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5巻

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   第一章 エアハルトさんとデート


 リンこと私――鈴原すずはら優衣ゆいは、ハローワークからの帰り道、アントス様という神様のうっかりミスで、異世界――ゼーバルシュに落ちてしまった。
 日本には戻れないことを聞いた私は、アントス様からお詫びに授かったチートな調薬スキルを活かし、薬師としてポーション屋を営むことになったのだ。
 異世界に来てから一年以上が経った。
 最初は戸惑っていたけれど、みんなとの素敵な出会いのおかげで楽しい日々を送っている。
 従魔じゅうまのハウススライムのラズに、凶悪な蜘蛛くものスミレ。
 スミレの元仲魔なかまだという魔物たち、ロキとロック。そしてレンとシマ、ソラとユキ。
 それから、私の良き理解者であるエアハルトさんがリーダーを務める『フライハイト』に、ドラゴン族のヨシキさんと彼がリーダーを務めるクラン『アーミーズ』のみなさん。
『アーミーズ』のみなさんは転生者で、前世からの私の知り合いということもあり、たくさんお世話になった。特に、私を養子として迎え入れてくれたタクミさんとミユキさんには感謝している。
 最近はエアハルトさんと執事のアレクさんに私の秘密を話したり、『フライハイト』と『アーミーズ』合同でダンジョンを攻略したりもした。
 そして、なんといっても『フライハイト』の仲間であるグレイさんとユーリアさんの結婚式!
 身分的なことからいうと王族に連なる二人の結婚式に出られるはずはないんだけど、そこは仲間ということで招待してもらっちゃった! 
 とっても素敵な結婚式で、お二人もとても幸せそうに微笑んでいたのが印象的だった。


 結婚式のあとしばらくは何事もなく、だけど店は繁盛していて忙しい毎日だ。
 そういえば、ガウティーノ家を通じて渡したレシピは既に末端貴族まで行き渡っているそうだ。
 特に材料費が一番安いスライムゼリーを使ったものは、領民や平民にまで行き渡っているんだとエアハルトさんが教えてくれた。
 それもあってか、王都にある喫茶店のような場所では、ゼリーが提供され始めたみたい。
 どんな味なのかな? 食べてみたいな。
 従魔たちがいるからたぶんお店には入れないんだよね。一緒に入れるところがあればいいんだけど、私は知らないし。
 エアハルトさんに聞いてもいいかも。


 そんなことを考えていた数日後。

「リン、明日の休みの予定は?」
「特にないです。出かけても、せいぜい森かダンジョンに行くくらいですし」
「なら、俺と一緒に出かけないか?」
「え……」

 お昼休みにエアハルトさんがお店にやってきて、そんなお誘いをしてきた。嬉しいけど、隣にいる母がニヤニヤ笑っているのはなんでかな⁉

「いいんですか?」
「いいから誘っているんだが」
「わ~! ありがとうございます!」
「最近はゆっくりできなかっただろう? 王都にはまだまだ良い所があるし、案内しようと思って」
「なら、おすすめの場所に行ってみたいです!」
「いいぞ。一部ではあるが、明日は城の開放日なんだ。だから、中央地区に行ってみようか」
「はい!」

 おお、これはもしかしてデートってやつ?
 でもデートって恋人と行くものでは……? 
 恋愛関連についてはまったくうとい私にそんなことなどわかるはずもなく。一緒に出かけられるだけでもいいかと、素直に喜ぶことにした。

「また変なのに付きまとわれても困るから、例の壊れ性能のものをなにかしら身に着けておけよ?」
「わかりました」

 ちょっと前にストーカーっぽいことをされたばかりだからね~。心配そうに、だけど真剣な顔をしてそんなことを言われたら、頷くしかない。
 アントス様にもらった、チート級の服を着ていこう。
 従魔たちにも聞いてみたところ、ラズとスミレがついてくるという。
 そして従魔たちが入れるお店があるというので、そこにも連れていってもらうことになった。
 冒険者には、テイマーだけではなく私のように個人で従魔を連れている人がいるから、そういう人のためにも従魔と一緒に入れるお店があるそうだ。
 従魔同伴でお店に入れるのはいいよね。
 待ち合わせは拠点で、朝市も見たほうがいいというので、かなり早い時間に出発することに。


