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第一部 幼年期

第五十二話 新しい称号は○○マスター!?

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※2017/11/1 一部内容を変更しました。


 しばらくの間、ミフィーとマチルダは同じ年の子供を持つ同士、母親話に花を咲かせていたが、ミフィーが階下から呼ばれて席を外すとその場に残されたのはマチルダ親子とシュリのみとなった。

 ちなみに今、シュリはマチルダの腕の中。
 彼女の娘はベッドの上に寝かされている。

 さっきまでミフィーとばかり話していたマチルダは、初めてシュリをしっかり見つめた。
 これから自分が乳母として仕えるべき主として。

 シュリもじぃっとマチルダの顔を見上げる。
 少し垂れ目がちの優しげな顔だ。
 しかもジュディスがシュリのために厳選しただけあって、文句なしに美しい。

 シュリは小さな手を伸ばして彼女の柔らかな黒髪をそっと握ってみた。
 それはかつて自分が持っていたのと同じ色。
 今の自分の色彩はかつてとまるで違っていると分かっているのに、時々それを忘れそうになるくらいなじみ深い色だ。

 まあ、それも仕方がない。あっちの自分とのつき合いは数十年になるが、こっちの自分とのつき合いはやっと一年を越えたところだ。
 なんと言っても年期が違う。
 何となく郷愁に誘われて、自分の手の中でマチルダの髪をもてあそんでいると、それを見ていたマチルダがにこにこしながら、


 「シュリ君は黒い色が好きなのかしら?良かったわねぇ、リア」


 おっとりと自分の娘に話しかける。
 その言葉につられるように、シュリは首を巡らせて、これから自分の乳兄弟となっていく幼女に目を向けた。

 母親に似て、彼女もきれいな黒髪だ。
 シュリは黒髪が好きと言うより、黒髪が懐かしいだけなのだが、まあどちらも大差ないかとマチルダの勘違いを訂正することなく、ただにこっと笑った。
 赤ん坊ってのはそういうもんだろうとの認識の元で。

 それはあながち間違いでは無いようで、マチルダはにこにこしながらシュリを見つめている。
 シュリもにこにこしながらマチルダを見上げ、リアは終始無表情だった。
 ここまで表情を出さない赤ん坊と言うのもなんだか心配になるが、母親であるマチルダが特に心配してないのだから問題はないのだろう。

 病気とかそういうのでもないだろうけど、こちらの世界の医療はたぶん元の世界の水準よりは低そうなので安心出来ない気もする。
 今日初めてあったばかりだけど、今日からは兄弟のように近しい間柄になるのだ。
 やはり、なんとはなしに気にかかった。


 (お医者さんとか呼んで見てもらっても、こっちの世界は特にそういう情緒面というか精神面の分野は遅れてそうだなぁ。病気とかそういうの、簡単に診断できる能力があれば便利なのになぁ)


 リアのことを見るともなしに見ながら、そんなことを思った。
 その時である。


・スキル[状態診察]を取得しました。


 (ん?)


 シュリは微妙に固まる。
 またなんだか、すっごい簡単に新たなへんてこスキルを入手しちゃったぞ、と。
 だが、取りあえず使ってみるかと、シュリはリアの方を見ながらスキルを発動してみた。


 名前[リア]
 年齢[1歳]
 種族[人間]
 性別[女]
 状態[健康]
 病気[特になし]
 精神[問題なし]
 状態異常[空腹]
 その他[特になし]


 頭の中にそんな文字列が浮かんでくる。
 どうやらこのスキルは、まあ名前の通り相手の体や精神の状態が分かるものらしい。
 他にも何か使い道があるかもしれないから後でよく確認しておくとして、まあ、取りあえずシュリの幼なじみ候補は心身共に健康なようだった。

 その事にほっとしていると、不意にリアが泣き出した。
 慌ててもう一度スキルを発動してよく見てみると、状態異常のところに空腹の表示がある。
 マチルダに教えて上げるべきだろうかと彼女を見上げると、教えるまでもなく娘の求めるものを察した彼女は、


 「あらあら、お腹が空いちゃったのかしら。ごめんなさい、シュリ君。ちょっと降ろしますね」


 そういってシュリを丁寧にベッドに寝かせると、娘の体をそっと抱き上げた。
 さすがは母親だなぁと感心するシュリの前で、彼女は恥ずかしがる様子もなく胸元をくつろげると、見事な美乳をぽろんと取り出して娘の口元へ。
 すかさず娘が吸いつくのを慈愛のこもった眼差しで見つめる彼女の姿は、母親の鏡と言うべき姿に見えた。
 きっと、ミフィーだって端から見たらそう見えるのだろうけど。

