異世界立志伝

小狐丸

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王都のスラム

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 サーメイヤ王国の王都にもスラムと呼ばれる貧民街がある。しかし、ゴンドワナ帝国やローラシア王国と比べるとその規模も小さく、比較的治安も良い筈だった。

 つい、最近までは………………。

 クレモン王が政に興味をなくし、王都の貴族達が好き勝手する様になると、真っ先に影響を受けたのが貧民街であるスラムの住人達だった。




 俺は宰相のメルコム殿と会談してから、何度か王都へ訪れていた。
 ある時はお忍びで、ある時はドラーク伯爵として公式に。その中で、俺が一番感じたのがスラムの治安の悪化だった。

「カイト様、子供が……」

 イリアがスラムの裏道で寝そべる子供達を指差す。そこにはボロボロの服を着た小さな子供達が、身を寄せ合っていた。

「どういう事だろう、王都にも孤児院は複数あった筈だよな」

 俺とイリアは子供達の所へ歩み寄る。

「君達、家は無いのかい?」

「……………………」

 膝をつき子供達に話し掛けるが、皆んな衰弱しているようで、朦朧として返事が出来なかった。

「エリアヒール!ピュリヒィケーション!」

 俺は子供達に、回復魔法と浄化魔法をかける。

「カイト様、この子は亡くなっています」

 10人くらい居た子供達の中で、一番大きな男の子が一人亡くなっていた。小さな子供達を守るようにして………………。

「とりあえずこの子達を屋敷に連れて帰ろう」

 俺は亡くなった子供を抱き上げ、残りの小さな子供達と一緒に領地の屋敷へと転移した。




 亡くなった男の子を丁寧に埋葬し、生き残った子供達に食事を与えた。

 何とか話せる様になった10歳くらいの女の子から、だいたいの事情がわかった。

 この子供達は、スラムにあった孤児院に居た子供達だった。その孤児院が、国からの運営金を打ち切られ、取り潰されたのだと言う。
 王都にある他の孤児院は、教会が運営している孤児院と、国からの運営金と寄付で運営していた孤児院の二種類があった。この子供達が居た孤児院は、後者だった。

 孤児院を追い出された子供達は、ゴミをあさり寒さに凍えながら路上で暮らしていたという。

 子供達は体力の回復を待って、ドラーク領の孤児院で引き取る事にした。

 子供達は、お腹いっぱいご飯が食べれて、清潔な服とベッドが与えられ、お風呂に入る生活に、涙を流して喜んだ。





「話は聞いていると思うけど、スラムだけじゃなく、王都全体でストリートチルドレンが確認された。
 これはスラムほど状態は悪いし、犯罪に走る子供達もいるみたいだ」

「既に亡くなっていた子供達も多く見つけました。その遺体もスラムでは放置したままです」

「「「「……………………」」」」

 俺とイリアの報告に、エルやルシエル、コレット達が沈痛な顔をする。

「王都全体の孤児院に対しての運営金が削られているのね」

 エルがかなり怒った顔で聞いてくる。自身も子供を産んで母になった事で、よけいに許せないのかもしれない。

「それでウチの領地と、バスターク辺境伯領や中立派の領地にある孤児院で受け入れる事が出来ないかと思っているんだ」

「ウチの領地なら、養子として大事に育ててくれる人達も多いと思います」

 ルシエルがドラーク領の村や街の住民で、養子に欲しい人達が一定数居るという。

「それも良いな」

「そうね、ウチならどんな種族の子供達でも差別なく受け入れる事が出来るわね」

 エルも賛成したので、早速動く事にする。

「じゃあ、王都やその周辺で、ストリートチルドレンを保護しよう。それに加えて、母子家庭で生活が苦しい世帯で、希望すれば移住して貰えばいい」

 大黒柱を亡くした母子家庭世帯も、スラムには多いらしく、その人達の移住も積極的に働きかけることにした。これがスラム以外なら移住する際に手続きが必要なので、今回はスラムの住民に限り移住を勧める事にした。スラムの住民は、基本的に人頭税を払っていないので戸籍がない。お陰で移住に対するハードルが低いのだ。

「じゃあ、フーガやオウカも手分けしてお願い。俺はもう少し孤児院と住居を建てるから」

 フーガやオウカ、サンク達に王都周辺で動いて貰い、俺は住居や孤児院を建て、集まった子供達を転移で回収する事にした。

 ゴンドワナ帝国やローラシア王国からの流民が続くなか、サーメイヤ王国の王都の闇も深くなっている気がした。



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