 そして当日。
 前日まで雨が降っていたのに、今日は見事に晴れ渡った青空が広がっている。これなら洗濯ものを干しても大丈夫だろうと、シーツなどを洗濯してから待ち合わせ場所に行く。
 そんな私は、マドカさんが新たに作ってくれた服を着ている。
 エアハルトさんは、「似合っている」と言ってくれたけれど……
 彼がいうところの壊れ性能の服を着ていなかったから、溜息を吐かれてしまった。
 やっちまった! すっかり忘れてたよ……とほほ。
 そこから、朝市をやっている通りまで歩き始める。

「す、凄い人ですね」
「だろう? はぐれても困るから、手を繋ごうか」
「は、はい」

 すっと差し出された左手に、自分の右手を重ねる。
 フルドの街のときにも感じたけど、剣を握っているからなのかエアハルトさんの手にはたこがある。ごつごつとした硬めの手だけど、嫌な感じはしないのが不思議。
 昔ふうにいうと、働き者の手っていうのかなあ。そんな感じだ。
 私が手を重ねると、にっこり笑ってから手を握ってくれるエアハルトさん。その笑顔を見るとドキンと心臓が鳴って、そこからちょっと速くなる。
 ドキドキが聞こえたりしないかなと考えつつも、エアハルトさんの案内で中央地区の朝市を見る。中央地区は貴族や裕福な家の人が買いに来るだけあって、西地区よりも高めの値段設定だ。
 だけどそのぶん他の地区には置いていない果物や野菜、お肉があって見ていて楽しいし、領地の特産品を扱っているお店もあったりする。
 なんていうか、アンテナショップみたいな感じで〝〇〇領の店〟とか〝特産品売り場〟みたいな感じの、産直店があるのだ。
 他にも、隣国からの輸入品があったりするからなのか、かなり賑やかだ。
 もちろん食材だけではなくて、雑貨や装飾品が売られていたりもするから、見ていて面白い。
 そんな中、東の大陸から伝わった品物を扱っているお店を見つけた。
 窓際に飾られているものを見て驚くと同時に、嬉しくなる。
 なんと、お箸がありました! 

「エアハルトさん、このお店に寄りたいです」
「お、東大陸のものか。なにか気になるものがあったのか?」
「はい。故郷と同じものが置いてあるので」
「なるほど」

 私が渡り人であるという事情を知っているエアハルトさんだからこそ、故郷と言ったところで痛ましそうな顔をされてしまった。

「そんな顔をしないでください。ここにも同じものがあるとわかって嬉しいんです、私」
「そうか……。俺にも使い方を教えてくれるか?」
「いいですよ」

 使ってみたいというエアハルトさんの心遣いがとても嬉しい。いつだって、こうやってさりげなく気を使ってくれるのだ。

「すみません。これは箸というもので合っていますか?」

 店に入り、店員のおばさんに声をかける。

「いらっしゃい。おや、お嬢さんはよくご存じだね。ああ、箸で合っているよ」
「よかった! 私の故郷にも同じものがあったので、懐かしくなって」
「そうかい、そうかい。茶碗ちゃわんなんかもあるから、見ていっておくれ」
「ありがとうございます! エアハルトさん、これがそうです」