 その光景をぼーっと眺めている内に授乳も終わり、満腹になったリアをげっぷさせるマチルダ。
 シュリも何となくお腹が空いてきて、ミフィーが帰ってきたら飲ませてもらおうと考えていると、不意に抱き上げられてきょとんとしてしまう。
 目の前にはマチルダのおっきなおっぱいがあって、さあ吸えとばかりに口元にあてがわれた乳首を前にシュリは首を傾げた。


 「さ、シュリ君もどうぞ?」


 にこにこしながらマチルダに促される。
 どうぞっていわれてもなぁと、シュリが戸惑っていると、


 「私はシュリ君の乳母として雇われたので、シュリ君が飲んでくれないと困っちゃいます。なので遠慮なく」


 そんな風に理詰めで更に促された。
 確かに彼女の言うとおり、乳母として雇われた彼女の仕事はシュリに食事をさせたり面倒をみたりすることなのだから、シュリに授乳を拒否されると困ってしまうだろう。

 その事を理解したシュリは、おずおずと彼女の乳首を口に含む。
 ミフィーのより少し小振りなそれを舌先でそっと確認する。

 リアが飲んでいたのとは逆のおっぱいだから、彼女と間接キスになることも無いはずだし、まあ遠慮なく頂こうかと思いつつ、ちゅうっと軽く吸い上げてみた。

 ミフィーのと似ているようでちょっと違う、薄いけど甘く感じる温かな液体が口の中に広がる。
 ミフィー以外のを初めて飲んだが、思ったより違和感が無かった。
 母乳の出もいい。
 自分が飲むことでリアの取り分がなくなってしまうことも無さそうだから、遠慮なく飲むことが出来そうだった。


 「どう?おいしいかしら?」


 不安そうに問われたので、乳首を口に含んだままマチルダを見上げてコクンと頷く。
 それを見たマチルダが、ほっとしたように微笑んだ。


 「そう、良かったわ。遠慮なく飲んでね?どうせリアだけじゃ飲みきれないんだし、飲んでもらえると助かるの」


 飲んでもらわないと胸が張って痛くなるので、自分で絞って捨てることもあるのだと苦笑混じりに話すマチルダに、それは大変だなぁと元女のシュリは大いに同情し、じゃあ一杯飲んで上げようと張り切る。
 それがマチルダにどんな影響を与えることになるのか、思い至ることもなく。


 「あら?」


 張り切ったシュリの吸い付きが、急に強くなったことを感じてマチルダは小首を傾げる。
 最初はあんまり吸い付きが良くなかったからお腹が空いてないのかもと思ったが、やっぱりお腹が空いてたのねぇとそんなことを考えた瞬間、胸の先端に走った思いもよらない感覚に思わずその身を震わせた。
 それは、かつて夫の愛撫に身を任せたときに感じたような感覚だった。

 夫が亡くなったのは、リアを身ごもった直後。
 彼は、リアの存在すら知ることなく天へ召されてしまった。
 それ以来、マチルダは男性とお付き合いすることもなく今日まで過ごしていた。

 気持ち的にはリアがいることで満ち足りていたが、成熟した体はそうはいかず、火照る体を一人で慰める夜もあった。
 だが、今シュリの口の中にある所から感じる快感は、一人で慰めるときよりも、もしかしたら夫から与えてもらったよりも、より強いものであった。

 シュリは一心不乱に母乳を吸っている。
 そんな純粋な行為に感じるなどあってはいけないことだと思うのに、体はどんどん熱くなっていく。
 体の奥から湧き出るような自分の女としての欲望に、マチルダは思わず顔を赤く染めた。

 今まで、リアに授乳していてこんな感覚を感じたことはない。
 当然のことだ。
 子供に授乳しながら悶える母親など聞いたことがない。

 なのになぜ、シュリに乳首を吸い上げられる度にこれほど甘いしびれを感じるのか。
 マチルダには、答えを見つけることが出来なかった。
 それどころか、だんだんと思考が緩慢になっていく。
 頭の中にあるのは、娘と同じ年の幼子が与えてくれる快楽への欲求だけ。
 マチルダは黒い瞳を潤ませて、シュリを抱く腕にそっと力を込めた。

 シュリはマチルダを気持ちよくしようとかそんなつもりはなく、ただたくさん飲んでマチルダを楽にして上げようと思っただけなのだが、途中からなんかおかしいなぁとは感じていた。

 マチルダの体温がどんどん上がっていくし、時々切なそうに体を震わせながらうわごとのようにシュリの名前を呼んだり、時折押し殺したような艶っぽい声が漏れ聞こえるのだから、おかしいと思わない方がおかしいだろう。


 (でもなぁ。普通におっぱい飲んでるだけなのに、なんで??)


