種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

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「怪力女が……‼ やれ‼」
「言われなくても‼」
「……させないっ」


蔓を奪われたアルが魔術師に指示を与え、彼女はジャンヌに向けて速効性の速い風属性の魔法を発動させようとするが、今度は後方からコトミが杖を向け、相手よりも先に水弾を放出する。


ドパァンッ‼


「うぷっ⁉」
「なっ……⁉」


先ほどは無数の水弾を放出させたが、今回は量より質を選んで大きめの水弾を一発だけ放ち、女の顔面に直撃させる。集中力を乱されたせいで収束していた風属性の魔力が消散し、その隙を逃さずにジャンヌが聖剣を振り上げる。


「はあっ‼」
「ちぃっ‼」
「なっ……あぐぅっ⁉」


刃を突き出したジャンヌに対し、アルは咄嗟に魔術師を縦にするように突き飛ばし、そのまま刃が女の腹部に突き刺される。ジャンヌはアルの行動に一瞬だけ目を見開いたが、構わずに浄化の炎を体内に送り込む。


「浄化せよ‼」
「うぐぁああああああっ⁉」


まるで断末魔の悲鳴を想像させる叫び声を上げながら、魔術師の身体から白い煙が噴き出し、右手、額に宿された呪詛が浄化される。その間にもアルは距離を取り、後方で戦闘を行っているはずの2人組に視線を向ける。


「お前等……⁉」
「何でござるか?」
「がうぅっ‼」
「うぐぐっ……⁉」


振り返るとそこにはカゲマルの足元で倒れこむ男の姿と、ポチ子に首元を締められて寝技に持ち込まれたもう片方の男の姿があり、完全に気絶したのか動かなくなる。ジャンヌとコトミに気を取られ過ぎ、彼等が敗れた事に気付かなかったアルは逆に自分が追い込まれた。


「ば、馬鹿な……人間如きが……」
「人間如き……? 貴方も人間ではないですか?」
「っ……‼」


ジャンヌの疑問の言葉にアルは顔を真っ赤にし、どうやら彼にとっては触れてはいけない事に触れられたらしく、そのまま冷静さを失ったように右腕を構え、まだ武器を隠していたのか細い針をジャンヌに放つ。


バシュッ‼


「うくっ……⁉」


針が真っ直ぐにジャンヌの瞳に放たれるが、彼女は寸前で顔を反らして回避する。しかし、完全に躱す事は出来ず、その際に頬に少しだけ掠めてしまい、次の瞬間に意識が混濁する。


「こ、これは……⁉」
「ふっ……」
「ジャンヌさん⁉」


膝をつくジャンヌに対してアルは笑みを浮かべ、すぐに先ほどの針に毒が仕込まれていたことを思い出し、彼女は何とか起き上がろうとするが身体が痺れた様にいう事を聞かず、その隙を逃さないとばかりにアルは短剣を膝から抜き放ち、そのままジャンヌの元に駆け付ける。


「わぉんっ‼」
「させぬでござる‼」
「……守るっ」


すぐにポチ子達が駆け出し、カゲマルが後方からクナイを投擲し、コトミが水弾を発現させてアルに向けて放出するが、彼はそれらの攻撃が届く前に短剣の刃をジャンヌの頭に向けて振り下ろす。



「死ね‼ 人間が‼」



――ドスゥッ‼



周囲に鈍い音が響き渡り、刃が肉を抉る音が聞こえ、その場にいた全員が目を見開き、その光景に息を飲む。


「痛いな……」
「なっ……あっ……⁉」
「……?」


耳元に聞こえてくる声にジャンヌは虚ろな瞳を向けると、そこには彼女の想い人の姿があり、振り下ろされたアルの短剣の刃を左腕で受け止め、寸前で自分を守ってくれたことに気が付く。