 まずはお箸を一緒に選ぶ。
 日本のように、たくさんの色や柄があるわけではない。
 だけど、長さはいろいろあるし、夫婦箸のようにセットになっているものもある。
 箸自体は木目を利用したものや上の部分に赤と黄色、青と緑の色がついたもの。それから小さな花が描かれているものもあって、どれにしようかと本気で悩む。
『アーミーズ』所属で鍛冶師でもあるライゾウさんにオリジナルの箸を作ってもらうのも手だけど、できればこの世界のものを使ってみたいんだよね。
 散々悩み、結局私は花柄と黄色のお箸、エアハルトさんは花柄以外の全部を選んでいた。
 木目はエアハルトさん自身のもの、青はアレクさん、赤と黄色は双子の姉妹の侍女であるララさんとルルさん、緑は料理人であるハンスさんへのお土産にするんだって。
 みんな必ず「使ってみたい」と言いそうだから、だって。
 他にも菜箸さいばしがあったので、それも複数購入することにした。
 お箸の次はお茶碗ちゃわんとお椀。お茶碗ちゃわん瀬戸物せともので、お椀は木で、うるしだっけ? それが塗られているのか、艶々と輝いている。

瀬戸物せともの……」
瀬戸物せとものを知っているのかい?」
「はい。私の故郷でも、このお茶碗やお皿のことを瀬戸物せとものと言っていました。長いこと使っていないので、とても懐かしくて……」
「そうかい……。お皿もあるんだよ。それも見ていっておくれよ」
「ありがとうございます、お姉さん」
「いやだよ、お姉さんって歳じゃないさね。でもそういってくれるのは嬉しいねぇ」

 ふふっと笑った恰幅かっぷくのいいおばさんは、ウキウキした顔であれこれオススメを出してくれる。
 なのでお箸にお茶碗ちゃわんにお椀、それからつい調子にのって大皿を三枚と取り皿を従魔たちを含めた分、小鉢を三つと従魔たち用の深皿も買っちゃった! 
 おばさんはその数に唖然あぜんとしていたけど、豪快に笑って結局はわら半紙のような紙に包んでくれた。
 うん、いい買い物をした。
 エアハルトさんもお箸の他に、お茶碗ちゃわんとお椀をみんなの分買っていた。
 グレイさんとユーリアさんには、珍しいからと組み紐を使った髪飾りやかんざしを買うみたい。
 私もかんざしが欲しくなったのでそれも買おうとしたんだけど……

「大量に買ってくれた御礼だよ! 持っていきな」
「え? さすがにそれは……」
「いいからいいから。着けてあげるよ」

 遠慮しないで、と言いながら私のうしろに回ったおばさん。一度私のバレッタを外し、髪を結い上げて、似合うように短めのかんざしを刺してくれた。

「とてもよく似合うぞ、リン」
「本当に。まるで、お嬢さんのためにこしらえたようなデザインじゃないか」
「あ、ありがとうございます」

 かんざしは木製で、上のところには花がいくつか彫られている。かんざしの長いところを枝に見立てて、その先に花が咲いているような意匠いしょうだった。
 形は桜の花に似ているけど、なんの花だろう? 
 髪は全部アップにされている。両サイドは三つ編みになっていて、うしろで一緒に結い上げる髪形だ。一部を団子に結ってバレッタで留め、団子のところにかんざしが刺さっている。
 器用だね! 私にはできないよ、こんな髪形は。バレッタなしの団子だけならできるかもしれない。

「わ~、凄いです! それにとても可愛いです! このお花はなんていうんですか?」
「桜っていうんだよ。渡り人が伝えたものでね、東の大陸にはあちこちあるのさ」
「桜があるんですか⁉」
「え、ええ、あるよ。売り物になっちまうけど、持っていくかい?」
「是非!」