 内心首を傾げているシュリにはわからない。
 今まで色々な所でおっぱいに奉仕(?)した経験がここに来て自然と発揮されてしまっていることに。
 彼にはもう、ふつうの赤ん坊と同じように純粋におっぱいを飲むことは難しいだろう。
 なんといっても無意識のうちに発揮されてしまうことなのだから。


 (ま、でも、飲んで上げることは良いことだよね?)


 そんなことを思いつつ、シュリはマチルダの母乳を吸い尽くすつもりで思いっきり吸い上げた。
 だが、その親切心は仇となり、結果、それがとどめとなった。 

 びくんっと体を震わせたあと、マチルダの体から力がぬける。
 熱い吐息をもらし、トロンとした眼差しをシュリへ向けたマチルダは、何とも言いようのない愛情が胸の奥からわき上がってくるのを感じた。
 欲望と絡まり合った愛情。
 それは恋と言うべき感情であったが、常識的なマチルダはそれを母性本能として変換した。
 その瞬間からマチルダは生涯をかけてシュリの忠実な乳母となったのであった。

 彼女は色っぽく頬を染め、この上なく優しい笑みを浮かべてシュリを柔らかく抱きしめる。
 そして、その背中をぽんぽんと叩いた。
 この上なくお腹いっぱいだったシュリは、その刺激を受けてげふぅっとミルク臭いげっぷを吐き出す。
 その時だった。


 ・マチルダの攻略度が50%を超え、恋愛状態となりました!


 脳内に浮かんだ文字列に、シュリは頭を抱えたくなる。
 これから乳母としてつきあっていく相手と恋愛状態ってどうなのよ、と。
 だが、衝撃はそれだけでは終わらなかった。


 ・乳首を攻める技術が上達し、[乳首マスター]の称号を得ました!


 思わず、頭の中が真っ白になった。
 見間違いかもと、小さな手で可愛い目元をこしこしとこする。
 しかし、この文字は頭の中に浮かんでいるのだから、見間違いをしようもない。


 (ち、乳首マスターって……なに、その間抜けな称号……)


 心の中で呆然と呟き思う。
 そんな間抜けな称号は心の底から欲しくなかった、と。

 確かにこの世界に生まれてから一年と少し。
 それなりに乳首相手の経験は積んできた。否応なしに。
 だって仕方ないではないか。
 なんといってもシュリはまだ赤ん坊。
 一日の大半は母親のものとは言え、乳首という名の突起物とお付き合いしているのだから。


 (世の中の赤ん坊って、みんな乳首マスターの称号を持ってるのかな)


 遠い目をして現実逃避気味にそんなことを思う。
 だが、そんなことある訳ない。シュリが特殊なだけだ。前世でよく言われていた、チート能力というやつなのだろう。
 だがはっきりいってありがた迷惑な能力だと思う。
 特殊な力をくれるのであれば、もっとまともな力が良かったと、シュリは心底思うのだった。

 しかし、手に入れてしまったものは仕方がない。
 称号を捨てる方法などわからないし、これから一生この称号を背負っていかねばならないのだろう。
 シュリは深い深いため息をついた。

 乳首マスターはもう仕方がない。手遅れだ。
 だが、今後は気をつけないとと思う。

 乳首マスターなどと言う恥ずかしい名前の称号が存在するのだから、他にも絶対手に入れたくないようなマスター称号がきっとあるに違いない。この上もなく桃色で卑猥な称号が。
 それだけはなんとしても手に入れないようにしなければいけなかった。

 そして思う。
 この称号って奴は、ステータス確認などで他の人にも見られてしまうものなのだろうか?
 もしそうだとしたら、自分のステータスは隠し通さねばと思う。

 だが、取りあえずは他人のステータスを見る術があるのかどうかを誰かに教えてもらわなければならないだろう。


 (まあ、もうちょっと言葉が上手になったら、ミフィーにでも教えてもらえばいいか)


 ミフィーなら、万が一シュリの[乳首マスター]なる卑猥な称号を見てしまったとしても、変わらず愛してくれるはずだ。きっと。……たぶん。
 そんなことを思いながら、シュリはマチルダの腕の中でアンニュイな表情を浮かべ、けふっと再びミルク臭い吐息を吐き出すのだった。 

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