「レノ……さんっ……?」
「ごめん……遅くなった」
「レ、ノ……?」


今まで冷静さを失っていたアルが義兄の姿を確認し、一瞬だが動揺したように短剣を手放す。しかし、すぐに額の黒蛇の紋章が蠢き、彼は頭を抑えて目の前のレノに対して歯を食いしばり、


「お、前のせいで……‼」
「アル……」
「お前さえ、いなけっ――‼」



すぐにアルは右腕に仕込んだ針を射出しようとした瞬間、レノは彼に向けて一言だけ告げる。



「――ごめんな」



その言葉の直後、レノの右手の甲が彼の感情に反応するかのように「十字架」を想像させる紋様が浮かび上がり、次の瞬間にはアルの顔面に凄まじい衝撃が走り、悲鳴を上げる暇もなく彼の身体が大きく吹き飛ばされる。意識を完全に失う寸前、彼は自分が殴り飛ばされたことに気が付き、そのままポチ子とカゲマルの頭上を通り過ぎて地面に墜落した――






――その後、ジャンヌを抱えたレノが転移魔法で聖導教会の総本部に送り込み、センリにすぐに彼女の治療を頼み込み、それと並行してカゲマルたちは都市の聖導教会にて洗脳された闘人都市の民衆と捕獲した影達の治療を行う。



ジャンヌに仕込まれた毒については森人族が扱う毒であり、センリの必死の治療の下で命だけは助かったが、ジャンヌは意識はあるが身体が痺れて言う事を聞かず、しばらくの間は教会本部で入院する事が決まる。本人は一刻も早く王国に戻る事を願ったが、動けない身体ではむしろ他の者達に迷惑をかける事を伝えられ、不承不承という感じで入院を受け入れる。


洗脳されていた闘人都市の民衆に関しては、やはり剣乱武闘の際に暴れ回っていた武芸者同様、一度気絶すれば洗脳は解放されるらしく、軽い治療を施しただけで解放された。但し、肝心の森人族の影に関してはジャンヌによって浄化された男女2人組は生きてはいるが入院は免れず、他の者達は厳重に拘束して王国の牢獄に送還された。



『これで、良かった……』



闘人都市から城塞都市の牢獄へ転移魔方陣で送還される際、去り際に見送りに訪れたレノにアルはそれだけを告げ、彼の身体を犯していた呪詛は何故かレノが拳を殴り込んだ際に消え去っており、一瞬だけ右手に浮かんだジャンヌが宿していた「聖属性の聖痕」が浮かんだ事が関係しているのかと思われるが、どうしてアイリィが死んだにも関わらずに右手に聖痕の力が蘇ったのかはレノも分からない。

あくまでも憶測だが、あの一瞬にレノの中に眠っていた紋様が嘗てジャンヌが宿していた「聖属性の聖痕」の力が未だに眠っており、彼女の危機に応じて一時的に蘇ったのではないかと考えられるが、あくまでも憶測の範囲内でしかない。

結局、カリバーンの回収任務と闘技場を嗅ぎまわっていた森人族の影の拘束には成功したが、その代償として王国はレーヴァティンの使い手であるジャンヌが一時的に戦線離脱に追い込まれる形となり、さらには森人族側に至急に色々と問い質さなければならない事が出来た。

また、今回の闘人都市で起きた洗脳事件については黒幕の正体をはっきりとは掴めず、アルでさえも自分がどうしてカリバーンを囮にしてまであのような暴挙に出た事が分からず、ここ数日の記憶を失っていた。すぐに王国側は今回の事件の首謀者の捜索を開始する。



――しかし、結局は事件の黒幕の正体が明かされることはなく、王国は次々と押し寄せる問題に対処しなければならず、捜査は途中で打ち切られてしまう。



まるで事件の黒幕にとって都合がいいような流れであり、仮に王国がこの時に本腰を入れてこの事件を捜査していたら、大陸の運命も大きく変わっていたのだろう。だが、この時の運命は「彼女」に味方した――
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