 おお、この国でも見たことがなかったし、ダンジョンでも桜を見つけられなかったから、二度と見られないかと諦めていたのだ。
 おばさんによると、アイデクセ国と東大陸は気候が似ているから、もしかしたら育つかもしれないと思って、鉢植えで持ってきたんだって。
 まだ若木だから花はたくさんは咲かないけど、それでも今年はいくつかは咲いたそうだ。今は葉桜になっている。
 もちろん買ったよ! しかも二鉢も! 
 どこに植えようかなあ、と庭を思い出しながら考えていると、ウキウキしてくる。
 これからお城に行くと話すと、店で取り置いてくれるというので、お願いした。
 そこからまた朝市を歩き、見たことがないものや欲しいものを買う。
 私ばっかり楽しんでいて悪いなあ、飽きてないかなあってさりげなくエアハルトさんを見ると、笑みを浮かべて私を見ていた。
 その優しい眼差しに、また心臓がドキドキしてくる。
 くそう……イケメンめ!
 そりゃあストーカーと化すお嬢様が出るのもわかる気がするよ~。
 朝市の通りを抜けると、西地区から見るよりもずっと近くにお城が見えてくる。
 ここからまた辻馬車に乗って移動するというので、エアハルトさんと手を繋いだまま、辻馬車乗り場まで歩いた。
 そのまま辻馬車に乗ると、あっという間にお城の手前にある辻馬車の停車場に着いた。もっと人がいるかと思ったらそうでもない。
 降りた人は私たちを含めて十人もいない。せっかくのお城の開放日なのになんでだろう? 

「午前中は商売をしている人間や買い物目的の人ばかりだからな。午後のほうが混むんだ」
「そうなんですね」

 顔に出ていたのか、お城に向かいながらそんな話をしてくれるエアハルトさん。確かに朝市の通りは凄い人混みだったと、改めて感じる。
 お城の開放日は年に三回、三日間連続であるんだそうだ。今日はその二日目なんだって。
 そんな説明を受けながら、お城をじっくり眺めてみる。
 歩いてここまで来たのは初めてだからね。
 エアハルトさんによると、中央と両翼に建物があるんだって。見上げた先には窓がたくさんあった。
 向かって左が王族が住んでいる建物、中央には政府関連の建物、右がお城に勤めている騎士や魔導師、薬師や医師の部屋がある建物だそうだ。
 騎士や魔導師の偉い人の部屋や、実験場などもあるらしい。……実験場? 
 さらにその奥には私も行ったことがある訓練場に、騎士や魔導師たちの寮。あと、寮と繋がっている食堂があるという。訓練形態が違うから、きちんと場所が分けられているそうだ。
 医師や薬師は騎士や魔導師に比べたら全体数が少ないから、お城の中にある食堂で食べているんだって。なるほど~。
 開放されている場所は決まっていて、中央のエントランス部分と、そこから行ける騎士団の訓練場。あとはエントランスを抜けた先にある中庭のひとつと、右側の建物の屋上だそうだ。
 城勤めをしている人が一緒にいればその人の職場も見学できるそうなんだけど、基本的にその四箇所だけらしい。それだけで充分だと思います。

「俺がまだ騎士だったら、執務室にも連れていってやれたんだがな……」
「いやいや、前に団長さんのお部屋に入れただけでも恐縮するのに……って、エアハルトさんの執務室?」
「ああ、そういえばリンは知らないんだよな。俺は副団長を任されていたんだ」
「わー! それは凄いです! でも勿体もったいなかったですね……」

 副団長だったのか、エアハルトさんは。
 ちなみに副団長はもう一人いて、ユーリアさんの二番目のお兄さんなんだって。
 まあ、そんな騎士団の事情はともかく、まずは庭園に行くことにする。
 一度エントランスに入り、そのまま通り抜ける。開放されていない場所の前には騎士が立っていた。
 警備をしている騎士の中には一緒にダンジョンに潜ったことがある人もいて、私を覚えていたのか、小さく手を振ってくれたのが嬉しい。
 エントランスを通り抜けると広い場所に出た。
 ここが中庭のひとつだそうで、真ん中に噴水がある。周囲は建物に囲まれているけど、日当たりは抜群だった。
 そしてところどころに樹木とベンチがあり、休憩しているのか、座って噴水や周辺を眺めている人がいた。
 周辺は樹木だけじゃなくて色とりどりの花も咲いていて、庭園らしく綺麗に整えられている。薬草をあちこち植えまくっている我が家とは大違いだ。
 お花は私が知っているのもあれば、この世界独自のものなのか見たことがないものもあって、すっごく素敵~!
 ペチュニアやニチニチソウ、まだ花が咲いていないひまわりに、もうじき終わりなのか紫陽花あじさいもあった。時計みたいな形の花や、タンポポみたいに花びらがたくさんついている赤や青い花もある。

