのだった。
「……私が勝ったら、先ほどの王子に対しての無礼な態度を謝罪してもらおう」
「別にいいですよ~勝てたらですけどね」
ギガノの両腕にはまるで巨人族の拳を想像させるほどに巨大なガントレットが装備されており、これこそが彼を王国最強と言わしめる武具「巨闘拳」と呼ばれている。全身を金剛石(この世界特有の金属であり、ダイヤモンドではない)と呼ばれる特殊な金属で形成されており、彼以外に扱えるのは王国には存在しない。
その重量は片腕だけでも100キロを超えており、いくら肉体強化を行ったとしても並の将軍や騎士では取り扱う事は出来ない。しかも彼は両腕にガントレットを装備しているため、常に200キロの重量を持ち上げている事になる。
この巨大な金属の拳は魔法に対して強い耐性を誇り、さらにギガノの腕力ならば巨人族が相手でも力負けはせず、実際に若かりし頃は巨人族の代表であるダンゾウを相手に互角に戦った経験があるほどだ。
その一方、アイリィが装備している物は学園都市の観光中に購入した、ただの「棒きれ」に等しい魔術師の杖であり、魔法の媒介となる魔石すらも付けられていない。その効果は魔法の発現を手助けする程度の効果しかなく、レノを除く全員が心配そうな視線を向けてくる。
「……大丈夫でしょうか」
「不安だな」
「ああっ……怪我が無ければいいが」
「皆、僕たちは見ている事しか出来ないが……せめて祈ろうじゃないか、将軍の無事を」
「そだね」
――但し、心配しているのはアイリィではなく王国最強と謳われるギガノであり、出来れば彼がロスト・ナンバーズとの決戦を前に大怪我を負わない様に祈るしかない。
そんな外野の思いにも気付かず、アイリィは放浪島からフレイに回収させた魔水晶を事前に自分の肉体を埋め込んでおり、全盛期の半分程度の力は取り戻している。これならばリーリスが相手でも十分に戦えるだろうが、問題があるとすれば魔力回復速度である。
――ちなみに生霊である彼女は常に魔力を消費し続けており、定期的に外部から魔力を摂取しないと形を保てない。だらかこそ、死亡した人間の身体に憑依する事で擬似的に蘇り、放浪島では治療と称して囚人たちの怪我を治療する代わりに彼等から金銭(囚人が所持しているのもおかしな話だと思われるが、警備兵側に雇われて囚人の監視を行う囚人も存在し、死刑囚ではあるが金銭を貰っている者も多数存在する。彼らは入手した金銭を実家に送ったり、もしくは監視兵との交渉の場で利用したり、地上から送られる品物を購入している)を要求し、監視兵と交渉して地上からの救援物資から「マナ・ポーション」などの魔力を回復させる品物を購入して魔力を地道に得ていた。
他にもある意味では独自の活性化現象が行われている放浪島を利用し、大地の魔力を収集する魔水晶を埋め込んで魔力を吸収する方法も生み出す。しかし、方法では微々たる魔力しか回復できず、彼女は長い時を掛けて協力者を探し求め、種族問わずに数多くの人間と契約を交わした。だが、誰一人として地上に送り込んでもアイリィとの契約を果たせず、志半ばで倒れてしまう。
しかし、契約者の中には地上に降りて商売を営み、やがては大きなギルドを立ち上げて大成した者も存在し、彼は聖痕の回収は果たせなかったが莫大な金銭を入手し、彼女のために大量の魔力回復を促す薬品を送ってくれた。今現在は年老いて地上から離れており、また放浪島の一囚人として余生を暮らしている。
この契約者の次にレノという存在がアイリィの元に現れ、彼のお蔭で自分の半分の聖痕を取り戻す事に成功し、それだけではなく、自分の想像を超えてレノはお菊成長し、数多くの仲間を造りだして魔王の配下の「ロスト・ナンバーズ」にも対抗できる勢力を味方にした。
恐らく、運命とやらが実在するとしたら「今回」が彼女の悲願を果たす最初で最後の好機なのだろう。ならばもう、自分も腹を括って再び前線に立たなければ失礼だとアイリィは判断する。
「本当、予想以上に想像通りの出来た息子さんですよ……レイアさん」
「……?」
「あ、すいません。気にしないで下さい」
こんな状況にも関わらずに思い出に耽るアイリィにギガノは首を傾げるが、すぐに気を取り直したようにガントレットを構え、彼はじりじりと距離を詰める。
(この者……本当に人間なのか?)
王国最強であるギガノだが、目の前に相対する兎型の獣人に対し、嫌な汗が止まらない。獣人族でありながら魔術師というのは非常に珍しく、彼等の殆どはその人間の身体能力を軽く凌駕する運動能力で戦士や冒険者の類として戦うのだが、彼女から感じ取れる「力」に圧されていた。
長年の経験という奴なのか、ギガノは誰かに習ったわけでも無いにも関わらず、敵対する相手の魔力を計る魔力感知の技能を習得している。基本的にこの能力は魔術師が得意とするのだが、数多くの魔術師と戦い続けたせいか、彼は向い合っただけで相手の魔力を見極める事が出来る。
しかし、目の前のアイリィから感じられるのはまるで洪水を思わせる魔力であり、自分の周囲にスライムが張り付いたような違和感を覚える。それほどまでに彼女の力は桁違いであり、雷光の英雄と謳われたレノも相当な魔力容量だが、彼女と比べると数段劣る。
(だが、負けられん)
相手が得体の知れない化け物であろうと、王国最強と自他ともに自覚している自分が負けるという事は、即ち王国が敗北する事を意味しており、どんな相手であろうと負けるわけにはいかない。例え、腕をもがれようと目玉をくり抜けられようと彼は負ける事は許されない。
「……金剛拳」
グググッ……!!
右腕のガントレットを握りしめ、標準を合わせるように左手をアイリィに構えたまま、10メートルの距離があるにも関わらずにギガノは右拳を引くと、そのまま勢いよく突き出す。
「ふんっ!!」
ズドォオオンッ!!
まるでロケットパンチを想像させる勢いで拳の部分だけが射出され、アイリィに放たれる。その速度は尋常ではなく、避ける事を不可能と悟った彼女は杖を向けると、無詠唱で防御魔法陣(プロテクト)を形成する。
「プロト・アイギス」
ズガァアアアンッ!!
ミキが得意とした魔方陣が空中に展開され、見事にギガノの射出したガントレットの拳を防ぐが、すぐに異変が生じる。金属の拳はよくよく確認すると鋼線が取り付けられており、ギガノの右腕部に繋がっている。
「螺旋撃」
ギュルルルルッ!!
鋼線を伝って魔方陣に衝突した金属の拳を操作しているのか、右拳が手刀の形に変化して回転を始め、その速度は尋常ではなく巨大なドリルを想像させた。
ギャリィイイイインッ……!!
防御魔法陣(プロテクト)の中でも最高位に存在するプロト・アイギスの魔方陣に対し、徐々にドリルが魔方陣めり込んでいく。
応援ありがとうございます!
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