「凄いですね。綺麗……」
「だろう? 開放日だから市民しかいないようだが、普段は城勤めの人の休憩所にもなっているんだ」
「そうなんですね」

 噴水に近づくと、水の中にも花が。
 スイレンかな? 白っぽい色や薄いピンク色をしたものが咲いている。ただし、花も葉っぱも日本で見たのよりずっと大きい。
 葉っぱの上にはカエルがいて、つぶらな瞳で私たちのほうを見ている。魔物ではなく、普通の動物だそうだ。だけど、やっぱり大きい。
 水の中には魚もいて、スイスイと優雅に泳いでいる。
 庭園を一周するとエントランスに戻り、そこから屋上へと向かう。
 三階建てとはいえ一部屋が大きいからか、段数が結構ある。
 二階に上がるまでに三回折り返したよ……。日本にいるときならとっくに息が上がっていたけど、レベルが関係しているのかそんなことはなかった。
 ダンジョンに潜っているおかげで体力もついているんだなぁ。

「おお、凄い!」

 やっとのことで屋上に辿りつき、外に出たら風に吹かれた。それほど強いわけではなかったから、スカートがめくれなくてよかった! 
 前を歩くエアハルトさんが手を振って私を呼んでいるので、近づいていく。

「リンにこれを見せたかったんだ」
「うわ~……っ!」

 屋上から見た王都の町並みは、お城を中心にして通りが扇状に広がっていた。大きな通りだけじゃなくて細い通りや馬車が通る道、水路か噴水があるのかキラキラと光っているところもある。
 家々の屋根は赤茶色っぽい感じの色が多く、遠くに真っ赤な三角屋根も見える。
 他には家々にある樹木の色だったり、どこまでも広がっている青空だったり。
 上空はたまに大きな影が横切るけど、それは大型のおとなしい魔物だとエアハルトさんが教えてくれた。
 川には船がたくさん浮かんでいる。
 その光景に、川は交通路のひとつだと言っていたエアハルトさんの言葉を思い出した。
 川というよりも、テレビで見たヴェネチアのような水路に近いかもしれない。
 去年の収穫祭で西地区にある公園の小高い丘から王都を眺めたけど、あのときの比じゃないくらい、遠くまで見える。
 眼下に広がるその全てのコントラストがとても綺麗だ。
 いつも見ている外壁はまったく見えないし、王都はそれだけ大きい町だということなのだろう。

「凄く綺麗……。エアハルトさんはこの町を護っていたんですね」
「ああ。この町並みを護りたかった。町を護るということは、ひいては王家を護ることと同義だ。だからこそ、俺は自由なときに、好きなだけダンジョンに潜れる冒険者になりたかった」

 その言葉に、エアハルトさんの言葉がよみがえる。

『俺も、リンのように、自由に生きてみたいなあ……』

 ぽつりとそう呟いた、エアハルトさんの横顔。
 あのときはまったくわからなかったけど、今なら羨望の眼差しと正直な気持ちが表れていたんだと感じることができる。
 だけど、今は。

「その願いが叶ってよかったですね」
「ああ。偶然とはいえ、スタンピード直前の特別ダンジョンを攻略できたからな。……ありがとう。リンとラズやスミレ、従魔たちがいたおかげだ」

 ふと顔を上げると、優しい眼差しをしたエアハルトさんの笑顔が見えた。その顔が近づいてくると思ったら、頭のてっぺんに柔らかいものが触れ、ちゅっ、とリップ音をたてたあと離れた。

「なななななっ!!」
「真っ赤なリンゴみたいだな、リン」
「エ、エアハルトさんのせいでしょうに!」

 キスされた、と思ったときにはもう顔が熱くて熱くて……


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